朝とお話
暗い暗い、闇の中。
大きな掌が、上からふってきて、私の体を、投げ捨てる。
暗い、地べたに、うつ伏せで倒れたまま、うごけない。
いたい、いたい、いたい。たすけて。
そう叫びたいのに、声が出ない。
動けない。
助けて、だれか、私、ここにいるのに。
誰も・・・・・。
「おかあ。さん」
ぽつり、と漏れた声に、口元をふわり、と柔らかなものが覆った。
暖かい日差しが差し始めるころ。
私の意識は、柔らかな感触と、髪をなでるエヴァの姉さんの手の感覚で、目を覚まします。
「あ、起きた?大丈夫?震えていたけど」
心配した顔で、お姉さんは私の顔を覗き込んでいる。
寝言、もしかして聞こえてたかな?
「大丈夫。何が来ても、お姉さんが守ってあげるから、ね?」
ぎゅうと、優しく抱きしめられ、頭を撫でられる。
お姉さんは、本当におかしいくらいに優しい。
昨日会ったばかりなのに、こんなに。
「……」
私が黙って、ぎゅうっとしばらくされていると、おなかが、くー、と、鳴いてしまいます。
お姉さんはそれを聞くと、少しふきだしてから、笑って、朝ごはんを作ってくれます。
昨日のお昼ご飯とはまた違う。
けれど、シンプル?らしいものです。
もぐもぐと、食べると、とてもおいしく温かいです。
「さて、今日の予定のおさらいだね。まず、服やでちゃんとした服を買う。そのあと、冒険者ギルドに行ってキャロの登録を済ませる。この時は、私と別行動になるけど、すぐに合流するから。できる?」
分かれる、と聞いて少し不安になりましたが、お姉さんは私の表情をみて、すぐに補足してくれました。
小さな子が不安がらないように。なので、私はこくり、と小さくうなずきます。
「うん、大丈夫だね。それで、そのあと、色々な日用品をそろえる。流石に一緒に暮らすのにお客様用をいつまでも使うわけにはいかないしね。
寝床は宿が狭いからさすがにベッドとか置けないけれど、……二人で寝れるから、大丈夫だよね」
これにも、こくり、とうなずきます。
むしろ、きっと、明日からは別っといわれたら、情けないですけど、泣いてしまいそうな気がします。
昨日の暖かさは本当に、あったかかったんです。
もし、急に離されたら、ショックで、凍え死んでしまうかもしれません。
「それが終わったら荷物を置いて、ご飯の材料を買って、文字の勉強をしようか」
「べ、勉強・・・・・」
「うん、初めて?」
文字の初めてです。ものを教えてもらうことはあったけど、それは、あくまで肉体労働。
きっと、こっちで、上手く使うことは難しそうです。
「まずは文字の基礎。そして、読み。次に、書き。それが、ある程度できたら、武器を買う。これは、武器屋の人に適性を見てもらってからだけど」
「なんで、武器のほうがあと、なんですか?」
「んー。いろいろと教えるのに身体だけ使うわけじゃないからね。本からもいろいろ学んでもらわないといけないし。
魔法とか覚えるのにもやっぱり文字がないとできないから。ある程度、ゆっくりと、だけど、しっかりできることは増やしてもらわないといけないからね」
「魔法って、冒険者ならだれでも使えるもの、なんですか?」
「そうだね、得意不得意の差は大きいけど成功してる冒険者の、9割が使えるよ。逆に、失敗してる冒険者の8割は魔法を使えない。
魔法は、才能によるところがあるにはあるけれど、それでも基本魔法は、よっぽどのことがない限り誰にでもできるからね。っていっても、私は苦手なんだけれどね。
私が昨日武器を出したのもちょっと違うけれど基礎魔法みたいなものよ、冒険者なら苦手でもある程度は使えないと困る魔法だからね」
「なるほど……。ちなみに、何で必須なんですか?」
「んー、そうだね、例えば、キャロちゃん。冒険者の依頼って、大まかに分けていくつくらい種類があると思う?」
種類・・・・・?
昨日までの私は、モンスターを倒す、くらいにしか思っていませんでしたけれど。
護衛、採取なんかもするって言ってましたから……。
「えっと、4つ、くらいですか?」
「そうだね。大まかに分ければ。討伐、護衛、採取、探索。これが主な依頼かな。特化してたら、そういうので講師とかすることもあるけど、そういうのは正確には冒険者の仕事じゃないからね」
や、やった!あたりました!
「さて、じゃあ、採取依頼を、キャロが受けたとする。そして、依頼が重たいものだと、運ぶの、大変でしょう?」
「あ、だから収納の魔法を覚えるんですね!」
「そういうこと。本人の技量にもよるけれど、普通に自分が持てる量、二倍くらいならもてるからね。まぁ、だから、体を動かしながら、魔法を覚えていこうか。
討伐の依頼は、収納を覚えてからね。採取の依頼じゃなくても、魔物の素材は高く売れるから」
「そうなんですか・・・・・?ちなみに、お姉さんはどのくらい持てるんですか?」
「私……。んー、どうだろう、一般の数倍、くらいかな?」
……お姉さんを目標にすると背中が遠そうです。
「さて、それじゃあ、お買い物いこっか?」
「は、はい!」
私は残っていたホットサンドをパクパクと口の納めるのでした。
街に出ると太陽が私たちを照らします。
今日は晴れ。
買い物日和、というやつなのでしょうか。
来たときは不安でいっぱいでしたが、今見ると、とても活気のある街です。
大きな石造りの建物が立ち並んで、人があふれています。
「最初は服、でしたよね?」
「うん、そう。そこで色々採寸とかもするからだいたい、2時間かな。服は、全部で5着くらいかな。
それ以上はお金がたまってから、ね?」
「はい!」
5着なんて、十分すぎます。
今迄、2着しかありませんでしたし。
片方は擦り切れてお姉さんに、聞かれて捨てられてしまいました……。
「下着は、上はつけてなかったよね?」
「え、えっと、まだ、です」
そういわれると少し恥ずかしい・・・・・。
「そう、じゃあ、おっきくなってからでいいね」
なるのでしょうか……。と思うと、頭をまた、撫でてくれます。
「大丈夫、ちゃんと大きくなるよ。私だって、キャロちゃんくらいの時は今より、もっと小さかったんだから。」
「は、はい、諦めてはだめですよね!」
お姉さんにも、そういう時期があったんですね、それは、希望が持てます。
結局服選びは、服の買い物をしたことのなかった、私にはよくわからず、お姉さんに言われたとおりにする、きせかえ人形にされてしまいました。
……買ってもらった服もかわいらしくて、とても、楽しかったです。
さて、次は、いよいよ、冒険者ギルドです