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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第二章
37/46

第5話

お待たせしました。

本当はもっと早く更新したかったんですが、思うように執筆が進みませんでした(´・ω・)

なので、執筆が進まなかったところをバッサリとダイジェストにして、次の段階へ移行しました(笑)

あと、設定を変更した点があるので、気になる方は第2章第1話の前書きを見てください。正直、あんまり気にしなくても大丈夫ですけど。

……やっぱね、ややこしくなるから、思いつきで設定をこねくりまわしちゃいけないってことですね(´・ω・)

 





 日本・オルメリア大陸諸国とフソウ皇国は、それぞれの間で国交条約を樹立した。国交交渉の内容は基本事項は統一してあるが、細かいところに各国で差異があったために交渉期間はそれぞれで異なっていた。

 いずれも然程揉めなかったため、全ての国交条約が足を揃えて11月1日付で署名されることとなった。


 また、フソウ皇国は日本が主導する国際貿易条約に加盟することを求められ、それに応じた。この国際貿易条約とは、日本がオルメリア大陸諸国との間で締結した、国際貿易に関する基本事項を定めた条約である。

 基本的には自由貿易、公平な貿易の実現を目的とし、過度な関税をかけることを禁じるなどの措置を取り決めている。

 とはいえ、一部日本に有利な条項もある。例えば域内の基軸通貨は日本円と定めていたり、日本の知的財産権は手厚く保護されていたりする。

 日本・オルメリア大陸諸国はこの条約に沿って貿易を行っているため、フソウ皇国にも批准を求めたのだ。フソウ皇国も先進諸国との交易は利益になるので、進んで条約に署名した。


 一方、フソウ皇国側はインフラ開発支援と技術支援、軍事同盟の締結を日本側に求めた。


 インフラ開発支援に関しては、日本側が円借款を行って日本企業に受注させる流れで合意した。

 内容については、フソウ皇国首都オノゴロの貿易港の開発、フソウ皇国内の主要都市間の交通網の整備が挙げられる。円滑な貿易のためにも、フソウ皇国内のインフラ整備は必要だというわけだ。そして、東京・大阪の再開発事業が一段落しつつあった日本の建設業に新たな仕事を与えるためのものでもあった。


 技術支援にしても、日本には技術流出を防止する法律が既に整備されていたが、それに抵触しない範囲での支援が行われることで両国間で合意していた。これでもフソウ皇国にとっては大きな益となる。


 最後に軍事同盟についてだが、当初、日本側は同盟の締結には慎重な態度を示していた。

 というのも、フソウ皇国は既にルナソール連合から圧力を受けているのだ。日本が負うリスクに対して、フソウ皇国を守ることで得られるメリットが少なすぎた。

 フソウ皇国の人口はわずかに150万人。市場としての魅力はあまりない。地政学的には、ネルディス大陸へ影響力を及ぼす橋頭保としての価値はあったが、それだけだった。


 しかし、いくつかの事情により、日本はフソウ皇国との防衛協定という形で了承することになった。


 その内のひとつが、フソウ皇国内で発見された資源だ。なんと、フソウ皇国北方で複数種類のレアアースが発見されたのだ。日本の資源状況があまり芳しくないことを考えれば、これらの確保は優先度が高い。

 フソウ皇国はこの資源を担保にする形で防衛協定と経済支援を日本から引きずり出すことに成功した。


 そして、これに関連することであるが、日本政府やオルメリア大陸諸国政府はネルディス大陸への進出をより本格化することを考え始めている。無論、進出は慎重に行う必要がある。その上で、進出を行う必要性を感じているのだ。

 なにせ、ネルディス大陸は魔法があるとはいえ文明レベルが中世水準。つまり、ネルディス大陸には手つかずの資源が多く残っていることが考えられるのだ。この世界は前世界に比べて資源のパイが少ない。資源島なども転移してくるが、いつどこに来るかも分からないそれに依存するわけにもいかない。そのため、各国はネルディス大陸での資源確保を目標として動こうとしていた。


