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月が綺麗ですね。〜ギルド編〜  作者: 藍歌
ギルド編
4/26

4.酔っ払い誕生。

「うまーッ」

 

  かなりのボリュームの生ソーセージを平らげ、フォークを刺すと肉汁がたっぷり滴るハーブの香りが効いたソーセージをエール片手にかぶりついていた。


「煌…。おっさんになってる…」


  小さいおっさん化している煌に恵美は呆れた様な眼差しで見つめた。


「でも、マジ美味いよ?エールと合う!」


  飲んでみる?と、煌はアロマな香りがする深いブラウンのエールを恵美に差し出すと恵美の深い黒に見間違う紫の瞳がキラキラと光る。


「いいの?じゃあ…」

「バリバリのアルコールじゃないか」


  ひょいと恵美が手を伸ばすより早く、蒼は取り上げる。

  露骨に残念そうな顔で恵美は少し俯き瞳を伏せる。煌がジト目で蒼を見つめ、聖はやれやれと嘆息を漏らす。

  さすがに少し悪いと感じたのか蒼は小さく溜め息を漏らし「飲み過ぎないように」と言っておきながら今来たばかりの自分の真新しいジョッキを手渡し、聖を吹かせた。


「量増えてるから!」

「有り難う蒼」

「じゃあ俺の返して」


  すんなり煌にジョッキを返すと蒼は新たにエールを三杯注文した。

  初めて飲むこの世界のエールに恵美は目をキラキラさせた。

  顔を近づけるとアロマに良く似た香りが鼻腔びこうをくすぐる。

  我知らず顔が綻ぶ恵美を見つめ、三人も口元を綻ばせた。

  それだけでなく、何か有難い物でも掲げ持つ様に目の上、少し高く掲げ持つと光りに透かせて見つめ始めた恵美に聖は口を覆い込み上げる笑いを堪える。


「綺麗…」

 

  光りに透かせて深い琥珀にも似た色味を見せるエールをしばらくうっとり見つめ、クリーミーな泡を楽しみ、ゆっくり飲み始めた。

  口内に広がる芳醇で濃厚な味わい。フルーティな程良い甘みと苦味。

  飲み干した後に突き抜けるフルーティな香り。


「美味しいぃー」


  たまらん!と言わんばかりに恵美は大きく頷く。

  それをじっと見守っていた蒼は相好を崩すと目の前のバゲットに豚肉のディエットをナイフで塗ると「これも合うぞ」と差し出した。

  エールを半分まで飲んだ恵美は一旦ジョッキを下に置き、左手を添えて受け取るとそのまま口に運ぶ。


「んーッ!これもまた美味しい!やめられない止まらない!な、味だねーッ」


  んみゃーと、どこから出しているのかわからない声を出しながら恵美はエールを飲みながらディエットが塗られたバゲットを頬張る。

  うんうん。と、満足そうに頷きながら蒼もエールを飲む。

  ジョッキが見る見る間に無くなり、気分良さそうに恵美はウエイトレスに声をかけ、追加を頼む。

  こうなる事を見越した蒼が先に多目に頼んでいた分を差し出すと恵美は僅かに目を見開き、そして深い黒に近い紫の瞳に星が宿った。


「有り難う!」


  心から嬉しそうに言われ、蒼も破顔する。


「このウィンナーも合うよ!」


  恵美の幸せそうな表情に煌もハーブが効いたウィンナーを差し出した。


「美味しそうだねー。貰うね」


  美味しそうな香りが鼻腔を満たし、食欲をくすぐる。

  フォークがさくりと刺さり、益々食欲をそそる様な肉汁と共に脂とハーブの香りが溢れ出す。

  はぅ…。

  小さな吐息と共に恵美の目が細められる。


「おいひぃ…」


  はむはむと口に含みながら恵美は呟く。


「煌がハマるワケだわ…」

「そしてエールを呑んで!」


  ウィンナーを飲み込んで余韻に浸っていると煌に言われ、反射的にジョッキに手を伸ばし飲み干す。

 

「いや。誰も飲み干せとは…」


  思わず止める様に手が出かけた蒼が突っ込むが恵美の耳には届いていない。


「んみゃー!美味い。美味いよコレは?」


  下から振り上げるように顔を持ち上げ、勢い良く机に置かれたジョッキがガンッと派手な音を立てる。


「でしょーッ⁈」

「グッジョブです!」


  にこーっと子供らしい愛らしい笑顔を浮かべる煌に恵美はビシッと親指を立て、先のエールを届けに来たウエイトレスを呼び止め「もう一杯!」と、気分良さそうに注文する。


「これもエールに合って美味しいぞ」


  少しレバーが多目のパテを一口で食べれるぐらいの大きさに割ったバゲットに塗り、口を開く。少し酔ってきている恵美は蒼につられる様に口を開けバゲットを食べた。

  滑らかな食感がバゲットのパサつき感とマッチして程よく感じる。

  そしてまたエールを一気呑みし、実に幸せそうな顔で微笑む。


「この世界、食べ物美味しすぎるよ?ホントに!」

「それは良かった」


  蒼も青い瞳を細めて微笑み、予備のエールを手渡し、ウエイトレスに追加を頼んだ。

  そんなやり取りをずっと笑いを堪えながら見つめていた聖は、コソリと小声で煌に言う。


「煌…。こっちにおいで」


  頃合いを見計らったように呼ばれ、煌はチラリと隣の恵美を見上げ、ウエイトレスが下げる早さより遥かに早く並ぶ空になったジョッキグラスの数に一瞬ぽかーんと口を開けた。

  ね?と聖は苦笑を浮かべる。

  ご機嫌さんにガンガンジョッキを空にしていく恵美と、切らす事なく、泡が殆ど減る事なく絶妙なタイミングで次を用意する蒼。さすが夫婦!と、言われたらそうなのだろうが息は合っていた。

