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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第二章
43/46

第11話

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 






 ルナソール連合の聖会議が終わってしばらくした頃。

 ルナソール連合の領内をベスタ連邦に向かって移動する一団が存在した。軽装を主体としつつも同一の装備を携えた集団。およそ三十名ほどの騎兵や荷馬車などによって構成されているそれらは、ルナソール連合所属の騎士団であった。

 ただ、違和感のある点があるとすれば、一般的な騎士団よりも団員の平均的な体格が幾分か小柄である点だ。

 そう、これはただの騎士団ではない。ルナソール連合内務省直轄の騎士団である聖女騎士団だ。高い魔法素養を備え、神の従順な僕である女性である聖女を中心とし、その人員の全てが女性で構成された特異な騎士団。それが聖女騎士団だ。

 彼女たちの主な任務は慰問と巡礼。この聖女騎士団は名目上は騎士団であり武力も有するが、結局のところ、庶民の人気取りのための存在だった。戦闘能力は聖武省に所属する正式な騎士団員に言わせれば「二線級以下」、国防に携わる聖武省でなく内政に携わる内務省に所属しているあたり、本当にお飾りなのだ。

 もっとも、存在意義が無いわけではない。見目麗しく、庶民にも分け隔てなく接し、宗教的権威も大きい聖女騎士団は庶民からは人気の的だった。いわゆるマスコットキャラクターやアイドルのような存在なのだ。内務省が統治を行う際に民心を掴むために組織した聖女騎士団だが、当初の目的を遺憾なく達しており、さらに然程多くないものの、外国への親善大使としても使われることがある。ある意味、ルナソール連合の光の面と呼べた。その分、それによって隠される闇も深いわけだが。


 さて、この聖女騎士団はベスタ連邦方面に向かっているわけだが、これは内務省大臣であるヨルムン大司教の指示だった。

 ベスタ連邦に対して恭順・改宗要求を行っているため、両国間の関係は良くない。そこで聖女騎士団を親善のために派遣し、ベスタ連邦におけるルナソール連合に対する敵愾心を少しでも和らげつつ、恭順を促す。少なくとも名目上はそのような目的が掲げられていた。

 もちろん、本当の目的がそんなお花畑なわけがない。真の目的は聖女騎士団を囮にして目を引きつつ、聖武省諜報部隷下の諜報部隊をベスタ連邦内に侵入させ、ベスタ連邦内での日本の動きを探ることだ。ひいては、その諜報活動によってウェルデンツ大司教が推し進める大陸東部侵攻に待ったをかけるためでもある。ヨルムン大司教は聖武省諜報部長のロードメア司教の助けを借りて、ウェルデンツ大司教に事前の情報収集の重要性を説き、侵攻前の大規模諜報活動を認めさせることで時間稼ぎをすることに成功した。侵攻に待ったをかけている内にどうにか東部平定の方向に固まった連合の方針をひっくり返すことがヨルムン大司教の最終目標だった。


 そんな裏事情はさておき、聖女騎士団はその任務を遂行するためにベスタ連邦に向かっていた。聖女騎士団は隊列を組んで行軍しているが、その隊列の中に一際目立つ馬車が存在した。聖女騎士団の戦闘員はその全てが馬に乗った騎兵であり、それ以外に食料などを運ぶために荷馬車を用いていたが、その荷馬車とは比べ物にならないほどに煌びやかな馬車であった。


「エレオノーラ様、もうすぐベスタ連邦領に入ります」


 その煌びやかな馬車の中では2人の女性が話をしていた。

 エレオノーラと呼ばれたのは、まだ十代半ばほどの少女だ。プラチナブロンドの美しい髪を肩甲骨辺りまで伸ばしており、顔立ちは童顔であるが、穏やかそうな美少女だった。彼女こそ、この聖女騎士団を率いる聖女エレオノーラだ。聖女用の特別な白い法衣を身にまとった姿は、聖女の名に相応しい楚々としたものだった。