 さらに、だ。日本がネルディス大陸に目を向ける理由がまだある。それはバルツェル共和国の動きだ。

 バルツェル共和国も既にネルディス大陸の存在を確認したらしく、進出の動きを見せていた。彼らは日本との戦いで失われた植民地を補填するために、新たな植民地を得ようとしているのだろう。その動きをただ見ているだけというわけにはいかない。バルツェル共和国のネルディス大陸での活動を監視し、なおかつ牽制する意味でも一定の進出は必要であると判断された。


 しかし、先も言ったが、進出は慎重に行わなければならない。ネルディス大陸にはルナソール連合とガルガンティル帝国という、二大問題児勢力がいるのだ。それ以外にもちらほらと問題のある勢力がいる。

 それに配慮して当面はフソウ皇国と主に交流し、フソウ皇国とも関係が深いベスタ連邦と商業都市国家連合ともフソウ皇国の仲介の下、国交樹立と交流を行うことを方針として定めた。逆に言えば、それ以外の国家・勢力に対しては様子見を行う。


 日本が現状で最も注視しているのがルナソール連合の動きだ。ルナソール連合はフソウ皇国を含む周辺国に対して改宗要求を行っている。

 そんな中でフソウ皇国と防衛協定を結ぶことになったのだ。ルナソール連合との争いに巻き込まれるとの批判もあったが、日本政府はそれでもこの方針を撤回しなかった。


 それほどまでに今の日本にとって、レアアースという資源は魅力的であったのだ。資源島とオルメリア大陸だけで、前世界と同等水準の資源供給を行うことなど不可能だ。一部の資源は供給が未だに足りていないし、代替材の開発を余儀なくされている分野もある。比較的供給が安定しているコモンメタルにおいても、供給源の多様化はより安定した供給のためにも必須であった。


 さらに、その方針を後押ししたのがネルディス大陸圏において日本が最大の脅威と認識していた魔法の調査が進んだことだ。


 結論として述べるのなら、中世としては脅威的な力であるのは変わりないものの、現代日本にとっては極度に恐れる必要はないものだった。


 まず、直接攻撃的な魔法についてだが、これは一定の脅威となる。よく使われる攻撃手段が火炎弾を形成して放つ魔法であるが、これは歩兵に対しては有効だ。射程は100m程度であり、人一人を殺すには十分な威力を持つ。

 しかしながら、それだけだ。装甲化された車両はもちろんのこと、非装甲車両に対しても大した威力は発揮しない。質量が極小(ほぼゼロ)であるため、可燃物への引火や生身への直撃を避けられれば大きなダメージを負うことはないのだ。


 次に幻惑魔法などの妨害系魔法についてだ。これに関しては日本人、オルメリア大陸諸国の人々には全く問題にならなかった。このタイプの魔法は相手の体内にある魔素に作用して効果を発揮するという仕組みらしく、そもそも体内に魔素を取り込むことができない科学文明諸国の人々には通用しないことが分かったのだ。

 これが判明した時、フソウ皇国の魔法部隊は顔を真っ青にしたという。

 というのも、ネルディス大陸における魔法は直接戦闘には不向きなのだ。威力、射程は普遍的に使用されている弓よりも大きいが、そもそも数が用意できない上に高価な装備を必要とするために、結果として弓兵に軍配が上がる。

 魔法が真価を発揮するのは、妨害系魔法を用いた諜報分野での利用だ。ネルディス大陸では魔法の発明以降、魔法使用を前提とした諜報・防諜体制を築いてきた。魔法に依存した体制になってしまっているのだ。そのため、魔法が効かないとあれば諜報関係はお粗末そのものであり、科学文明の諜報活動に対しては極めて脆弱と言えた。


 最後に伝令魔法などの通信魔法だが、これも中世としては極めて強力な力と言えるだろうが、現代日本や近代文明のオルメリア大陸諸国にとってすれば、やはり大したものではなかった。たかだか一文を送るために伝令魔法を使用した者の体力を大きく消耗させる必要があるのだから、やはり無線に代わるものにはなり得ない。


