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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第二章
39/46

第7話

 






「ニホン海軍における脅威を海上戦力、海中戦力、航空戦力に大別して報告をします。まず、海上戦力についてですが、こちらの資料をご覧ください」


 用意された資料の中には、様々な海上自衛隊の護衛艦の写真が掲載されていた。多くが雑誌から収集されている辺り、バルツェル共和国の諜報関係がどれだけ情報収集に苦慮しているのかが分かる。


「ニホン海軍では主力艦は全て護衛艦で統一されていますが、その規模や能力は様々です」


 自衛隊は主力戦闘艦を護衛艦としているため、バルツェル共和国からしたら、それらを自らの尺度からクラス分けする必要があった。


「我々は、便宜上、ニホン海軍所属の戦闘艦艇を次のページのようにカテゴライズしています」


 そうして、リーリアやクーホルン少佐がページを捲る。


 そこには、航空母艦、大型巡洋艦、防空巡洋艦、駆逐艦、フリゲートとあった。


「ちなみにですが、ニホン海軍におけるフリゲートは我が軍の駆逐艦よりも大型で、戦闘能力も極めて高いことが確認されています」


 海上自衛隊が保有する護衛艦の中で、フリゲートクラスと言われているのがFFMの艦種記号を冠する もがみ型護衛艦だ。これは基準排水量で3900t、満載排水量で5000tを超える。武装も一通り揃っており、性能としては前世界においても一線級であった。

 ちなみに、バルツェル共和国海軍の駆逐艦は満載排水量でも3000tを超える程度で、海上自衛隊のフリゲートの方が排水量でも上回っている。


「今回はニホン海軍水上戦力において、特に脅威度の高い兵器に限定して紹介したいと思います」


 海上自衛隊の兵器は、極論すれば全てが脅威である。しかしながら、それではあまりにも長くなるため、今回は特に脅威度の高い兵器に限定したのだ。


「まずは航空母艦からご説明いたします。おそらく、皆さんには聞き慣れない艦船であると思われます」


 軍事部門室長の言葉に頷くリーリア。彼女は航空母艦というのは聞いたことがなかった。それはクーホルン少佐も同じであったが、彼の方はどういうものかだいたい予想がついているようで、僅かに苦笑いを溢していた。


「まず、ニホン海軍の艦艇の多くは回転翼機……ヘリコプターの運用能力を有しております。そういう意味において、ニホン海軍の戦闘艦艇が航空機の運用能力を保有していることは珍しいわけではありません。ですが、ニホン海軍には航空機の運用に特化した艦艇が存在します。それが航空母艦と呼ばれる艦艇です」


 そう言って次のページに進むように指示する軍事部門室長。言われた通りにページを捲ると、そこには航空母艦から固定翼戦闘機が発艦する写真が掲載されていた。……ちなみに、これも大陸の日本勢力圏内で販売されていた軍事雑誌から切り抜いたものである。


「この航空母艦には、ヘリコプターを運用するヘリコプター航空母艦と、固定翼機も運用できる航空母艦があります。ニホン海軍はヘリコプター航空母艦を2隻、小型の航空母艦を2隻、大型の航空母艦を2隻の計6隻保有しています。また、最新の情報では、さらに大型で原子力機関を搭載した航空母艦の建造も計画されているとのことです」


「では、将来的には8隻体制となるわけか?」


 クーホルン少佐の問いに頷く軍事部門室長。


「ニホン海軍は最近になって新型航空母艦2隻、新型防空巡洋艦2隻、新型駆逐艦10隻の建造計画を発表しました。詳細は未だに不明なものの、大幅な戦力強化になることは確かです」


 先の戦争において、絶大な戦闘力を見せつけた敵が、今後もさらに強くなっていく。そんな話を聞かされて唖然としてしまうのも仕方のないことだった。


「報告を続けます。ニホン海軍のヘリコプター航空母艦、小型航空母艦、大型航空母艦はそれぞれ同型艦で、前から順番にヒュウガ級、イズモ級、ショウホウ級と呼ばれています」


