初戦闘
「……よし、じゃあ、戦闘、行ってみようか」
「へ?」
ライトニングの修行を初めて、一月。
既にナイフは、20本だめにしたところで、お姉さんから声がかかりました。
「ま、まってください!?ま、まだ、完璧にできては……」
今も、ナイフは、半分以上溶解して、とても戦えるような状態じゃあないです。
「ん?私は今は完ぺきを求めてないよ。それに、戦うのは一戦だけ。
今迄の練習で、間違いなく、キャロは進歩してるよ。まず、刀身を破損させるのは、最初のうちは、1日に2本。でも、今日のそれは、3日間耐えた。十分以上の戦果だよ」
改めて、手元のナイフを見ます。
まだ、ナイフの形を保っています。色も、くすんではいますが、ほとんどそのままです。
「キャロおねえ様。自信を持ってくださいまし。……。正直一番低いレベルの装備とはいえ、殆ど初期の魔法でここまでドロドロに溶かす魔力量は相当ですわよ」
そうなのでしょうか……?
「まぁ、とりあえず、最初の魔物を倒すエリアを指定するよ?いいかい?二人とも」
そういいながら、地図の、ここから、
「わ、わたくしもですか!?」
「当然。キャロと一緒の進行速度。って、いったでしょう?それとも、ここで……」
少し、泣きそうな声で、弱音を吐こうとするアリスちゃんに、エヴァさんは追撃のように、いいます。
「うぅ……分かりましたぁ……。ですが、そのエリアの魔物は確か」
「ん。二人に倒してもらうのは、ソルジャー。っていう魔物だよ」
「そ、ソルジャーさん、ですか?」
戦士さん・・・・なのでしょうか?
「うん、正確には、モンスターソルジャー。2足歩行の、人型。身長は大体、私より、ちょっと、高いくらい。だいたい、200cmくらいかな?魔物としては、最下位種の人型の敵だよ」
200㎝……。
かなり大きいです……。
「戦い方は自由。今日から、毎日、戦ってもらうよ。武器は壊れたら言って。危なくなったら、助けるから。がんばってね」
そういって、お姉さんは座り込んでしまいます……。
って、
「つ、ついてきてくれないんですか?」
「当然。二人は協力してもいいし、別々でやってもいいよ。だいじょうぶ。ちゃんと見てるから。ご飯もつくってるから、行っておいで」
そういうと、お姉さんは、本当におひるごはんの準備を始めてしまいました。
「行きましょう?キャロお姉さま。大丈夫です。お姉さまがそう言っているということは本当に、見えていますから」
「……はい。そうですね」
少し不安ですが、私たちは二人で、指定された方角へ走ります。
「……居ましたわね」
「はい」
物陰から、ひそひそと、二人で指定されたモンスター。ソルジャーを観察する。
お姉さんの言っていた通り、背丈は、人よりも一回り大きく。
何より違ったのは、装備です。
「腰蓑1枚に、継ぎはぎの皮。それと、こん棒」
「蛮族みたいな装備ですわね」
ちゃんとした、人が装備しているようなものではなさそうだ、というのが、目に見えます。
そして、顔つきも、ひどく歪んでいて、うー……と、低い声でうなっています。
そして、何より、この距離でも、皮膚にビリビリと、何かを感じます。
「モンスターエフェクトですわ。魔物であればすべて、発していますから。皮膚で感じ取れます。
中には難しい人もいるようですが、キャロお姉さまも、大丈夫そうですわね」
そういうと、アリスちゃんは、弓を取り出します。
「お姉さまは前衛を。わたくしは、後ろから援護いたします」
「うん。任せて」
年下の女の子に前を張らせるわけにはいきません。
「先手は、わたくしが。膝を狙いますので、崩れたところを、ナイフで頭部を」
こくり、とうなずいて、私は走り出します。
「……フレイムアロー」
一射。
引き絞られた矢は、ソルジャーの、膝を射抜き、燃え盛る矢は、パチパチと、膝を燃え上がらせます。
痛みからか、もしかしたら、炎で膝そのものが焼き付いたからか、その場から動くこともできずに、膝から
崩れ落ちます。嫌な声が、響きます。
「ライトニング!」
ナイフの刃渡りに加え、+20cmほどの雷光の刃を形成します。
もう、一月前の焦げる匂いはしません。
「いっけぇ!」
ビュン、と、私の刃は、相手の胸元に、突き立てられます。
一瞬、体をしびれさせたのを確認して、ナイフを、引き抜き、1度、2度、3度。
雷光の力を、高めながら、なんども、なんども切り裂きます。
「……!ライトニング……!」
最後の一撃を、胸元に突き立て、電撃を、全身に流すと、相手の体は、焦げ付いた臭いと、ドロドロと、溶けだした肉。
「倒れましたわ!キャロお姉さま!首だけ切り取って逃げ出しましょう!」
「は、はい!」
雷光を纏わせたまま、ナイフで、首を引き裂いて、逃げ出します。
ナイフの刀身は、歪むことなく、健在でした。
「……見ていてくれましたか、ね?」
「えぇ!絶対見てくれてました!褒められに行きましょう!キャロお姉さま!」
「……うん!」
とにかく、初の成果を、お姉さんに見せるために、私たちは、来た道を走って戻るのでした。