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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第二章
46/46

第14話

毎回言ってるような気がしますが、お久しぶりです。年内最後の更新です。

2021年は4話分しか更新していないので、来年はそれを反省して、倍の8話分以上の更新を目指します。

来年度から就職するので、仕事の忙しさによっては多少上下するかもしれませんが、頑張ります!









 日本の使節団がサーベスに来訪して数時間後の昼下がり。会議堂にはベスタ連邦の氏族議会のメンバーと日本の外交使節団の主要メンバー十数名、そして聖女騎士団から聖女エレオノーラと、セシルを含めたお付きの者が数名参加していた。聖女騎士団がこの場に出席しているのは、聖女騎士団側からの申し出があり、日本側が承諾したためだった。


「お初にお目にかかります、ヴォルギン・ウルフェン議長閣下。私は此度の遣ベスタ連邦外交使節団の団長を務めております、日本国外交官の世古大介と申します。貴国の誇り高き戦士文化は周辺国に広く伝わっており、ヴォルギン・ウルフェン議長閣下のご高名も聞き及んでおります。ご尊顔を拝することができ、誠に光栄です」


 日本側外交使節団の代表者が世古だった。彼は中部オルメリア戦争の折、アーカイム解放戦線との交渉を担い、さらにはバルツェル共和国との講和交渉も担当した人物である。30代の温和な顔立ちをした若手の外交官であるが、その外見とは裏腹に日本の国益を貪欲に求める狡猾さも秘めた男だ。そして、彼は外務省内で勢力を広げる対外強硬派のメンバーでもある。

 外務省内にはいくつか派閥があるが、その中でも急速に力を増しているのが対外強硬派と呼ばれる派閥だ。一部の重鎮の他、多くの若手を抱える派閥でもあり、転移前から存在こそしていたが、バルツェル共和国の出現を機に力を強めてきた。中部オルメリア戦争が勃発した際には、さらに勢力を拡大し、瞬く間に外務省内での主導的地位を確立した。世古はそんな対外強硬派のホープの一人だった。


 そんな日本の内情を知らないベスタ連邦や聖女騎士団の面々からすれば、世古はただの穏やかな雰囲気を纏う風変わりな外交官に過ぎなかった。


「うむ、遠路はるばるよくぞ参った。ワシはベスタ連邦氏族議会議長を務めるヴォルギン・ウルフェンだ。我々も貴国の高い技術力については友邦のフソウ皇国から聞いている。歓迎するぞ、セコ殿」


「ありがたき幸せにございます。……して、そちらの方はルナソール連合聖女騎士団団長のエレオノーラ・セラ・ヨルムン様とお見受けいたします。正式な国交はまだありませんが、お会いできて光栄です」


 世古はエレオノーラの方を向くと慇懃に挨拶を行った。内心の警戒心はおくびにも出さない。


「こちらこそお会いできて光栄ですわ、セコ様。貴国の御噂はかねがね耳にしております。……此度は貴国との公式な接触というわけではありませんが、私としては是非貴国とも交流を深めたいと考えております。ご迷惑でなければ、よろしくお願いいたしますわ」


「ご迷惑などとは、滅相もございません。こちらからも是非お願いしたいところでございます」


 世古はエレオノーラの申し出にそう返した。もっとも、交流を深める以上にルナソール連合の意図を探ることを企図してのことだったが。

 エレオノーラの方は日本側の友好的な態度に安堵していた。少なくとも話ができる相手であることは確認できたわけだ。あとは日本の情報を可能な限り持ち帰り、戦争を阻止することができれば万々歳である。

 ウルフェン議長を含めたベスタ連邦側も日本側が事を荒立てる気がないことに安堵していた。事前に日本側からフソウ皇国を通して強い抗議を受けていたためだ。ベスタ連邦側は日本に指図される謂れはないとしてスルーしていたが、内心では日本の出方を警戒していた。しかし、蓋を開けてみれば、日本は紳士的な態度を崩していない。そのことに穏健派の族長は胸をなでおろしていた。……もっとも、日本側のベスタ連邦に対する評価は大きく下がっていたが。


 その後、滞在中の取り決めやスケジュールを確認する。予めこの点に関しては調整していたため、ほぼお互いに事前に取り決めた事項に関して認識に相違がないかを確認するだけの作業となった。聖女騎士団も滞在していることから、その点だけはいくつか話し合いとなったが、それ以外は特に何も特筆するようなことはない。

