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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第一章
4/46

第4話

2034.3.24

日本国 東京

市街地

13:30 JST






 日本国東京都。この都市はこの世界では最大の都市である。一時期よりは人口は減ったとはいえ未だに1300万人を超える人口を誇る。経済に関してはむしろ活発化しており、前世界でも有数の経済大都市であった。

 同時に交通システムや土地利用の再開発も進んでおり、技術大国日本らしい近未来的な都市となっていた。とはいえ、目に見えて変わったかというと、そうでもない。外観では21世紀初頭とほとんど変わっていないのが実状だ。

 もっと分かりやすい変化を挙げるとすれば、自動車であろうか。日本を走る自動車の半分以上は水素燃料車や電気自動車、ハイブリッド車である。日本では新動力の自動車の普及が進んでおり、そういう意味では前世界ではトップを走っていた。

 さらには自動運転車や半自動運転車なども普及している。21世紀初頭に掲げられていた未来の世界に着実に近づいていることに違いはなかった。


 郊外を見てみると、やはりそちらも外観上ではそれほど進化していない。しかしながら電線が地下に敷設されている区画も増えており、微妙な変化も確かにある。


 そんな郊外のとある住宅街。その近くにある駅から1人の青年が出てきた。


 駅前はそれなりに人通りが多く、様々な商店も数多くある。建物の高さも高い。


「……久しぶりに帰ってきたな」


 青年……和人はそう言って僅かに口の端を上げた。彼はこの地の出身であり、休暇をもらって実家に帰ってきていたのだ。


「……さてと」


 和人はバスターミナルまで歩いていく。その中で見るこの街の光景は和人に『帰ってきたのだ』という実感を与える。よっぽど嫌な思い出がない限り、やはり長く暮らしていた地は安らぐものだ。


 幸いにもバスターミナルには目的のバスが停まっていた。駅前はバス路線の終点でもある。その逆もまた然り。そんなわけでそのバスは発車の時刻まで待機しているのだ。


 バスの席の感触も懐かしさを彷彿させる。最後に来たのはそれほど遠い過去の話ではない。しかしながら自衛隊の中でも特殊な部隊に所属していることもあってか、どうにも日常というものが遠い存在に思えてしまう。非日常が日常と化している者にとっては、世間一般の日常こそが非日常なのである。それ故の感覚のズレなのかもしれない。


 やがて、バスは発車時刻になって発車する。窓から見る景色は自衛官となる前には幾度となく見たものであったが、少し離れていた間に小さな変化はいくつもあったらしい。店舗が入れ替わったり、新しい建物ができていたり……と。

 そんな景色を後目に和人は自分の携帯端末を取り出してニュースサイトを覗く。この携帯端末はスマートフォンからそれほど進化したわけではない。相変わらずのタッチスクリーンだし、進化したのはデータ容量や通信能力、バッテリー関連である。それでもかなりの成長だと言えるのだが。

 ちなみに今の彼は私服姿である。帰省に制服を着用することは間々あるが、少なくとも和人の部隊ではそういうことはしない。


 ニュースサイトには最近のニュースがズラリと並ぶ。このサイトは政治的公平性を保つためか、同じニュースに対して複数の見方を示すことを必ず行っている。

 大手の新聞社は偏向が入ることがよくあるため、正直あまり信用できるものではない、と和人は考えている。最低でも主張の異なる2つの新聞社の記事を見なければ偏った情報しか得られないだろう。

 そして、この時代では情報偏向の危険性はある程度日本国民にも知れ渡っている。ある意味ではマスコミには辛い時代だ。それ故、今、和人が見ているような公平性を保とうとするニュースサイトが設立されたりするわけだ。そういうサイトはあらゆる政治的思想の人に受け入れられやすいだろうから。


 和人に言わせてみれば、政府の批判記事は大いに結構だ。しかしながら、それは国にとってメリットとなる批判でなければならない。'政府'ではなく、'国'だ。この'国'には日本国民も入る。本当に国民のためになる批判記事ならばいいが、あること無いこと並べ立てて混乱させるような記事を書く記者・新聞社は害悪にしかならない。

 まぁ、和人は陸上自衛官。政治的には公平でなければならない身分だ。そんなことは心の中だけに留めておくが。


 和人はニュース一覧の中でも気になるニュースだけを適当にピックアップして流し読みしていた。人によるとは思うが、大体の人間は全ての記事を一言一句丁寧に読まないのではなかろうか。あんまり興味のない情報を大量に仕入れたところで一体どうするのか、ということだ。

