第7話:君の手
電気屋に近づくと、当たり前のように静かな路地から大きな路地へとつながった。
車も通るし人も多い。
「…ここからどうするか…。」
見渡す限りは知り合いはいない。
「何やってるんですか?行きましょう。」
普通に前へ出ようとするアンドロイド。
「な!ちょっと!!」
それを静止しようとするも、アンドロイドは先へと進む。
「あぁ、もう!」
そのままついて行く。
誰かに見られるかもと、ハラハラオロオロしながら。
一応何事もなく電気屋の前に着いた。
「…ふぅ~~。」
「クス…そんなにワクワクしなくても大丈夫ですよ。行きましょう。」
いやワクワクしてるんじゃなくてソワソワしてるんだよ。
いつバレるか分からないから。
電気屋に入るなり速攻で電球のコーナーに行く。
早歩きで。
「はぁ。どこだ??」
首を大きく動かしながら目当ての電球を探す。
「あ、これですよ。」
ひょいっとアンドロイドが電球を手に取る。
それをバッと取り上げる。
「ありがとう!これは俺が買って来るから、君は…。」
待ってもらうにしても、どこで待ってもらえば。
俺は周りを確認する。
休憩スペースに置いておくわけにもいかないし、かと言ってこの辺だと…。
トイレに置いても俺が呼び出せないし。
「…一緒にいた方が良いか…。」
「はい!」
一緒に行動することにした。
最悪の場合でも対処できるし。
あとはこの電球を購入するだけだしな。
レジへと進みながらも警戒を怠らない。
常に周りを見ながら進む。
レジに到着した。
「〇〇円になります。カードはございますか?」
「あ、ないです。千円で、お願いします。」
この瞬間も警戒を怠らない。
「それでは〇〇円のお返しになります。レシートは…。」
「ありがとうございました。」
商品を受け取りサッとレジを後にする。
後ろから店員の『ありがとうございました』が聞こえる。
アンドロイドは…後ろを見るとちゃんとついてきている。
よし、後はここを出て路地にさえ着けば勝ち…
「あら、加藤さんこんにちは。」
「!?」
電気屋の出口もすぐそこだというのに、近所の人と出会ってしまった。
しかもかなり仲のいいご近所さんだ。
冷や汗がだらだら出る。
俺はアンドロイドを背中の後ろに重ねて隠す。
「?どなたですか?」
「あぁ、山田さんこんにちは。電球を買いに来まして。それでは、また。」
後ろのアンドロイドを隠しながら俺は出口の方へと動く。
「あら?後ろにいるのは…?」
さすがに、ばれてしまったか!?
こんなのやっぱり、ばれるに決まっている。
言い訳もできないし、もうだめだ。
「あら~、麗奈ちゃん?大きくなったわね~。」
??
麗奈?
「…?私麗奈じゃ…むぐっ!」
とっさに口を押える。
そういうことか。
なんという奇跡。
確かに麗奈は妻に似ている。
が、似ているだけだ。
アンドロイドは妻の30代前後くらいの時の容姿だ。
妻が死んだことを知っている近所の人にとっては妻がいるという発想にすらならないのだろう。
非現実的すぎて脳がそう思わない。
だからか、ここにいるアンドロイドを脳が麗奈だと処理しているのだ。
「そうなんですよ、麗奈と買い物に来てまして、すみませんこいつも仕事があるので急いでいるんですよ。失礼しますね。」
「あ、いえいえ~。またお話ししましょうね。それでは~。」
なんとか、奇跡的と言いてもいいくらいにこの場を乗り切った。
だが、顔をよく見られては困る。
俺はアンドロイドの手をつかみ、グイっと引っ張る。
「…あ…。」
アンドロイドが何かを言おうとした。
それを俺は今は無視して行き道の路地まで急ぐ。
「はぁ…はぁ…。」
ちょっとの距離なのに疲れた。
「はぁ…ごめん。無理矢理引っ張って。」
相手は機械なのに、何の気なしにそう言った。
すると、引いていた手をアンドロイドがぱっと放す。
「…?」
息を切らせながら、疑問顔をアンドロイドへ向ける。
なぜなら、その手の放し方がとても、嫌な感じだったからだ。
「…すみません。」
そう言ってアンドロイドは俺から電球の袋を取り、走って家へと帰っていった。
「え、えぇ…??ちょ…待っ…。」
俺は疲れからか、その後を追いかけることはできなかった。