 それが終わった後、ふとウルフェン議長は口を開く。


「さて……。そう言えば、貴国の船は帆もオールもなく、鉄でできているように見えるが実際のところどうなのだ?」


 この質問は特に意味もなく、彼自身の興味本位のものだった。強いて言えば、適当な話題を投げかけ、世間話をすることで友好的な態度を示すことが目的だ。しかし、世古は日本の技術力や軍事力をベスタ連邦やルナソール連合に示威することができると考え、いくらか余分に情報開示することにした。無論、日本では一般国民でも調べればすぐに分かる程度のことに限るが(そもそも世古とて大した知識はない)。


「閣下の仰るとおりで、民間船も含めて我が国の船は基本的に金属製であり、帆やオールを必要としません。もう少し正確に申し上げるのならば、鉄を加工してより強度を高めた鋼という素材や複数の金属を混ぜて様々な機能を持たせた合金と呼ばれる素材を使っております。また、我が国の船は'燃える水'を爆発させて、そのエネルギーを運動に変換する装置を使って船を動かしております。そのため、帆船と比較して高速かつ自由に海上を航行することが可能です」


「なんと……軍用のものだけでなく、民間船もか」


「はい。我が国の船会社……船による輸送を生業とする民間の商会が保有する船は1000隻を超えますが、そのいずれもが今申し上げたような仕組みの船ですね。帆を使う船は、主にレジャー用として民間で使用される小型船がほとんどです」


 転移前には外国船籍を含めて日本の船会社は2000隻以上の外航船を運用していたが、転移によって半分以下まで減少してしまった。半分以上の船は転移に巻き込まれなかったのだ。


 ともあれ、これにはベスタ連邦だけでなく聖女騎士団の面々も驚いた。今、世古が話した内容だけでも、日本の技術力の高さが垣間見えたのだ。

 鋼の製品自体は自体はベスタ連邦やルナソール連合にもあるが、その数は微々たるものだ。というのも、鋼の生産技術はドワーフ族が発明して以来、彼らが独占・秘匿している状態にあり、流通量が限られている上、非常に高価だった。最近になってガルガンティル帝国でも生産に成功したという噂が漏れ伝わっているが、その真偽は不明である。そういった事情から、鋼製の武器は国宝として保管している国も多い。そんな高級素材を船の船体という巨大なものに使っているのである。1隻作るだけでもルナソール連合の財政が傾きかねない。ましてやベスタ連邦の財政では言わずもがな。

 さらに、その船を動かすための機構についてはベスタ連邦の面々も聖女騎士団の面々も意味を理解できなかった。'燃える水'……要は油の一種ということは理解できる。植物油などを燃料としたオイルランプはネルディス大陸でも流通している。だが、爆発するほど燃えるわけではない。そして、それを運動に変換するというのも想像すらできなかった。


 結局、はっきりとしたことは、日本という国家は鋼という高級素材を大量生産し、それを湯水のように消費することができる技術力と経済力を誇り、特に技術力についてはその理解が追いつかないほどにネルディス大陸を引き離しているということだけだった。


「凄まじいな……あの船の実力も、今後見せてもらえるのだろう?」


 会議堂からは港の景色が一望できるようになっており、喫水の問題から港に入港できずに沖合に停泊する自衛隊艦隊もよく見える。ウルフェン議長は大きな存在感を放つ自衛隊艦隊を見やりながら、世古にそう尋ねた。


「はい。実演することで肌で我が'軍'の実力を感じてもらおうと考えております」


 それが今回の派遣の目的である。ベスタ連邦は武を貴ぶ文化を持つが故、仲を深めたいのであれば力を示すことが最も効率的だ。獣人族は大型兵器への理解が不足しているとはいえ、その威力や有効性を実演をもってすれば理解させることができるだろう。無論、実演するのは護衛艦だけではない。航空機や陸上部隊もそのためにわざわざ持ってきたのだ。

 分かりやすい実力を見せつけることで日本の優位性を示威し、蝙蝠状態のベスタ連邦や日本と敵対する恐れのあるルナソール連合を牽制する。そうすることで今後の対ネルディス大陸諸国との交渉等を優位に進めていきたいのが外務省や政府の考えだ。……まるで軍事力で恫喝しているようにも見えるが、あくまでもベスタ連邦の特異性からこのような対応になっている。とはいえ、どうしても恫喝しているように見えるため、政府は野党や国民への説明に苦慮していたりする。