 何よりも、魔法は誰にでも使えるわけではなく、使用するには高価な魔法装備と魔石が必要である。使える人間が大きく制限される上に諸々のコストも高く、絶対数が極めて少ない。装備も大きくなりがちで、テロ攻撃にも向かない。もちろん、魔素を体内に取り入れることができない日本人には使えない。


 魔法とはそういったものであった。これが日本政府から発表されると、日本国内では落胆するオタク達が続出したという……。


 ともあれ、以上のように唯一の不確定要素であった魔法のことがある程度解明され、大きなリスクになり得ないと分かったことが日本の大陸進出を後押しした。


 フソウ皇国は、これらの日本の動きを歓迎し、オルメリア大陸諸国も日本に続くように行動を始めた。そして、日本と対立するバルツェル共和国も独自に動き始める。

 こうして、オルメリア大陸での日本・バルツェル共和国間の対立はネルディス大陸にも持ち込まれる形となっていく。元より各国間で対立が起きていたネルディス大陸の情勢は、科学文明諸国の欲望により、三つ巴どころではない混沌へと向かっていくのだった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 2034.12.2

 バルツェル共和国 首都リディーリア

 国家戦略研究所

 10:40 現地時間





 バルツェル共和国にとって悪夢のような戦争だった中部オルメリア戦争の終結から約半年。バルツェル共和国首都リディーリアは一見して以前と変わらず平和な姿を見せていた。


 しかし、その内情は大きく変化している。


 中部オルメリア戦争では、多くの若者が戦場に散っていった。誰かの夫が、父が、息子が、孫が、兄が、弟が無為に死んでいき、もしくは大きな怪我を負って帰って来た。


 では、彼らの犠牲に得たものはいったい何なのか?


 共和国政府は公式発表において日本を強敵とした上で、『暴虐なニホンの卑怯かつ奇襲的な侵略を受けたが、本国への攻撃は阻止し、ニホンの侵略の目論見を頓挫させることに成功した。これは偉大な勝利である』と述べた。

 それを言葉通りに受け取った共和国市民は皆無と言っても良かった。

 そもそも、戦争の前では蛮族から土地を解放する戦争だと言っていたのだ。それがいつの間にか侵略を受けていたことになり、守勢に回って本土に攻撃を受けなかったことを喧騒して強調している。


 子供でも分かることだ。これが実質的に敗北である、ということは。


 親しい者が傷つき、あるいは帰ってくることすらできなかった代わりに得たものは、空虚な勝利発表。どのように勝ち、そして何を失って何を得たのか、その詳細すらも発表されることはない。これを不満に思うな、という方が無理な話だった。


 それだけではない。


 バルツェル共和国は中部オルメリア戦争で植民地であるアーカイム皇国領を失った。これによって資源価格が高騰。庶民の生活に大打撃を与えていた。

 物価は僅か半年の間に急激に上昇し、モノによっては倍以上の価格になることもあった。


 さらに、戦争終結前に起きた政変も市民の不安を煽る。それまで戦争を主導してきたロッテンダム前大統領の自殺。そして、その後任のパンジャン大統領の政権になって、すぐに日本との講和。これによって、市民はより戦争の結果に疑問を抱くことになる。本当に政府の言っている勝利は正しいのか、と。


 バルツェル共和国全土で市民の政府に対する不満が蔓延している。それに対して有効に対処できるほどの力はパンジャン新政権にもなかった。全土で巻き起こる不満を爆発させないようにすることだけでも精一杯である。





 そんな不満が燻るリディーリアの郊外。そこに官民が合同で設立した機関の施設があった。


 その名は国家戦略研究所。


 戦争終結の立役者の一人と目されるリーリア・レイリス議員が提唱し、レイリス家が主体となって設立した研究機関である。そこに政府や軍が協力する形で関与している。

 この研究所が設立された経緯は、前戦争において諜報活動によって得られた情報を軍が隠蔽し、政府へ必要な情報が上がってこずに間違った認識の下に意思決定をしてしまったことに対しての反省から、軍から独立した形で情報収集を行い、それを分析して政府に提言する組織が必要と考えられたことにある。……建前上は。

