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Imagine World  作者: サツマイモ
『歌想世界』
27/81

008 その後

『本当に、大丈夫でしょうか』

虎野さんは、不安そうに僕を見つめる。

あの日以来、幼児退行は無いらしい。本当に嬉しい限りだ。


『大丈夫ですよ』

僕は、そう返す。


舞台裏。家庭教師の少年は、今もなお、客の整理をしている。


「なんでこっちに来なかったのかな」


疑問の理由は、分かっていた。

最後まで、会わないつもりなのだろう。

まったく、どこまで格好いいのやら。


結局僕らがとった作戦は『復活ライブ』だった。


先輩の『孤独世界』で、ある一定の地域を囲い。

僕の『反響世界』で、架空のホールを作り上げ。

うてなの『直感世界』で、観客を呼び集めた。

つまり、デモンストレーションなのだ。


『さあ、開演ですよ』

声をかけると、彼女は下を向いた。

『やっぱり無理です』

マイクをつけ、衣装を着た。そこまでで、本当は良いのかもしれない。でも、ここまで来たのだから、知ってもらわないといけない。「失敗を割り切る」ということを。


『どうしたんですか』

『だって、私は』


言葉を詰まらせた。こんな時、彼だったら何と言うのだろう。先輩だったら、うてなだったら。

なんとなく、うてなが言いそうな言葉が、良い気がした。


『良いんですよ、失敗したって』

『そんな、投げやりな』

『本物って、どうして本物だと言えると思いますか?』

『分かりません』

『偽物があるからです』


少しだけ決まった気がして、僕は饒舌になる。

せっかくのチャンスだ。格好つけたいのだ。


『失敗があるから、成功だと言えるのです』


後から考えると、割とそうでもない台詞だ。

しかし、彼女は分かってくれた。

下を向いていた顔を上げ、力強い視線で、『頑張ります』と僕に告げた。

舞台袖から見える演出は、まさに冬を表していた。

全面に広がる雪。炬燵式の席。炬燵にはみかんまである。


寒くて、暖かい、冬の日だった。


春に生まれた思いは、夏にどんどん膨らんで、秋には落ち着きを取り戻し、冬にぎゅっと閉じこもる。そして、春に花開く。


『礼は、楢本君に言ってな』

舞台に上った彼女は、サムズアップした。

「聞こえた、か」


閉じていた彼女の幕が、上がる。


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