出会い
私はキャロ。
今年、成人を迎えてついに!憧れの冒険都市にやってきたのだ。
……のは、いいけれど……。
「ここどこなのぉ」
涙目になりながら、弱音を吐いてしまう。
そう、道に迷ってしまったのだ。
田舎から出てきたばかりの村娘には、この冒険都市【メガロ】は大きすぎた。
そして、かつてない人ごみがそれをさらに助長させた。
「うぅ、せめて、今いる場所さえわかれば、村長さんが教えてくれた宿までたどり着けるんだけれど」
きょろ、きょろ、と周囲を見回しても、周りの人の胸の辺りしか見えません。
私の身長。……成人しても138㎝しかない、体では、碌に身動きも取れないのです。
「うぅ……きゃ!?」
そうして、狼狽えていると、大きな体にぶつかりました。
「っと、ごめんね。見えなかった。だいじょうぶ?」
優しく声をかけてくれる、とっさに、大丈夫、と返事をしたかったのに。
「いたた・・・・」
なんとも情けないです。
人にぶつかって、こけて、ひざを擦りむいただけなのに、目に涙が浮かびます。
謝罪の言葉も、返せないなんて。情けなくて、頬に熱いものが、伝うのを感じます。
それでも、何とか、ぶつかった相手のほうを見ようと、頭を上げます。
「あぁ・・・ちょっと、怪我しちゃったみたいだね。しかたないや、ちょっと我慢してね?」
長い黒髪の、優しそうな黒い目。ちんちくりんな私と違って、背も胸も、すっごく大きくて私なんかそのおっきな胸の下に収まっちゃうくらいの綺麗なひと。
私が小さくて、泣いちゃったせいで、子供を泣かせてしまったのかと思ったのか、私の頭を軽く撫でながら、優しい声をかけてくれる。
元はといえば、私が急に飛び出たせいなのに。
「んー、軽いけがみたいだけど、手当しないとね。ごめんけど、お姉さんと一緒に来てもらうよ」
そういうと、私をお姫様だっこして、私の荷物を軽々と肩にかけると、お姉さんは、足早に、道を進んでいく。
お姉さんの腕の中から見る景色は、とても早く、とても高く見えました。
「……よし。これで終わりだよ。よく我慢したね。偉かったよ」
優しく、ぽんぽんと、私の小さな頭を暖かくて大きな手が撫でてくれる。
まるで小さな子に。
いいえ、お姉さんから見れば、それこそ、転んでひざを擦りむいて泣いていた、50㎝以上小さそうな私は、まさに小さな子供です。
「あ、そ、その、えっと、手当てしてくれて、あり」
お礼を言おうとしたのに、それを上から、くー、と、私のおなかの音がかき消してしまう。
顔がぼぉっと、熱くなるのを感じる。
お姉さんは、くすくすと笑って、もう一度私の頭をなで、しゃがんで、出来るだけ目線を合わせてくれる。
「少し作るから、其処です座って、まっててくれるかな?」
綺麗な黒い瞳が、私の目を見ていて。
おなかがならないように抑えながら、うつむいてうなずくしかできなかった。
まるで、ほんとうに、子供みたいに。
「お待たせ。ごめんね。ちょっと食材切らしてて。こんなものだけど」
備え付けのキッチンで作ったと思う、其れは、即席で作ったと思われるサンドイッチ。
だけど、しっかりパンは焼かれて、具材もしっかりと、卵や、お肉、野菜が使われていて。
まさにお昼時に食べるには丁度いい、ランチセット。
つかわれてるお皿もきれいで、おしゃれなもの。
「……外食みたいです」
「あはは。おほめにあずかり光栄。といっても、これくらいなら、ある程度稼いでたら買えるものだよ」
小さな机をもってきて、私とお姉さんの間におく。
「ほら、食べよっか。おなかのむしがないちゃわないうちにね」
「は、はい//////」
顔を赤く染めながら食べるサンドイッチはとてもおいしかった。
野菜も、村で食べるものと同じくらい。
……ううん。それ以上に新鮮な。シャキシャキとしたレタスの歯ごたえ。
分厚く切られたお肉が、しっかり焼かれていて、口の中でじゅわっと、肉汁が染み出てくる。
「ん~♡」
「ふふ、本当に、おなか減ってたんだねぇ」
「はい!でも、それ以上に、お姉さんのサンドイッチおいしくて」
興奮が抑えられない。
「だって、こけたのを手当てしてもらっただけじゃなくて、ご飯までごちそうになって……」
「大したことじゃあないさ。それに、小さな子をなかせたままっていうのも、冒険者として名折れだしね」
「え?お、お姉さんも冒険者なんですか?」
「ん、そうだよ。ほら」
虚空から取り出したのは、お姉さんと同じくらいの大きさのとても大きな長銃。
魔力を収束した強力な一撃を、敵の弱点にピンポイントで射抜いたり。高レベルの銃士になれば、広範囲の敵を、まるで大量の矢を放つほどの広範囲をせん滅できる。
さっきどこからか取り出したのも、その魔法の一つだ。
「お姉さんすごいベテランの冒険者さんなんですね!」
「ん、まぁ、そりゃあ、数年やってるけど」
「すごいです!」
「っと」
思わず抱き着いてしまう。
「こら、もう、どうしたの?」
「ご、ごめんなさい。じ、実は、私も冒険者になりにきて、宿を、探してて。それで、ここに……」
「あぁ、なるほど。そりゃ、憧れの職業の人が目の前にいたら興奮するよね」
お姉さんは、事情を聴くと、怒らずにぎゅうっと、優しく、抱きしめてくれる。
「私は、エヴァ。君の名前は?紹介されてるところとかあるなら、送るよ」
「は、はい!私は、キャロです!行先は、その、【極東の食糧庫】……ってところなんですけど」
エヴァさん。何年も済んでいるんだからきっともう、知っているんだろう。
しかし、口から出てきたのは意外な言葉。
「ん、あぁ、じゃあ、案内はいらないかな?」
「な、なんで、ですか?エヴァさん」
不思議そうに見上げると、エヴァさんは頭を撫でて安心させるように優しい声色で言う。
「だって、ここだから、ね。親父さんに話をつけに行こうか」
「あ、ありがとうございます!お願いします!」
こうして、私は、冒険者への第一の道を。
「・・・・・・すまねぇ、うちの宿、もう部屋満室なんだ」
踏み出すことはできなかったのです。