 結局、軍が関与しているため、完全に独立しているとは言いがたいものの、軍の下部組織ではないことから一定の効果を見込めると考えられている。


 この国家戦略研究所は、日本でいうところのシンクタンクに近い。

 彼らが担う研究・分析は政策・技術・軍事と多岐に渡る。だが、そのいずれにも共通していることがある。

 それは、対日本に重きを置いていることだ。そもそもの目的が日本に対抗するための情報を得ることなのだから当然だが。



 そんなわけで、この日も日本に関する研究が進められていた。……もっとも、順調に進んでいるかというと微妙なところであるが。

 当然だが、日本側とて情報は守る。以前はスパイ天国と揶揄されていた日本であったが、集団安全保障を行う過程で防諜面も強化することが求められた。そのため今の日本が相手だと、バルツェル共和国の諜報力では一般公開されている程度の情報までしか得ることができないのだ。


 それでも以前よりは日本のことをよく研究できていると、提唱者であるリーリアは考えていた。今では、祖国がいかに無謀な戦争を挑んでしまったのかが理解できるからだ。





 国家戦略研究所の会議室において、所長のリーリアと軍事部門の室長、軍から派遣された情報士官、その他関係者数名が集っていた。

 国家戦略研究所は政府・軍から優先度の高い依頼として日本の軍事力の調査を依頼されていた。その提出内容の確認をこの場で行うのだ。


「ニホン軍の情報を一通りまとめた資料を用意しました。これより説明を行いたいと思います」


 軍事部門の室長の男は表情に疲労を滲ませながらも、そう言った。集めてきた情報を集約してまとめ上げる作業は大変だったであろうことが窺える。


「ええ、よろしく」


 リーリアはそんな彼を労うように優しげな声音でそう返す。リーリアのような美人に労われ、多少は元気を取り戻す室長に情報士官の男も苦笑する。


「本日はわざわざご足労いただき、ありがとうございます。クーホルン少佐」


 リーリアは情報士官の男……ヨハネス・クーホルン少佐に礼を告げた。クーホルン少佐は中部オルメリア戦争において、現地人を使った諜報任務に就いており、いち早く日本の危険性を主張した人物だ。当初は上層部に信用されずに情報は握り潰されていたが、戦争時に日本の軍事力に圧倒されたバルツェル共和国軍上層部は戦後に彼の評価を一変させた。


「いえ、レイリス所長。私としては、研究所の方に無理難題を投げた側の人間ですので、心苦しいところです」


 クーホルン少佐はそう言って恐縮そうに頭を下げた。

 彼が所属する軍情報局が研究所の方に難題を吹っ掛けたわけではない。やったのは政府だ。しかし、軍とて政府の実力組織であり、彼も政府側の人間と言える。


「クーホルン少佐が悪いわけではありません。むしろ、私達はこれを研究所の存在価値を示す好機と捉えていますので」


 リーリアはそう言って微笑んだ。国家戦略研究所は設立こそ認められ、協力も受けているものの、未だにその存在に疑義を呈する者も多い。特に軍情報局の中には。

 自分達の失態が形になって現れたようなものなのだから気持ちは分からなくもないが、実際にやらかしたのは事実なので受け入れて欲しいものだとリーリアは常々思っている。その点、クーホルン少佐は積極的に協力してくれる軍情報局の中では稀有な存在だ。


