他にもっとあっただろうー2
「まず初めに、坂上君、さっき君は自分で自分を誰の何だと言いましたか?」
「賢皇の子孫…だろう?」
ミケが俺の口に指をあてる。その柔らかさに俺の鼓動は高鳴った。
「いけません、必ず賢皇『さま』と呼びましょう」
「はい…」
「いい子ですね」
さっきまでとまるでキャラが違う…。
「それも少し話が違うんですけどね、とりあえず歴史の話をしましょう。」
魔法使いの歴史は賢皇さま、そして魔王の二人から始まりました。
今からおよそ六百年前のことです。それ以前から魔法の存在はもちろん語りつくされていましたが、歴史として始まったのはこの二人の存在からになります。それ以前の魔法の歴史は、古代魔術見聞学で聞いてください。
魔法の実在が確認できたのはこの二人の話からになります。
賢皇さまは生まれ、物覚えのついた時から神として崇め奉りあげられていたそうです。それは彼が生まれた時に、火を呼び、水を生み、風を吹き、土を作ったという逸話からきています。
それから彼の生誕時に使われた魔法をエレメンタルベーシック、通称ベーシック魔術と名付けられました。
周りの人々は、偉大な力をもつ彼を讃え、信仰しました。
そして彼を信仰する者の中から、その力の一部を使えるようになった人間が続々と現れはじめます。
ただ、どんな人間も賢皇さまのもつ力には全く及びもせず、そうして彼は絶対的な存在となったのです。
晩年、信者の中から一人の異なる力を持つ若者が現れました。
ベーシック魔術とは全く異なる、その人物の性質を表す魔法、通称オリジナルです。
その若者を発端に、再びその力を信じたものの中から、一部同じようなことのできる人間が現れはじめます。ただそのどれもが若者の持つ力には叶いませんでした。
若者はとても喜び、自負しました。
神は賢皇さまではなく、俺を選んだ、いや、俺自身が神である。
そうして賢皇さまと、後に魔王と呼ばれることになる者との戦いが始まったのです。
「どう?坂上君」
その話に見入っていた俺は数秒ミケの言葉に反応できなかった。
「わかりやすいです」
「何か質問は?」
「ええと…一つだけ…俺が賢皇さまの子孫なのにオリジナルの魔法を使ってるのは、どういうことなんでしょうか」
「あ、それは心配しなくていいわ。君も絶対ベーシックは使えるはずだから。オリジナルは通常、その先の話なの」
「じゃあ魔王もベーシックを使ってからオリジナルになったということ?」
「いいえ、魔王もどうやらオリジナルが先に目覚めたみたい。ただ、それで魔王の血が受け継がれているとかそんな話じゃないから、大丈夫」
俺の予想を予期しての発言だとすると、この人は名教師だ。
「ベーシックとオリジナルの話が出てくるから、同じくその違いを賢皇さまと魔王の差として見てる人もいたみたいだけど、順序や使えるか使えないかなんていうのは全く関係ないの」
「よかったあ」
何をホッとしているんだ、俺は。魔王の子孫…?もしそうでも何の問題もないじゃないか…ククク
「じゃ、最後の話ね」
そうして始まった賢皇さまと魔王の戦い、いくら強大な力をもった賢皇さまでも、若く同等の力を持った魔王に容易に勝てるわけではなかった。
組織として圧倒的だった賢皇さま派は何とか大きな戦いに勝ち、魔王派閥を退ける。
そして残る一人となった魔王は、みんなの力で退治される。
でも、賢皇さまは魔王を見捨てませんでした。彼に再生する機会を与え、和解したのです。
そんな優しく大きな力を持った賢皇さまの教えを信じ、みんな幸せになりました。
「大体こんな感じね」
「最後が急に終わったな」
「細かく史実は残ってるわ、物語としてはこうまとめられているだけ」
「だが、その話だと、魔王の子孫がどうのこうので何を心配することがあるんだ?和解したなら何の問題もないはずだろう」
「そうね…その存在より問題になっているのが今の信者なの」
前襲ってきた連中のことか…。
「賢皇さまの子孫、魔王の子孫の誕生を機に、今現代にもいる魔王派の人間がある計画をたてているという噂があるの」
「ふん…そういうことか…」
「今の魔法社会を壊す、そして現社会への介入、支配というね」
くだらん…が、それも悪くはないな…フン…。
「そのためには賢皇さまの子孫の抹殺が必須なの…彼らの力を見せつけるためにね」
まあ、そうだよね…