「うむ……楽しみにしておこう。我々の方からも、勇猛果敢な各氏族の戦士団を紹介しようかと考えておる。そちらも陸上部隊を同伴させていると聞いている。貴国の戦士にも大いに期待しておるぞ」


「もったいなきお言葉です。我が国の精鋭達も奮起することでしょう」


 世古はそう言って慇懃に首を垂れた。日本側としても、獣人族がどれほどの身体能力を誇っているのか未知数であるため、各氏族の戦士団を紹介してもらえることは大きな価値がある。




 その後は恙なく会談は終了することになり、外交使節団は護衛の自衛官と共に政府庁舎内の客室をあてがわれ、そこに滞在することとなった。客室は豪華で煌びやかであり、獣人族には脳筋しかいなさそうだと考えていた世古からすると意外な光景だった。

 確かに獣人族は脳筋が多いが、仮にも文明社会を築いている人類である。また、獣人族の全員が脳筋というわけではなく、あくまでも文化と国民性が脳筋寄りというだけなのだ。

 ともあれ、予想していたよりはまともな客室の中、世古は護衛の一人として政府庁舎に滞在する予定の佐官に声をかける。


「さて……予定通り、今宵から我が精兵達には準備体操をしてもらいましょうか」


「了解しました、そのように伝えておきます。体操のメニューはどういたしますか?」


「そちらにお任せします……が、そうですねぇ。念のため、今後に支障がない程度にお願いしましょうか」


「では、鳥使い以外は平常運転で行きましょう」


 無論、この会話は言葉通りの会話ではない。隠語を使った会話である。内容を要約すると、「今夜から情報収集活動を開始するが、今後のベスタ連邦との関係に支障がない程度に留めておきたい。そのため、偵察用ドローンを使用した情報収集のみを実行する」といったものである。


 日本側もベスタ連邦やルナソール連合の情報を欲していたため、外務省と防衛省、内閣府などが共謀して外交使節団に臨時編成の情報収集部隊を随伴させていた。とはいえ、第一はベスタ連邦に対する外交工作である。そのため、現地の責任者は外交使節団の代表でもある世古が任命されていた。情報収集のゴーサインを外交官である世古が出したのもそういった事情がある。ちなみに世古と会話していた佐官が情報収集部隊の隊長である。

 人員を上陸させての情報収集も視野に入れて部隊を編成していたが、万が一活動が露見して外交関係に亀裂が走ることがないよう、今回はドローン等による画像情報収集イミントに留めておくことにしている。それ以外にも、ルナソール連合の諜報部隊が既にサーベス内に浸透している恐れがあり、そちらの能力が未知数であることも安全策を取った理由となるだろう。なお、ベスタ連邦の防諜能力がお粗末である、ということはフソウ皇国から情報を得ており、そちらは脅威とはしていない。


「さて、何事もなく終わればいいのですが……どうも私の勘はそうはならないと告げてますね」


「恐ろしいことを言わないでください……と言いたいところですが、同感ですな」


 世古の呟きに対し、そう返す佐官。そもそも日本側はルナソール連合の使者がベスタ連邦入りしている時点で状況を重く見ていた。日本の来訪時期に合わせたように見えるルナソール連合の使者の派遣。これはベスタ連邦内に既に確固たるルナソール連合の諜報網が形成されている証であると日本政府は受け止めている。相手が前世界の一般的な国家の手の者であれば、そうそう簡単に手出ししてくるはずはないと考えることができたのだが、ここは交錯世界。相手がこちらと同じ認識の下で動いているとは限らない。日本は中部オルメリア戦争でそれを理解させられた。


 このように日本側の外交使節団と自衛隊は、ベスタ連邦や聖女騎士団に悟られないように警戒を強めていた。ベスタ連邦の防諜能力など期待できたものではないし、聖女騎士団の面々もパッと見た範囲ではまともそうに見えたが、ルナソール連合の国是や過去の行いを鑑みれば信用などできたものではない。もっとも、日本側も情報収集活動を開始しているので、信用できないのはお互い様なのかもしれないが。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