 和人がピックアップしたのは、やはり職業柄もあってか軍事関連や国際関係について。

 所詮は自分は駒でしかないことは承知しているが、だからといって何の知識もないことを良しとすることもない。最低限、'一国民'としての見識は持ち合わせておくべきである。……一部の人間は自衛官も'国民'であることを忘れていることもあるようだが、まぁ、そこは気にしても仕方のないことだ。


(……へぇ。ようやく契約が成立したのか)


 和人が見た記事には、大陸諸国が日本製兵器の導入を決定した、というものが載っていた。決まったのは銃などの個人装備であるが、他の兵器カテゴリーでも日本製に決まりそうな勢いであった。

 この武器輸出に関しては肯定的な意見も否定的な意見もあるが、どちらかというと肯定的な意見の方が多い。日本は過去に兵器輸出を行った例があり、もはや今更感がある。さらに大陸諸国の危機的状況も取り沙汰されており、それを考えると選択肢など元から存在しないようなものだ。否定的な意見に関しては、主に武器という武器を憎む平和主義者が言い出す程度のもの。バカにするわけではないが、和人にはどうにも彼らが現実を見ずに理想に生きているように思えてしまう。

 力を受け止めるには同質かつ同量以上の力が必要だ。迫り来る砲弾に対し、釈迦でもローマ法王でもいいが、高名な宗教家がそれはそれは素晴らしい感動的な説法を唱えたところで、その砲弾は弾き返されたりはしないし、その弾道が変わるわけでもない。

 逆もまた然り。宗教の力を武力だけで押さえつけるのも無理があるというものだ。一時的にはできたとしても、大して時を置かずして綻びが生じる。そう考えると宗教戦争のなんと不毛なことか。敵対する宗教勢力を武力で完全に屈服させることなどできもしないのに、自分の信じる神の加護があれば可能だと思い込んで命を捧げる。価値観の違いと言われればそれまでだが、もっとやり方があったのではないかとも思えてしまう。


 閑話休題。


 ともあれ、武器輸出は世論的にはそれほど反対意見が目立たないようだ。東シナ戦争以前では考えられないような流れである。さすがに世界有数の平和ボケ民族も、実際に国が目に見える危機に晒されることがあれば目覚めるようだ。


 次に和人が目をつけたのは、海上自衛隊のとある護衛艦についての記事。そのとある護衛艦とは、ながと型護衛艦と呼ばれる2隻の艦のことだ。


 ながと型護衛艦は『ながと』と『むつ』が存在する。その ながと型護衛艦の特徴と言えばステルス性を重視した独特のフォルム。その形状から『日本版ズムウォルト級』と呼ばれることもある。

 とはいえ、ながと型護衛艦はズムウォルト級駆逐艦とは異なる部分も多い。ながと型護衛艦はズムウォルト級駆逐艦ほど'無理'はしていないのである。

 ながと型護衛艦はDDM(多任務護衛艦)という新しいカテゴリーの護衛艦だ。イージスシステムを搭載しているため高い艦隊防空能力を保有し、トマホーク巡航ミサイルと2門の5インチ砲による対地攻撃能力も持つ。特に砲の方では、ロケット推進の誘導砲弾なども運用できる。さらには高い艦隊指揮能力に加えて電子戦能力もすこぶる高い。

 こう見ると、かなり革新的な艦艇に見えることだろう。しかしながら個々の能力を見てみると、実はそれほど時代を先取りしようとしているわけではない。様々な能力を1つの艦に纏め上げられたのは確かに素晴らしい点であるが、逆に言ってしまえばそれだけである。

 ズムウォルト級駆逐艦は新世代の先進的技術をあれもこれもと注ぎ込んだ高性能艦を目指して失敗した。しかし、ながと型護衛艦は今ある技術を統合的に纏め上げた高性能艦となっている。はっきり言ってしまえば見た目とは裏腹に保守的な艦なのだ。建造費も海上自衛隊のミサイル護衛艦よりはやや高額であるが、ズムウォルト級駆逐艦みたいな5000億円などというバカげた金額には程遠い。

 そんな ながと型護衛艦2隻はそれぞれ第3護衛隊群、第4護衛隊群の旗艦を務めている。


 和人が見つけ出した記事は、その ながと型護衛艦の改修に関してのものであった。


 この時代、レールガンというのはSFに登場する兵器ではなく、実際に存在する兵器となっていた。何を隠そう、この日本ですらも国産レールガンの研究を転移前からずっと行っていたのだ。

