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Imagine World  作者: サツマイモ
『逆想世界』
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006 結び

「そして、これがその『世界』」


うてなは、ポケットにしまっていた宝石のようなそれを手にした。

僕らの仕事は、『世界』を宝石の中に閉じ込めることだ。


「紫色の、ちょっと怖い世界」


彼女は、そんな風におどけた。


「そんなふうに言ってやるなよ。誰でも持つ世界なんだ」


誰かを好きになる。それは、誰かを嫌いになること。

誰かに恋する。それは同時に、誰かを恨むこと。

誰かを愛する。それは同時に、誰かを憎むこと。


「というか、もう怪我大丈夫なのかよ。まさか、うてなにそんな能力があったなんてな」


視線の先のテニス部は片づけを始めた。


「まさか、そんなわけないよ」

「……え?」


彼女は、自分の腹を抑えながら、笑ってみせた。


「ありゃ、ぎりぎりだったよ。あと少しで死ぬとこだったー」


マジかよ。聞くと、あの後すぐに僕の兄の病院へ駆け込んだらしい。


「ところで、なんであの子が犯人ってわかったんだ?」

「犯人って?」

「ほら、一連の」


問題に対して答えがあるのなら、答えに対して問題がある。

結果がそこにあるのなら、それを引き起こした原因がある。

今回、僕らは事件を追っていた。

度重なる殺人事件。そして、道をふさぐほどの追突事故。


「いやあ、被害者が皆カップルだったから」


それだけで決めつけるのもいかがなものかと思うけれど。


「それに、皆おかしかったのに、彼女だけが普通にしていたからね」


ポニーテールにしていた髪を下ろして、うてなは僕を見つめた。


「私って、ポニーテールじゃなくって、下ろしていたでしょ?」

「いや、分からないけれど」

「まあ、他にもいろいろと矛盾していることが多々あってね」


例えばラブラブだったカップルが突然険悪になったり。

例えばすし屋でピザを出したり。

そして、これが一番のきっかけだったという。


「私の部屋に、用具が一切なかった」


そんなの、矛盾しているでしょ?

彼女は、楽しそうにそう言った。


「……いや、難しいな。よくそれで、矛盾しているって思ったな。逆とか、反転とかそういうこととは違うのか?」

「……」


こいつ、もしかして。


「やまかん、です」


勘一つでここまでやった彼女に、僕は敬礼するしかなかった。


「いやあ、だって。その日たまたま矛盾の故事成語の授業で、『あ、これって矛盾じゃん?』と思ったら、大体そんな風に見えてきて」


焦りながら弁明する彼女だったが、何のフォローにもなっていなかった。


「だって、皆がいつもと違うんだよ? それに、彼女はカップルに嫉妬していた」

「それもなんだけど、どうして嫉妬しているってわかった?」

「……」


勘だったら、殴ろうかな。


「それに、彼女はあんなに女の子好きだったのに、知人の前では男の子好きだといってみせた。それが、最大の矛盾じゃない?」


もうすべてが言い訳にしか聞こえないけれど、結果オーライだったから仕方ない。


「今度からはちゃんと調べること」

「すみません」


ポジティブにとらえると、彼女はそう言ったことに対してのセンスが抜群なのかもしれない。天才肌の専門家なのかもしれなかった。


「でも、君の『反響世界』にも響いたわけでしょ? 憎い恨めしいって」

「……だから、結果オーライなんだって」


僕の世界は、そういうことが聞き取れる。まあ、その原因は『他の人の会話に名前が出たら、もうそれは僕の悪口』みたいな、ネガティブ思考の産物なのだが。


「本当に綱渡りだったな」

「面目ない」


僕らは、黙考する。


彼女がしたことは、間違っているのだろうか。

そもそも、彼女がしたことになるのだろうか。

分からない、知らない、認められない。


「とりあえず、世界ってそんなものなんだってことでしょ」


外村うてなは、明るく笑う。

太陽のような笑顔に、僕の心も明るくなる。


「そうだよな」


僕達はヒーローにはなれない。

誰かを救うことも、助けることもできない。

だから、僕らは処理をする。


事後処理をする。

しりぬぐいをする。


この世界を平和にするのは、やっぱり予防ではなく、反省会なのだ。

反省会をもたらすことが、残念ながら『世界管理人』の仕事なのだ。


「まあ、未然に防ごうとして、君は命を落としかけたわけだしね」

「いらんこと言うな」


彼女は、「じゃ、お疲れ」と言って、その宝石を僕に投げ渡し、去っていった。


「じゃあ、そろそろ僕も戻るかな」


窓を閉め、僕は『孤独世界』へと戻った。

部屋に戻ると、そこは宴会場へと変わっていた。


否、本当に宴会場のようなセットになっているわけではなく、つまりそれは内面的な話だ。外側は先ほどと変わらず普通の教室だったのだが、そこにいる二人が全くもって先ほどの二人ではなかった。


まあ、そもそも二人ともそこまでテンションが高まるような人ではないので―簡単に言えば、うてなのような子ではないので―、声を張り上げていたわけではないが、何よりも楽しそうだった。


「確かに、それは滾る」

「ですよね、先輩」


仲良くなるスピード速くない?

と、考えれば確かに、仲良くなるスピードが速いことも頷けたりする。

だって、同じ趣味なわけだし。


「あ、お帰り」

「お帰りです」

「あ、どうも」


もう二人の話は佳境を迎えていたようで、話に加わることなんかできなかった。

攻めとか受けとかいろいろと。

なんて言っていたか覚えていない。

まあ、でも。


こんなに楽しそうなら、これに勝る嬉しさはない。


「楽しいですか?」

二人に問いかける。

二人は、笑顔でこう言った。

「楽しいに、決まってるじゃないですか!」


彼女たちの台詞に、唯一エクスクラメーションマークが似合う台詞だった。


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