「では、報告をお願い」


「はい。ニホンの軍事力についての報告は陸、海、空、宇宙、戦略兵器の5つの領域にカテゴライズしてあります」


「……ちょっと待って。今、宇宙って言った?」


 リーリアは耳を疑うような言葉を聞いたため、思わず聞き返した。


「はい。宇宙です。ニホンは宇宙をも新しい戦場と定めており、そのためのシステムを構築しています」


「……いいわ、報告を続けて」


 あの日本は、バルツェル共和国では未だに手の届かない宇宙ですら戦場とし、我が物としているようだ。リーリア自身も日本の情報に触れることがあったが、まさか宇宙利用まで進んでいるとは思ってもいなかったのだ。


「報告を続けます。お手元の資料を参照願います」


 そうして、軍事部門室長の報告が始まる。最初は陸からであった。


「ニホン陸軍は兵力にして20万人程度と、我が軍に比べて兵力数ではかなりコンパクトです」


 バルツェル共和国陸軍が戦前で50万人以上の兵力がいたことを考えると半分以下である。それを考えると規模は小さいと言えよう。


「しかしながら、ニホン陸軍はそのほとんどが自動車化・機械化されており、極めて高度な展開能力と作戦遂行能力を備えています。それにより、前戦争では我が軍を一方的に翻弄しました。正面戦闘能力、機動力、それらを活かす戦術や戦略において我々は圧倒的な劣勢下に置かれています」


 戦前であれば一笑されるだけで誰も取り合わなかったような内容であるが、今となれば誰も笑うことはできないだろう。前世界では列強の上位に食い込んでおり、この世界の平均水準からしても高度な文明と軍事力を誇るバルツェル共和国の陸軍が圧倒されていることを。


「その極めて高い戦闘力を生み出しているのは、ニホン軍の兵器、兵士の練度の高さです。まずは兵器についての報告を行います」


 そして彼は資料のページを捲るように指示した。

 最初に目についたのは、3つの戦車だ。その内の2つは似通った形状をしている。いずれもバルツェル共和国陸軍のガーディ8主力戦車と比べて、重厚でマッシブな印象を受ける。


「これらはニホン陸軍の誇る主力戦車です。左から、タイプ90、タイプ10MkⅠ、タイプ10MkⅡと我が軍では呼称しています。正確には、タイプ10のMkⅠ、MkⅡはそれぞれコウ、オツと呼ばれているそうですが、その表現は我が国には無いため、我々の方式に合わせた呼称をしております」


 それらは日本の90式戦車、10式戦車甲型、10式戦車乙型だった。


「これらの戦車はいずれも高度な射撃管制システムを搭載し、タイプ90は走行間射撃で高い命中率を実現し、後継のタイプ10系列に至ってはスラローム射撃という、ジグザグに機動しながらの砲撃でも高い命中率を誇ります」


「そんなことが可能なの?」


「恐ろしいことに可能だそうです。高性能な電子演算機と制振機構によって、戦車や砲身の振動を制御し、遠方より初弾で敵を撃破することができるようです」


 その圧倒的な性能に愕然とするリーリア。ガーディ8では走行間射撃を行ったところで狙ったところに砲弾が飛ばない。そもそも照準を合わせ続けることも難しいだろう。


「前線で実際に戦った兵士の話だと、我が軍最新のオークウェンMkⅡ対戦車砲の直撃を受けても微動だにせず、一切の損傷を受けた様子もなく、そのまま戦闘を続けていたとの情報もあります。また、別の兵士の話では、ガーディ8の正面装甲は敵戦車の主砲に対して一切の効果を示すことはなかったそうです」


 オークウェンMkⅡ対戦車砲はガーディ8の主砲よりも高性能を誇る。それでも何ら被害を与えることができず、ガーディ8の装甲は役に立たなかった。つまり、装甲防御力も火力も日本の戦車には遠く及ばないことが分かる。


「では、実際に映像媒体を入手しましたので、そちらでも確認しましょう」


「映像を手に入れたの?」


「はい。先日、ニホン陸軍がエルスタイン王国にて交流を兼ねた軍事演習をエルスタイン王国軍と行い、また一部を一般市民にも公開していました。その公開していた部分の映像です」


