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Imagine World  作者: サツマイモ
『残想世界』
43/81

004 回想と孤独と孤高と

小学3年生のこと。


当時から一人だった私は、誰からも「可哀想」と思われていた。もうすぐ10歳になろうとしているやつらが、未だにこの孤高の良さを知らないとは、とかなんとか言い訳を並べていたけれど、私はとにかく一人だった。それを寂しいとは思わなかったし、悪いことだとは思っていなかった。ただ、別に「一人でも良

かった」だけで、「一人が良い」ということでもなかった。


迷惑がかかるくらいなら、関わらない方が良い。その所為で、一人になっても構わない。もしも、関わろうとするやつがいるのなら、そいつには楽しんでもらおう。


そんな感じだった。


しかし、3年ともなると、「可哀想」という気持ちを持つ人だけではなくなった。まだ世界の理を全く知らない子供だった低学年ではもう無いのだ。中学年になると、それなりにクラス内の関係性が分かってくる。いくら四民平等を掲げたここ日本国であっても、小学生のクラス内カーストを解体するのは難しい。


なぜなら、それは大人の力であっけなく崩壊するほど、脆いものだからだ。そして、革命は何度でも簡単に起こる。誰かが失脚した数日後には、別の誰かがトップに立つ。こうして流動的に順番に順繰りしていく中で、最終的な立場がはっきりする。否、はっきりはしない。正確には定まらず、ただ何となく、そんな感じ、というのだけが残るのだった。


これに関して、「女子の方があざとい」とか「男子の方が面倒だ」とかいろんな意見が垣間見えるが、私の持論としては「どちらも同じくらいに面倒くさい」だ。

確かに、女子によるトップ争いは、戦略的で頭脳戦なので、端から見ればあざといなどと言われかねないが、しかしその甲斐あって―というか、そのおかげで、安定するのだ。


女子がトップに立てば、その下でどう動くこともできる。


いわば、朝貢・冊封体制とでも言えばわかるだろうか。反抗しなければ、自由なのだ。ただ、反抗したときに大変なことになるのだが。


一方で、男子のトップ争いは血みどろだ。いや、これはあくまでも比喩表現であり、その通りというわけではないけれど、ただ暴力がつきものなのは確かだ。しかし、逆に言えば、暴力以外のところでは全くと言っていいほど戦略的でもなんでもないので、単純に見える。


しかし、トップに立とうとする男子というのは、基本的に面倒なことが大嫌いである。

何が言いたいかというと、不安定なのである。反抗しなければ問題ない女子とは違い、反抗せずとも少しでも嫌なことがあると、すぐさま攻撃してくるのだ。


そして、私はこんな男子がトップに立つクラスに、一人でいたのだ。人間、生きていれば誰かしらに嫌われるようなことをしているとはよく言われるが、私はこの時に直に体感した。


だって、私としては何一つ言ってもなければ行動すらしていないのだから。ただ黙って、学校が終わらないかなぁと机の下で本を読みながらダラダラしていただけなのだから。


隣に座っているリーダー格(になろうと頑張っている)の男の子は、私の本を見るや否や、先生に告げ口をした。小学生らしい、やかましい音量で。


「せんせいっ! こいつ、授業聞かずに本読んでる!」

すると、普段の私を見ている先生は、「そんなわけないでしょ」となだめる。それが元凶と言えば元凶なのだ。私としては、ありがたい話である。普段の行いが功を奏することってあるんだとその時は思ったものだ。


しかし、今回の場合はそうではなかった。


「そんなことないもん!」


言うと、彼は私の本を掴んで堂々と掲げた。その時何を読んでいたかは覚えていない。たぶん、物語だったとは思うけれど。


「それ、君のじゃないの?」


先生はとことん信じなかった。ここまで来ると、私への信頼が厚いというより、彼への信頼が薄すぎる。子供ながらにそう思った。

泣き出すのも無理はない。


即座に言えれば、私も彼も悩まずに済んだのかもしれないけれど、しかし挙手が苦手だった私に、それを求めないで欲しかった。他の誰かが、例えば後ろの席の子が言ってくれれば、私もそれに便乗して言えるのに。この頃からクズだったらしい。


結局放課後に先生に言いに行った。散々怒られるのは承知の上だったけれど、まさかこんなに怒られるとは。涙目になったのを覚えている。


その帰り。明日、なんて謝ろうかと考えていた時だった。


「一人?」


後ろから声がした。男の子の声だった。今とは全く雰囲気が異なり、なんだか別の次元に生きているような性格の持ち主だったことを記憶している。今だから言えるけれど、それはまさに『全知全能』と言った具合だった。小学生補正がかかっているのかもしれないけれど、確かに言えるのは、今のあいつよりも確実に能力があったと思う。


何が起きたのかは知らないけれど、昔のあいつには、全てが備わっていて、それを今では失っているような気がするのだ。

ともあれ、彼はそんな風に声をかけてきた。


瀬川十哉、9歳。


「ご一緒してもいいかな?」

「……」

私は答えなかった。


「沈黙もまた肯定。まあいいや、独り言を隣で話していると思って、耳をそばだてて聞いてよ」

彼は、私に何の許可もとらずに話し始めた。

「たぶん、君は明日から一人だろうね。唐突にそうなるとは限らないけれど、少なくとも1週間以内にそうなるだろう。そして、君はそれを嫌だとは思わない」

「……そうね。そうかもしれないわ」

「しかし、嫌とは思わなくても、寂しさというのは感じるものだよ。好き嫌いは脳で作られた感情でしかないけれど、寂しさと言うのは本能だからね」


「何が言いたいの?」


「僕と、友達になろう」

「……」


「何も難しい話じゃない。友達という言葉が嫌ならば、そうだなぁ。じゃあ、同盟相手とでも言えばいいかな。とりあえず、君と僕とは対等な関係になるということだよ。いじめが始まれば、まともに連絡も入らないだろうし、情報も手に入らない。もしかすると、入手できないだけでなく、失う可能性だってある。そういうことで、僕と手を組もうということだ」


唐突にふらりと現れるや否や、こんなことを言われてもついていけるわけがない。


「急に、言われても」

「まあ、明日になればわかるよ。大丈夫、別にどちらでも構わない。僕は、助けることもできるし、流すこともできる。事前にね」


すると彼は、あっけなく私の前をスタスタと歩いていってしまった。彼の後ろ姿から発せられるオーラは、ただならぬ何かを感じた。彼のクラス内での立ち位置は、孤高だった。


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