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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第一章
7/46

第7話

大変遅れました。

今回は反乱軍視点の話です。短めですが、どうぞ。

2034.4.5

エルスタイン王国 ノルマーク平野

平野部

11:08 現地時間






 4月1日のウェルディス侯爵の宣戦布告の後、各地でエルスタイン王国中央政府に反旗を翻す武装勢力が生まれた。その多くは西部の防衛の任に就いていた正規軍や諸侯の私兵、西部の人間の有志による義勇軍である。

 3日には征伐に向かった政府軍と反乱軍がエルスタイン王国中央部で衝突。双方ともに被害を出した。


 そして今、2度目の衝突が始まっていた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 エルスタイン王国の内戦の主戦場であるノルマーク平野の上空2000mを飛ぶ航空機の一団。

 これは反乱軍に参加した西部航空団の部隊の内の軽爆撃機部隊である。書類上は攻撃機部隊であるが。

 この部隊は西部航空団所属の第5攻撃隊だ。西部航空団の攻撃隊の中でも最精鋭とされている部隊である。定数は24機プラス予備機だが、今飛んでいるのは20機未満。

 この部隊に限らず、反乱軍の部隊は大なり小なりダメージを受けていた。もちろん政府軍もである。それだけ昨日の戦闘が激しかった証左であろう。


 この第5攻撃隊の隊長であるカリストフ少佐は苦々しい気分で欠員のいる部隊を見渡した。コクピットの風防越しに見える仲間達は頼もしく思えるものの、数が減って不完全な陣形を組んでいる現状を好ましく思えるはずがない。


「……そろそろ前線が見えてくるはずだ」


 マイナス思考を振り払おうと別のことを考えるカリストフ少佐。部下の前では絶対に見せることはないが、精鋭部隊の隊長たるカリストフ少佐とて不安な時はあるのだ。ただ、それを部下に知られてしまって気を遣われるようでは隊長として三流もいいところだ。少なくとも三流ではないと自認しているカリストフ少佐は、悟られないようにしていた。


 この攻撃隊の使っている機体は『エルヴェス』軽爆撃機だ。最高速度400km程度の固定脚軽爆撃機で、爆撃機というカテゴリの機体にしては軽快な運動性能を誇る機体だ。エルスタイン王国軍の最新鋭機であり、東部に比べて装備の更新が遅い西部の部隊が主軸である反乱軍には、この機体を運用する部隊はここの部隊しかない。

 武装は翼内に7㎜機銃が2挺、後部銃座の7㎜機銃が1挺。それに加えて最大400kgの航空爆弾である。


「……見えてきた」


 カリストフ少佐の視線の先には黒煙がいくらか立ち上る戦場があった。陸戦部隊の戦闘は再び熾烈化しているようだ。


「……急がねば。……っ!?」


 カリストフ少佐の機体のすぐ近くで爆発。対空砲火だ。もう敵が近い。

 カリストフ少佐は機体の高度を下げる。緩降下爆撃の体勢に入ったのだ。部下達の機体も緩降下に入る。

 敵陣に近づくにつれて、敵の対空砲火は熾烈化してくる。この対空砲火を掻い潜る時の恐怖はいつになっても消えることはないとカリストフ少佐は思った。

 もちろん、全機が無事に対空砲火を潜り抜けられるわけではない。1機に対空砲弾が直撃し、その機体は派手に吹き飛んだ。主翼や胴体フレーム、様々な機体の残骸が散らばり、燃料に引火して炎上。無数のパーツと火の玉となって地に降り注ぐ。

 別の機体の主翼が吹き飛び、ロールしながら墜落していく。これでは搭乗者達の脱出は期待できない。


 犠牲を払いつつも敵陣上空まで到達する第5攻撃隊。


「投下!」


 各機が次々と投弾していく。狙ったのは敵機甲部隊。このまま生かしておくと、その突進力で友軍の戦線に穴を開けられかねないからだ。これは陸上部隊の指揮官から空軍に要請してきたことだった。


「効果は!?」


 カリストフ少佐は後部銃座に座る相棒に訊ねた。


「効果あり! 敵部隊に一定の被害発生!」


 その言葉にカリストフ少佐は内心で「よし!」と喜ぶ。敵機甲部隊は一点突破突撃の準備をしていたのか、1ヶ所にまとまっていた。そこを攻撃した形となる。タイミングが良かったが故に効果は覿面だ。敵機甲部隊は混乱状態に陥っていた。