 もう一方の女性はエレオノーラよりも年上でおよそ20前後に見える、茶髪をボブカットにした女性だ。こちらは侍女を思わせる、どこか地味な服装をまとっている。こちらも美人ではあるが、いつも無表情なことから近寄りづらさを感じさせる女性だった。


「わかったわ、セシル。予定だと狼人族の戦士団の方々がお出迎えしてくださるそうね?」


「はい、エレオノーラ様」


 その恰好からも明らかであったが、この二人は主従の関係だった。茶髪の侍女、セシルはエレオノーラの世話役であり、護衛でもあり、プライベートではエレオノーラにとって姉のような存在だ。


「セシル、実は私、獣人の方を初めて見るのよ。なんだか楽しみだわ」


「……そうですか」


 好奇心に満ちた主の姿を複雑な心境になりつつも、そう相槌を打つセシル。エレオノーラはルナソール教信徒でありながら、白人種以外に対しても差別的な感情を持っていなかった。彼女は内務省の大臣であるヨルムン大司教の孫娘であり、フルネームをエレオノーラ・セラ・ヨルムンといった。ヨルムン大司教は反白人至上主義的な思想を持っており、それは息子や孫娘にも受け継がれていた。

 ルナソール連合以外ではあまり知られていないが、連合内では徐々に白人至上主義に染まらない人々も増えつつある。これは皮肉にも、白人至上主義が蔓延る連合上層部がガルガンティル帝国の勢力拡大を恐れるがあまり、周辺国を無計画に連合に併合していった結果だった。


 ガルガンティル帝国が周辺国を次々と侵略し、属国化していた頃。東の大勢力という立場ではあれど、今よりも小さい勢力だったルナソール連合はガルガンティル帝国の勢いに恐怖していた。ガルガンティル帝国が大陸西部を制覇すれば、次は自分達であると分かっていたからだ。当初、ガルガンティル帝国に侵略されている国々に支援物資や義勇兵(国内の非白人種で構成)を送るなどしてガルガンティル帝国の勢いを抑えようとしていたが、それだけでは不十分だった。そのため、当時のルナソール連合上層部はガルガンティル帝国に対抗して自分たちも勢力を広げようと考えた。

 そして、ルナソール連合は半ば強引に連合勢力を拡大した。それは歪みをもたらした。急激な拡大によって非白人種人口は大きく拡大し、白人種による支配体制に綻びが見え始めたのだ。連合に併合こそしたものの、思想的な部分の支配は全く追いつかず、新参国家の中では白人種ですら白人至上主義に懐疑的な国家もある。そして、それは古参の国家の非白人種や一部の白人種にも伝播した。

 この状況に最も恐怖したのは非白人種を多く抱える国家と連合内務省だった。両者に共通するのは内政を行う当事者であることだ。彼らは現在の支配体制が揺らいでいることを最も実感しており、その結果、内部で意見が2つに大きく分かれることになった。1つ目は、あくまでも白人至上主義の下に支配を続け、この現状に対しては締め付けを強めて対処しようと考えるグループ。2つ目は、白人至上主義を捨て、ルナソール連合という大勢力を維持・発展させていこうと考えるグループだ。後者の中でも特に急進的な一派は、教義を多少変更することも厭わないと主張し、連合上層部でも問題視されている。


 現状では、連合上層部全体として見れば白人至上主義勢力が優勢だが、内務省に限ってみれば、反白人至上主義思想を持つヨルムン大司教が大臣を務めていることから分かるように、反白人至上主義勢力が優勢だった。各国政府の立場は国によってまちまちだが、三大強国のクラウディア王国、マーギニア王国、ルナソール教国の全てが白人至上主義勢力のため、反白人至上主義勢力の発言力は小さい。しかし、完全に無視できるほどのものでもなかった。


