妹弟子
「で、何で来たんだい?アリス」
あの後、普段使う部屋とは別の、宿屋のおじさんが普段いるカウンターの地下に通されました。
部屋は密閉されて、音が外に漏れず、いまならわかりますが、体の中の魔力が乱されているのを感じます。
つまり、密談のためのお部屋に通されました。
「言っておくけど、私はあの場所には帰らないぞ。家族の縁だって一方的で悪いけれど切ったし。そもそも、今迄援助すら断ってるんだ。できれば干渉も避けてほしいんだけど。」
「ちがいます!お姉さまを連れ戻しに。ではありません。それは、たしかにお姉さまが帰ってくれるなら一番うれしいですが」
お姫様‥‥‥。アリスちゃんは、お姉さんをまっすぐに見ています。
その青い双眼はまっすぐに、お姉さんを捕えて、自分の意思を通すという強い気概を感じます。
「私は冒険者になろうとおもって、……お姉さまの指導を受けようと」
言おうとして、ちらちら、と此方を見てくる、アリスちゃん。
「……なんで既に指導してらっしゃるんですか!くぅ……お父様の説得に一か月もかからなければ……」
「一か月前なら丁度、キャロが来た時だからね……。それに、どっちにしても、アリスに私の指導は必要はないだろう?」
「そ、そんなことは……!」
「ある。君のスキルは、万能の魔力。特殊な一部を除いた魔法を覚えるのに適した魔力を持っていて、どんなスクロールさえも君に苦痛を与えられない」
あの痛みをなしに‥‥‥スクロールを読める力‥・・・・・。
つまり、彼女はすべての魔法を……。
「……そんな都合のいいものじゃありませんわ。キャロ様」
「え?!あ、ご、ごめんなさい!」
「いいんです。魔力の苦痛をしらない、魔法を100%使える。それは間違いないですが。私の魔力量は、そこまで、多くないですわ。それに、お姉さまが言っているのは大げさです。私のスキルは、原初の五。正確には使える属性が組み合わせも含めてとても多いというだけですわ」
それだけでも、私からはすごいと思うんですけれど。
「えっと、なんで、教えてあげないんですか?」
「……まず第一に、キャロ、君のこと。君がまだ半人前どころかスタートに立ってすらいないのに、二人も面倒みれない。時間が足りないし何より、私だって師匠としては初めてなんだから」
そ、そうですけれど……。
「で、第2。単純に、アリスを相手にする先生なら探せばいくらでもいいから。スキルで属性魔法が一切使えない私は、間違いなく不適格だよ。少なくとも、5大属性を使える人が適格だよ。それこそ、コネなんて王の力で、余裕でしょう?」
「うぅ……それは、そうですけど……」
どんどん、最初の威勢のよさがどこかへ消えたのかしゅんっとしてしまっています。。
「最後に、君の技量は既に、私が最後に見た3年前の時点で冒険者の中に入っていけるくらいの実力はあったはず。なんで今更私のところに来たの?」
「そ、それは……お姉さまが!3年間も!冒険都市【テラ・バース】のほうで活動してたからですわ!お父様からこの都市から出るなって言われてて……」
テラ・バース……。
たしか、文字の勉強した時に、冒険者の都市の‥‥‥一番、危険度の高いって言われてるところですけれど。
三年前から、そんなところに・・・・・?
「……はぁ。まぁいいや。アリス。君の弟子入りを認める」
「ほ、ほんとうですか!?」
顔に輝きが戻るアリスちゃん
「ただし!条件があるよ……」
「な、なんですか!」
「一つ。住むのはここ。一人前として認めるまでは生活水準はキャロと同じ。
お小遣い上げるからそれでやりくりすること」
お、お姫様と一緒に、・・・・・!?
「二つ。進行度は、君がどれだけ上でも、キャロを優先させる。自主トレーニング用のメニューは渡すけど、魔物を倒したりとかは、キャロがそこに届くまで禁止」
「そ、それは迷惑じゃ」
「だめ、あくまで優先順位はキャロ。いいね?」
嫌だ、というかとおもうと、こくり、と。あっさりとうなずきます。
「そこまで子供じゃありませんの」
「まだ9歳でしょうが」
「きゅ、九歳!?」
そんな小さな子が・・・・・。
「何言ってるんですか。貴女も同じくらいでしょう?」
「え、わ、私は」
あぁ、ですが、見た目も、修行する内容も同じ、なら、歳なんて。関係ありませんよね。
「えっと、大丈夫です。よろしくお願いしますね・・・・・?アリスちゃん」
「・・・・・はい、よろしくお願いしますわ。キャロお姉さま」
お、お姫様の、お姉さま。
……。
「あ、そ、そういえば、お姉さん。アリスちゃんのお姉さまってことは、お姉さんも、その、お姫様、なんですか?」
「ん……。いや、私は」
「当然ですわ!お姉さまは王位継承に最も近いとされる現王と同系統のスキルくう」
「アリス……。余計な危険に巻き込むから、ダメ」
お姉さんは、今まで見たこともない顔と、聞いたことのない低い声で、アリスちゃんに注意します。
……。いえ、その冷たさはもう、脅し。とさえいえるような低さでした。
「……すみません。ですが、この都市は、そもそも、実力で王を選定いたしますわ。ですので、王の娘が姫。というわけではありませんの。そもそも、王というのも、いわゆる国王などではなく、冒険都市を守る、最強の壁。という意味ですし」
最強の壁……。
「冒険者なら、目指す一つの道ですわ。わたくしも、目指しています」
「とりあえず、今後のことはもう少し詰めて話さないと、だけれど、今日はもう、ご飯食べてお風呂入ってねるよ。ほら、先に上がって」
「分かりました!ほら、行きますわよ!キャロさん!案内してください」
「え、は、はい!」
掴まれた小さな手に引っ張られて、私たちは部屋に戻ります。
お姉さんは、小さくため息をついていました。