「……ニホンと大陸諸国の関係は良好のようね」


 リーリアは一般市民に他国の軍隊が公開軍事演習を行う様を知り、そんな感想を抱いた。


「その通りです。……エルスタイン王国東部では、ニホン軍はヒーロー扱いだそうですね。西部では複雑な心境で受け入れられているようですが」


 エルスタイン王国西部は元々工業が盛んだった地域。日本と主力産業が被っているのだ。そのため、彼らはより優れた日本製品と戦うことを余儀なくされた。

 元より過度な産業保護制度によって他国製品に対する競争力を失っていた西部の製造業は、エルスタイン王国政府による輸入工業製品に対する関税の大幅な引き下げと、日本製品の高品質さによって市場から駆逐されんとしていた。

 その不満につけこみ、バルツェル共和国は反日・反政府感情を煽って反乱を起こさせ、混乱を引き起こした。その混乱でエルスタイン王国の対応力がパンクしている隙をついてバルツェル共和国は侵攻を開始したのだ。


 今では西部の人々は白い目を向けられる存在だ。バルツェル共和国に対して侵攻発起点を提供した大罪人達であると東部の人々には思われている。それだけでなく、リーデボルグ共和国やリテア連邦の人々からも愚か者達だとすら思われているのだ。

 無論、エルスタイン王国西部の人々にも言い分はある。実際、日本によって食い扶持が潰されそうになっていたのだから。しかし、結局、その憎き日本によって助けられてしまった。その圧倒的な軍事力を見せつけられるような形で。

 そんなこともあり、西部の人々は日本に対して複雑な心境を抱かざるを得なかった。


「さて、こちらがタイプ10MkⅠの映像です」


 会議室の端に設置してあったモニターの電源をつけ、下部のビデオデッキにビデオテープを挿入して映像を映す。


 すると、演習場の一角に観覧席が設けられ、そこに多数の民間人が観客として座り、あるいは立って公開軍事演習を観覧している様子が映った。

 そして、前方の左端から猛烈な勢いで前進してくる獰猛な形状の戦車が現れる。隊列を組んだ4両だ。


「これがタイプ10……ものすごく速度は速いのね」


「はい。最高速度は70km/hとされ、加速力や減速力もガーディ8とは比較になりません」


 そのまま映像は続き、4両の10式戦車が移動しながらそれぞれの標的に向かって砲を向ける。そして、その砲の動きにリーリアは驚いた。


「これ……車体が移動してて、それに揺れているはずなのに砲身がピタリと的の方に向いているわね」


「はい。これがニホン戦車の真骨頂と言っても過言ではないでしょう」


 軍事部門室長がその言葉を述べたと同時に、4両の10式戦車は同時に砲撃した。その砲弾は同時に着弾し、標的の中央に命中した。


「……このように、移動している中でも遠方の目標を高精度な砲撃によって初弾命中させることが可能です。ニホン戦車が標準で装備しているのは120㎜砲で、我が軍のガーディ8の90㎜と比べて極めて火力に優れます。その上、この命中精度、というわけです」


 さらに映像は続く。次は10式戦車が前進し、急旋回を行いながら砲撃して標的に命中させた。


「これがスラローム射撃です。これは一種のパフォーマンスに過ぎないとの話ですが、ニホン戦車の射撃性能の高さをよく示しています」


「……………………」


 まさに圧巻。言葉で説明を受けるよりも、実際に視覚情報を得た方が衝撃的であった。これではバルツェル共和国陸軍のガーディ8戦車が勝てないのも納得であった。


「さらにこちらの資料もご確認下さい」


 そうして軍事部門室長がリーリアに渡したのは、TKM-Xと名づけられた戦車の写真だ。


「これは?」


「これはニホン軍が装備する兵器ではないのですが、将来我が国の脅威となることが考えられる兵器です」


 リーリアはTKM-Xという戦車の姿を一通り確認する。どこか10式戦車にも似た雰囲気を持つ戦車だ。少なくともガーディ8よりも先進的であることが窺える。


「これはニホンがオルメリア大陸の同盟国に輸出する予定の新型戦車のモックアップです。公開スペックとしては、主砲は105㎜砲、日本製の簡易版射撃管制コンピューターを搭載し、走行性能も前進後退共に50km/h以上、装甲も一部日本製を用いることで高い防御力を誇るとのことです」