「セシルは獣人の方とお会いしたがあるの?」


「いえ……私も知識でしか知りません」


 エレオノーラの問いにそう答えるセシル。ルナソール連合において獣人に会ったことがある人間はかなりの少数派だろう。連合内に獣人がいないわけではないが、獣人を含めた非白人種は都会に住むことを許されず、辺境の農村に住まわされている。転居の自由はもちろんない。白人種が住む農村とは税制度なども異なっており、生活水準面でも白人種よりも冷遇されている。

 ルナソール連合内の白人種と非白人種はこのように分断されているため、白人種の中で非白人種とよく関わることがあるのは、商人や役人のような仕事で関わるような者たちがほとんどであろう。そういう意味では聖女騎士団も非白人種の村へ慰問と施しのために赴くことがあるため、エレオノーラが獣人を見ることがあってもおかしくはない。しかし、あいにく獣人はベスタ連邦近くの国境近辺の農村に居住しており、聖女騎士団はこの辺りに派遣されることがなかったため、エレオノーラは未だに獣人を見たことがなかった。


「教会の図書館の書物も、こういう時には役に立たないし……」


「エレオノーラ様……あまりそういう発言は」


「ここにいるのはセシルだけだし別にいいじゃない」


「誰に聞かれているか分かりません。この聖女騎士団とて、全員がエレオノーラ様と考えを共にしているとは限りません」


 ある意味、反白人至上主義勢力の代表格ともいえるのが聖女だ。聖女はエレオノーラ以外にもいるが、エレオノーラは反白人至上主義勢力筆頭のヨルムン大司教の孫娘ということだけあって、様々なやっかみも多い。不用意な発言はエレオノーラ自身に危険を及ぼすかもしれないのだ。従者であるセシルとしては注意する他なかった。


 ちなみに、エレオノーラの言う教会の図書館の書物が役に立たないというのは、獣人族を含めた異民族のことを殊更悪し様に書く書物がほとんどだからだ。獣人は野蛮で知性に乏しく、酷い書物だと、人よりも獣に近いとすら表現されている。


「それに教会の書物で異民族が悪く書かれているのも、当時の時世を考えれば致し方のないことかと」


 セシルの言葉も一理ある。昔、ルナソール教勢力が今よりも弱小勢力だった頃、獣人族を含めた異民族から度々攻撃を受けていた歴史がある。そのことから、昔の書物では異民族に対する極端な偏見にまみれた記述が多い。


「昔と違って、今はルナソール連合は大きく強くなっているのだから、考え方を変えてもいいと思うのだけど……」


「それが理想ですが、それを行うにはお互いに血を流しすぎたのでしょう」


 セシルはエレオノーラの意見に理解を示しつつ、中立に近い発言をする。


「とりあえず、この話はこれで終わりにしましょう」


 そう言ってセシルは無理やり話題を切り上げる。主はどこか不満そうだったが、これも主の身を守るためである。


「そういえば、ニホンについて何か新しい情報はないの?」


「私も出発前に聞かされた情報しか存じ上げません」


 エレオノーラはこの聖女騎士団の派遣の原因ともいえる日本について話題にあげてみた。エレオノーラとしては、獣人族もそうだが、大陸の外からやってきたという日本についても興味津々だった。


「ネルディス大陸の外から鉄の船でやって来た謎の勢力……。どんな方々なのかしら……?」


「私としては大陸外からやって来たことや鉄の船など、いまいち現実味のない情報に思えてしまいますが……」


 セシルは与えられた情報に些か懐疑的だった。あまりにも突拍子のない情報に思えてしまうのだ。ネルディス大陸における航海術では大洋を渡って別大陸に行くことなど不可能であり、そうなると相手はネルディス大陸のいずれの勢力よりも技術力で勝ることになる。少なくとも航海術に関しては完敗だろう。そして鉄の船が本当ならば、製鉄技術や造船技術は極めて高く、そして経済力も相当あることになるだろう。


