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月が綺麗ですね。〜ギルド編〜  作者: 藍歌
ギルド編
21/26

21.浄化

  付いて行く、行かないの話をしてから少し蒼の様子がぎこちなく感じる恵美は移動中、蒼に気付かれない程度に蒼を盗み見ていた。

  青味を帯びた静謐なる月の光を模した髪を背に、少し鋭利な涼やかなアイスブルーの瞳。

  全てのパーツが綺麗に整った凜とした顔立ち。

  いつもと変わらない堅い表情。側から見ても正直わからないだろう。そう、他人ならば尚更。

  まだ付き合いはそんなに長くないとは言え、恵美はずっと蒼を見て来た。だから戸惑わずにはいられない。彼がこんなに堅い表情を…心を閉ざした様な雰囲気を醸し出すのを見るのは初めてだったのだから…。

  恵美は少し後悔していた。

  いま、あそこまでハッキリと厳しく言わなくて良かったのかもしれない。

  いつかはちゃんと話さなければならない話ではあった。だが、時間が無い時にする様な話でも無かったのだろう。

  元は人間の恵美にとって永遠はない事は当たり前の常識。しかし、悠久の時の中を生きていた蒼にとってはきっとそれは理解し難い、受け入れ難い事なのだろう。


  早く終わらせて、少しでも早く話をしなければ…。


  恵美は焦燥しょうそうの念に駆られていた。

  そして蒼も、いつもならそんな恵美の機微に気付くはずなのにそこまでの余裕が無く、目の前の事に集中するしか出来なかった。


  恵美には女の悲痛な叫びが聞こえ、翠羅達に近付けば近付く程にそれはハッキリと聞こえてきた。

  蒼の方を振り仰げば、蒼は何かを思い詰めているような張り詰めた顔で真っ直ぐ前を見つめたままでそれに気付いている様子ではなかった。

 

  私だけ…?


  恵美は軽く眉根を寄せ考える。

  なぜ自分だけ聞こえるのか、または、これは幻聴か何かなのか…。

  神として未熟な恵美だけが、他の者達はかからない何らかの攻撃に晒されているのか。

  思案するも考えは纏まらない。

  ふと以前、翠羅がぼやいた事が思い出される。


『妾達はそれぞれ特性を持つが恵美はどんな特性を持つのじゃろうな。それを知る為にも、人の世界で魔物退治というのは良いのかもしれぬな』


  これが自分の特性というものではないだろうかと、恵美は思い至る。

  人の気持ちがわかる…とは違う。

  わかるなら蒼の今の気持ちもわかるはずだ。

  ならばこれは何なのだろうか…。

  恵美があーでもない、こーでもないと一人で思案していると一度蒼が大きく軌道を変えるが程なくして翠羅達の元に追い付いた。

  翠羅に諦めた様に「結局、恵美も来たのか」と言われた時には苦笑を浮かべるしかなかった。

 

  アト少しダッタノに…。

  足りナカッタ。

 

  叫びがハッキリと聞こえるが、他の者達には聞こえていない様だ。

  腐敗が進み、ドロドロと竜の体が溶け落ちる様に恵美は目が点になり、そして頭頂部で顔を覆い泣いている女の姿に気付き目を瞬かせる。

  彼女の慟哭が、腐敗した竜の怒りが流れ込む。

  淡い菫色の瞳に光が宿る。


  確かに彼女達は沢山の人を殺めた。

  自分勝手な理由で。

  けれども…。


  恵美は流れてくる意識と垣間見る映像に一つの違和感を覚える。

  誰が彼女達をそそのかしたのか…?

  如何にも怪しいフードを目深に被った人影が映像にはあった。

  彼女達もまた、被害者ではないのか。

  救いを求める者の一人では?


  そう思うと、恵美の身体は勝手に動いていた。

  ふわふわとした足取りで静かに恵美は竜の方へと近付いていく。

  両手にはそれぞれ双槍が握られていた。

  菫色の瞳が深い紫に光り、仄かに光る白髪はふわりと風に舞う。

  唯一恵美の気配に気付く事が出来たのは、隷属した煌だけで、でもその煌を以ってしても恵美を止める事は出来なかった。

  崩壊する様に崩れ落ちる竜の目が恵美を捉える。

  凍てつく波動が迸るが、恵美はヒラリと舞う様に身をかわす。

  恵美を追っていた蒼達がそれを受け、弾かれた。

  頭頂部で泣き崩れる女がハッとした様に面を上げ、恵美を見据える。


「私たちを殺スノか」


  諦めに似た思いで、ほんの僅かなささやかな願いを込めて女は言う。


  せめて、一緒に…。


「助けてみせるよ」


  恵美は口元に微笑みを浮かべる。


「は?」


  もう騙サレナイ


  竜の瞳が暗く光り、鋭い鉤爪が恵美を襲う。

  ピタリと当てられた見事な長槍により鉤爪は動きを封じられた。


「悪魔に堕ちたから一度浄化し、それからまた二人を戻す事になるけど…。魂があるから大丈夫」


  恵美は竜と女を見据える。

 

「恵美一人で行くなんてあれ程…」


  青い顔で言う蒼を恵美は振り返る。


「他人事じゃないから。きっと私も蒼司が先に逝ったら彼女達みたいになったかも!」

「恵美、おんし何を言っておる?妾達にはさっぱりわからんぞ?」


  断言する恵美に翠羅は呆れた様に言った。


「説明なら後。とにかく、蒼司と聖は浄化を手伝って?翠羅様は魂が飛散しない様に結界を展開。煌は邪魔が入らない様にしばらく耐えて」

「邪魔?」

「杞憂に終われば問題ないし」


  肩を竦める恵美に煌は小さく頷いた。


「聖、蒼司」

「後で説明してくれ」

 

  諦めた様に深く溜息をつくと蒼は聖と顔を見合わせ、息を揃えて浄化の魔法を展開した。

  翠羅も鼻で笑うと仕方ない、と呟き結界を展開する。

  恵美は大きく双槍を前に掲げ持つ。

 

  輝ける黄金の光が竜と女を包み、飲み込む。

  天へと真っ直ぐに光の柱が立つ。

  柔らかなアイスブルーの光が光の柱に纏わりつき、霧雨の様な銀色の光が降り注ぐ。

  腐敗した竜と女がキラキラと光の粒子になり天へと昇りかけたが翠羅の結界の為にも留まる。

  恵美はゆっくりと瞳を閉ざし、両手を広げる。

  白い光が辺りを満たそうとしたまさにその時、無防備な恵美に無数の黒い矢が降り注ぐ。

  反射的に蒼が動きかけたが、それを制止し煌が動く。

  その大剣で全ての攻撃を弾き、本陣も見事に弾いてみせた。

  恵美は不穏な気配がそれ以降感じられず内心安堵しながら術を続けた。

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