実戦あるのみ
武器のことは、とにかく使い慣れることを前提に実戦をということで。
まずは振るうこと。
雷を纏わせて、切りつける。
「・・・・・一番使いやすいのを、選んだ、つもりなのに……」
それでも、100も振る前に腕が疲れてしまいます。
「そもそも体ができていませんからね。お姉さま。食事の改善でお肉も少しはついてきましたけれど、私と同じくらいのぷにっぷにさですわ」
「いや……アリスちゃんはぷにぷにじゃないです」
実際、触ってみると、間違いなく、成人前の体つきではありません。
無駄な肉がない、というのは、私と同じかもしれませんが、飢餓のせいでガリガリな私と、鍛えた結果、無駄なお肉がないアリスちゃんでは、大きな違いです。
……お姉さんはむしろ、無駄なお肉がいっぱい胸についていますが・・・・・。邪魔にならないんでしょうか。
「寧ろお姉さまの肉付きはあれはあれで一つ極めていますから……」
「そういうもの?」
「抱き着いて寝るときとか溜まりませんわよ?」
たしかに・・・・・。
あの肉付きがなくなるなんてとんでもないのです。
「そういえば、キャロお姉さま。ショートソードを選んだということは、盾使いになるおつもりですか?」
「うーん。そこは、まだ。お姉さん曰く、まだ、体格にも問題があるから、ってことだから。
それは、アリスちゃんやお姉さんと組むなら、……盾。っていう選択肢は大きくありだと思うけれど」
お姉さんは、接近戦もこなせる。
だろうけれど、アリスちゃんは純粋な後衛だし、二人とも狙いを定めるタイプのはず。
なら、盾役。というのも選択肢の一つとしては、間違いなく、あり。のはずなのですが。
「……キャロお姉さまじゃ流石に頼りないですの」
「……そうですよね」
やはりここも、体格、というのが、問題になってくる。
今の私だと、魔物の攻撃を受けると、吹き飛んでしまう。
しっかりふせげても、その場に貼り付けにする技術がまだない。
「電撃系統を極めていけば相手の行動を停止させるものもあるにはありますが。……それは、盾役よりもむしろ後衛の方が使うことが多いですし」
「まぁ、だから、……いろいろ試す、以外に道はないです」
お姉さんに言われた、200の素振りを終えて、魔力の消費が。ちょうど半分。
戦闘を行えば、ちょうど空っぽになるくらいまで、消耗しました。
日の暮れ加減からみて、時間は、昼を少し回ったところ。
「ほら、ご飯食べたら、一戦いっておいで?今日の指定は、動物種の、ビッグピッグ。まぁ、大型のブタ。だよ。これは、魔力を籠めなくても、姿が残るから、今日の夕飯になる」
魔物の中にも、食べられるものがいるそうです。
飛竜なども、熟練の冒険者からすれば、弱ければ食材として扱われる程。
「ビッグピッグは、その名前の通り、ですわね。一般家庭にも、ごく普通に流通する程度には、おいしいですし、数もいますわ」
「ナイフじゃ少し厳しかっただろうけど、ショートソードくらいの間合いなら、見ながら戦えると思うからね」
間合い、どれくらい変わってるんでしょうか。
素振りで、少し距離感が離れたのは自覚出来ましたが。
「まぁ、そこは場数を踏めばよくわかるよ。実際のリーチ。なんて、感覚が8割だしね。危なくなったら私がちゃんと助けるから。頑張っておいで」
不安そうな顔をしていたからか、慰めるようにぽん。と、お姉さんの手が頭に触れます。
「はい!」
えぇ、今は。これが支え。
大丈夫です。
頑張れます。
冒険者の仕事は、索敵。
これが一番です。
相手を先に見つける、ということは、それだけで有利をとれるのですから。
幸い、相手はその名前の通りに、大きな体でした。
隠れる知能がない……というより、その大柄さゆえに隠れる場所がないといったほうが正しいのでしょう。
草原の真ん中をのしのしと歩いていました。
その大きさは、軽く牛を越え、昔に聞いた、カバという動物に近い大きさです。
「これなら、楽……じゃないでしょうね」
「えぇ、ビッグピッグの脚は人間では、追い抜かれてしまいます」
となると、正面から、ただ戦いを挑む、というのはだめでしょう。
私では攻撃が届かなくなってしまいますし、アリスちゃんでは無防備になってしまいます。
「罠……ですか?」
「いえ、もっと、単純に、足から狙って弱らせましょう。キャロお姉さまは、石に雷撃を籠めれば多少は。ある程度弱ったところを、接近戦を挑めばいいかと。機動力の基本は足、ですもの」
・・・・たしかに、前回の戦いも同じ戦法でした。
「とにかく、私が最初に削るので、とどめはお願いします。矢だけでは、足にとどめを刺すのは難しいですので」
そういうと、アリスちゃんは、小さな体を屈めて、狙いすませる狙撃地点まで移動する。
・・・・・私は別のルートで、近付いて、弱ったところを狙える位置に移動する。
相手は早いって言っていたから、距離を測るのは難しい。だから、大まかな位置で動きやすいところにこっそりと、移動する。
「・・・・・『フレイムアロー!』」
初撃は、見事にビッグピッグの足に突き刺さります。
でも、まだ、ビッグピッグの脚は健在。
アリスちゃんとは、逆の方向。私のほうへと走ってきます。
アリスちゃんを一瞬視界にとらえると、まだ、二発目の射撃準備は整っていません。
では、私はどうするか。
・・・・・答えは簡単でした。
あの体、足のダメージはそこそこです。
つまり、今、怪我している部分に攻撃を当てれば、転倒するはず。
そうなれば、アリスちゃんの攻撃を何度も当てれます。
「・……『ライトニング!』」
短剣に、力を込めて、雷撃を纏わせます。
ビッグピッグも気が付いたのか、此方に走ってきます。
地鳴とともに走ってくる巨体。
足に攻撃・・・・・。
ガキン、と音がして、剣が吹き飛ばされます。
肉じゃなくて骨に、はじかれ。
そうです。私が今日使っていたのはナイフじゃなくて、ショートソード。
間合いは、いつもより、遠い。
目の前には、ブタの脚が迫って……
「『ライフリング・シュート』」
それが、目の前で消え去りました。
「今日の修行はここまで。よく頑張ったね二人とも」
いつの間にか、後ろにいたお姉さんに、抱き上げられていました。
そして、初めて、今日の失敗を、ようやく、理解できたのでした。