同日

ルナソール教国 聖都ローメル

ヨルムン家邸宅

19:51 現地時間







 ルナソール連合の聖なる都であるローメルにおいて政府機能や宗教施設はローメル丘陵に集中している。わざわざ平野部ではなく丘陵部に政府機能や宗教施設があるのは、ローメル丘陵が神が降臨した地として宗教的権威のある場所だからだ。そのため、ローメル丘陵はルナソール教国の政府関係者や宗教関係者が数多く行き交う。特に位の高い者はローメル丘陵に邸宅すら保有していた。そう、例えば内務省大臣であるヨルムン大司教なんかもその一人だ。


 今日、彼は自宅へある人物を呼んでいた。


「おお、よく来てくれたな。ロードメア司教」


 ヨルムン大司教の邸宅へやって来たのは、ロードメア司教だ。彼はルナソール連合における軍事を司る聖武省の中の諜報部を統括する立場にある。見た目こそ大きな存在感はなかったりするが、諜報という国家における重大要素の統括を任されるだけあって、仕事はよくできる真面目な男というのが彼の評判だった。


「いえ……ヨルムン大司教閣下のご自宅へ招待されるというのは大変名誉なことだと考えております故、実は私も楽しみにしておりました」


 そう言ってはにかんで見せるロードメア司教。これだけ見ると、ただの人の良さそうな細身の中年男性に見える。


「いや、ワシは君に感謝せねばならん立場じゃ。どうか今日はくつろいでくれ」


 そう言ってヨルムン大司教はロードメア司教の来訪を歓迎するのだった。


 ヨルムン大司教がロードメア司教を呼んだのは親交を深めるのが目的ではない。今後の連携について話し合う必要があったからだ。

 そもそも内務省大臣のヨルムン大司教とロードメア司教のつながりは古いものではない。前回の聖会議においてウェルデンツ大司教が推し進める東部諸国の征伐が賛成多数となった際、ヨルムン大司教は日本のことを調査する必要があるということで時間稼ぎを行った。その時に彼はロードメア司教と協力したのだが、二人が深い関係となったのはその時からだった。


「私としても、ウェルデンツ大司教が推し進める戦争は反対です。敵の力量が未知数である以上、諜報部としては自らの職責上、安易な行動を諫めねばなりません。それに万が一、戦争が泥沼化すればガルガンティル帝国に付け入る隙を与えることにもなりかねません。我々諜報部の至らなさを自白するようではありますが、我が国にもガルガンティル帝国の手の者は必ず潜んでおります。我々の失策を見れば、必ず彼の帝国はアクションを起こすでしょう。それを避けるためにも、今回はヨルムン大司教閣下に協力したいと考えています」


 ロードメア司教がヨルムン大司教に協力を申し出た際、彼はそのように自分の行動の根拠を説明した。

 彼の行動理由はヨルムン大司教のものとは異なるものではあったものの、真面目という前評判通りの理由だった。不確定な状況が多い中でリスクのある行動を取りたくないという、現実的で官僚的なものだ。だからこそヨルムン大司教はロードメア司教を信用した。彼の理由はヨルムン大司教にも十分理解できるものだったからだ。

 そうして彼らは協力関係を結び、今に至る。ロードメア司教の現実を機械的に打ちつけるが如き淡々とした説得により、日本に対する情報収集活動が行われることとなり、それが終わるまでは東部諸国の征伐は延期されることとなった。

 ロードメア司教の助けがなければ今頃は聖女騎士団が派遣されることはなく、戦争の準備に奔走していただろう。今も戦争準備中と言えばその通りだったが、正式に開戦に踏み切っているわけではない以上、少なくとも今すぐに徴兵というわけにもいかない。今のところは徴兵計画を練っている段階だ。これで済んでいるのは紛れもなくロードメア司教のおかげであった。


 日が落ちてしばらくした時間であることから、まず二人は食事を済ませることにした。二人とも、いつもならもっと早くに夕食を済ませているところだったが、最近は諸々の仕事で帰りが遅い状態が続いていた。談笑しながら会食を済ませると、ヨルムン大司教がロードメア司教を執務室へと招く。ようやくヨルムン大司教がロードメア司教を呼んだことの本題だ。


