転校初日ー1
「坂上ジャクアだ」
ここがこれから俺が過ごす学び舎か…悪くない
「坂上君で~す、よろしくね~、じゃ、あそこが君の席ね~」
ミケが俺のクールな挨拶を完全に打ち消す…くそがと思いつつ指定された席に向かうと一人の生徒が急に立ち上がった。
「せんせー、こんな時期に転校してくるってことは、彼がオーモン様の子孫ですか?」
オーモンとは賢皇さまの名前らしい、この学校の名前もそれが由来と、ミケが言っていた。
先日、初めに学園にきてから数日、俺はこのクラスへの転入が決定した。
その際にあの後もいくつかこの世界のことを教えてもらったのだ。
「そんなわけないよ~、中国からの帰国子女なの~、だから皆優しくしてあげてね~」
と、いう設定らしい。どうにも俺がその存在だと知られると、いろいろと都合が悪いそうだ。俺としてはいささか残念な気分もあったが、これも選ばれしものの宿命だと納得することにした。
なあんだ、と残念そうに元気そうな男子が椅子に座る。
俺の席はコロの後ろの席だった。
「よ、これからよろしくな、コロ」
前のこともある、特に何気なくコロに挨拶をした瞬間だった。
周りが急にざわつき始めたのだ。
「朱亀さまになんて…」
「いくら海外からといっても…」
「信じられない…」
どうにも否定的な口ぶりで俺のほうを見てくる。何かそんなにいけないことをしたのだろうか…
「は~い、みんな、授業始めるよ~」
ミケのその言葉でしぶしぶ全員前を向いたが、俺は気分の悪いまま、理解のできない授業に耳を向けるのだった。
こうして無事に微妙な空気のまま転校初日を迎えるかと思った矢先、男子二人組が俺の席に近づいてきた。
「君、いくら転校生だからといって、朱亀さんにその口の利き方はないんじゃないか?」
天然パーマのいいとこそうなお坊ちゃま、それにまとわりつく舎弟のような顔立ちの二人だった。おそらく俺の推測は正しいだろう。後ろにいる間抜けそうな顔の男子がこれでもかというくらいにうなづいている。
「まさか中国にいたとはいえ、朱亀さんのことを知らないわけじゃないだろう」
ちらちらとコロを横目に、憮然とした態度でこちらを向いてくる。
「悪かったな、あまりこの世界のこともわかってないんだ。朱亀家が名家ということは知っていたが、そこまでとは思わなかったもんでよ」
俺は大人の対応を見せつけたつもりだったが、パーマはそれでも噛みついてくる。
「なんてことを!いくら朱亀家が…ああ、いや、なんでもない…まあ、そう思われても仕方ないもんねえ、朱亀さん?」
俺はパーマの態度がいまいち腑に落ちなかった。こいつはいったい何が言いたい?
「今は、この、万寿寺マンジュウジ家の万寿寺 家輝ケテルのほうがそれをしのぐ名家で、力が強いのだから、そう思われても致し方がない」
顔はこちらを向いて話してはいるが、すでにこいつの矛先はコロのようだった。後ろのマヌケは首の骨が削れるんじゃないかというほど頷いていた。
「マンジュウ?」
あまりこいつの話が耳に入ってこないのは、言葉がすべて俺ではなくコロに向かっているからだろう。聞こえてはいたが嫌悪感を感じた俺は、あえてこう聞き返してやった。
パーマはその言葉でやっと、俺の目を見て、顔をやさしく作り、
「ま・ん・じゅ・う・『ジ』・だ。君はもしや、万寿寺家のこの、万寿寺家輝ことも知らないとは言わないよね?」
こういう何の自信か知らないが、鼻の高いやつを折るのは気持ちがいい…
「饅頭がしけってるからなに?いらないよ?そんなもん」
マンジュウの顔は見る見る赤くなっていく、間抜けは動きを変えアワアワとたじろぎ始めた。
「…万寿寺家のケテルだ。今後ともよろしくな、ジャクアくん」
握手を求めてきたが、俺はそれに応じずに、
「ああ、何か用があったらね、マンジュウくん」
とつっけんどんに返した。
するとさらに顔を紅潮させながら、完全にコロの方へ顔を向ける。