転校初日ー3
俺はコロの方を見た。やはり彼女はいぶかしげな顔をして、首を横に振る。俺もあの魔法を使うことには彼女やミケの許可関係なく、抵抗があった。
「もしや、何もできないんですか?いくら目覚めたてといえども、オーモンさまの末裔、その可能性を感じたわけでしょう?まさか、朱亀家の当主ともあろうお方が、なんの証拠もなしにあなた様を見つけたとは思えないですからねえ」
こいつ、いや、ミケ以外の人間はコロの能力を知らない…?見つけることができるとはしても、その方法がわからないのか…そうでなければこんな質問は出るまい
「そうでなければ、あなたが嘘をついているか、朱亀さんがあなたに嘘をついているか、ということになりますね」
「なに?」
「ただ、転校して間もないあなたに彼女を庇うほどの関係性はおそらくないでしょう。それでも私の言うことを否定するというのは、あなた自身はその話が本当だと思っているのは事実だ。つまり…」
こいつ、意外と頭が回る…
「朱亀さんが嘘をついていることになりますねえ」
「いいだろう」
「はい?」
「見せてやるといったんだ」
クラス内がざわついている。教壇に立つ三人の男に一斉に目を向けていた。
「ただ、俺はおまえの言うようにまだ目覚めたてだ、どうなっても知らんぞ」
その言葉には少し躊躇したのか、マンジュウは顔を歪める。
「い、いいでしょう」
「それに人が相手でないとどうにも効果が表れない魔法らしい。お前にかけるしかないがいいか?」
大分ビクついている。どうせならここで断ってしまえ
「わかりました…どんな魔法で?」
「やってみればわかる」
マンジュウのつばを飲み込む音が聞こえた。俺も覚悟を決め、指先をその顔に向ける
「ダメ」
いつの間にか後ろにコロが立っていた。俺の腕をつかみ、下におろそうとする
「い、いいんですよ、朱亀さん、ここまで来たら、見てみないと収まりがききません。それとも、あなたが嘘をついていたことを認めますか?」
「見せちゃいけない…」
マンジュウを無視して俺の顔に語り掛けてくる。この女は、普段全くしゃべらないくせに、とても力のある瞳をしている。一瞬躊躇したが、収まりがきかないのは俺の方も同じことだった。
「…わかったよ、やめればいいんだろ」
こくりと頷くと、コロは自分の席に戻ろうとする。俺もそのあとに続こうとした、その時だった。
「ふん、やはり何もできないまがい物ですか、みなさん、見たでしょう、朱亀家の今の有様を、もはや、かの名家も落ちぶれたものです、ねえ、この日本の恥さらしが」
「ゲデロ!」
俺はマンジュウが話し始めた瞬間に、指をもうその顔に向けていた。言い終わるか終わらないかというところで、奴の顔めがけて呪文を放った。
ヒッ、と一声上げ、奴の体はそのまま硬直したが、その後だった。
教壇を降りたところから一、二メートルの距離、俺の指先からでた光は、それはもうゆっくりと、何秒間もかけて進んでいる。
「は、はは、なんですかこれは、こんなものが賢皇さまの子孫の魔法?ありえないでしょう」
「よけなさい!」
コロの声だった。もう触れようかというときに反射的にマンジュウは再度情けない声を出し、下にうずくまる。その後ろには…
「ボェ?」
マヌケの顔があった。そのまま光は顔にぶち当たり、マンジュウの体めがけて、腹の中の物をすべてぶっかけたのであった。