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月が綺麗ですね。〜ギルド編〜  作者: 藍歌
ギルド編
6/26

6.見つめる目。

  恵美の初戦成功の祝勝会として、二件目にやって来た酒場は二階に宿屋を構えた場所だった。

  この店も精霊達が教えてくれた場所で、ワインとチーズが美味しい店だった。


「ヤバい!ヤバいよ?」


  戦闘でほぼほぼ酔いが覚めたハズの恵美は今度はワインで出来上がりつつあった。


「何がヤバいんだ?」


  蒼にぴったりくっ付いた恵美はワイングラス片手に目を潤ませる。


「めっちゃ美味しいんだけど!」


  今度は豪快に一気に飲み干さず、チビチビとゆっくり味わう様に飲みながら恵美はギュッと目を閉じて手をバタバタさせる。


「うん。良かった良かった」


  頬杖を突きながら、恵美の方を眺める蒼は相好を崩しっぱなしで恵美の頭を撫でる。

  聖と煌は相変わらず我関せずで仲良く話しながら酒を飲んでいた。


「蒼ー」

「ん?」

「この辺で他のS級はまだいっぱいいるのー?」


  酔っ払いが…と、少し思っていた蒼はワインをチビチビ飲みながら聞く恵美に驚きを禁じ得なかった。

  そんな蒼を上目遣いに見上げると恵美はイタズラっ子の様な笑みを浮かべる。


「タダの酔っ払いだと思ってたでしょー?」


  グリグリグリ…と、人差し指で蒼の頬に渦巻きを書いて遊ぶ。


「ヒドイなぁ。タダの酔っ払いじゃないよー?もぉ」


  ワザとらしく怒ってみせる恵美に他にどんな酔っ払いがあるのだ…?と、思ったが敢えてそれは聞かなかった。


「どうして急にそんな事を?」

「んとね、せっかくここに居るから纏めて済ませちゃおって思ったの」


  余りにも単純明解な言葉に蒼は思わず吹きそうになった。

  やはりただの酔っ払いだ…。

  ヨシヨシと恵美の頭を撫でると恵美は唇を尖らせた。


「だって、世界は広いでしょう?困ってる人は沢山いるでしょう?ならば少しでも早く助けてあげなきゃ…。ここを離れたらまたここに戻るまで時間がかかるかもだし」


  ワインをチビチビ飲みながら話す恵美に相槌を打ちながら蒼は促す。


「それに、私が倒したのでS級なんて…。あれで人の手に余るって事は人は相当弱いって事じゃない?」


  真摯に見つめられ、蒼は恵美の頭を撫でるのを止める。


「少し違うかな…?」

「何が?」

「人は確かに弱くて脆い。しかし、かなり賢いぞ?だから決して弱いだけではない」


  空になった恵美のグラスにワインを注ぎながら蒼は続ける。


「良い例がある。魔封具だ。あれは人が作りし物で聖獣をも縛る」


  蒼のセリフに恵美は背筋が冷たくなる感覚に見舞われた。


「四神は?」

「魔封具では縛れない」


  小さく嘆息すると一口、ワインを含み目を閉じ蒼の肩に寄りかかる。


「…恵美?」


  しばらく沈黙が続き酒も減らなくなり、急に大人しくなった恵美を少し心配になり、覗き込む。


「んー?」

「どうした?」

「なんて言えばいいのかな…。なんて現せば良いんだろう…」


  恵美は自分の中の複雑な感情に言葉を探す。


「んーと…」


  蒼は優しく見つめ、恵美の考えがまとまるのを静かに待った。


「複雑過ぎる…」


  諦めた恵美は深い嘆息を吐いてワインをゆっくり味わう。


「気持ちを言葉で表すのは難しいな」


  口元は綻ばせながらも、切なそうにグラスに入ったワインを見つめる蒼に恵美は胸の奥が熱くなった。


  何を思ってるんだろう…。


  思わず伸びそうになる手をぎゅっと握り締め、一度大きく瞬きをしてから深く笑みを刻む。


「そうだよー?私がどんなに蒼が好きか蒼はわからないよねー?」


  完全に意表を突かれた蒼は一瞬キョトンとなり、目を瞬かせる。


「好きって気持ちも、言葉にしちゃうと大好きとか愛してるとか…どんなに好きかって言い表せないじゃん」

「そうだな」


  クスリと蒼は笑う。


「本当、難しい。神様なんだからもう少し万能でも良くない?」

「あはは。恵美は本当に面白いな」


  珍しく声を出して笑い出す蒼に恵美は「普通です!」と言い切るとワインを飲み干した。


「ところで、恵美はワインは苦手?」

「なんで?」


