敗北の後
腰が抜けて動けないままに修業が終わってしまいました。そして、そのまま、お姉さんにおんぶされています。
「キャロ。どうだった?」
「はへ?」
「……初めて、魔物に殺されかけて」
・・・・・そうです。
私は、殺されかけたんでした。
「え、っと、キャロ?大丈夫?」
「あ、は、はい!」
実際のところ・・・・・。
「……お姉さんの魔法に驚いて、怖くは、なかったです」
驚いた、というのも、正しくない。
目を奪われた。
「すごく、綺麗な魔法でした」
一瞬だけ、白い光みたいなものが見えました。
たぶん、あれ自体には、破壊とか、そういう力はありません。
「……あれはね、私の魔法の特性を最大まで引き出したものなんだよ」
魔法の特性・・・・・。
お姉さんは、たしか、基本属性の魔法を使えない、って、いってて。
「空間魔法。他の大勢の人が使える魔法が、私の魔法だよ。けれど、他の大勢の人には私の魔法は使えない」
「お姉さま?いいのですか?」
なにか心配なのか、そう、お姉さんを見上げながら、アリスちゃんは問います。
「大丈夫。どうせ修行のうちに教えるつもりだったしね?さて、空間魔法。っていうのは、前に教えたよね?こういうの」
そういうと、何もない空間から、水筒を取り出すお姉さん。
たしか、はじめのころに言っていた……。
「うん。一人前の冒険者ならみんな使えるっていう。空間魔法の一つ、収納。これは誰でも覚えられる。でも、普通は、他に空間魔法は覚えられない。空間魔法は、他の魔法と違うからね」
「さっきの、魔法は?」
「あれは、応用なんだ、本当は、別の地点と別の地点をつなげる魔法。それを利用して魔力を加速させて、銃弾の速度を高めて。こっちが本当のほうでね?弾丸に乗せられたのが、空間ごと周囲を捩じ切る。だから、消えたようにみえたんだ。圧縮、って言ってもいいかもね」
「……もしかして、其れかなり危ない魔法なんじゃないですか?」
「危ないですわよ。実際。基本的に防御ができない魔法ですから。魔物であれ、人であれ、当たれば即死を地でいきますわ」
当たれば即死・・・・・。
「もっとも、コントロールが難しくて、大変だけどね」
あ、やっぱりそうなんですね。
「勘違いしてはいけませんはキャロお姉さま。この、コントロールが難しいは、高い方向ですから。
無駄な殺傷力を落として、必要なだけな火力にするのが難しいというだけですわ」
「・・・・・どれだけ、なんですか?」
ちょっと興味がわきます。
「お姉さまが、冒険に出たころ。魔力を思いっきりこめて銃を撃った結果、この国にあった、一番高い山の名前が変わりました」
「……?」
「つまり、山一つが消し飛んだせいで、順位が変動しました。・・・・・二番目に高い山も消し飛んでしまったので、3番目が一番高い山になりましたが」
「や、山ですか……?」
「あの頃は、……教えてくれた人が思いっきりこめてみろって言ったからね。まぁ、それ以降は制御に苦心したけれど」
……なんだか知らない話を楽し気にされると、……。寂しくなります。
「……どうしたの?」
「あ、え?えっと、な、何でもないですよ?」
「うで、力入ってたよ?寂しかった?」
……ばれてました。
「……そうだね。仲間外れはよくないよね・・・・・うん、今日は一緒に寝ようか」
「な、なんでそうなるんですか!」
「独りぼっちは寂しいだろうからね、・・・・・だから、今日はゆっくり話そう?明日は修行はお休みにして、ね?」
優しい声で、お姉さんはそういってくれます。
「あ、アリスはダメだよ?」
「そ、そんな!」
「だって、胸揉んでくるでしょ?今日は一人で寝なさい」
……私もたまに触っているので深く突っ込めません。
「キャロはもっと、甘えなさい。小さな子供なんだから大人を頼ればいいからね?」
そう、ゆっくりと頭を撫でられます。
……今日の夜が、楽しみになってしまいました。
・・・・・怖さは、もう、なくなっていました。