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月が綺麗ですね。〜ギルド編〜  作者: 藍歌
ギルド編
12/26

12.罠

すみません、upしてすぐに追加しました。

  今日は早々と果てて寝てしまった恵美の髪をくようにでながら蒼は優しく微笑み、恵美を見つめる。

  幸せそうに眠る恵美を見つめ、髪を撫でる事は蒼にとっては至福のひとときで飽きる事はなかった。

  恵美の髪を梳く手が少し透けたように光ったのを蒼は見逃さなかった。

  蒼は自分の手をかざし見る。

  時々、ほんの一瞬だが仄かに透ける様に光った。

  グッと握り拳を作り、また開く。

  しばらく見るも、それからは手は光る事も透ける事もなかった。


「……」


  再び蒼はよく眠る恵美を見つめ、相好を崩し一度頭を撫でると名残惜しそうに額に口付け、起き上がった。


  いつもと大差ない服に身を包んだ蒼は見渡す限り本だらけの書庫に来ていた。

  一人掛けの椅子を出し腰掛け、分厚い本を読み始める。

  記憶が確かならば、あの現象は身に覚えがある。

  しかし、最早成長を遂げた蒼がなるような現象ではない。

  完全に成長を遂げた神にはないが、成長段階の神がなる神翳かみかげりの現象。


  今更なぜ…?


  蒼はそれを調べる為に書庫で色々な文献を読みあさっていたが、目ぼしいものは見当たらなかった。

  他にそれについて知り得そうな者は四神でも一番古い翠羅すいらだろうが…。


  今はまだ夜中だから陽が昇ってから聞いてみるか。


  もう少し調べてみようと本に目を戻した時、ようやく精霊達が騒がしい事に気付いた。

 

「一体何が…」


  訝しむ様に顔を上げ、宙を見る。

  精霊達が「大変。大変!」とばかり言って埒が明かないでいると、耳を劈くような精霊の悲鳴と怒りと同時に、恵美の悲鳴が聞こえて蒼は姿を消した。






  蒼と仲良く眠っていた恵美は気持ち良く微睡んでいた。

  人の身ならば毎晩深く求められては身が持ちそうにないが、神様は便利だなぁ…などと思いながら。

  遠くで鈴の鳴るような音が聞こえた気がしたが、恵美はそれに気付かず微睡む。

  肩に体温を感じ、恵美は隣で寝ている蒼と信じて疑いもしなかった。

  が、次に触れられた時の、肩の感触に恵美は目を見開いた。

 

  蒼じゃない…。


  いつも優しく触れてくるそれとも、力強く握ってくるそれとも違う感触に、背筋に怖気おぞけが走る。

  飛び起きた先には見知らぬ人が目の前にいた。

  シーツがハラリと下にズレ、恵美は自分が一糸纏わぬ姿である事を思い出し、悲鳴をあげた。


「きゃあああああああああああああああッ!」


  目の前の男は恵美の口を塞ぎ、勢い余ってそのままベッドに押し倒された。


  ギィィィィイ


  鈴の音がつんざくような音に変わる。

  恵美は口を塞ぐ男の腕を振り払おうともがく。


「大きな声を出さないでくれ」


  僅かに頬を紅潮させた男はそう言うと至近距離で恵美を真っ直ぐに見つめ、喉を上下させた。

  素早く恵美はシーツに腕を伸ばすが、腕を掴まれる。


「あんたはオレのだ」


  男の顔がそのまま沈む。しかし、男が恵美に触れる事は無かった。

  ベッドから吹き飛ばされるように男は飛び、壁に叩きつけられる。


「カハッ」


  肺が圧迫され、息が漏れる。

 

