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月が綺麗ですね。〜ギルド編〜  作者: 藍歌
ギルド編
5/26

5.エルフの御一行様。

「どーいたどいたぁー!」


  きゃはは…。

  ブルネットの艶やかな髪が陽の光を浴びて益々輝き、天使の輪が美しい。

  すれ違い様に恵美の美貌に溜め息を吐く者や今の状況を忘れしばし見惚れる者もいたが、後続に突かれ、歩みは止まらない。

  楽しそうに恵美は人混みを逆走して行く。

  港側から避難するような人波をぶつかる事なく器用に恵美は走り抜ける。


「恵美…」


  しかし蒼はそうも行かず、チッと小さく舌打ちをすると「どけ」と呟き目に力を込める。

  青い瞳に銀色の光が宿る。

  恵美に見惚れた者も我先に逃げ惑うパニックに陥った者も蒼の放つ冷気にハッとなり、道を譲る。

  街道の真ん中に潮が引く様に道が開ける。

  先頭は美しい酔っ払い。

  蒼は一気に間合いを詰め、腕を伸ばすが酔っ払いはクスクス笑いながらスルリとその手を擦り抜け、再び人混みを縫う様に走り抜ける。


「大丈夫だぉー」


  どんどん先に行きながら言う恵美に蒼は益々不安にならずにはいられなかった。


「蒼、競争ね?」


  ふふふ…と、瞳に星を宿し、恵美は蒼の先を進みながら言う。


「はぁ?」


  さすがの蒼もさすがに怒り気味になるのは仕方がない。


「先に着いた方が倒しましょう」


  にっこりと微笑むと恵美はわざと蒼が側に来るまで待ち優しく頬に口付け「よーい、スタート」と、耳元で囁いた。

  そこからは容赦なく再び走り出す。


「あ、こら!」


  蒼の指先を風がなぞる。

  付かず離れずの距離で付いて行く蒼も凄いが、やはり先頭をヒラヒラと蝶が舞う様に優雅に進んで行く恵美は見事としか言いようが無かった。

  港に近付くに連れ、人の数は減って行く。

  何度か捕まえられそうになったが指先は空を掴み、追い付けそうで追い付かない。

  結局、恵美が港に先に着いた。

  恵美の後を追い蒼も港に来ると港の入り口より外に構えられた灯台付近で魔法使い達が巨大なイカの様な出で立ちの魔物を撃退しようとしている様子が見れた。


「精霊が教えてくれたよ」


  恵美は蒼を見上げる。


「なるほど…」


  肩を竦め、二人はゆっくりと歩き出す。

 

「クラーケンだな。一応、S級の依頼だった」


  だいぶ人が居なくなり、かなり静かな港の防波堤に二人は飛び乗り、様子を見ながら蒼は恵美に伝える。


「人にあれは倒せないとみていい?」

「あそこまで強化されていては無理だろうな」

「強化?」


  怪訝そうな顔で見つめてくる恵美に蒼は小さく頷いた。


「魔族の影響だろうな。王が召喚されそれに触発されたんだろう」

「わかった。じゃあ私がやるから蒼はフォローをお願いね」


  にっこりと微笑む恵美に、蒼は目の前が暗くなるのを感じた。


「恵美!」

「約束でしょ?私が勝ったよ」


  益々笑みを深められ、蒼は何も言えなかった。


「ふふふ」

「でも!」


  今にも飛び出しかねない恵美の腕を蒼は掴んだ。


「ん?」


  機嫌良さそうに、楽しそうに聞き返す恵美に蒼は真面目な顔で一言。


「接近戦禁止」


  ピシッ…と、恵美の笑顔が固まる。


「接近戦するなら私がやる」

「でも…」

「フォローは君より私の方が上手いとは思うがどうする?」


  蒼には恵美もまた自分と同様に闘神である事はわかってはいた。

  わかってはいたが、みすみす愛しい人を危険に晒す様な真似はさせれなかった。

  深い黒に近い紫の瞳と青い瞳が交錯する。

  恵美に弱い蒼だが、こればかりは譲れなかった。


「はぁぁぁぁぁぁぁあ…」


  盛大な溜め息が漏れる。

  折れたのは恵美だった。


「わかりました。じゃあ、魔法使いとしての特訓の成果をお披露目します」


  ビシっと敬礼をする様に手を添え、恵美は唇を引き結んだ。


「はい」


  少し安堵したのか蒼は口元を緩め、恵美は片手に力を込め自身の武器たる双槍の片割れのみを喚び、握りしめた。

  蒼も恵美の魔法使いとしての戦闘は初めて見るので実は楽しみでもあった。


「行ってきます」


  笑顔で言い、地を蹴り飛んで行く恵美を見送り、蒼も灯台の方へと飛んだ。

  恵美がクラーケンに対峙するより速くに灯台に着くと既に聖達が到着し、結界を張り巡らせていた。


「おまえ達いつの間に…」


  きょとんとする蒼に聖はにっこりと微笑む。


「まともに行っても追い付けないのはわかってるからね。路地裏に入って先にこっちに来たよ」


  先回りして転移して来た…。

  そう言われ、蒼は納得した。

  クラーケンの撃退を頑張っている魔法使い達は聖と煌が突然現れ「手伝いますよ」と、笑顔で言うが早いか見事な防御の結界を張り巡らせた事にも驚いたが、港の方から真っ直ぐこちらに飛んで来た蒼にも驚いた。

