他にもっとあっただろうー1
[ついた…」
魔法学校、という響きに期待をしていた俺の目の前に現れたのは、都内でもトップクラスの進学校だった。
「ついたって…ここが?」
何も言わずにコロが歩いていく。
俺はついていくことしかできなかった。
私立王門学園、たしか偏差値60を超えるような秀才の集まるような高校のはずだ。こんなところに入口か何かあるのだろうか。
コロはなんの気負いもなく歩いている。ただ、確かに彼女の着ている制服はこの高校のものみたいだ。同じ制服を着た女子が校内を歩いている。
そして、たどり着いたのは職員室だった。
「ミケ先生…いますか…?」
「コロちゃ~ん」
奥から甘い声とともに女性が駆けてくる。
「よくやったね~、大丈夫だった~?」
コロに抱き着きながら頭をすりすりとこすりつける。
セミロングの赤みがかった髪の毛には緩くウェーブがかかっており、女性的な体幹にピチピチのスーツ姿はおそらく多くの生徒を惑わせているだろう。コロとはまた別の可愛らしさがある女性だった。
女性が俺のほうを向く。
「この子が?」
その言葉にコロが頷く。
「じゃあこれで…」
「ありがとうね~、今日は休んでもいいよ~」
コロが去っていく。
なんだ?俺も行ったほうがいいのだろうか。
「ちょっとお話ししよっか?」
甘い瞳に俺は首を縦に振るしかなく、職員室へと入った。
応接室のような場所に着くと、俺は座らされる。
「え~と、はじめまして~、三池といいます~」
「は、はじめまして」
「君が坂上くんだよね~?」
「は、はい」
何をビビり腐っているんだ、俺はこんなキャラではない、初めが肝心だぞ。
「コロちゃんからどこまで聞いてる~?」
「俺が賢皇とやらの子孫…というだけだ」
三池という女性は意に介さず話を続ける。
「そっか~、じゃあね、色々と説明していくからね~」
正直ありがたかった。
先日男たちを引きあがらせた後、コロからはこの高校についてくるように言われただけで特に説明という説明はされなかったのだった。彼女も言葉が上手なタイプではなかったし、俺も自分から聞こうとは思えなかった。
今日も待ち合わせをしてからここにつくまで彼女に着いてきただけで、先日のこともあまり俺のほうから話したくなるような話題ではなかった。特に彼女の前では。
「まず、坂上くんには、この学校に転校してもらいたいんだけど大丈夫かな~?」
えっ、そんな話から始まるのか…?
「この王門学園にか…?」
「うん、この学校には私たち魔法使いの通うクラスがあるの~、私はその担任なんです~。」
クラスがある…なるほど、この学校は進学校として有名だった。そんな学校自体が魔法使いをかくまう仮の姿というのもどこか胡散臭い話だと思ってはいたが、クラス単位での話なら納得ができる。
「俺はいいが…」
その言葉をいう前に気が付いた。今俺の通っている高校は世間一般的にいってとても偏差値の高い学校ではない。
俺を生んだという仮の母や父が納得のいかないわけはなかった。
それを感じ取ったように三池は俺の目を見る。
「お母さんとお父さんにはもう話して、ご納得していただいてるから問題ないよ~」
「話済み…だと…?」
俺の家から何から把握済みってわけか…俺にはあの二人と話す習慣がない、それを知らないのも当然の話だ。
「うん、だから、君がいいなら、話の続きができるね」
「いいだろう…話すがいい」
「王門学園には特待生クラスっていうのがあってね~、ここが日本で唯一の魔法使い専用のクラスなの~」
特待生クラス…悪くない響きだ。
「君にはそこに入ってもらいますね~。何か気になることはある~?」
そこで一つ間が空く。
「待て、話はそれだけか?」
「え~?そうだよ~?」
いろいろと言ってただろ!
「俺はなぜ自分が賢皇とやらの子孫なのかも、魔法使いという存在がどういうものであるかも聞いていない。そこからきちんと説明してくれ」
傍から見れば教師に向ける態度とはとても思えなかったが、彼女は何の異も介していないようだった。
「そうなの~?それもコロちゃん話してくれなかった~?」
「あ、ああ…」
「え~とね~、じゃ何から説明しようかな~」
コロはコロで話下手だったが、この女も違う意味で話の上手いほうではなさそうだ…と思ったその時だった。
彼女は応接間にあるホワイトボードに立つと表情を一変させ、突然流暢に話し始めた。
「では、魔法使いの歴史について説明していくね、質問があったら手を挙げてください」