「その情報を確かめるための派遣だものね……」


 エレオノーラは複雑そうな表情でそう言った。彼女はこの派遣の本当の目的を知らされていた。


 今回の聖女騎士団の親善訪問により、ベスタ連邦側はおそらく、ルナソール連合が圧力を弱めたと考えている。そして、その理由をガルガンティル帝国に結び付けて納得していることだろう。ガルガンティル帝国がルナソール連合に対する軍事的圧力を強め、その結果、ルナソール連合は大陸東部にかまけている余裕がなくなったのだろう、と。


 実際のところ、ガルガンティル帝国が軍事的圧力を強めているのは事実だが、大規模衝突の前兆はなく、ルナソール連合上層部の多くは大陸東部を制圧する腹づもりだ。その前段階として聖女騎士団の訪問を囮に、大規模な諜報部隊を越境させる。そして日本の情報をより詳細に探ろうというわけだ。そのためにベスタ連邦に日本の使節が来訪するという日程に合わせてまでいる。

 もっとも、それすらも仮の目的であり、提案者のヨルムン大司教はこれを大陸東部平定の決定を覆すために必要な時間稼ぎに使うつもりだ。様々な思惑が裏で蠢いた結果の派遣なのである。


 ちなみに日本の使節が来訪するという情報はベスタ連邦から得ていた。無論、公式に通達があったわけではない。諜報活動の結果だ。ベスタ連邦の防諜体制は甘く、日本側の来訪はその日程を含めてルナソール連合側に駄々洩れであった。

 ベスタ連邦は獣人族による多民族国家だが、獣人族の多くは魔法的素養に極端に乏しく、独特の戦士文化故に魔法自体も軽視されがちだった。一部には魔法を使える獣人族もいるのだが、その立場は高くない。そして、ネルディス大陸において魔法が本領を発揮するのは直接戦闘よりも諜報などの場面だった。その結果、ベスタ連邦はものの見事に情報を抜かれていた。


「狼人族の戦士団が見えてきました」


 馬車の外から報告が入る。それを聞いたエレオノーラは気持ちを入れ替える。自分はルナソール連合を代表する立場なのだ。恥ずかしい真似はできない。たかだか十代半ばほどの少女だが、その責任感の強さは並大抵の大人よりは強かった。


 なお、余談だが、狼人族の男性は揃いも揃って凶悪な強面であるという特徴がある。もはや悪人面といっても良いだろう。そして戦士団にいる狼人族は筋骨隆々である。

 狼人族の戦士団と対面した時、エレオノーラは聖女の笑みを浮かべて挨拶を行ったが、内心ではビビりっぱなしだった。エレオノーラが少しばかり楽しみにしていた獣人族とのファーストコンタクトは、なかなか酷いものだった。


 狼人族の戦士団と合流した聖女騎士団はそのままベスタ連邦の都であるサーベスに向かうのだった。








 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 ネルディス大陸最東端の国家、フソウ皇国。その近海をネルディス大陸では考えられないような金属製の巨大艦による艦隊が航行していた。言うまでもなく科学文明国家の艦隊である。

 それぞれの艦のマストには神々しく輝く太陽の紋章。オルメリア大陸ではもはや知らぬ者はいない、旭日旗が意気揚々とたなびいている。この艦隊は日本国海上自衛隊所属の艦艇で構成されていた。


 オルメリア大陸及びその近辺(未だにバルツェル共和国の制圧下にあるベールニア連邦領やバルツェル共和国本国も含めて)では、旭日旗は広く知られている。無論、日本とバルツェル共和国の間で行われた中部オルメリア戦争が原因だ。その力強い構図からバルツェル共和国の脅威に晒されていた人々からは希望の旗として崇められ、敵対しているバルツェル共和国からは悪夢の旗として忌避されている。前世界ではある意味で注目を浴びていた(一方的にだが)旭日旗だが、この交錯世界ではそれ以上に影響力のある旗となっている。


