雷の力
武器と鎧を買ってもらって、実践。
……と、思いましたが、お姉さんに連れてこられたところは、魔物もいなさそうな山奥でした。
あるのは、精々木くらいです。小動物すら見つかりません。
「えっと、お姉さん。ここで、どんなことをすればいいんですか?」
「ん、キャロには、とにかく最初は、魔法を纏った武器の力を感じてもらおうと思ってね。
それに、最初から魔物と戦って、行き成りナイフの刀身がなくなるってこともあるしね」
そういうと、お姉さんは、銃をとりだすと、銃身を握ります。
「ソリッドストライク。……これが、私が最初に覚えた魔法。多分、キャロは、別の魔法を覚えてると思うけれど」
そうお姉さんがつぶやくと銃は白く光り、ミシミシと、硬くなる音が響きます。
「少し離れててね。……うん、それくらいでいいよ。いい?銃っていっても、射撃だけじゃなくって、こうやって、強化の魔術を使えば」
お姉さんが、力のままに振りまわすと、周囲にあった木が根こそぎ。
えぇ、文字通り、根こそぎ、なくなります。
文字通り、お姉さんの周囲5mほどのものが、ただ、力任せに振り回しただけで、銃身に巻き込まれる形で、粉砕されて、形をなくしていました。
「こんな風に、近接にも対応できる。私のこれは、もともと、武器の耐久性を上げる魔法。なんだけれど、私の特性と混ざって、こんな感じに」
「えっと、特性って。・・・・・スキルですよね?」
「うん。そうだよ。私はパッシブスキルもちでね。そのスキルのせいで、色々魔法に関しては限定的になってるのさ。」
スキル。生きているなら、誰だって持っているもの、だそうです。
「えっと、パッシブは、常に発動してて、アクティブが、任意で切り替えられる。でしたよね?」
「うん、アクティブの人は、自分で認識してることが多くて、パッシブは、認識している人は少ない。なんせ、パッシブを持ってる人にとっての常識そのものだからね。冒険者の中には、それを生かして活動する人も多くいるけれど。……スキル自体が、多種多様。それこそ、アクティブ・パッシブだけじゃなくて、例えば、炎を出すスキル。って、割と有名なんだけど、それも、それこそ、火花みたいな炎しか出せない子もいるし、其れこそ、ドラゴンの炎をも打ち消すほどの炎を吐き出すものもいる」
「消耗も、それぞれ、ですよね?」
村にも、色々なスキルを持った人が、いました。
それでも、あまり村の中でそれを使う人はいませんでした。
たしか、その人は、全力で数百メートル走った。
といってた。
「うん、冒険者でメインとしてアクティブスキルを使う人は大体、消耗の低いスキル持ちだったり、火力とのコスパがいい人だね。例えば、いくら強力な炎を出せる人でも、そのまま動けなくなるじゃ、だめだからね。それに、みんながみんな、メリット系のスキルってわけでもないし」
「え?デメリットのスキルもあるんですか?」
「うん、スキル自体、多種多様だからね、そういうスキルも結構多いよ。
デメリットっていっても、指先が動きにくい、とか、寒さに少し弱い、とかね。
これも、パッシブだから、あんまりひどい能力じゃなければ、気が付きにくいけど」
「……私のこの身長もスキルだったり・・・・・?」
「あはは……そんなに気にしなくていいよ。ちゃんと伸びるよそのうち」
うー・・・・・15歳過ぎたのに、まだ、伸びるのでしょうか……。
「さて、とりあえず、一度試してみようか?君の魔法を、剣に宿してごらん?魔法の言葉は、もう頭に浮かんでるでしょう?」
「はい!……ライトニング!」
頭に浮かんだ呪文を唱えると、稲光が、ナイフに宿ります。
バチ、バチと、手のひらが焼けるにおいがします。
腕が、震える。
「行ける?」
「……大丈夫です」
チカチカする視界の中で、ナイフが、青い雷を纏っています。
「やぁ!」
今できることは、目の前の木に、ナイフを突き立てます。
「あ、あれ?」
一瞬バチっという音がしたと思うと、ナイフには雷の力が宿っていませんでした。
「ん、集中を切らしたね?次」
「は、はい!ライトニング!」
次こそは、と、雷を、ナイフに注ぎます。
また、バチ……っと、はじける音と、溶ける匂いがします。
……溶ける・・・・・?
「大丈夫、そのまま突き立てて」
「は、はい!えい!」
今度は、ためらいなく、木に突き立てます。
……ですが、ナイフに、手ごたえがありません。
「え?えっと」
「うん、成功」
「え?うわ?!」
見ると、目の前にあった木が、一瞬で黒く焦げています。
そして、手元のナイフの刃は……完全に溶けていました。
「こ、これで、成功なんですか?」
「うん。火力としては、ね。最初のうちは、弱くなることが多いから、強く出せるほうが重要になることも多いんだよ。魔物と戦闘になった時にうっかり、力が入らなくて、死んじゃいましたー、なんて、笑いごとにもならないからね。それに、魔法の媒体としては、刃がなくても使えるから。じゃあ、もう一度、それに、魔力を通してみて?」
「は、はい!ライトニング」
イメージして、呪文を唱えますが、柄の部分にまでしか雷が纏えません。
「もっと。溶ける前のナイフをイメージして・・・・・?」
「は、はい!ライトニング!」
今度は、ドロリと溶けたナイフの刀身部分にも雷が奔ります……。
けれど、今度は柄の部分が、ドロドロと‥‥‥
「いっ?!」
びりり、と、手のひらに痛みが。
「上手にコントロールできないと、そうやって、自分の体も傷つけるよ。じゃあ、もう一回」
「は、はい!」
こうして、その日は、魔法のコントロールに一日を費やしました。