 日本の主力戦車に比べれば見劣りする性能だ。しかしながら、バルツェル共和国軍にとっては極めて重大な脅威と言えた。

 実際、日本としては第2世代または第2.5世代クラスの戦車としてTKM-Xを設計している。さらに一部を旧式の複合装甲で防護しているため、第3世代に片足を突っ込んでいるとも言える。

 現状、バルツェル共和国軍の主力戦車ガーディ8が第1世代相当なので、少なくともタイマン勝負ではガーディ8には勝ち目がない。


「既に試験車両が存在し、正式に各国に採用され、量産が始まるのも時間の問題という噂もあります。ニホンとその同盟国と対峙する上で、これも無視し得ない重大な脅威でしょう」


 軍事部門室長の言葉が静まり返った会議室に響いた。これが本当ならば、バルツェル共和国にとっての脅威は日本だけでなく、今まで見下してきたオルメリア大陸諸国もその対象となることになる。いくらスペックダウンしているとはいえ、日本製兵器の大陸への拡散はバルツェル共和国にとって悪夢そのものだ。




「強力なのは戦車だけではありません。資料の次のページをご覧ください」


 次のページに書かれていたのは、主力戦車以外の装備だ。

 自走榴弾砲、機動戦闘車、装甲戦闘車、装甲車といった車両の他、バルツェル共和国軍では未だに試験機の設計すら終わっていない回転翼機まであった。


「先の戦争においては、回転翼機……ヘリコプターによる機動的な攻撃で、我が軍は大きな打撃を受けました」


 資料には複数のヘリコプターの写真が掲載されている。実に様々な種類のヘリコプターを日本は保有しているようだ、とリーリアは思った。


「このヘリコプターには様々な役割を持った機体があります。兵員や火砲の輸送用、戦闘用、偵察用、対潜水艦作戦用が主な用途ですね。輸送用ヘリコプターによって、多数のニホン歩兵が機動的に展開し、思いもよらぬ場所から奇襲的に攻撃を行うことで一方的な戦闘をニホン軍は繰り返しました。そして、我が軍の機甲兵力も戦闘用ヘリコプターに次々と一方的に狩られ、逃げ惑い、隠れる我が軍の兵士を偵察用ヘリコプターが次々と見つけ出し、容赦の無い攻撃を行いました」


 固定翼機とは違い、その場に長時間滞空して対地支援を行う空飛ぶ兵員輸送車であり、戦車であり、偵察車であるヘリコプター。この機動力にバルツェル共和国軍は全く対応できなかった。

 バルツェル共和国陸軍は未だに携帯対空ミサイルはおろか、戦闘機に搭載する対空ミサイルすらも開発できていない。艦船に搭載する対空ミサイルは完成間近というが、配備にはまだ時間がかかるという話だ。

 そんなバルツェル共和国陸軍故、陸上部隊の対空能力は脆弱と言わざるを得なかった。


「また、対潜水艦作戦用ヘリコプターは主に艦船に搭載され、潜水艦を探知や攻撃を行っています。潜水艦には対空装備が積まれておらず、このヘリコプター相手には一方的に狩られる存在へと成り下がります」


 基本的に潜水艦には対空装備は積まれていない。反撃するよりも見つからないことが潜水艦にとっては重要なことだからだ。まぁ、地球世界では対空ミサイルを搭載した潜水艦も現れていたが。


「そのヘリコプターがこちらの映像ですね」


 別のビデオテープに入れ替え、再生する軍事部門室長。

 そして映ったのは、大空をヘリコプターの編隊が飛んでいく映像。


「これはまた別の公開イベントのものです」


 輸送ヘリと攻撃ヘリがそれぞれ編隊を組んで会場上空を飛行する。そして、ヘリコプターの大きな利点と言うべきホバリングを輸送ヘリが行い、そこからファストロープで自衛隊員が降下し、小銃を構えて展開する。