 海上自衛隊に在籍している航空母艦と呼んでも良い護衛艦は、ひゅうが型と いずも型、しょうほう型である。いずれもバルツェル共和国軍からすれば強力な敵であった。


「まず、ヒュウガ級ヘリコプター航空母艦ですが、この艦には対潜水艦作戦用の哨戒ヘリコプターが搭載されています。よって、この艦の任務は哨戒ヘリコプターを多数運用して、艦隊に接近する敵潜水艦に対する索敵と排除となります」


「ふむ。……この艦の対潜哨戒能力はどれほどなのだ?」


「ヒュウガ級自体の対潜哨戒能力は優秀ではあるものの、特筆すべきところではありません。真に警戒すべきは、搭載する哨戒ヘリコプターによって形成される対潜哨戒網であり、我が軍の潜水艦が下手にニホン艦隊に近づけば、逆襲に遭ってしまうことは明白です。さらに、ヒュウガ級は優秀な対空警戒能力を有しており、後述の防空巡洋艦と共にニホン海軍の中核的な艦艇のひとつです」


 クーホルン少佐の質問にそう答える軍事部門室長。ひゅうが型護衛艦は日本初の全通甲板型ヘリ空母であり、日本の空母保有への第一歩とも言えた。海上自衛隊の対潜哨戒能力は前世界においてもトップクラスであり、その能力の一端を担っていた ひゅうが型はこの世界においても強力な艦艇である。


「続いてイズモ級航空母艦です。イズモ級は元々、多目的用途で運用できるヘリコプター航空母艦として建造されました。しかし、安全保障環境の変化から、イズモ級は改修を受けて10機以上の固定翼戦闘機の運用ができるようになりました。現在では、ヘリコプターを運用するヘリコプター航空母艦としての任務と、固定翼戦闘機を運用しての艦隊防空任務を担っています。状況によって、どちらの任務を担うかは変わってくるそうです」


「戦闘機は常駐しているわけではないのか?」


「はい。戦闘機自体はニホン空軍の所属機で、必要に応じてイズモ級に搭載して運用するようになっています。この戦闘機は特別製で、短い滑走路で離着陸ができるとされており、イズモ級での運用以外にも、長い滑走路が存在しない離島における防空任務にも活用されています」


 いずも型護衛艦に搭載しているのはF-35B戦闘機だ。これはSTOVL(Short Take Off and Vertical Landing)機と呼ばれる機体で、短距離離陸と垂直着陸が可能であるため、カタパルトやアレスティングワイヤーが無い いずも型でも戦闘機が運用可能なのである。


「そして、ニホン海軍最大規模を誇る艦艇がショウホウ級航空母艦です。こちらは建造当初より固定翼機の搭載を前提に建造されており、そのための様々な装備が搭載されています。この艦艇に搭載される航空機は60機以上と言われており、その戦力は計り知れません。また、こちらの戦闘機はニホン海軍が保有する戦闘機となっています」


 しょうほう型護衛艦は戦闘機の搭載を前提とした、海上自衛隊初の本格的な航空母艦である。搭載する航空機はF-35C戦闘機やF-3B戦闘機、E-2E早期警戒機といったものから、JRQ-1無人偵察機といったものまで運用している。


「イズモ級よりもさらに大型なショウホウ級は、艦隊の防空任務だけでなく、敵地深部への航空爆撃作戦にも投入されます。このショウホウ級の恐ろしい点は、ニホン軍の強力な航空戦力を海上からまとまった数を投射できるところにあります。ニホン軍戦闘機は制空能力・対地攻撃能力共に我が軍の航空機を上回っており、それを言わば海上を動く航空基地である航空母艦から投射されるというのは、我が軍にとっての悪夢です」


 これはリーリアにもその恐ろしさが理解できた。

 日本の戦闘機がバルツェル共和国軍の戦闘機を圧倒するのは、先の大戦で明らかとなっている。しかし、航空機の運用というのはなかなか難しいもので、航空基地から一定範囲内の地域でしか活動できない。

 つまり、日本の戦闘機の戦闘行動半径よりも外側は日本による軍事的圧力が大幅に低下するわけだ。……まぁ、空中給油機によって行動半径を延長できるので、実際はそれほど低下しているわけではないが。

