思ってたのと違う-1
月の満ちる夜、彼は今日も帰り道を歩いていた。
いつもと同じ帰り道。また彼の愛する木刀を背負い、家路をゆっくりと。
「今宵も月が綺麗だな…」
ふと後ろを振り向き、満月を眺めながら口ぶくと、その中央に黒い影が見えた。
「なんだ…?」
どんどん大きくなる影、どことなく人のようにも見える…人?
何か不安な気持ちになり、彼は前を向き歩き始めた。
ふわっ
と同時にギターを持つ少女が目の前に現れた。
白く短い髪に頬には星のタトゥー、小柄な体に丈の合わないセーターで萌え袖の可愛らしい少女だった。
特徴的な容姿とは別に、一つ不思議な部分があった。
「浮いてる…」
彼女はギターにまたがっていた。そしてその足は地面についていない。
「見つけた…」
小声で俺の顔を見ながらそう呟く。
それからやっとその白くて華奢な足が地に降り立つ。
俺は腰が抜けてしまい、その場で座り込んでしまった。
「ちょっと一緒に来て…」
少女は手を差し伸べるが、俺はわけのわからない状況に戸惑い、立ち上がり逃げ出してしまった。
「待って…」
ギターの弦が蛇のように腕や足に絡まっていく、体から頭までぐりぐりと押さえつけられ、恐怖と興奮で、俺は気を失ってしまった。
ぐいぐいと肩を揺さぶられる感覚、ゆっくりと目を開けた前に少女の顔があった。
「起きて…」
「うわああっ」
驚きのあまり遠ざかろうとすると、腕や足がうまく動かない。見ると先ほどの弦が、きつく俺の両腕両足を縛り付けていた。
そのまま彼女の顔を見ても、何も言葉を発しない。
「落ち着いた…?」
彼女の眠そうな瞳には敵意を感じなかった。というより、覇気そのものがない。
その目とその淡々とした言葉に、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「君は…いったい何…?」
たどたどしい言葉しか出てこない。が、彼女にはそれで十分だったようだ。
「ずっと君のことを探してたの…」
透明感のある幼くも美しい顔立ちの少女の言葉に、俺は頬を赤らめる。
「もしかして…魔法使い…とか…?」
彼女はゆっくりとうなずく。その瞬間、俺は歓喜と高揚する気分を抑えきれずに、笑みを浮かべてしまった。
「何かおもしろかった…?」
少女が不思議そうに顔を傾ける。
「…フハハ…笑わずにいられるかよ…」
耐え切れずに笑いだす俺を見て、ぽかんとする少女。
「信じられない…?」
「逆だ」
即答する俺に、今まで無表情だった彼女の顔が少し動く。
「嬉しいんだよ…この救いようのない世の中にで、魔法を信じていてよかったんだと…」
彼女はその言葉の意味を分かっていなかったようだが、少し上を見上げた後、小さな声で
「ならちょっと話したいことがあるの…ついてきてもらってもいい…?」
俺はニヤリと口角をゆがませながら
「いいぜ…どこへだってついていってやるよ…!」
と凄む。
その圧力に彼女は俺を縛っていた弦をほどき、前を歩き始めた。俺は後をついていき、これからどこに連れていかれるのか、期待と興奮に満ちていた。