  この話はこれでお終いとばかりに蒼は聞いてきた。


「果実酒やエールは派手に飲んでいたけどワインはゆっくり飲むから」

「んー。美味しいのは美味しいんだけど、エールみたいに一気にはいけないかなー?」


  不思議そうに小首を傾げ、蒼は促す。


「んとね、白ワインにしてくれてるのは、甘みが強いからでしょう?」

「赤より白の方が好きそうだから」


  にっこりと目を細める蒼に恵美は「ピンポーン」と、人差し指を立てた。


「それ、正解。凄いなー蒼は私の好きなのわかってくれてるんだね」

「まぁね」

「ワインって独特な渋みがあるでしょう?だから一気にはいけないかなー」


  チビチビ飲みながら答える恵美に蒼は相槌を打った。

  今回はゆっくり味わいながら飲んだせいもあるのか、恵美は酔い潰れる事はなかった。

  ただ、店からもうワインが無いです…と泣きつかれはしたが…。

  聖は会計がてら、上の宿屋でそのまま四人部屋を取って戻って来た。


「は?なんでや…」

「まぁまぁまぁ。とにかく、今日はもうお開きと」


  素っ頓狂な声をあげる蒼にそのままセリフを被せ、恵美と蒼の背中をぐいぐい押して宿への階段を上がる。


「聖?」

「カモフラージュだよ。宿屋の部屋から城に転移してしまえば問題ない」


  聖は口角を上げ、小声で伝えると蒼は納得した。


「まだ飲み足りないんじゃないの?城に戻って飲んでたらいいよ」

「じゃあみんなで一緒に…」


  聖のセリフに恵美はピョコリと顔を出し、目をキラキラさせながら言う。

  部屋のドアを開けて二人を押し込み、全員入ると煌がドアを閉め、聖は被せるように続けた。


「自分達はちょっと昼の腸詰めのレシピを調べるから」


  うんうんと煌も頷き、手をヒラヒラさせる。

  蒼と恵美は顔を見合わせると大人しくそのまま青龍の城に転移した。

  手を振りながら笑顔でそれを見送った二人は、どちら共なく肩を竦めて互いを見やった。


「さて、煌も結構飲んでたけどまだ大丈夫だよね?」

「もちろん」

「今日はまだ手を出しちゃダメだよ。観察だからね」


  念を押しすように聖が言うと煌は頷いた。

  時をさかのぼ事少し前…。

  二件目のワインとチーズの美味しい店でワインを飲んでいると、何となくイヤな予感がし聖は意識を周りに広げ、精霊達とも意識を共有する。

  やはり案の定、自分達に向けられている良からぬ目があった。

  酒場の奥の方に座った五人組の男たちだ。

 

「あの四人、それぞれかなりの高値になるな…」


  裏稼業に精通しているのだろう。

  そこそこの身なりをした焦げ茶に近いこの大陸で一番多い髪色をした男達は深々と腰掛け、赤ワインを飲みながら目を細め、値踏みするように反対側で酒を飲んでいる聖達四人組を眺めていた。


「金髪とグレーの男の方が変態さんが高値を出してくれそうっスね」

「でも、確実性から出来上がってる女の方が攫いやすいんじゃないですかね」

「それを言うならあの四人、ザルの如くずっとここの一番良いワイン飲んでるぞ」

「相当の金持ちだな」

「あの姉ちゃん攫って身代金みのしろきん請求してみるか?」

「それやるならガキの方が良いんじゃないか」

「いやいや、ガキと女攫って目ぼしいものを頂戴するのが一番じゃないか」


  三人の十代後半から二十代の青年達はそれぞれ話に花を咲かせた。


「ふむ…」


  少し年配の…丁度三十代後半から四十代前半辺りの壮年期に差し掛かった辺りの男は顎に生やしたヒゲに手をやると考える。


「兄さん、お頭に話して人を呼びますか?」


  壮年のヒゲを生やした男の側に控える様にいた落ち着いた雰囲気の男は聞く。


「あんだけ飲めばさすがに足にも来るだろう。一回やってみるか」


  ワイングラスをぐいっと飲み干し、壮年の男は不敵に笑い、獲物を狙う猛禽類の目で四人を見つめた。

 ただ、彼らは知らなかった。

 昼間のクラーケンを倒したのがその四人組の一人である恵美である事を…。

  途中から煌にも彼らの事を告げ一緒に会話を聞いていた聖は、お喋りな精霊達が蒼にも報告しようとするのを止めると煌と楽しそうに顔を見合わせ、ワインをお代わりしていた。

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