 だが、この航空母艦はどうだ。そもそも航空基地が海上を縦横無尽に動き回っているようなものだ。これでは行動半径の外であれば安全であるという前提が成り立たない。


「ニホン海軍はこの航空母艦……通称空母を中核とした戦力を整備しており、空母を主軸とした艦隊を‘空母打撃群’とも呼称しております」


 海上自衛隊は現在、第1護衛隊群と第2護衛隊群を空母打撃群、第3護衛隊群と第4護衛隊群を水上打撃群としているが、次期中期防衛力整備計画において、2隻の原子力空母が配備され、それをもって4個空母打撃群を形成する計画である。


「また、これらの航空母艦を含む艦隊全体を守るために配備されているのが防空巡洋艦です。こちらはイージスシステムと呼ばれる戦闘システムを搭載することからイージス艦と呼ばれることもあります。なお、ニホン海軍ではミサイル護衛艦という呼称を用いております」


 次のページに進むと、大型巡洋艦(多任務護衛艦)と防空巡洋艦(ミサイル護衛艦)の資料が掲載されていた。


「ニホン海軍において防空巡洋艦は8隻存在しますが、2隻存在する大型巡洋艦も防空巡洋艦同様の防空性能を有しており、それを含めれば10隻の高い防空性能を誇る艦艇が存在することになります」


 ながと型多任務護衛艦は、ミサイル護衛艦としての能力も持ち合わせた艦艇だ。そのため、防空能力もすこぶる高いと言われている。


「この防空巡洋艦ですが、極めて優秀なレーダーと多数の長距離対空ミサイル、そして高性能なコンピューターによる処理によって高い防空能力を発揮します」


「優秀なレーダーというのは、実際どれほどの性能が?」


 気になったのか、リーリアが尋ねる。


「全方位を半球状に数百km以上、あるいは1000kmにも達する探知距離があり、同時に数百の目標を捕捉し、12から16個以上の目標に対して攻撃を行うことが可能とされています」


「それは……」


 すごい、というよりも次元が違いすぎて頭の中で理解が追いついていなかった。

 しかし、この情報も実は古い。海上自衛隊のミサイル護衛艦はSM-6ミサイルを使用できるように建造・改修されており、SM-6はイルミネーターに対する負荷が軽減されている(あるいは、イルミネーター無しでも動作するようになっている)ため、同時対処数はさらに増えている。


「ニホン海軍が装備する対空ミサイルは優秀であり、そのレーダー性能も相まって、その防空能力は現在のバルツェル共和国海軍の装備では突破は困難です。また、データリンクと呼ばれる情報共有システムにより、味方艦が発射したミサイルの誘導を担ったり、あるいはミサイルの誘導を前線の味方航空機に移管することも可能とされています。それによる戦闘効率の上昇も考えると、ニホン海軍1個艦隊で我が軍の海上戦力の戦闘能力を上回る恐れがあります」


 軍事部門の海上自衛隊の解析結果は苛烈だった。たった1個護衛隊群がバルツェル共和国海軍の全体の戦力を上回るという解析結果すら出しているのだ。バルツェル共和国海軍の将兵からしたら、ショッキングでは済まないことだろう。

 しかし、先の大戦で実際に海上自衛隊と戦った海軍将兵達には理解できるかもしれない。彼らから見た海上自衛隊も、その解析結果に納得してしまうくらいには恐ろしい敵であった。


「次はニホン海軍の駆逐艦について報告します。ニホン海軍の駆逐艦は全て満載排水量にして6000t以上で、一昔前の軽巡洋艦並みの規模があります。ニホン海軍主力艦隊におけるワークホースとなる駆逐艦には、対空・対艦・対潜とバランスの良い戦闘能力が付与されています」


 資料内には実に様々な駆逐艦(汎用護衛艦)の写真が掲載されていた。リーリアのような素人目には全て同じに見えるものの、性能には世代差もあれば、多少の方向性の違いもあるらしい。


「例えば、このアキヅキ級駆逐艦を始めとする防空能力に重きを置いた駆逐艦は、僚艦防空能力を有し、その性能はコンパクト化した防空巡洋艦とも呼べる代物になっています。その一方、アサヒ級駆逐艦のような対潜能力を強化した駆逐艦も配備されています」