「急いで離脱するぞ。帰りは低空飛行でいく」


 そう言って機体を翻すカリストフ少佐。部下達もそれに続く。

 しかし、カリストフ少佐はそこで何か違和感を感じた。


「おかしい……」


「どうしました?」


 後部機銃手の男がカリストフ少佐の様子を訝しむ。


「何故……対空砲火が止んでいる……?」


 カリストフ少佐の感じた違和感はそれである。何故か対空砲火が止んでいるのだ。味方部隊が全ての対空陣地の排除をあの短時間で行ったとは思えない。


 ハッとした後部機銃手の男は敵陣のある方向の空を睨んだ。そして見つける。


「……敵機です! 上空、突っ込んできます!」


「やはりか!」


 カリストフ少佐は素早く機体をバンクさせた。敵機来襲の合図である。各機は敵部隊に後部機銃による射撃を開始、小隊ごとに固まって後部機銃による対空弾幕を濃密にする。

 しかし、敵部隊……恐らく戦闘機部隊はそれを恐れることなく突入する。対空弾幕を掻い潜り、第5攻撃隊の『エルヴェス』軽爆撃機に攻撃を開始した。


「くっ……!? 誰の機か分かりませんが、3機墜ちました!」


 敵の攻撃を受けて瞬く間に3機が撃墜される。『エルヴェス』攻撃機が如何に最新鋭機とはいえ、戦闘機とマトモに戦って打ち勝てるほど突飛な性能を持っているわけではない。


「あれは……『ドラゴンボーン』……!? 隊長! 敵部隊は首都圏防空戦闘飛行隊です!」


 悲鳴じみた後部機銃手の叫び。その内容にカリストフ少佐は思わず舌打ちをした。

 竜の頭部を象ったエンブレムを持ち、『竜の申し子(ドラゴンボーン)』の渾名をつけられたこの部隊の正式名称は首都圏防空戦闘飛行隊。東部航空団隷下の戦闘機部隊であり、唯一のナンバリングされていない部隊でもある。空軍の腕の良くて国への忠義の厚いパイロット達を掻き集めた王国政府の懐刀である。


「『ドラゴンボーン』がこんな前線に……! 政府軍も本気というわけか!」


 本来ならば王族のいる首都から離れないはずの戦闘機部隊。それがこんな最前線まで出てくる。どうやら政府はこの内戦が可及的速やかに政府軍の勝利に終わってほしいようだ。


「敵は最新鋭機……逃げ切れるか……!?」


 首都圏防空戦闘飛行隊には最新鋭の戦闘機、『オルファン』戦闘機が配備されている。

 最高速度515km/h、高い運動性と10㎜機銃6挺の火力を有する戦闘機で、大陸最強の戦闘機との評価もある機体だ。パイロットの腕も加味すると、とても手に負えたものではない。


「また2機落とされました!」


 着々と増えていく損害率。もはや第5攻撃隊は壊滅的被害を受けたと評して間違いはない。


「何とか逃げ切るぞ!」


 カリストフ少佐はそう叫ぶ。彼の機体の斜め後方の両サイドに僚機がつく。疎らに生えている木々に衝突しそうな程に高度を下げて退避するカリストフ少佐達の『エルヴェス』軽爆撃機。それに追い縋る首都圏防空戦闘飛行隊の『オルファン』戦闘機。

 一歩間違わなくとも死にかねない地獄の追いかけっこが始まった。


「機体を振るぞ!? 舌を噛むなよっ!?」


 カリストフ少佐は後部機銃手にそう言うと、機体を左右に振る。敵の狙いを絞らせないように、丁寧かつ大胆な機動を取っている。ここら辺りはベテランの為せる技だ。

 僚機も各々で回避運動を行っている。さすがは精鋭部隊といったところで、敵機の銃撃を上手くいなしている。


「くっ……! 墜ちろ!!」


 後部機銃手が敵機に銃撃を加える。しかしながら相手も手練れ。上手く避けながら的確な射撃を放ってくる。それをカリストフ少佐が機体を操って避ける。


「他の連中は……どこにいるか分からんな……」


 機体を操りながらそう呟くカリストフ少佐。ついてきている僚機の2機以外の味方機の場所は分からなかった。もう撃墜されたのかもしれないし、まだ粘っているのかもしれない。


「……くっ!? 他人の心配をしている場合じゃないな!」


 敵機の10㎜機銃弾が左水平尾翼に当たり、その先端が千切れる。さすがのカリストフ少佐でも、首都圏防空戦闘飛行隊の相手は厳しい。カリストフ少佐の腕前は一級品と評して問題はないが、それは相手とて同じだ。アドバンテージにはならない。

 ……と、その時だ。


「やった!」


 後部機銃手が歓声をあげる。後部機銃の7㎜機銃弾が追い縋る敵の『オルファン』戦闘機のエンジン部に着弾、敵機は黒煙を噴いて機首が下がったのだ。

 低空飛行中に急激に機首が下がれば、どうなるかは自明である。派手に地面に激突して粉々に吹き飛ぶ『オルファン』。ようやくカリストフ少佐にも運が回ってきたようだ。


 しかしながら、敵もやられっぱなしではない。僚機の1機が炎上、空中で爆発して無数の部品と火の粉を撒き散らしながら墜落。数多の残骸は地面を転がって散らばる。パイロット達は爆発で木っ端微塵に吹き飛んでいた。唯一の救いは即死だったことだろうか……。


