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月が綺麗ですね。〜ギルド編〜  作者: 藍歌
ギルド編
19/26

19.閑話。ひとりにしないで。

  転移の魔法は便利な様で制約があるのだとか。

  初めて行く場所には転移出来ないのが大前提としてある。

  しかし、蒼や恵美は夫婦なので例え初めて行く場所であってもお互いの所に自由に転移出来る。

  夫婦になる前は蒼が恵美に加護を与えていたので蒼は恵美の所に転移出来、あの時もしも恵美が転移出来たとしても恵美は蒼の元には転移出来ない。

  絶対的な上下関係がそこに存在し、保護を受ける側は親たる保護者の元に転移は出来ない。

  蒼と聖は、蒼が麒麟きりん庇護ひごしているだけなので転移などは出来ない。

  隷属れいぞく関係にある煌と恵美は互いに転移出来る。

  その様な関係性があり、転移も万能ではない事を恵美は知った。

  恵美が煌の場所に蒼を連れて転移すれば話は早いのだが、残念ながら恵美は転移を練習していないので講義を受けながらぶっつけ本番をするより、蒼が大罪の気配を追って移動する方が断然早かった。

 

「やっぱり気乗りしない…」


  ボソリと呟くと深い溜め息を吐いた。

  それでも恵美を抱える様にして蒼は光陰矢の如し…の、勢いで進む。

  冷ややかな目で恵美は蒼を見上げ、口を開く。


「ねぇ、蒼司?」


  敢えて名を呼ぶ恵美を不思議そうに小首を傾げ、蒼は見る。


「あなたは私が居なくなったらどうするの?」

「それは人として死んだ時?」


  キョトンと聞いてくる蒼に恵美は小さく頷く。


「それでもいいけど」

「君がまた生まれ変わるまで待つか、待てなければ代替わりか…」


  考えながら呟く彼に、恵美はとんでもない事を口走る。


「待っても、次の私は貴方を好きになるかはわからないよ?」


  そのセリフに蒼は目を見開き茫然と立ち止まる。


「記憶もない私がどうしてもう一度貴方を好きになるの?人ならばそばに居た人を好きになるんじゃない?」


  考えた事もなかった現実を突きつけられ、蒼の顔は青ざめ恵美を抱く手から力が抜けた。


「ならば、見つけ次第側に…」


  拙い言葉で呟く彼に恵美は眉根を寄せた。


「どんな理由があろうと、親や友達とかから引き離した人攫ひとさらいを好きになれるかはわからないよ?まぁ自我崩壊させたりとか色々方法はあるけど、そんな事したくないでしょう?」


  顔色を失くし、どうしたら良いかわからないと言わんばかりに茫然自失となっている蒼の頬に手を添えた。


「蒼。例え私も代替わりしても、生まれ変わったとしても、もう私であって私ではない。そんな私を見て、けれど貴方ではない誰かを愛して、貴方は平気?」


  菫色の瞳が真っ直ぐアイスブルーの瞳を見つめる。

  今にも泣き出しそうに潤むアイスブルーの双眸に、恵美は胸が痛む。

  綺麗な形の唇を僅かに噛み締め、蒼は伏せ目がちになると項垂れた。


「…多分、耐えられない」


  自分の事を忘れているのは、まだ耐えられる。

  けれども、自分以外の誰かを彼女が愛する事は…蒼には耐えられそうになかった。

  恵美は両手で蒼の頬を包む様に触れ、コツンと額を合わせる。

  揺れるアイスブルーの瞳を伺う様に見上げ、恵美は背を伸ばし目蓋に口付けた。


「ごめんなさい。でもね、いつも貴方が言うのはそういう事じゃない?私も、代替わりした貴方が他の誰かを選ぶのは、辛い…」


  吐息にも似たそれで囁くように恵美は呟いた。


「でも私には記憶が…」

「蒼司は、記憶ではなく私を選んでくれたんでしょう」


  事実だった。

  初代の記憶を引き継ぐ蒼司は、だからと言って初代の愛した者には惹かれはしなかった。

  揺れる瞳に菫色の瞳が射貫くように真っ直ぐ見据える。


「それは蒼司だからだよ。…逝くのも、残された者も辛い。だから、一緒に居たいんだよ」

「…そうだな」


  せめて君だけは…。

  そう思うのは自分の勝手だとわかっている。

  それは先に逝く者の身勝手な想いであり、願いなのだろう。

  けれども、そんな自分で耐えられないものを彼女に背負わせる気にはならなかった。

  だが尚更、怖くなる。

  彼女が消える事が…。

  生まれ変わりを待つのもありだと思っていた蒼は今の会話でそれは限りなく不可能に近い、奇跡にも似た事なのだとわかってしまった。

  ならば危険な事は避けてずっと閉じこもっていればいいのだろうが、彼女の性格からそれは無理だとわかる。


  ならばせめて側に居るしかない。


  蒼は強く恵美を抱き締めた。


「まだ紫苑も、あの子も産んでないんだよ?私も死ねないけど、パパも死ねないよ?」


  口元には優しい恵美を浮かべ、青味を帯びた銀色の髪を無造作に背に流した蒼の背を優しく撫でる。


「…そうだな」

「蒼司はちゃんとパパなれるのかなぁ」


  キツく言い過ぎた事を反省した恵美は蒼の横顔に頬を添え、頭を撫でる。


「…努力する」

「ごめんね、少しキツかったね。でも嫌いになったりしてないからね」

「…わかってる」


  一向に顔を見せない蒼に逆に不安になる。


「嫌いになった?」


  少し顔を離し、恵美は苦笑を浮かべながら蒼を見上げる。

  ゆるゆると蒼は顔を持ち上げ、不安げな面差しで恵美を見る。


「なぜ私が君を嫌いになる?」

「私があんまりにも言う事を聞かないから」

「私の我が儘だから仕方ない」


  哀しそうに蒼は目を伏せる。


「他の我が儘たくさん聞くから」

「益々失うのが怖くなる」


  大きく息を吸い、蒼は恵美を強く強く抱き締めた。離れない様に。失わない様に。


「でも離れないで?」


  失うのが怖くて手を離す事はよくある話だ。

  けれど恵美にはそれは出来なかった。

  好きだから、その苦しみも戦い抜こうと決めれる。

  その人の側に居るために…。


「もう離れられない」

「一人じゃないから。私、ずっと側に居るから…」


  溜め息の様な蒼の言葉に恵美は願う。


  ずっと側に居るから、だから私と一緒に居て…。

  何があっても、貴方を選ぶから…。


  それは願いにも似た想い。

  大きく瞬きをして深呼吸をする。


「煌達が待ってるから、行こう?」

「ああ」


  そう返事をした愛しい人は、まだ暗い夜の青に囚われていた。

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