 それ以外にも、むらさめ型から あさひ型までの第2世代汎用護衛艦の次の世代、第3世代汎用護衛艦も現在12隻配備されている。それが しまかぜ型護衛艦と かげろう型護衛艦だ。

 前者は海上自衛隊の規模拡大に合わせて8隻建造されており、あらゆる任務に対応できる汎用性を重視しつつ、従来型から全体的な能力向上を図っている。

 後者は あきづき型と同じく防空能力に秀でた護衛艦で、あきづき型の能力向上モデルと言っても過言ではない。基礎的な処理速度の向上、レーダーレンジの長大化、遠方の敵ステルス機を探知できる新型の対ステルスレーダーの搭載などが為されている。

 ……ちなみに、FFMと第3世代DD、さらに航空母艦や多任務護衛艦が同じ20年代に次々と建造されたため、日本国内の護衛艦建造能力は限界まで使用された。東シナ戦争後、アメリカ海軍第7艦隊がハワイとグアムまで後退し、シーレーン防衛の重要度も高まったため、自衛隊や日本政府も戦力拡大に必死だったのだ。その時の様子をとある新聞では、「戦争は終わったのに、戦時中のように造船所は忙しい」と皮肉っていた。


「ニホン海軍の艦艇は全てミサイル運用を前提に置いており、駆逐艦も例外ではありません。高性能な対空ミサイルや対艦ミサイルはもちろんのこと、対潜用のミサイルのようなものも装備しているようです」


 対潜用のミサイルというのは07式SUMのことだ。これは弾頭に短魚雷を積んでおり、VLSから発射して敵潜水艦付近に着水、短魚雷が敵潜水艦を撃沈するというものである。


「そして、先ほども申し上げましたが、ニホン海軍は新型駆逐艦を10隻建造する計画を立てています。それに応じてニホン海軍の ムラサメ級駆逐艦、タカナミ級駆逐艦は退役となるとされていましたが、最新の情報だと、退役したこれらの駆逐艦に艦齢延命工事と一部改修を行った上で大陸諸国に売却しようという動きがあるようです」


「ニホン製の高性能艦が大陸国家の手に渡れば、我が軍とて迂闊に手出しできなくなる……。ニホンの狙いは、自身の影響下にある大陸諸国を戦略的な縦深にし、各国の兵器市場への参入と影響力の確保、か」


 クーホルン少佐はそのように分析した。そして、その大部分は当たっていた。無論、クーホルン少佐が考えた日本の狙い以外にも、実際には様々な思惑が働いているが。

 ともあれ、むらさめ型や たかなみ型が大陸諸国に引き渡されることがあれば、バルツェル共和国軍としてはやりにくい。さすがに一部の機密に相当する部分はオミットもしくは簡易化されるが、それでも大陸水準はおろか、バルツェル共和国の水準をも超える強力な戦力だ。

 これら自体が相当な脅威となるのは当然のこと、これらの運用を通じて大陸諸国の海軍は先進的な戦闘艦の運用ノウハウを効率的に学べる。自衛隊との訓練や交流もあることを考えれば、バルツェル共和国海軍が大陸諸国の海軍に追いつかれ、あるいは質において上回られることも考えうる。これが悪夢と言わずして何と言えばいいのか。






「続いて海中戦力……つまり、潜水艦についてです」


 軍事部門室長はそう言って、潜水艦に関しての報告を始める。


「ニホン海軍の潜水艦戦力は、水上主力艦隊と同等、あるいはそれ以上の脅威であると私は考えています」


 軍事部門室長の言葉に、リーリアは思わず息を呑んだ。今までの水上艦に関しての内容だけでも絶望的な差を感じざるを得なかった。だが、軍事部門室長がそれ以上だという潜水艦戦力。リーリアは知りたいような、知るのが怖いような、微妙な気分になってしまった。


