17.敵影発見
そろそろ船旅も10日辺りに差し掛かった頃。
業を煮やした翠羅がカードゲームをしながら口を開いた。
「なかなかセイレーンが出んな」
「まぁ、神出鬼没だからな。ハイ上がり」
カードを捨てながら蒼は答える。
「おんし出るまで待つ気かえ?」
またもやジョーカーが回ってきた翠羅は、苛立ちに拍車をかける。
「時間はある」
さらりと言う蒼に翠羅は露骨に顔をしかめた。
煌が翠羅からカードを取り、やったぁと上がっていく。
更に翠羅の機嫌が悪くなる。
聖がどうぞ、と翠羅に選択権を譲渡した。
このまま自分が上がろうものなら翠羅の機嫌は底なし沼に落ちるだろう事は容易に想像出来たからだ。
「いや、次は聖が引く番だろう?妾ではない」
律儀と言うか、真面目と言うか、翠羅は譲らなかった。
「………」
蒼と聖はそっとため息を吐いた。
どうもこのババ抜き。翠羅はかなり弱いらしく、現在三回連続翠羅の負けが続いている。
勝つまでやると意気込んでいた翠羅ではあるが…。
聖は二枚の内、どちらか迷う。
そして一枚に手を伸ばした。
聖がカードの絵を確認する前に、テーブルがひっくり返る。
「キィィィィイッ」
翠羅の癇癪玉が炸裂するのと、ドアが開くのはほぼ同時だった。
「ッ⁈」
ユングがドアを開けると同時に、テーブルが宙を舞いながらひっくり返り盛大な音をあげる。
パラパラとカードが飛び散る。
鳩が豆鉄砲を喰らった様に目を点にしたユングはしばし呆然と佇む。
「………」
しばらくしてハッとなったユングが顔色を青くして静かにドアを閉めようとするのを聖は口元を緩めて声をかける。
「ユング殿、何かあったのでは?」
そう声をかけられ、思い出したように目を見開いたユングは閉めかけたドアを開く。
「そうでした。呪歌の波動を僅かに感じたのでご報告に…」
「それを早く言え」
「っしゃあ!行って来ます」
言うが早いか、翠羅と煌が脱兎の如く駆け出す。
そんな二人の様子に残った三人は肩をすくめ、小さく吐息を吐き、ユングだけが目をパチパチと瞬かせていた。
蒼と聖は恵美が腰掛ける長椅子に移動しながら後ろで呆然としているユングに声をかける。
「ユング殿も一緒にお茶でもして待ってましょう」
「え…でも…」
言い淀む彼に、恵美にお茶を淹れてもらった蒼は穏やかな顔で微笑む。
「あの二人に任せておけば問題ない。呪歌ならば精神攻撃だろう。いくら魔法耐性があろうと人の子。ここにおれば良い」
「二人なら大丈夫ですよ。彼もそう言ってますし、どうぞお掛けくださいな」
恵美はカップに新たにお茶を注ぎながらユングを席に促す。
少しだけ躊躇したユングはカップをテーブルに置いた恵美が「どうぞ」と微笑み、諦めて座る事にした。
翠羅と煌は弾丸の如く駆け、看板に飛び出した。
重厚なそれでいて透き通る様な高音域のアリアの様な歌声が遥か遠くから聞こえる。
精神に関与してくるその歌声は煌と翠羅には効かなかった。
「しかしシードラゴンとセイレーンとはまた変わった組み合わせだな」
「そうなんですか?」
「セイレーンは大した事はなかろうが、シードラゴンは竜種だからなぁ…」
宙に手をかざし、錫杖を握ると翠羅はフワリと宙に浮いた。
それに倣うように煌も大剣を握り締める。
「まぁ、行くか」
「はい」
二人は歌声の方へと向かった。
しばらく船の進行方向に進むとだんだん霧が濃くなり始めた。
乳白色の濃霧の中に入るとアリアはかなり大きく聞こえる。
かなりの濃霧は1メートル先はもう見えなくなっていた。
『チビ』
既に姿が見えなくなっている煌に翠羅は念話を飛ばす。
『はい』
『大丈夫じゃな?』
念を押す様に聞いてくる翠羅に煌は口元を綻ばせた。
『もちろんです。翠羅様こそ遅れないで下さいね』
「言いよるわ」
ビスクドールの唇に不敵な笑みが刻まれ、翠羅は杖を天高く突き出した。
翡翠の瞳が怪しく光る。
辺りが鮮やかな緑の光に満ち溢れ濃霧が流れる様に消えて行く。
「さすが翠羅様」
いつの間にか前に出ていた煌が笑む。
乳白色の濃霧が消えた先には岩礁が現れ、そこには腐敗したドラゴンと上半身が人の形をしたセイレーンがいた。
「シードラゴンではないな」
「ゾンビっすか?」
「そうじゃな。ドラゴンゾンビじゃ」
二人は顔を見合わせる。
「翠羅様浄化は」
「おんし浄化は」
互いに同じ事を聞き、翠羅は目を見張った。
「蒼と緋の申し子たるおんしは浄化出来んのか⁈」
「緋瑛様は焼き切りますが」
「あんなバカタレは一緒にせんで良い」
翠羅は四神の一人緋瑛についてバッサリと言い捨て、ポンと手を打った。
「ならばちょうど良い。チビ、練習じゃ。ドラゴンゾンビを浄化せよ」
「なるほど!わかりました。やってみます!」
「セイレーンは妾に任せよ」
「はい!」
お互いの相手が決まると二人はそれぞれと対峙した。




