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アンドロイドの君へ  作者: 阿賀野基晴
第1章 アンドロイド
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第6話:君と梅雨の裏路地


「はぁ、はぁ…どこだ…。」


俺は玄関を出るなり走って追いかける。

と言ってもどこにいるかは分からないからとりあえず出た通りを走っているだけなのだが。

それでもアンドロイドは見つからない。


「やばい…よな。」


ここら辺までは近所の人が外に出ている様子はない。

近所づきあいはいい方だから何かれば誰かしら連絡してくるだろうし、とりあえずは安心だ。


「ほんと、どこに行ったんだよ!」


息を切らせながら中年の俺は久々に走る。

時折、すがりこむように壁にもたれて休憩をしながら、走った。


「…ぜぇ……ぜぇ…。」


ダメだ。

ここらの道は全部見たけどアンドロイドは見つからない。


「…よく…考えろ…俺…。」


疲れすぎて思ったことも口に出してしまう。


アンドロイドはなぜ外出した?

最初はバグかなんかだと思っていたが、他の可能性としては何かないか?


「…電球を、買いに行った…のか?」


いや、だとしたらこの大きな道をまっすぐ行っているはずだ。

なぜなら電気屋はこの大通りをまっすぐ行って左に曲がり、すぐのところに…


「ああ!!」


そういえば昔、妻が言っていたな。


『家を出てすぐ曲がるとここよりも人通りが少ない道があるんですよ。距離も時間も変わらないんですけど、この道はとってもきれいでおすすめですよ。今度一緒に行きましょうね。』


とうとうその『一緒に』は叶わなかった。

この道をアンドロイドが通ってるとしたら、確かにこの通りに現れずに電気屋へ行ける。

だが、それは妻の行動選択肢であって、アンドロイドがそれを実行するとは到底思えない。


でも、その道を通ってみたいと、そう思った。


「…ふぅ…行くか。」


息も整ってきた。

俺はその路地へと足を進めた。

そこは家の塀と塀の間でできた道で、コンクリートで道はできてはいるが裏道って感じが強い。

時折野良猫が日向ぼっこをしていたりする。


「こんな道があったのか。」


確かに、少し情緒のある道だ。

静かだし、陽にも程よく照らされている。


そのまま歩みを進めていく。


ザァ――


不意に塀が開け風が入り込む。


「…。」


言葉を失った。

そこには梅雨であるこの時期に見られる紫陽花がいくつも咲き誇っていた。

その美しさに、言葉を失ったのもあるが、他にも理由がある。


「この景色…前にも…。」


描写が駆け巡るように、俺の脳内で再生される。


昔、麗奈がここで泣いていた描写を。


『悲しいことがあると、ここに来るのは私に似ちゃったのかな。麗奈帰るよ。』


隣で、妻がそう言うのを思い出した。

妻はそう言って麗奈の下へ行き、まだ幼い麗奈を抱え上げて背中を摩る。

あまり背の高くない妻に抱えられ、泣きじゃくる麗奈を、思い出した。


あの日もこんな梅雨のある晴れた日だったな。


「―。」


「呼びましたか?」


奥から聞き覚えのある声が聞こえた

そこから、アンドロイドが出てくる。


「!?ここにいたのか!?」


「…すみません。電球を買いに行こうと思って…。」


浮かない表情をしながら言う。

そんな顔されたら、怒るにも怒れない。


「あ、あぁ…。いいよ、俺も替えを買っておけばよかったんだし。」


少しの沈黙。


「あ、俺が電球買ってくるから、…君はもう家に帰って大丈夫。」


「いえ!そうはいきません。私の仕事ですから。」


「いや、君は外に出ていては危ないんだ。麗奈にそう言われなかったのか?」


「そう言ったことは麗奈から聞いていませんよ?」



あいつ、ちゃんとプログラムしておけよ。


「いや、だとしたら今言うから。君は外に出ているのは危険なんだ。試作段階である君が外に出るのは他の人からしても危険だし、なんていうか…。その見た目も…知ってる人にとっては危ないというか…。」


死んだはずの妻が若返って生きているなんて。

見られるわけにはいかないだろう。


「…そうですか。」


残念そうな顔をしないでほしい。

心が折れそうになる。


「…っ。じゃあ一緒に行くか…。」


もう心は折れていた。


「はい!!」


すごく喜ぶ。


幸いこの道は人もいないし、電気屋ですぐ電球を買えば大丈夫だろう。

ほんと、何やってるんだ俺は。

もっと慎重になるべきなのに、この顔に甘いんだろうな。

俺とアンドロイドは、電気屋へと歩みを進める。

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