「まずニホン海軍の潜水艦には二種類が存在します。それが通常動力型のディーゼル潜水艦と、原子力機関を有する原子力潜水艦です」


 最近まで海上自衛隊が運用する潜水艦はディーゼル潜水艦だけだったが、今年になってから原子力潜水艦が就役している。計画と建造自体は転移前から行われていたが、ようやく戦力化が完了したのだ。


「まず通常動力の潜水艦ですが、ニホン海軍の潜水艦は非大気依存機関もしくはバッテリーによる静粛航行が可能とされています。光の届かない海中では、音によって敵を探知します。その点において、静粛性が高いということは極めて脅威となります」


 潜水艦はアクティブソナーとパッシブソナーを装備しており、音を使って敵を発見している。

 この内のパッシブソナーは、周囲の音を収集して解析し、敵を探知する装置である。静粛性が高いと、このパッシブソナーにかかりにくく隠密性が高くなる。日本の潜水艦はこの点で非常に優れているのだ。

 バルツェル共和国海軍の潜水艦は前世界では一般的な性能であったが、海上自衛隊からすれば銅鑼鐘を鳴らしながら航行していると揶揄されるほどの騒音を撒き散らしている。そんな潜水艦など、海上自衛隊の潜水艦からすれば的そのものと言えた。


「また、ニホンは吸音タイルなどの技術も優れていて、ニホン海軍の潜水艦はアクティブソナーに対しても一定の対策が為されているようです」


 少なくともバルツェル共和国海軍の潜水艦には、有効なアクティブソナー対策は為されていない。そういった点でも相当な不利を背負っている。


「そして、ニホン海軍の原子力潜水艦についてですが、こちらに関してはあまり多くの情報が開示されているわけではなく、我々としても実像を掴みかねている状況です」


 原子力潜水艦は今年に就役したばかりだ。運用には慎重になっており、自衛隊・防衛省は情報開示に積極的な態度を示していない。


「ニホンの軍事評論家の見解によれば、ニホンの通常動力潜水艦に比べて機動力と武装に優れており、敵地深くまで浸透して偵察・攻撃・通商破壊などに投入されるのではないか、とのことでした」


 民間の一軍事評論家の見解に過ぎないが、それでも今の情報が足りていないバルツェル共和国軍にとっては金言でもあった。もっとも、それを知ったからといって有効な対抗手段を編み出せるかどうかは別問題だが。


「我々軍事部門の解析では、ニホン海軍の潜水艦1隻が我が軍の主力艦隊に忍び寄れば、艦隊が半壊させられる恐れがあるという結果に至りました」


 たった1隻の潜水艦によって艦隊が半壊する。一般人からすれば「何をバカな」と言いたくなるが、なにも突拍子もない予測ではないのだ。日本の潜水艦にはそれくらいのポテンシャルがある。なにせ、バルツェル共和国海軍は先の大戦において、海上自衛隊の潜水艦の影も捉えることが叶わなかったのだから。


 そうなると、軍事部門室長の警告も理解できる。どこにいるのか分からない致命的な敵がいるというのは、それだけで作戦の幅を狭め、余裕を失わせる。そういう観点から見れば、確かに日本の潜水艦隊は護衛隊群以上の脅威とも考えられる。




「最後に航空戦力についてですが、ニホン海軍はほとんどの戦闘艦に哨戒ヘリコプターを搭載しており、対潜哨戒などに使用されています。また、前述のヒュウガ級のような艦もあるため、ニホン艦隊の対潜能力は極めて高く、我が軍の潜水艦では近づくことすらできません」


 海上自衛隊の対潜哨戒能力は前世界においても極めて高い水準にあった。この世界では追従できる国は無いと言い切れる。


「さらにニホン海軍は固定翼の艦上戦闘機を運用していますが、こちらはニホン空軍の報告の方にまとめさせていただきます。ニホン海軍の航空戦力で、より特徴的で強力な部隊が存在します。それが哨戒機部隊です」


「哨戒機……?」


 リーリアは首を傾げる。哨戒機の意味が分からないわけではない。それが強力な部隊、ということが理解できないのだ。リーリアの中では、哨戒機というのは偵察用の機体で、直接戦闘能力はあまり高くないというイメージなのだ。