 そして今、国産レールガンは現実のものとなった。相変わらず低額な開発費でよくぞここまでやったものだと、和人は本気で日本の変態ぎじゅつしゃ達に敬意を払ったものだ。


 さて、そこで ながと型護衛艦の話に戻るのだが、実はこの ながと型護衛艦は未完成なのである。いや、それでは語弊がある。正しくは、ながと型護衛艦は将来的にレールガンを積むことを想定した設計を為されていたのだ。

 何ということはない、ズムウォルト級駆逐艦と同じ流れだ。対地攻撃能力の確保のために、いち早くレールガンを実用化したアメリカ軍はズムウォルト級駆逐艦のAGSをレールガンに換装していた。ながと型護衛艦も5インチ砲を国産レールガンに換装するのである。

 今回のニュースはその目処が立ったという話だ。


 日本の防衛環境は着々と変化している。時には急激に、時には静かに。和人はそれを再認識させられたような気分になったのだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 実家から最寄のバス停で降りる和人。ここまで来ると本当に落ち着く気分になった。

 ここら辺りはまだまだ変わっていない。そうそう変わるような場所でもないからであろう。

 和人は懐かしさを噛み締めながら実家への道を歩いていく。


 途中、公園の中で和人は知った顔を見つけた。久しぶりに顔を見かけた知り合いに和人は声をかけることにした。


「よう、美咲」


「ふえ?」


 スポーツウェアにテニスラケットのケースを肩にかけた状態でブランコに座っていた少女に声をかける和人。対する少女は和人の接近に全く気づかなかったようで、何が何やら分からない様子で和人の顔を見る。そして目を見開いた。


「カズ君!?」


「そんなに驚かなくてもいいんじゃないか?」


 思わず、といった様子で立ち上がる少女に和人は苦笑混じりにそう告げた。

 少女の方は和人の姿を認めた上で、何が何やら分かっていない様子だった。


 少女の名前は小鳥遊美咲たかなし みさき。ほぼ黒色だが、微妙に茶色がかった髪。それを今は後ろで小さくポニーテールのように束ねている。髪の長さ自体はそれほど長くない。顔立ちは童顔で可愛らしい。体格はどちらかというと小柄な方だ。

 クラスに1人はいる……かどうかは分からないが、大人しめな可愛い女の子、といった雰囲気だろう。


「えっと……か、帰ってきてたんだ……」


「今帰ったばっかりだけどな」


 和人はそう言って肩を竦める。

 2人は幼馴染みである。まぁ、世間一般の幼馴染み像からはズレた関係であるが。

 2人の家は隣同士であり、美咲の家は共働き家庭であった。美咲が小さい頃はよく和人が世話してやっていたのだ。

 そんなわけで、2人はそれなり以上に信頼関係を築いていた。


「で、ブランコに座ってどうしたんだ?」


「いや、別に……大したことじゃないよ」


 答える声は暗くはなかったが、和人から見ても彼女が無理しているように見え、とてもじゃないが何もなかったとは思えなかった。


「何か悩みがあるなら誰かに話してみろ。スッキリするかもしれない」


 そう言って隣のブランコに座る和人。それを視界の端に入れていた美咲は躊躇いがちにではあるが、その胸の内を打ち明けた。


「その……知ってると思うけど私、あんまり運動が得意じゃなくて。それでもテニスが好きだから頑張ってたんだけど……やっぱり全然強くなれなくてね」


 辿々しく言葉を紡いでいく美咲。


「それで、今日の練習試合で全部負けちゃって……。あはは……、勝敗だけが全てじゃないとは思うけど、ちょっとヘコむなぁ……と」


 無理して笑顔を浮かべる美咲。

 和人はブランコから立ち上がって、そんな様子の美咲の側に立ち、彼女の頭をポンポンと軽く叩いた。


「俺はテニスのことをあんまり知らない。だから技術的なアドバイスはできない。だけどまぁ……」


 和人は美咲の目を見て続ける。


「そうやって自省して、悔しいと思えるのならまだ伸びるよ。それができない奴は全く伸びないからな」


 悪いがこれしか言えない、と苦笑する和人。自他共に認める口下手な和人では、これが限界だった。


「……ふふっ、ありがとう」


 美咲はそんな和人に心の底からの笑みを浮かべて礼を言った。和人の言葉自体はそれほど深い意味があるわけではない。他の誰かだって思いつく程度のものだ。しかし、和人が美咲を励ますために考えたものだ。言葉自体ではなく、その奥にある心が美咲には嬉しかった。