 とはいえ、それはあくまでもオルメリア大陸近隣での話だ。ネルディス大陸は人々の多くが科学文明国家の存在を認知しておらず、存在自体は知っている諸国の上層部も科学文明国家のことを理解できているとは言い難い。そんな国々からすれば、旭日旗もただの軍旗にしか見えない。


 この艦隊は複数の護衛隊群から抽出された臨時編成の艦隊であり、いずも型護衛艦『いずも』を旗艦として、ながと型多任務護衛艦『むつ』、あたご型ミサイル護衛艦『あたご』、あきづき型護衛艦『てるづき』、あさひ型護衛艦『しらぬい』、おおすみ型輸送艦『おおすみ』の6隻によって構成されている。

 たかが6隻とはいえ、この艦隊はこの交錯世界では有数の海上戦力と言えるだろう。


 旗艦を務める『いずも』は優秀な対空監視能力を保有すると共に、この世界では最強格のF-35B戦闘機を搭載する航空母艦でもある。そして『むつ』はイージスシステムを搭載し、純粋な戦闘艦としては海上自衛隊最大の基準排水量12000tを誇る、対地攻撃任務をも得意とする強力な多任務護衛艦。『あたご』もイージスシステムを搭載しており、強力な艦隊防空能力を誇る。『てるづき』はイージスシステムを搭載していないものの、高い僚艦防空能力を付与されていることからミニイージス艦とも呼ばれる強力な護衛艦だ。『しらぬい』は あきづき型をベースに設計された護衛艦で、対潜水艦戦闘に秀でた護衛艦である。そして、それぞれの艦には対潜ヘリコプターが搭載されており、この世界で標準的なレベルの潜水艦が迂闊に近づけば、たちまち探知されて撃沈の憂き目に遭うだろう。『おおすみ』は輸送艦であり、戦闘能力はないものの艦内には装甲車や戦車、中隊規模の普通科隊員や特装科隊員、そしてエアクッション型(ホバークラフト型)の揚陸艇であるLCACも擁している。そして、甲板上には2機の攻撃ヘリを駐機させていた。


 まさしく各種戦闘能力のバランスを考えてコンパクトにまとめたような艦隊である。対空・対艦・対地・対潜の領域に対応した隙の無い編成だ。もしこれがバルツェル共和国本国の近海を遊弋していれば、バルツェル共和国軍は上から下までの大騒ぎとなっていただろう。それほどの戦力だ。


 そのような艦隊が何故、フソウ皇国の近海を航行しているのか。日本とフソウ皇国が国交を樹立した際に結ばれた防衛協定に基づく出撃……というわけではない。ネルディス大陸の情勢は決して平穏なものではないが、今現在においては敵対勢力の大規模行動は観測されていない。

 この艦隊がこんなところを航行しているのは敵対的な勢力に対する軍事行動のためではなく、むしろ日本と関係を築こうとする国家の特性故のことだった。


 現在、日本との前向きな関係を築こうとしているのは獣人国家であるベスタ連邦と商業都市国家連合だ。商業都市国家連合は日本の経済力に関する情報がフソウ皇国からもたらされると、フソウ皇国を通じて積極的に関係構築を持ちかけてきた。一方のベスタ連邦は日本の軍事力に注目していたが、日本の軍事力に関する情報に対して些か懐疑的な姿勢を見せる者も多く、日本の軍事力を直に確認してみたいという要望をフソウ皇国を通じて通達してきた。

 ベスタ連邦は複数の獣人族が同盟を組むことで結成された連邦国家だ。獣人族の多くは伝統的な戦士文化を持っており、悪く言えば時代遅れ気味な戦闘思想を持っていた。つまり、己が肉体を鍛え上げ、その身体能力と武術をもって敵を粉砕する、といったものだ。人間が使うような剣や槍、弓といった武器を駆使した白兵戦を得意とはするものの、大型の兵器や魔法、それらを有効的に使用するための戦術や戦略は極めて遅れている。