「ニホン海軍の固定翼哨戒機は、名前こそ哨戒機ですが、実のところは多目的攻撃機と呼ぶべき兵器です」


 軍事部門室長は海上自衛隊の哨戒機をそのように評価した。


「ニホン海軍は哨戒機を約100機保有しており、僅かに残る旧式のP-3C哨戒機以外は、新型のP-1哨戒機となっています。これらの機体は、主に対潜哨戒と対潜攻撃を任務としていますが、対艦攻撃兵装の搭載も可能です」


 海上自衛隊は規模拡大、シーレーン防衛の強化、海外派遣の増加によって哨戒機の定数を約100機にまで増やした(もとい戻した)。

 そして、その哨戒機は対潜哨戒任務を主任務としているが、対艦ミサイルを多数搭載することも可能だ。そして、自衛隊の対艦ミサイルに対して、バルツェル共和国海軍は無防備であると言っても過言ではない。


「ニホン製の対艦ミサイルによる攻撃を受けた場合、我が軍の艦隊は壊滅的な打撃を受けるでしょう。ニホン海軍の哨戒機は強力な対艦ミサイルを4~6発程度搭載できるとの情報もあり、それが事実であれば、僅か数機の哨戒機によって艦隊が文字通り全滅することすら考えられます。このような点から、ニホンの勢力圏内に艦隊を派遣することは極めて危険であると言えます」


「……分かっていたことだが、我々とニホンの間には、恐ろしいほどの差があるな」


 クーホルン少佐は苦々しい表情でそう言った。

 これまでの情報を総括すると、とても日本相手に純軍事的に対抗できるとは思えなかった。バルツェル共和国が亡国と化していないのも、大きな犠牲を重ねてまで潰すほどの価値や脅威を日本がバルツェル共和国に対して感じていなかったからに他ならない。


「この世界において、海軍力は前世界よりも大きな意味を持ちます。私個人としては、海軍力の増強を優先することも一考の価値があると考えています」


 軍事部門室長はそう考えを述べた。世界中に散らばる資源をどれだけ確保できるかによって、これから先の発展や国力の伸びが大きく変わってくる。それに大きく寄与するのは海軍力であると軍事部門室長は考えているのだ。その点においては、クーホルン少佐も同意見であった。


「また、ニホンにはニホン海軍以外にも海上保安庁と呼ばれる組織が存在しています」


「海上保安庁……?」


 リーリアは聞き慣れない名前に首を傾げた。


「この組織は、いわば海の警察組織です。海上を巡視し、不明船の取り締まりや捜索・救助活動を主任務としています。こういった組織も、海の覇権を握るためには必要になってくると私は考えています」


「実際の能力はどうだ?」


 クーホルン少佐は海上保安庁の能力について尋ねる。


「武装自体は軽装です。最も強力な装備でも40㎜機関砲程度に抑えられています。ですが、任務内容を考えると十分な武装と考えられます。また、水上哨戒能力は極めて高く、下手に工作船をニホン本土に送りつけたところで、瞬く間に海上保安庁の巡視船に発見されるでしょう。実際に海上保安庁は敵対国からの工作船を拿捕したり、抵抗された場合には撃沈した実績を持っています。それ以外にも高度なレスキューチームも存在しており、平時においてはニホン海軍以上に活躍していると言えます」


 その内容を聞いてクーホルン少佐も海の警察という表現に納得した。そして、これから先、日本と矛を交えずとも睨み合う冷戦が起きることは明白だ。その際に発生するだろうグレーゾーン事態への対応にも有効だろう。‘軍隊ではない武装組織’というのは、政治的にデリケートな場合には役立つこともあるのだ。





「では、続いてニホン空軍についての報告を行います」


 軍事部門室長がそう言うと、再び場が静まる。先の大戦において、自衛隊の航空戦力は恐ろしいほどの力を見せつけている。バルツェル共和国空軍の精鋭達が、まるで標的にしかなっていなかったと巷にすら漏れ伝わっている。

 陸・海に続き、こちらも決して軽視できる内容ではないだろう。





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― 新着の感想 ―
[一言] 兵器の紹介が長すぎる
2020/03/27 07:31 退会済み
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