「親方⁈」


  調度品を物色していた手下達は急に飛んで来た男に走り寄る。


「私の妻が誰のものだと?人の子よ」


  ユラリと青銀の光を陽炎のようにその身から放ちながら美貌の男はまるでゴミか何かでも見る様な冷ややかな眼差しで壁からズルズル落ちる男を見る。


「なぜ人の子が我が城にいる?」

「タオ……」


  男はタオを見るが、タオは動けずにいた。

  気配からよく見張っていたグレーの髪の男なのはわかるが、これ程の圧倒的な力の差では話にならない。

  剣を抜く間も無く、殺されるだろうと容易に想像出来た。


「おまえ達…」


  男はタオが動かないとみると魔法使い達を見る。


「あ、はい親方…」


  突然現れた男に呆気に囚われていた魔法使い達は請われるままに魔法を紡ぐが、美貌の主は指先一つでそれをいとも簡単にかき消した。


「ッ⁈」


  魔法の残渣でバシッと弾かれ、魔法使い達は手から血を流し、その場でうずくまる。

  有り得ない光景に周りの者達は目を見張り、へなへなと座り込む者もいた。


「蒼!」


  シーツを身体に巻き付けた恵美が蒼の側へと駆け寄る。


「恵美!」


  お互い駆け寄った二人はそれぞれ強く抱き締めた。恵美の前に蒼の美しい青銀の髪が流れ、見上げると瞳は冷たいアイスブルーの瞳に戻っていた。

 

「色が…」

「これで平静になどしていられない。君程の力がありながらなぜあいつに触れさせる?」


  困惑する様な目で見つめながら、蒼は恵美の肩を掴むと服を着させ、少し責める様に言った。


「力を抑えていたら…いざ使わなきゃならなくなって、どうやればいいのかわからなかったの…」


  見る見るうちに深い紫の瞳は潤む。思い出したかのようにその体が小刻みに震えている事から怖い思いをさせた事を物語っていた。


  そうだ、恵美はまだ覚醒したばかりだったんだ…。


  まだまだ神として未熟で自然に力を使う事が出来ない彼女を一人にしたのは、紛れもなく自分であり、それは自分の落ち度だったと蒼は目を閉じ、深く嘆息した。


「一人にしてすまなかった…」


  瞳に柔らかな光を浮かべ、蒼は再び恵美を強く抱き締めた。

  それでも恵美の身体は小刻みにカタカタと震え、蒼の怒りに拍車をかける。


「人の子よ。私の部屋に上がり、私の妻に手を出した事は決して許さぬぞ」


  青銀の髪が風もないのにフワリと舞う。

  勢い良く扉が開き、一味は吸い出されるように扉から吐き出され、再び扉は閉じられる。

  突然の事に何が起こったのか、誰も理解出来なかった。

  宿屋の廊下の壁や床に一味は重なり合う様に叩きつけられ、恐怖と痛みに声さえ出なかった。

  当然、荷造りしていた戦利品は何一つない。

  ポケットに忍ばせていた宝石一つとして消えていた。

  一味は理解した。

  彼女はきっとエルフの王の妻であり、触れてはいけないモノだったのだと。

  そして、人ならざる者たる彼らには魔封具は効かない事。そして、到底敵うはずがないものだと。

 裏世界で、彼ら…特に蒼と恵美の事が広まるのに時間は掛からなかった。


 盗賊達を追い出した後、蒼は恵美を強く抱き締め、安堵の溜息を吐きながら呟く。


「一人にして本当にすまなかった…」

「うん…」

「どうして彼らがこれたのか調べなければならない」


 有り得ない事だった。

  その有り得ない事が起こってしまった以上、原因を徹底的に究明しなければ、次もまた起こり得るという事になる。

 ゆるゆると恵美は面を上げる。

  不安そうに揺れる深い紫の瞳に、蒼は胸が痛くなるのを堪えた。

 身体はまだ小刻みに震えている。


「君を一人には出来ないから煌を呼ぼうと思ったのだが、一緒に行くか?」


 優しく頭を撫で、少し青ざめた、今にも泣き出しそうな恵美の頬を撫でる。

  すがる様に頬に添えられた優しい手を恵美は両手で包み込む様に握り、頷く。


「わかった。一緒に行こう」


  蒼は穏やかな笑みを口元に浮かべた。


  時間は沢山ある。こんな彼女を一人には出来ない。


 再び、蒼は恵美を抱き締めた。


 報復は急がずとも後ですれば良い。時間なら沢山あるのだから…。


 蒼の氷河の如く冷たいアイスブルーの瞳が剣呑な光を宿すが、恵美が気付く事は無かった。


明日から仕事がかなり入るので更新が落ちたらすみません。


ブックマーク、評価有難うございます。

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