 そんな彼らからすれば、銃を主装備とし、様々な大型兵器を使いこなす自衛隊の戦闘能力を予想することができなかったのだ。戦士文化を貴ぶ故、力のない者を軽視する風潮が強いベスタ連邦では、武力を分かりやすく示すことが受け入れられるためのコツだとフソウ皇国の外交関係者から教わった外務省は、外交使節の随行として防衛省に部隊の派遣を求めた。その結果がこの艦隊の派遣である。


 もっとも、力を示すのであれば いずも型護衛艦ではなく、より多くの艦載機を搭載できる しょうほう型航空母艦を派遣すべきだという考えもあったが諸事情により没となった。

 1番艦『しょうほう』は整備のためにドック入りをしている最中であり、有事でない限り動かせなくなっていた。そして2番艦『ずいほう』は、現在オルメリア大陸南部の海域で行われている日本とオルメリア大陸諸国による合同演習に参加していた。

 この合同演習は各国軍の間での連携を密にする他、バルツェル共和国への牽制を目的としたものである。そして、それらと同時に日本製兵器のデモンストレーションの場も兼ねていた。特に無人兵器が目玉であり、高額高性能なものではなく、低価格帯のドローン装備を主軸にアピールしている。そのためか、この合同演習は各国海軍だけでなく海上保安庁も参加し、海上保安庁が保有する監視用ドローンにも注目が集まっていた。平時における国境・領海警備に有用であり、価格帯もそれほど高額でないことから各国海軍のニーズに合っていたのだ(オルメリア大陸諸国は沿岸警備も海軍が担っている)。


 ともあれ、この艦隊は重要任務を帯びた艦隊だ。ネルディス大陸では日本人が思いもしないような事態が起きることも考えられるため、一般的な派遣のときよりも全体的に張り詰めた雰囲気が艦隊内には漂っていた。ともすれば、この後に実戦が待ち受けているかのような。





「確かに何が起こるかわかんねーけど、ここまでピリピリすることか?」


 輸送艦『おおすみ』艦内の食堂で、第1特装団所属の永瀬和人 三尉、結城鉄平 三尉の二人は朝食を取っていた。彼らは防衛大学校時代からの友人同士で、今も仲が良い。こうして共に食事を取るのも珍しいことではなかった。


「ベスタ連邦にルナソール連合の使節が来ているという情報が入ったからだろう」


 鉄平の言葉に和人はそう返した。


「確かにいきなりでびっくりしたけどな」


 鉄平はびっくりしたで済ますことができるかもしれないが、外交畑の人間はそうはいかない。この情報は艦隊が日本を発ってからもたらされたものだ。ベスタ連邦がフソウ皇国を通じて通達してきたのだが、通達タイミングがあまりにも遅いといえた。


「外務省はベスタ連邦の対応にお冠らしい」


「あー……確かに不誠実な感じはあるけどな」


 ギリギリまでこのような重要な情報を通達してこなかったのだ。本国でも外交使節でもベスタ連邦に対する不信感が燻っていた。

 ちなみにベスタ連邦の言い分は、「日本の使節の来訪とルナソール連合の使節の来訪はあくまでも別件であるため」としている。ベスタ連邦にとってもルナソール連合の使節の来訪は突然の事態だったのかもしれないが、それにしても誠意が感じられない対応だったと外務省は考えていた。


 日本側はベスタ連邦の一連の行動について分析を行い、ベスタ連邦が考えていることに関しておおよその見当をつけている。

 ベスタ連邦はルナソール連合が何らかの理由で従来よりも融和的な外交に転換したと考えている。そして、日本との関係を必要以上に深めることはルナソール連合を刺激することになると考えているのではないか。日本政府はベスタ連邦がそのように考えていると予想している。