  そして、三人が知り合いであり、かなりの美貌の持ち主である事も…。

  しかし、気になるが今はそれどころではない為、有難いと素直に受け止め、撃退に集中する。


「恵美は?」

「退治に行ってる」


  憮然と答える蒼に煌と聖は露骨に顔を歪めた。


「魔法使いとしての特訓の成果を見せてくれるんだと」


  益々機嫌を悪くし、蒼は宙に浮いたままクラーケンと対峙する恵美を見つめる。

  クラーケンの攻撃対象はまだ灯台の魔法使い達のままだった。


「まぁ、クラーケンぐらいの知性ではヘイトは移らないか…」


  魔法使い達からの蓄積ダメージがあるので、強敵である恵美が近付いてもクラーケンは知性が低いのでヘイト…敵対心は恵美には向かなかった。

  恵美は装飾性の高いハルバードを前に突き出し、両手で握りしめる。


  イメージするのは風の刃…。


  力の量を数値化し、攻撃をイメージする。

  無数の風の刃がクラーケンを襲い、クラーケンは唸り声をあげる。

  それらは見事にクラーケンの多足を半分近く切断し、灯台への攻撃を止めさせた。

  青白いクラーケンが赤黒く変色し、目付きが変わる。

  ギロリと攻撃元にいる恵美を血走った巨大な眼球が捉える。

  クラーケンのヘイトは瞬時に恵美へと移り、蒼の顔に緊張が疾る。


「あ。少し威力が弱すぎたみたい…」


  一撃で仕留められなかった恵美は思わず顔をしかめた。


  カアァァァァァァ


  クラーケンの大きく開かれた口から超音波が放たれ、振動が恵美を襲うが、その手に持ったハルバードを一閃し、それを掻き消す。

  圧倒的な力の差がそこにはあった。

  それでも怒り狂ったクラーケンは恵美にその多足を伸ばすが届かず、魔法攻撃を放つも恵美には擦り傷一つ付けれなかった。


  再び恵美はイメージする。

  今度はちゃんと仕留められるように…。


  雷を纏った風の刃。

  力の量を数値化し、今度はさっきより多目…倍で調整してみた。


  多数の雷がクラーケンを襲い、四方八方から風の刃がクラーケンを包み込み、クラーケンは弾け飛んだ。

  断末魔もなく、血飛沫一つ残さずクラーケンは消え、海の上には赤黒い宝石と何かが仄かな光を纏い浮かぶ。

  魔法使い達はその様子を顎が外れているのではないかと心配してしまう程大きく口を開けて目を皿の様にして凝視している。

  それも仕方がなかった。

  まさにあり得ない事が目の前で展開されたのだから…。

  聖は結界を解き、軽く指を曲げて海面に浮かぶクラーケンが残した物を回収し、蒼は恵美の側へ行き「お疲れ様」と頭を撫でた。


「一撃で仕留められなかった」


  しょんぼりと肩を落とした恵美はコツンと蒼の胸に額を預ける。

  陽の光を浴びて天使の輪を作る恵美の髪をヨシヨシと撫でる。


「正直、海でも割ったらどうしようかと思っていたが、上手く力加減が出来ていたと思うが?」


  笑いながら言う蒼を頬を膨らませた恵美が甘く睨む。


「イジワルだー」

「そうか?」


  小さく頷く恵美を覗き込み、蒼は灯台を見やる。


「まぁ誰も死ななかったから良かったんじゃないか?」


  怪我をした魔法使い達もいるが殆どの者達が無事だった。

  だが、やはり重症な者達も居る。

  ハルバードを灯台の魔法使いへ向け癒しをかける。

  白い優しい光が灯台の魔法使い達を駆け抜け、重症者は軽傷に。軽傷者は完治した。


「恵美お疲れー」

「お疲れ様」


  中々降りてこない二人の側に煌と聖も寄ってきて恵美が元気が無いことに気付く。


「飲み直すか」


  蒼はポンポンと恵美の頭を優しく叩く。


「恵美の初戦成功を祝して…だね」

「次はゆっくり飲もうー!」


  恵美が頷くのを見ると四人はその場から姿を消した。



 陽はだいぶ傾き、辺りを夕焼けが包む。

  穏やかな波が灯台に当たっては打ち返し、爆ぜる飛沫が辺りを支配する。

  海のしじまに、一部始終見ていた魔法使い達はそれぞれ顔を見合わせた。

  死をも覚悟した重症者が一番にその静寂を打ち破り、それに続く様にそれぞれ口を開き、生還の、クラーケンの脅威からの解放を、それぞれ歓びを分かち合う。

  ひとしきり喜んだ後、思い出す。

  神か精霊かの様に美しい美貌の四人を。

  突如現れたプラチナブロンドの二人は完璧なる結界を張り巡らせ、彼等を守った。そして、グレーの髪の青年が現れ、クラーケンを倒したのは遠目ながらも彼等魔法使いには分かった。

  まさに伝説のエルフか女神かの様に美しい美貌の女性だった。


「エルフ…」


  ポツリと一人が呟き、全員弾かれた様に目を見開いた。

  エルフが人の姿に化けて来たのだと。

  それならば納得が出来た。

  魔素の高さ、能力に美貌が比例する。

  人より遥かに魔素も高く、身体能力も高い彼等ならばこの奇跡の御技も朝飯前なのではないかと…。


「エルフの姫君か…」

「有難や有難や…」


  誰ともなく、魔法使い達は手を合わせ最早そこには誰も居ないと言うのに恵美達がいた空中に向かって祈り始めた。



  こうして

『エルフの姫君たちが魔物退治の旅をしている』

『エルフの若君がお供を連れて旅をしている』

  などの噂が世間に広まるのに時間はかからなかった。

やはり恵美は酔っ払いの方が面白いです。


読んで下さり有難うございます。

ブックマーク、評価まで有難うございました。

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