スクロール
次の日。
「はぁ‥‥はぁ・・・・あと、すこし・・・・」
朝から走り込みをしています。
昨日は出来ませんでしたが、やっぱり、基礎体力は重要です。
私の体は、ほかの人より小柄。
だから、ほかの人よりも、体力が少ない。
冒険者になるんだったら、絶対に体力が必要になる。
とくに、お姉さんに追いつくなら、きっと、あの扉を一人で開けれるくらいの力が・・・。
「うん、それは正解だよ」
帰ってきて、トレーニングについて、お姉さんに相談すると、そういわれました。
曰く、あのギルドの扉は、一種の門前払いのためのもので、あのレベルを一人で開けれるのは、最低条件らしいのです。
要するに一人で来た実力のないものをたたき出すための試練。
ということでしょうか?
「まぁ、その認識で間違ってないよ。力と、知恵のあるものじゃないと、生きていけないからね。
最低限、あの扉くらいはあけれる知恵がないと」
「お姉さんも、ずっと昔に、開けたんですか?あの扉を」
「ん……いや、私は扉を開けてないんだ。私が冒険者を始めたのとギルドに入ったのは、時期がずれるからね」
?冒険者になる時期と、ギルドに入った時期がずれてる・・・・・?
「……あ、じゃあ」
「うん、私は前に話した、魔物を倒してから依頼が入るようになって、冒険者になったほうなんだ」
納得しました。
「開け方とか、教えてもらってなかったけど、まぁ、なんとなくどういうことか分かってたからね。そのころにはいろいろできたから、正面からとおれたよ。だいじょうぶ。全部、キャロちゃんくらいの年齢でできたんだ。すぐにできるようになるよ」
あの重そうな扉を・・・やっぱり、お姉さんはすごい人のようです。
「は、はい!」
そして、お姉さんは、少なくとも、私に期待をしてくれているのです。
なら、それにこたえなくてはいけない。
「・・・・・そんなにプレッシャーに感じないの。大丈夫。成長に合わせて、ゆっくりと、何年かかってでも君をちゃんと育てるよ」
優しく、ぽんぽんっと、頭を撫でてくれるお姉さん。
しかし、しっかりと、重圧は感じる。
「さて、それじゃあ、今日も読み書き」
そう、体を動かした後には、文字の読み書き。
まだ、この辺りの都市の子供ですら読める範囲といっていました。
そんなところで、終わるわけにはいきません。
ここは、まだきっと、通過点なのですから。
……そう、ゆえに、通り過ぎるのはあっという間の話です。
一月ほどでしょうか。
勉強が楽しかったのも、あります。
身体が、変わっていくのが、力ついていくのが楽しかったから、というのもあります。
ですが、一番は、すこしずつでも、お姉さんの背中に近づいているんだということをかんがえると、心の底から力が湧いてくる気がしました。
「お姉さん!できました!」
お姉さんに紙を渡す。
テストです。冒険者としてのテスト、ではありません。
ただの書き取りと、読文のテスト。
「うん。合格。初級の文字列に関してはほぼ完ぺき。日常的に使う文章は、もう大体読めるかな」
「はい!まだ、読みに関しては、時間がかかっちゃいますけれど」
「大丈夫。あとは繰り返しで、何とかなる範疇だからね。さて、じゃあ、明日は、一つ目の魔法を覚えに行こうか」
つ、ついに・・・。
「ほら、しっかり寝る。……ただ、読むだけじゃ。ないんだからね?」
「え・・・・・」
……覚えるためには、必要だったのは、文字だけではない・・・・・?
「ううん?やることは文字を読むだけ。まぁ、明日を楽しみにしないと」
「は、はい」
お姉さんに抱き着いて、ゆっくりと眠ります。
甘い香りは、私の心の不安を溶かしていきます。
ぎゅう・…っと、しがみついて寝る事しか。
今の私にはできないのですから。
あ……。おっぱい、柔らかいです……。
そして、朝。
トレーニングを終えると、お姉さんが迎えてくれます。
「おかえり。キャロ。もう、息がきれなくなったね」
「はい!もう一月ですから!これくらい!」
「あはは、頼もしい限りだね。ほら、図書館にいくよ」
「はい!」
胸がどくどくします。
ワクワクが止まりません。
どんな、魔法なんでしょうか・・・・・。
まだ、ギルドの扉は、お姉さんに開けてもらわないと、入ることはできません。
しかし、
「あ……」
・・・・・・今度は少し、その場で止めることができました。
「ほら、キャロ、行くよ?」
「は、はい!」
そんなことをして、ぼーっとしていたら、おいていかれそうになって、慌てて、お姉さんの後を追いかけます。
「エヴァさん、お疲れ様です。図書館のご利用ですか?」
「うん、うちの弟子の、適性をしっかり測りたいのもあるしね。いま、利用者はいるかい?」
図書館の司書さんに、お姉さんは、てきぱきと、色々話しながら、手続きをしています。
私は、ただ、呆然と見るしかできません。
少しは勉強したとは言っても、まだ、お姉さんたちに並ぶことはできません。
「はい、手続き終わったよ。キャロ。行くよ」
「は、はい」
図書館の扉は、ギルドの門の、数十倍は重そうです。
こんな扉、いったい、だれが……
「ほら、入るよ?」
ぎぃ。っと。
お姉さんは片手で扉を開きます。
……一体、お姉さんはどれだけ力があるんでしょうか。
筋肉、とか、そんなについていなさそうなのに。
「ん、とりあえず、これが、初級の棚」
目の前には、大きな本棚。
本棚にはぎっしりと詰められた本がいっぱいになっています。
「え、えっと、どれを読めば」
「んー?わかるはずだよ?」
わかる、はず・・・・・?
なんで、でしょうか?
もしかして、文字を読んで、ということでしょうか?
……。
いえ、違います。
よく見ると、背表紙が、光っているものと、そうでないものが。
その光も、一つ一つ、明かりの大きさが違います。
炎……。少し光っています。
風。これも、少しだけ光っています。
水。……これは、そのままです。
土と書かれているものも、光がありません。
指で、つらつらと、棚の端から端まで、ゆっくりと、なぞっていきます。
そして、70ほどの背表紙を指でこすり、ようやく、見つけました。
「えっと、お姉さん。これが、一番【光って】みえました」
「ん。そっか、キャロには光って見えるんだね」
……?もしかして、別な見え方をするのでしょうか。
「そんなに不思議な顔しなくて、ちゃんと教えるって。
できない人はいないけど、魔法には得意、不得意、出来不出来はあるっていったでしょ。
それを見分けるのが、この棚の役割の一つ。まぁ、正確には背表紙に意味があるんだけれど」
指先を添わしながら、お姉さんは本を一つ取り出す。
「例えば、私には、この本は、全く、暗いまま。だから、この魔法は使えない。私の場合は、適正にあった本は、歪んで見える。私の得意魔法の影響なんだろうねぇ。そして、キャロのは」
「…はい。私の魔法は」
雷光。
私の手に持っていた本には、そう書かれていました。