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月が綺麗ですね。〜ギルド編〜  作者: 藍歌
ギルド編
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7.真夜中の出来事。

区切りが難しくて今回短めです。

  港町アザレの夜は早い。

  最後の貨物船や観光客達を乗せた客船もだいたい日没前には着岸し、夜は早くから静かになる。

  その代わり、朝は早い。

  夜明け前の辺り一面が青い光に照らされて見えるブルーモーメントの時間から動き始める。

  なので店も夜は早目に閉まってしまうのだ。

  聖と煌は宿屋の部屋の片隅に人払いの結界を張り、煌が見張っている間に聖は酒とツマミを調達して来て小さな酒盛りをしていた。

  階下の酒場も閉まり、2時頃には街道を歩く人影は殆どなくなった。

  腸詰めのレシピを手に入れた聖は煌とそれを眺めて唸る。


「この豚腸はどこで手に入るのかな?」


  煌が呟き、聖は頷く。


「それが自分にもわからなくて」

「エルフの村ならあるんじゃないかな!」


  嬉々として言う煌に聖は口元を綻ばせた。


「エルフの村なら大抵揃うね」

「じゃあ作る時はエルフの村行かないとだね」


  楽しそうに二人が相談し合っているとどちらともなくて口を閉ざし、鍵をかけたドアの方へと顔を向けた。





  酒場で煌達を狙っていた五人組は、一旦酒場を後にするとリーダー格の男の家に集まった。


「さあ、あの宿の見取り図を出しな」


  大きなテーブルの一角に腰掛けると男は腕組みをして待つ。

  一人が素早く動き、奥の棚から丸められた設計図の様な物の束を抱えて戻り、二人で探すと一枚をテーブルに広げる。


「じゃあ始めるぞ」


  男は全員の顔を見つめる。


「多分、警備の魔法がかかっているからテツ、おまえが解除しろ」

「わかりやした」

「それが終わったらこの倉庫の中の窓から入り込む。あの四人組の部屋は?」

「501でした」

「よし。角部屋だ。ヤンが鍵を開けてハジは睡眠の魔法をかけろ」


  男が二人を見るとそれぞれ頷く。


「子どもと女を攫う。金目の物があれば貰うが、探すまではしなくていい。女子どもだけで充分だ」

「でも男の方も…」

「あのグレーのヤツは多分かなりの使い手だ」

「タオさんがそう言うなんて珍しい…」

「あれは俺より強い。だから絶対起こしてはなんねぇ」


  リーダー格の男はタオと呼ばれている。本名は違うが、言わば通り名だ。

  彼は言外にわかったな?と全員を見やる。

  四人はそれぞれ頷く。


「じゃあ行くぞ」


  男は立ち上がり、歩き出す。

  その後を四人が続いた。



  宿は男が言うように警備の魔法がかかっていた。

 手筈通りテツが魔法を解除し、倉庫から中に侵入し、目指す501へ辿り着く。

  ヤンが鍵を開け、チェーンロックも外し、ハジが睡眠の魔法を部屋に放つ。


  全て順調だった。


  男達が中に入ると、中はもぬけの殻だった…。


「……え?」

「おい、本当にこの部屋か?」


  リーダー格の男が纏う雰囲気が変わる。


「はい。確かに入りました」

「じゃあなんでいない?」


  怒気を孕んだ口調に四人は震える。


「わ、わかりません」

「……。取り敢えず、一旦帰るぞ。仕切り直しだ」


  忌々しそうに呟き、男は素早く撤収を指示した。



  再び誰も居なくなり、男達が宿から遠ざかるのを感じると聖と煌は姿を現した。


「やっぱり来たね」

「また来ると思うよ?」


  聖を見上げる煌に聖はそうだねーと呟く。


  どうしたものか…。


  二人が思案していると、目の前の空間に深い見事なエメラルドグリーンの長い髪と翡翠の宝石を双眸そうぼうに宿したビスクドールのような美しい美少女が現れた。


翠羅すいら様?」


  聖はよく知ったその姿に小首を傾げる。

  愛らしい彼女は、蒼と同じ四神の一人で玄武の翠羅だった。

  人形のような美少女はその深紅の紅を引いたような美しい唇を持ち上げる。


「久しいな。聖」


  トン…と、軽やかにその地に降り立つ。


「あれ?どうして翠羅様が?」


  煌も不思議そうに小首を傾げる。


「良からぬ事を企てる輩がおったと精霊から聞いてな。見に来ただけじゃ」


  翠羅から言われ、聖は額に手を押し当てた。

  精霊達に蒼には言わないよう伝えたが、他の四神には言わないよう口止めはしていなかったのだ。


「蒼に消し炭にでもされたか?」


  美少女は楽しそうにコロコロと鈴を転がした様に軽やかに笑った。

  物騒な事を平気で言う翠羅に聖は苦笑を浮かべ、煌は引きったような乾いた笑いを浮かべるしかない。


「酒場から気配があったのでまずは相手を見ようと思いまして…」


  聖は二件目の酒屋での話を翠羅に話して聞かせた。


「なるほどの。さすが聖、散々痛い目を見ているだけあるな。しかし、他人の事ならちゃんと働くのに自分の事になると働けぬその身も哀しいものよの」


  ほぅ…と、口元に手を当て翠羅は心底憐れむように聖を見つめた。

  盛大なる皮肉を受け、聖はただ口元をヒクつかせるしかなかった。


「まぁわからんでもない。なんせ恵美は紫苑の母となる身じゃ。何かあっても事よの。ましてや良からぬ輩が紫苑の片親になるような事に事故とは言えなってしまっては目も当てられぬとはまさにこの事。人の血に引き摺られでもして紫苑が人として生まれでもすれば輪廻の枠組に囚われてしまうからな。まぁエルフならまだ良いが…しかし人だけは避けたかろう?」


  段々と物騒な話になり始め聖は事の重要性に初めて気付き、顔色に失くした。


「おんし…もしやそこまで考えては…?」


  逆に翠羅は聖の様子から呆れたような顔になる。


「そこまでは…」


  穏便に片付けようとしていた聖は、翠羅に言われその考えを払拭した。

  二度とそんな思いにならないように徹底的にやらなければならない。

  いや、それでは緩いか?

  聖は一度ゆっくり瞬きする。


  紫苑に害を成すモノは万死に値する。


  片割れたる紫苑至上主義の聖の琥珀の瞳に剣呑な光が宿る。

  黙って二人のやり取りを見ていた煌は聖の張り詰めた雰囲気に眉を寄せ、翠羅を見る。


「それぐらいで良かろう。どうせ蒼司にバレても同じだろうて。まぁ人の子は全てではないが、愚かな者もおるからなぁ…」


  困ったように翠羅は嘆息し、煌を見やる。


「おんしも恵美と一緒に聖を見たのだからわかろう?」


  小さく呟き煌に諭すように話す。


「だから歯向かう輩には余り手加減してはならぬのじゃ。……見せしめなんかしたくはないのだがな…」


  最後の一言はまさに翠羅の本音だった。

  そうじゃ。と、翠羅は突然目を輝かせた。


「妾に良い考えがあるぞ」


  満面の笑みを湛えた翠羅がそのすらりと長く伸びた手の長い人差し指を立て、唇に当てる。

  どうせろくでもない事を言うんだろうなぁと思いながら聖を見上げるが、その聖も大概だったので諦めて小さく被りを振った。

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