「くそっ! 振り切れんぞ……!」


 カリストフ少佐は徐々に焦り始める。このまま真っ直ぐ飛んでいけば、前線航空基地の対空砲火の射程内まで行けるが、そこまで生きていられるか分からない上に巻き添えを食らう可能性も高い。上手く振り切ろうにも運動性能や速度性能は戦闘機である敵が優勢。八方塞がりの状態であった。


 敵の攻撃は続く。今もカリストフ少佐の操る『エルヴェス』軽爆撃機の側を銃弾が掠める。遂にはもう1機の僚機が被弾。墜落はしていないものの、黒煙を噴き始めた。


「ぐあっ!?」


 後部機銃手の悲鳴と被弾した音。どうやら後部銃座に被弾したらしい。


「おい! 大丈夫か!?」


 返事はない。だが、彼の容態を見ている余裕はない。

 これでカリストフ少佐の機は敵への反撃手段を失った。


「もはやこれまでか……!」


 カリストフ少佐が自らの死を予感したその時だった。後ろについていた敵機が上昇し始めた。


「何だ……?」


 敵機の突然の行動を訝しむカリストフ少佐。どうやら敵機2機は離脱しようとしているらしい。


 ふと、カリストフ少佐は前方の上空を見た。そして敵機の行動の意味が分かった。


「なるほど。助けが来たか」


 前方上空に味方の戦闘機部隊がいた。定数を僅かに割り込んだ22機。カリストフ少佐の小隊についてきていた敵機は1機を落として2機が残っていた。如何に精鋭でも10倍の数の差は引っくり返せない。

 一方で速度では新鋭機の敵戦闘機の方が上だ。退却していく敵戦闘機に引き剥がされていく姿が見える。

 だが、速度で負けていても味方部隊は敵を追撃するようだ。王国政府の懐刀をここで潰すことができれば褒賞は望むがままだろう。


「……やめておいた方がいいと思うが」


 カリストフ少佐はそう呟く。『ドラゴンボーン』の実力は本物だ。精鋭である自覚がある自分達の超低空飛行にも難なく追随し、形勢不利と見るや素直に引き下がる思い切りの良さ。間違いなくこの国で最高峰のパイロット達であることは間違いない。できれば敵として会いたくはなかったと思わされるほどだ。


「……おい、大丈夫か?」


 再び後部機銃手に問いかけるカリストフ少佐。しかしながら返事はない。呻き声も何も聞こえない。


「……すまない」


 カリストフ少佐は動くことのなくなった相棒にそう詫びた。彼がいなければやられていたかもしれない。彼の放った銃弾がカリストフ少佐の機を狙う敵機を撃墜したのだ。そんな彼は他の敵機の銃撃で死亡した。

 自分の操縦技術の至らなさが原因で彼は死んだ。カリストフ少佐はそう思った。思えば、彼だけでなく多くの部下がこの空に散っていった。それもこれも自らの至らなさが原因だ。


「……すまない……っ」


 カリストフ少佐は唇を噛み締めた。だが、嘆いている時間はない。自分の戦いは始まったばかりに過ぎない。この内戦もだ。


「……私も命尽きるその時まで戦おう。お前達のように」


 それが自分の使命であると、彼はそう感じたのだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 その後も戦闘は続いた。ノルマーク平野において、反乱軍は政府軍と熾烈な戦いを続けるも、兵站や地力、数の差によって劣勢となり、4月12日に遂に反乱軍はノルマーク平野から撤退を始めた。

 他の戦場でも反乱軍は劣勢に陥っており、徐々に戦線が後退してきていた。この時点で内戦の勝敗の行く末は決まったも同然であった。……少なくとも、何も知らない民衆の間では。



 そして、カリストフ少佐率いる第5攻撃隊は4月5日の戦闘で損耗率が7割に達するというとんでもない被害を受けていた。この優秀な航空支援部隊である第5攻撃隊の事実上の全滅も反乱軍劣勢の一因である。

 しかしながら、反乱軍は戦力不足であり、そんなボロボロな第5攻撃隊ですらさらに酷使しなければならなかった。彼らは人員不足と機体不足、そして整備不足と補給不足という最悪な状態でさらなる戦場に放り込まれることとなるのだった。



 カリストフ少佐は後日知ったのだが、『ドラゴンボーン』を追撃していったあの味方戦闘機部隊は文字通り全滅したらしい。全機未帰還である。

 それを聞いたカリストフ少佐は「敵と自分の力量差を見極めないからだ、バカ者共め……」と呟いたそうな。









最近はテストの嵐で、ようやくそれが過ぎ去りました。ようやく夏休みです。

あと、交錯世界の旭日旗の方の更新もそろそろしたいと思っています。……とはいえ、リアルでやることも去年に比べると増えてきているため、以前のペースに戻すのは大変厳しいですが。

これからもゆっくりと更新していくので、よろしくお願いします。



9/7 作中内の日付を変更しました。



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[一言] カリストフ少佐は全滅した友軍をバカと呼んだ。この内戦自体がバカたちの馬鹿騒ぎに過ぎないのだから是非もあるまい。争いは同じレベルの者同士でなければ成立しないというが、まさにこの戦いこそは同じレ…
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