 つまり、日本とは程々の関係でお茶を濁しつつ、ルナソール連合との敵対を避けたいという考え方だ。幸いにもルナソール連合側から融和の使者を送ってきたのだから、ベスタ連邦がルナソール連合に膝を屈したのではないという形になるため、面子も保たれる。


「だとすれば、宗教キチの連中、離間工作でも仕掛けにきてんのか?」


 一連の話をかいつまんで和人から聞いた鉄平はそんな予想を立ててみる。それは日本政府の見解とおおよそ一致していた。

 日本政府はこれを反ルナソール連合勢力に対する切り崩し工作か、また別の策略であると考えていた。ベスタ連邦が考えているようにルナソール連合が本気で大陸東部諸国との敵対を避けるつもりならば、商業都市国家連合やフソウ皇国にもベスタ連邦と同様の対応を行うはずなのだが、そちらには一切のアクションはない。ルナソール連合が融和に舵を切ったにしては些か行動がちぐはぐなのだ。


 フソウ皇国も日本と同様の懸念を持っていた。即座にベスタ連邦にそれとなく警告もしてくれているようだが、向こう側に考えを変える様子はないという。後にメディアの取材において、「ベスタ連邦は昔より外交下手の気があったらしいが、これほどまでとは思わなかった」と、とある外務省職員は漏らすことになる。


「他所のことをあまりとやかく言えた口じゃないが、ウチよりも相当ひどいな」


 日本も外交下手だが、ベスタ連邦はそれを上回る考えなしだと和人は断じた。それには鉄平も同意せざるを得なかった。これまでルナソール連合に対抗するために協力してきたフソウ皇国の忠告にも耳を貸さないのだ。フソウ皇国側も相当困っていることだろう。


「これまでの話を聞いた限りだと、ベスタ連邦は獣人族の間で世界が完結しているのかもな。ルナソール連合が大きな脅威だったから仕方なく近隣の国々と協力していただけで、本来は内向きの国だったのかもしれない」


 極端な外交下手、独特な戦士文化、複数の獣人族による共同体。これらの特徴から和人はベスタ連邦に対してそのような印象を持っていた。

 ベスタ連邦は、複数の獣人族の間で結ばれた協定やら定例会議などが発展して緩やかに国家のような枠組みが形成されたのが始まりとされている。そのため、国内の獣人族の氏族間での利害調整や内政に重きを置いており、諸外国との外交面は二の次になっているのではないか。むしろルナソール連合に対抗するためにフソウ皇国や商業都市国家連合と手を組んで対処していたことの方がベスタ連邦の歴史では珍事だったのではないか。和人はそう考えていた。

 まぁ、これはあくまでも予想でしかない。ベスタ連邦も決して一枚岩ではないだろう。むしろ、各氏族間で意見がバラバラだと言われても驚かない。その設立経緯を見れば、強力な統一政府を持っている方が驚きに値するだろう。


「……今回も一筋縄ではいかなそうだな」


 どこか遠い目をしてそんなことを言う鉄平。和人も同じ感想を抱いていた。

 そして彼らの危惧の通り、このベスタ連邦への部隊派遣は大事件へと発展することになる。この時点で彼らには知る由もなかったが。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] オルメリア大陸諸国やフソウ皇国への各種軍事援助はどこまで現時点で進んでいるのですか。数話前でのバルツェルでの分析回では大陸諸国への武器援助は大型装備の供給がもう行う段階とあったのですが…
[気になる点] 艦隊派遣に際してのベスタ連邦内での情報収集とかの動きは無いんですかね?中央情報隊傘下の現地情報隊とか出せそうですが。 [一言] 新年明けましておめでとうございます。 >内務省直轄、聖…
[良い点] 更新乙です 一枚岩ではないルナソール連合、そしてアイドル団体ですか 傍迷惑な追っかけファンあたりが出てきて問題を起こすのか、それともアイドル自体に闇があるのか、ちと不安が煽られておりますな…
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