「カズ君が帰ってるってことは、ヨシ君も帰ってるってことかな?」


「いや、俺は知らない。帰るときは家に連絡入れるだろうから、アイツは休暇じゃないんじゃないか?」


 美咲がヨシ君と呼んだのは、和人の弟である永瀬義人のことである。義人も陸上自衛隊に所属しており、曹候補生のコースで自衛隊に入った。今は三等陸曹である。

 冷静な性格な和人と違い、義人はどちらかというと熱くなりやすいタイプだ。その一方で女嫌い……というより、少し苦手としている節がある。義人はそんな男だ。


「そっかぁ……」


「まぁ、あいつが帰ってきたとしても美咲の前に出てくるかどうか……」


「あ、あはは……まだ女の子嫌いが治ってないんだ……」


 思わず乾いた笑みを浮かべる美咲。


「ああ。まぁ、あいつが女嫌いになった原因を詳しく調べると、なんか脱力してしまうけどな……」


「そうなの?」


「ああ」


 和人は頷いた。


「あいつ、中三の時に好きな子ができたらしくてな、思い切って告白したんだよ。そしたら、手酷くフラれたらしい」


「あらら……」


 美咲はそういうことに関してはほとんど経験がないため何とも言えないが、確かに精神的ダメージは大きそうだと思った。


「だが、それで話は終わらないんだ。実はその女の子、義人のことが好きだったらしい」


「へぇ……。……ん?」


 ここで話がおかしいことに気づく美咲。


「え、好きなのにフったの?」


「ああ。その子、明るいんだけど酷く初心だったらしくてな、気が動転して思わず……ってことらしい」


「うわー……」


 好きな人に告白されて、気が動転して手酷くフってしまうほどに初心ってどれだけ酷い初心っぷりだろうか。美咲はそう思い……途中でそれがブーメランであることに気づいて、内心で頭を抱えたくなってしまった。自分とてそういう経験がないのだから他人を悪く言えないと思ったのだ。


「その後、義人は女嫌いに。女の子の方も自分のやらかしてしまったことにショックを受けてしまったらしくて、しばらくは元気がなかったらしい。今は……どうなんだろうな?」


「うーん……さすがにそろそろ持ち直してるんじゃないかな?」


「だといいが、義人があのザマだ」


「ま、まぁね……」


 義人のことを持ち出されると苦笑せざるを得ない。見た目はそれなりにハンサムで男らしいところがあるのだが、意外にもメンタルが弱かった。厳しい陸上自衛隊の訓練をこなせることから、メンタルが弱いといっても一部分だけのようだが。


「それじゃ、そろそろ俺は行く。美咲は?」


「あ、私も一緒に帰っていいかな?」


「構わないぞ、大歓迎だ」


 和人は微笑を浮かべた。

 そして2人は仲良く帰路につく。道ですれ違った人々が皆、2人が恋人同士だと勘違いしていたことなど気づかないまま。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





2034.3.25

エルスタイン王国 王都

商業区

11:44 現地時間





 この日、エルスタイン王国王都の商業区では市が開催されていた。王都では毎月の末辺りに市が開かれるのが昔からの伝統であり、この市では生活雑貨や食料品、アクセサリーなどが通常の2割から4割引き程度で買えるのだ。


 そんな場所に2人の日本人が来ていた。どちらもスーツを着た男性であり、1人は50前後、もう1人は30前後といった風貌だ。

 彼らは日本のとある商社の社員である。エルスタイン王国の市場調査のためにこの市に来ていたのである。


「うーむ……。なかなかの盛況ぶりだな」


「そうっすね~……。ウチの取り扱う商品だと、ここら辺りではなくて4番区画辺りですかね?」


 市は複数の区画に別けられており、4番区画は美容品やファッションが多い区画だ。ちなみに、この2人が所属する商社は主に化粧品の国外流通も行う会社である。もちろん、それだけではないが、少なくとも彼らは化粧品の流通を行う課に所属している。


「エルスタイン王国の一般女性はそれほど化粧品には大金をかけない傾向にあるのでしたっけ?」


「正確にはかけられない……だな。この国は庶民の暮らしが厳しい。貴族連中は金をかけるようだが」


「だとすれば、市には安価な化粧品を流すしかありませんね。貴族には高級品がバカ売れしそうですが」


「まあな。だが、そちらはライバルも多い」


 貴族は金払いがいいため、彼らの商社以外にも販売している商社がたくさんある。そのため熾烈な競争と化している。しかしながら庶民に関しては、その母数の大きさからか、まだまだ販路を開拓できる状態にある。