「諜報部隊の一次報告を聞かせてもらえる、という話じゃったな」


 ヨルムン大司教の言葉にロードメア司教は首肯した。ロードメア司教がこのような私的な場で諜報関係の情報を他者に提供するのは決して褒められた行為ではない。しかし、ルナソール連合では権力が私物化されることは珍しくもない。ヨルムン大司教は比較的清廉寄りの人間ではあったが、それでも清濁併せ吞む度量は備えている。目的達成のために手段を選ぶ余裕がなければ、グレーな手段を選ぶことはこれまでもあった。今回もそうだったわけだ。


「サーベス市内に潜入した手の者からの情報です」


 この情報は伝令魔法を用いてロードメア司教のもとに届いたものであった。そのため、情報の鮮度は高い。


「ニホンは艦隊を率いてサーベス港に入港し、ベスタ連邦の首脳陣および聖女騎士団と接触を果たしたようです。詳細こそ不明ですが、ニホン側の態度は友好的とのことで、聖女騎士団とも交流する意思があるようです」


「ふむ……最初の接触は上々といったところじゃな」


「そのようです。しかし、油断してはいけないかと思います。ニホンの船舶は金属製かつ巨大で、帆やオールも必要とせずに高速で自由に航行できる……この情報はやはり事実のようです」


 ロードメア司教は日本に対する警戒心を顕わにする。


「そもそもニホン側の意図が読めません。ニホンが保有するという巨大船の情報が事実であったことを踏まえると、ニホンの軍事技術は非常に高いレベルにあることが予想されます。あの巨大船を用いれば優れた装備を持つ兵士を大量かつ容易に揚陸することも可能です。それだけの力を持ちながら何故最初から用いようとしないのか……」


 ロードメア司教の言葉にヨルムン大司教も頷く。


「ニホンには何かしらの意図があるのか、それとも行使できない理由があるのか……。大穴で、単に力をみだりに振るうことを良しとしない、という線も考えられるかもしれんの。ベスタ連邦に言われるまでは軍事力を誇示するつもりはなかったかのような動きだった、という話じゃしの」


 ヨルムン大司教はそんなことを言って肩を竦めた。前の2つはともかく、最後の線は本気で言ったわけではないようだった。


「何はともあれ、未知の技術を数多く保有していることが確実視されることから、諜報部ではニホンの脅威度評価が正確に行えていない状況にあります。ニホンの行動を予測できないため、こちらも拙速なアクションは起こせません」


「しばらくはニホンの動きを静観するしかないということじゃな」


「ニホンの外交使節団は軍事演習を行う予定があるとのことなので、少なくとも軍事力の一端は見ることができるかと思いますが……」


「今はそれで十分じゃろう……。急いて事を仕損じる方が問題じゃ」


 そう言ってヨルムン大司教はロードメア司教の慎重な姿勢に理解を示した。そもそもが主戦派を説得するための時間稼ぎだ。時間が必要というのは渡りに船だった。もっとも、あまりに情報収集活動が捗らないようであれば主戦派も黙ってはいないだろうが。

 その後もいくつか情報交換を行った後、ロードメア司教はヨルムン大司教の邸宅を後にするのだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 ヨルムン大司教との会合を終えたロードメア司教は、ローメルの夜道を歩いていた。夜も更けており、この時間帯は人通りは少ない。

 ロードメア司教は自分'達'以外に誰もいないことを確認すると口を開いた。


「……予定通り、現地部隊に特務作戦の実行を命じる。実行する日時は追って知らせる」


 ロードメア司教のその言葉に'影'が応じ、その使命を全うせんと動き出す。言葉を発したロードメア司教は、虚無を見つめるが如く感情を窺わせない目をしていた。


「ニホンの意図は読めない、が……それはそれだ。私は私の為すべきことを為す」


 彼の呟きは誰にも聞かれることなく、闇夜に消えた。






今年は世間ではコロナ、私生活では研究や就活などでいろいろ大変でしたが、来年は今年よりも良い年になることを祈ります(笑)

それでは皆さん、良いお年を~!

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― 新着の感想 ―
[一言] 続き待ってます
[一言] 今回の話を読んでてふと思ったんですが、相手によるけどエンジンタイプのラジコンとエンジンの運動模型で我々の動力のサンプルにできそう。詳細は理解しなくてもいいんだし。
[一言] 更新お疲れ様です、今回もとても面白くよかったです。 > 対外強硬派、世古使節団長 彼の持つ背景と外交姿勢、現行の外務省内の勢力図が分かり納得できました。外務省の主要派閥である対外強硬派のホ…
感想一覧
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