思ってたのと違う-2
「どうしたの…?」
がやがやとうるさいような、ゆったりと静かなような、果てしなく続く拷問のような空間に、少年は参っていた。
顔は青ざめ、うなだれる様子の少年に白髪の少女が声をかける。
「ごめんなさい…さっきの痛かった…?」
少年は重い口を開く。
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ…」
「…?」
「なんでここなの?」
フターバックスコーヒー、現代社会における充実感を味わうために設置されたともいっていい、いや、そういう人種しか来てはいけないカフェーである。
「落ち着いて話がしたかったから…」
確かに店内に人は少ない。ただそれでもやはり時間帯などを考えると、普通の珈琲店に比べると席は埋まっており、わいわいしているわけでもないがどこか静かな気持ちにはなれない。
「まあいいけど…」
先ほどの高揚が嘘みたいに消えていった。
「…朱瓶コロ…」
俺は彼女が何を言っているのかわからなかった。
「名前…朱色の朱に、ビンで、アカガメ…コロ…」
「あ、ああ、名前か」
変わった名前だなと思ったが、人のことは言えなかった。
「俺はジャクア、坂上ジャクアだ」
決まった…。この自己紹介の仕方が現実でできるとは…。
「坂上くん…じゃあちょっと話聞いてもらえる…?」
「ああ、魔法のことについて、詳しく話してくれ」
「…それはまた今度…」
えっ、なんで?
と間の抜けた声が出そうになったが、ここはそんな情けない場面ではない。
「じゃあ何の話だ?」
何とか強がったセリフを絞り出す。
「あなた…坂上君に、うちの学校にきてほしい…」
学校?まさか…
「魔法学校とか、そんな学校か?」
暖かそうなカフェオレを飲みながら、彼女はこくりとうなずいた。
キター!!!
俺はまた笑みが浮かびそうになるのをこらえ、顔だちを鬱蒼に整える。
「なぜ俺が…?」
「…あなたは、600年前に伝説となった魔法使い…『賢皇』さまの子孫かもしれないの…」
伝説の魔法使い…キター!!!!
「子孫かもしれない?」
「…詳しくは調べてみないとわからない…」
少女はか細い声で、だがなぜだが聞きやすく話を続ける。
「…今、アッチの世界では『賢皇』さまと『魔王』の末裔を見つけるという指令が至る所で発令されてるの…」
魔王キター!!!!!
「来るべき魔王の子孫…の誕生に備えて、その力と同等のものをもったとされる賢皇さまの子孫を探す…それが今、魔社会からの絶対指令…」
「それで…その賢皇さまの子孫が俺だって?」
「可能性がある…」
少女は飲みかけのカフェオレに再度手を伸ばす。
「信じられないと思う…けど…」
まだわからないことだらけだが、俺はそこまで聞いて、とうとう歓喜の感情を抑えきれなくなった。
「ククク…ハハハハハハハハハハ!!」
突然大声を上げる俺に驚く少女、店内にいる人間も一斉に俺の方を見る。
「…大丈夫…?」
「ああ、いや、すまない、まさか、そんなことがあるなんて…」
「…本当の話…」
「信じるよ」
俺は、ずっと、こんなときを、こんな話を、待っていた、待ち続けていた。