「……まぁ、ここじゃ僕の奥さんが使っている普通の化粧品すら高級品になってしまいますがね」


「そう言えば、君のところの子供は何歳だったのかね?」


「上はようやく5歳ですよ。下が3歳ですね」


 上司に子供のことを尋ねられ、ニヘラとしただらしのない表情でそう言う部下。見るからに親バカの気がある。


「ウチの両親も孫ができて嬉しいみたいで、よく構ってくれてるんですよ。奥さんとも上手くやってくれてるみたいで、僕としては安心です」


「そうかそうか……。子育ては大変だが、頑張れよ。何だかんだ、子供がいないのは寂しいからな」


「課長のお子さんはもう独り立ちされてるのですか?」


「上は海上保安官になってるよ。下は警察学校に行っている。2人とも立派になったもんだ」


 仕事中だが子供談義になってしまう2人。どちらも親バカの気があるので気が合うのだろう。


 そんな時、部下がチラリと側をすれ違った人影に目を向ける。全身を外套に包み、顔をフードで隠した怪しい格好。

 その男は足早に市の人混みの中に消えていった。


「……今のは?」


「どうしたのかね?」


 自分の息子自慢を朗々と話していた上司が部下の様子に気づく。


「いえ、なんか怪しい格好をした人がいましてね。どっかに行っちゃいましたが」


「ふむ? こんなところで如何にも怪しそうな格好をした人間がいたのかね?」


「まぁ、そういうことになりますね」


 2人は首を傾げる。そんな怪しそうな格好をしていたら、むしろ目立つのではないか。部下がそう考えた時のことだった。

 突如として響く轟音。その音の発生源は2人のすぐ近くの露店だった。その露店がいきなり爆発して露店と露店商を吹き飛ばし、近場にいた人間を殺傷する。

 それは先ほどの2人の商社マンも同様だった。彼らもその露店のすぐ近くにいたのだから。彼らは何が起こったのかも分からないまま、爆発の威力と大量の破片をその身に浴びた。






 この日、エルスタイン王国王都の市にてテロが発生した。この際、日本人商社マン2名が巻き込まれて死亡した。日本ではその日の内にトップニュースとして全国に報道されたのだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




2034.3.26

日本国 東京

首相官邸

08:44 JST





 テロが発生した翌日、日本政府は国家安全保障会議を行った。この会議は総理大臣と防衛大臣、外務大臣に加えて陸海空自衛隊の幕僚長とその他有識者が参加する会議だ。何かしらの危機が訪れた際、臨時に行われるものである。


「……今回のテロ、自衛隊の方で何か掴んだことはありませんか?」


 長谷川 総理が深刻な表情で訊ねる。日本人が2人殺されているのだ、深刻にもなる。

 総理の質問には大岸 防衛大臣が答える。


「諜報部からの報告だと、今回のテロは西部諸侯のシンパが起こしたものである可能性が高いそうだ。さらに国籍不明の人物と西部諸侯のトップクラスの要人が接触した可能性も前に示唆されていた。……これはもしかすると……」


「バルツェル共和国の差し金、ですか?」


「その可能性がある。連中、もしかしたら準備が整ったのかもしれん」


 大岸 防衛大臣は苦虫を噛み潰したような表情をする。


「総理、自衛隊の全部隊を戦闘可能態勢に移行させることを了承してほしい」


「……分かりました。許可しましょう」


 自衛隊の全部隊が命令を受ければすぐに動ける態勢にする。それを行うことは、つまりは政府が戦争を意識していることの証左でもある。メディアが食いつきそうなネタだ。

 全くの平時ならばやりたくないことだが、今回ばかりは警戒するに越したことはない。本当に何か大事が起きるかもしれないからだ。


「しかし……未だに犯行声明を出さないとは……。いったい何を考えているんだ……?」


 普通は犯行声明はテロを起こしたすぐ後に出すものだ。テロとは主義主張を行うために、民間人に対して暴力を振るうものなのだから。


「ただのテロではないのかもしれません。……キナ臭くなってきましたね。とりあえず、外務省は在エルスタイン王国の邦人を呼び戻し、同国への渡航を禁止してください」


「了解しました」


 日本国外務大臣の住田洋介すみだ ようすけは真面目な表情でしっかりと頷いた。



 しかしながらこの後にもテロは続いた。そのせいで不幸にもさらに1名の日本人が犠牲となってしまった。

 これらのニュースの影響で日本国内ではテロに対する敵愾心がかつてないほどに急速に膨れ上がっていくのだった。






最後の方は展開を急ぎすぎて描写が足りなかった感じがしますね。反省せねば……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本の武器輸出がほぼ既定路線化。まあ中東にトヨタのトラックだのランクルだの輸出したり、最近では某永久凍土の国のドローンに日本製原動機とか電子部品が使われていたりと、今更感しかありませんが。…
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