1.いざ、冒険者ギルドへ。
「ねぇ、蒼まだ怒ってる?」
サラリと美しい艶やかなブルネットの長い髪が帳のように降りてくる。
蒼司の大好きな仄かに光る白髪はブルネットの髪に変わり、菫色の星が宿る瞳は少し黒味を帯びた色に変わっていた。
白髪に菫色の瞳は余りにも目立つ為、恵美に自分で人型を維持出来るようになるまで人の世界を旅しないと言って頑なに拒否し続けた蒼司はずっとその容姿を保ち続ける愛しい彼女に小さな溜め息を吐いた。
最初の頃は魔法や力を使うと容姿を維持出来なかったのだが、今では余裕で維持出来ている。
魔法も力も不安定で、逆に危なかった事も禁止原因の一つだったのだが、恵美が愛しくて仕方なかった蒼司が恵美を愛し続けた結果、蒼司の魔素に導かれるようにして今ではかなり安定してしまい、蒼司としてはかなり残念な結果になってしまったがそれでも求めずにはいられなかったのだから仕方がない。
蒼司も青銀の髪ではなく、銀に近いグレーの髪と青い瞳になっていた。
名前も以前恵美が酔っ払って呼んだ名前が気に入ったらしくそちらに変わっている。
いつもとは違う姿だが、それもまた恵美には新鮮で愛しく感じていた。
「蒼?」
そっぽを向く度に追いかけてくる恵美に、蒼司は深い溜め息を吐いて片手を頭に回し、もう片方の手で恵美の手を握ると組み敷き、そのまま口付けた。
「はいはい。一週間経ったね。どんなに愛しても気を失ってもそのままいれるようになったね」
拗ねた様な口調で言いながらも頬を伝う口付けは優しい。
「約束だからね。守りますよ?守れば良いのだろう?」
「蒼…キャラ変わってない?」
「変わりたくもなるさ!
あぁ、そうだ。君が行かなくてもいい。私と煌で根絶やしにして来れば何も君を危険な場所に連れて行かなくてもいいじゃないか」
良い事を思い付いたとばかりに蒼司は瞳を輝かせ、首筋から顔を上げた。
「未来の我が子の為に頑張らないパパは要りません…」
少し冷めた様な冷たい瞳で恵美は蒼司を見る。
「え?頑張るよ?ただ君が行くのが嫌なだけ」
「貴方だけ危険な場所に行かせれないでしょう?」
それらは今までに何度となく繰り返された言葉だった。
もう何十回、何百回と繰り返され、いい加減恵美も呆れてきていた。
「君が行くよりいい」
「貴方が私を危険に合わせたくない様に、私も貴方を危険に合わせたくないの。私のワガママで危険な冒険者になるのだから、私も行くに決まってるでしょう?」
「絶対?」
「絶対」
「私がこんなにお願いしてもダメかい?」
「そんなに言うなら蒼が私を守ればいいじゃない」
にっこりと恵美は微笑む。
再び深い溜め息を吐いて蒼司は恵美の首筋に項垂れた。
「諦めよう…。でも、登録は明日。今日ぐらいはいつもの恵美に戻って?しばらく抱けないなら、君が私を忘れない様にしたいから」
「ん?なんで人型になったら抱けないの?」
「え?いいの?」
「今までみたいにいつもは無理なんだろうけど…」
蒼司の言葉にふと疑問に思って問い返し、答えていて恵美は恥ずかしくなって布団に顔を埋めた。
「もぅ知らない…」
「なんだ。てっきり根絶やしにするまで抱けないと思っていたよ。ならばこんなにダメダメ言わなかったのに…」
喜色満面で蒼司は恵美の背中に唇を寄せ、恵美の背中に電流が走る。
「でも、明日行こう。今日は離さないから」
そこが問題だったのか⁉︎
そう突っ込みたかったが、蒼司から与えられる快感に身を委ねその言葉は甘い吐息へと変わった。
中央大陸、最東にして最大の港町アザレの街に四人は来ていた。
ファーレンの助言の元煌は髪の色のみ変え、蒼司と恵美は髪と瞳の色を変え、冒険者ギルドに登録しに来ていた。
この異色を放つ四人の設定に一番悩み、聖と煌が兄弟になったが蒼司と恵美に一番困った。
結果、二人は恋人同士で魔物に連れ去られた恋人の弟を探す旅をしているとなった。その設定に蒼司はかなり満足し、恵美は少し恥ずかしいような複雑な気分だった。
名前は四人共に力ある存在ゆえ、例え名前を知られても縛られる事はそうそうないが、一応変える事になった。
蒼司は蒼。
恵美は恵美だが、通称エミ。
煌は煌。
聖は聖。
それぞれ似た名だが、聖のみ全く異なるので注意しなければならなかった。
四人はそれぞれ目深に帽子やローブを被ったりし、恵美はヴェールを被っていた。
港町の近くまで歩いて行くと、そこに冒険者ギルドがあり、四人はその扉を押し開き、中へと進んだ。