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月が綺麗ですね。〜ギルド編〜  作者: 藍歌
ギルド編
10/26

10.噂の四人組。

  恵美と煌がこの世界が初めてなので、しばらくはアザレの街の観光を楽しみながらゆっくり魔物退治をする方針になった。

  初日は市場や屋台などがメインとなり二日目は港を周り、三日目は辻馬車に乗っての街観光となった。

  恵美には馬自体が珍しく、馬車と言えば童話に出て来る物であり、当然見る事はおろか乗った事はなかった。

  人生初の体験に恵美と煌は幼い子どものように瞳を輝かせていた。

  しかし、乗り心地は残念な程悪く二人の好奇心溢れる瞳は走り出すとすぐに曇る事になった。

  座席の背中側もクッションがあるのか古くなり摩耗し耐久が落ちたからか、かなり硬くシートのクッション性も悪い。サスペンションに至ってはちゃんとあるのかと疑いたくなる程恐ろしく悪かったので振動はもちろん、地面の石などの衝撃はモロに伝わってきた。

 

「恵美、おいで」


  クッション性もカケラも無い乗り心地にお尻が少し痛かった恵美を蒼は呼ぶ。


「えっ?隣にいるよ?」


  両手を広げる蒼に恵美は大きく首を傾げた。

  きょとりとする恵美の腰に腕を回すと蒼はヒョイと軽々抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。


「⁈」


  鳩が豆鉄砲を喰らったように目を見開き、恵美は蒼を凝視する。

  比較的空いているとは言え辻馬車。

  当然他の乗客もいるワケで…。

  恵美達四人が目立っていたのはわかっていた。それは納得もしていたが…。

  車内は一気にさざめき立つ。

  今にも煙を吹き出しかねない程火が付いたように真っ赤に顔を染め、見開かれた瞳は見る見るうちに潤み出す。

  恥ずかしさに俯き、ワナワナと震え出した恵美を蒼は覗き込んだ。


「これで少しは振動が減っただろう」


  サラリと流れるブルネットの長い髪をかきあげ、耳にかけながら蒼は平然と言う。

  おかげでせっかく隠れた顔が露わになる。

  幸いな事は蒼とは反対側が他人側で、右側に流れる髪はそのままなので周りから恵美の顔が見えない事だろうか…。


「蒼…。さすがに恥ずかしい…」


  子どもじゃないんだし…。

 

「魔法でも…」

「一緒に見よう」


  そう耳元で囁き、軽く口元で微笑みと蒼は窓の外を指した。

  ガッタンゴットンいいながら走る辻馬車は、乗り心地は恐ろしく悪かったがそれはそれでおもむきがあったのだが、今の恵美にはそれどころではなかった。

  しかし、蒼もどうやら離してくれそうにないので恵美は諦めて示されるままに外を眺めた。

 

  こういう時は開き直った方が早いのかな…。


  決して車の様には流れないが、穏やかに流れる景色。

  赤煉瓦の街並みに緑の草原が映える。

  恵美はその美しい景色に目を細め、口元を綻ばせた。


  こうしてただでさえ目立つ四人が、特に蒼は周りの目など気にせず恵美を甘やかすので益々二人は目立ち『エルフの恋人同士』と二人が巷で話題になるのに時間はかからなかった。




  赤い煉瓦亭れんがていの宿は伝説のエルフもかくやと噂の四人組が連泊しているおかげで、一気に有名になり宿としても食堂としても大盛況だった。

  一目伝説のエルフを見てみたい人々が客として押し掛けていた。

  店主も金払いの良い四人組が喜ぶような美味しい酒を仕入れ、珍しい酒を提供したり、新たなメニューを編み出したりと余念が無かった。

  しかし十二時頃に店仕舞いするのは変わりなく、噂の四人組も部屋に戻り、夜中の一時には静かになっていた。

  通算四日。恵美達四人組の泊まる部屋に毎晩侵入するタオ達だったが、一度も会えずにいた。

  そう、まさにもぬけの殻だったのだ。

  五人がタオの家に着くと、中にはよく見知った人が椅子に腰掛け、足をテーブルに投げ出して寛いでいた。

  タオは小さく舌打ちし、諦めたように嘆息する。


「親方…」

「よぉ」


  頬に傷のある男は口元に恵美を刻むが、目は笑っていなかった。


「最近ずっとご無沙汰じゃねぇか」

「……」

「まぁ座りな。呑みながら聞かせてくれよ」


  タオは小さく瞬きし、諦めると勧められるままに席へ腰掛けた。

  目の前に酒が入ったグラスが置かれ、タオはそれに口づける。


「で、噂のエルフ達はどうなんだ」


  親方のセリフにタオは素直に話した。


「毎晩部屋に行くんですがね、部屋に居ないんすよ!」


  タオではなく、タオの手下が少し興奮気味に話し出した。


「部屋を確認してから行っても同じで、部屋がもぬけの殻なんすよねー」


  シミジミと言う若い者を親方は静かに見つめる。


「じゃあどこにいるんだ?」

「それがサッパリ…。確かに部屋に入るのを見送り、朝も部屋から出て来るのを見てるんですがね?」


  そう、まるで神隠しの様に…。


「失敗続きとは、タオにしては珍しいな」

「すんません…」

「次は俺が指揮を執る」


  静かに言い放つ親方を見つめ、タオは俯き加減で頷いた。


「……はい」


  親方は満足そうに頷いた。


 


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