  美味しい、美味しいと幸せそうに呑みながら、アテも食べている恵美を見つめ、煌は小さく笑うと聖の隣に腰掛けた。

  聖が煌のジョッキやらを側に寄せ、蒼に席を移動する様指で合図するとジョッキを傾けていた恵美は小首を傾げ一つ大きく頷くと華が綻ぶ様に微笑み、空いた隣の座席を軽く叩き「おいで」と蒼を呼ぶと蒼がそちらへ移動し、聖は隣の煌に話しかける。


「飲ませないとか言っていた人が一番飲ませてるね」


  クスクスと笑いながら聖が言うと煌も楽しそうに頷く。


「だね〜。でも恵美が嬉しそうだから俺も楽しい」

「まぁね。だから蒼も負けたんだろうけど」


  二人はジョッキを傾けた。


「精霊達が言うだけあるね」

「うん。マジ美味いよね!」


  二人は目の前で豪快な呑みっぷりを披露する恵美に目を向けると再び顔を戻した。


「明日は二日酔いかな?」

「てか、いつ酔わなくなるんだろう?」

「だいぶ先の様な気がするよ?」

「自分もそう思う」


  二人はそう言って肩をすくめた。




  一体何十杯目のジョッキだろうか…。

  気分良く呑み続ける机の上には既に料理の皿は無かった。

  料理は殆ど煌が平らげ、恵美はひたすらエールを空けていく…。


「恵美、そろそろ水を…」


  いつの間か用意していた水が入ったグラスを蒼が差し出すと恵美は小首を傾げ、蒼を見上げる。


「蒼ちゃん?」

「はい?」

「こりぇね、とーっても美味しいのね?」


  とーっても、を強調する様に恵美は目を閉じて言い、再び開くと少し据わった目で蒼を真っ直ぐ見つめる。


「ああ、美味しいな」


  そう答えると満足そうに頷き、笑顔になる。


「でしょー!だからね、蒼ちゃんも呑もう」


  はい!とばかりに恵美は蒼のジョッキを渡す。


「はい…」


  負けましたとばかりに蒼はガックリと肩の力が抜け、苦笑を浮かべて受け取る。


「はい!カンパーイ」


  満面の笑みで恵美は自分のジョッキを蒼のに勢い良く合わせ、一気呑みする。


「はい、蒼ちゃんも!」


  変なテンションでグラスに口を付けていない蒼を促す。


「はいはい…」

「さすが蒼ちゃん!いい呑みっぷり!」


  パチパチパチ。

  楽しそうに恵美は拍手し、次を呑み続ける。

  煌と聖はマイペースに穏やかに呑みながら次は腸詰めでも作ってみようか…と、相談していた。



  グオォォォォ────。



  腹の底に響く様な重低音が辺りに響き渡る。

  カタカタ…ガチャガチャッ。

  同時に地面が震え、店内の机やグラス、皿などが音を立てる。

  途端に店内が騒々しくなった。

  蒼達の顔が瞬時に引き結ばれる。

  聖は蒼と目配せし、小さく頷くと素早く立ち上がりカウンターの方へ行き、気分良く呑んでいた恵美は手に持ったジョッキを飲み干し目を瞬かせる。


「煌」

「大丈夫」

「恵美は大丈夫か?」


  かなり不安そうに見つめる蒼に恵美は次のジョッキに手を伸ばしながら頷く。

  またもや一気に飲み干すとニコッと笑う。


「うん。余裕?」


  何が…?


  煌と蒼は言外に問うように凝視していると残りのジョッキ全て飲み干した恵美は勢い良くジョッキを置いた。


「人様が気分良く呑んでるのを邪魔されたとあっちゃあ、気分も湿気る」


  バンッと、派手にテーブルに手を突き、立ち上がると据わった目で外を睨む。

 

「大丈夫か…?」


  前回とは違う酔い方を見せる恵美に蒼はたじろぐ。


「こんな美味しいお店がある街の平和を脅かすモノはわたしゃ許せないよ?」

「酔ってる?」


  煌がぽかーんとした顔で恵美を見上げる。


「さっきまで気持ち良く酔ってたけど覚めた!」


  クワッと目を見開き、恵美は煌を見る。


  ──うん。酔ってる…。


  二人は軽く目を伏せ、どちらともなく溜め息を吐いた。

  聖がテーブルに戻って来るのを認め蒼と煌も立ち上がると恵美は先に歩き出す。


「ちょっ」

「お仕置きです!」


  言うが早いか、恵美はベールも付けずに駆け出した。


「マジか…」


  目深に帽子を被りながらあんぐりと口を開けて呆然とする煌の脇を蒼が走り抜ける。


「恵美!」


  もちろん、蒼の制止の声など御構い無しだ。

 

 あいつ、後で覚えてろよ…。


「行くよ!煌」


  ローブを纏った聖は煌の腕を掴むと後を追った。


「あ、有り難うございましたー」


  ウエイトレスやカウンターにいたマスターが言うが四人の耳には届いていなかった。


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