 また、それを援護するようなポジションに攻撃ヘリが滞空し、周囲を警戒する。


「この機動力と即応性は非常に脅威と言えます」


 リーリアは、軍事部門室長の言葉とこの映像により、ヘリコプターの威力をまざまざと思い知らされた。軍事に関しては素人同然のリーリアですら理解できるのだ。軍人であるクーホルン少佐は言わずもがなだろう。

 リーリアの視線を感じたクーホルン少佐は苦笑する。


「私もこういった兵器が実用化され、運用されていることを知ったときは、なんて無謀な戦争を挑んでしまったのだろうと思いましたよ」


「ええ……。そんな決定を下してしまった私達政治家の責任を痛感するところですわ」


 リーリアは沈痛な面持ちでそう言った。リーリアは反戦派であったが、結局主戦派を止められなかった。政治家として、責任を負うべきところだろう。


 その後も軍事部門室長による報告は続く。


「このような多種多様な高性能兵器を運用するだけでなく、ニホン軍は練度も極めて高い水準にあります。例えば、ニホン軍の砲兵部隊は異なる火砲を同じ箇所に同時着弾させることもでき、また曲芸の一種ですが、砲弾を空中炸裂させて山を描くこともパフォーマンスとして行っているそうです」


 それが本当ならば、バルツェル共和国陸軍では真似しようもない神業だ。そんな砲撃精度を出すことを想定した装備ではないし、そんな精度で砲撃することを想定した訓練を行っていない。


「また、ニホン軍兵士は教育水準が高く、そのほとんどが高等教育を受けていると言われています」


 バルツェル共和国でいう高等教育は、日本でいう中等教育(高校)だ。バルツェル共和国では高等教育課程まで進む者の割合は4割程度で、それ以外は就職するか職業訓練学校に進学する。大学進学まで行くのは全体の1割もいないだろう。

 当たり前だが、バルツェル共和国軍の末端の兵士のほとんどは最終学歴にして中等教育課程(日本でいう中卒)であり、そういったところにも国力の差が浮き彫りになっていた。


「そして、最後になりますが、私がニホン陸軍で最も危険視しているものについて報告します」


 軍事部門室長が神妙な表情でそう言った。その様子を見て、その場にいる人間全てが気を引き締めた。日本の軍事事情を調べ続けていた彼がそう言うのだ、否応にも気が引き締まる。


「それは、ニホン軍内に複数存在する、特定任務に特化した精鋭部隊と特殊部隊です」


 ページを捲った先には、写真と共に様々な精鋭部隊・特殊部隊が纏められていた。

 そして、リーリアはとある部隊に目を向け、そして呟く。


「第1……特装団……」


 彼女はその名前に聞き覚えがあった。彼女の異母姉妹を救ってくれたニホン兵が所属していたという部隊の名前だ。彼女達から直接聞いた話なのだから、間違いはないだろう。




 一般の学生でしかない彼女達がニホン兵に命を救われた経緯はこうだ。

 中部オルメリア戦争序盤において、バルツェル共和国軍は学徒の動員を行った。国内の国立学校の学生に対し、後方支援に限って動員を行ったのだ。これはこれまでも行われた事例があり、絶対的に安全な地域での活動を条件に行われている。

 バルツェル共和国軍は正面装備に偏重するあまり、後方支援がおざなりになっており、慢性的な人手不足だった。特に戦闘時は。そこで後方支援の人員を臨時に確保する手段として提案された方法だ。


 これは学生側にもささやかなメリットとして、就職活動をする際の強みとなる。なので、意外にも乗り気な者もいるほどだ。日本でいうところのボランティアなのだろう。物騒だが。


 その学徒の動員に、リーリアの親族が対象となった。それがナターシャ・メルリアとアイリ・メルリアだ。彼女達は異母姉妹である。リーリアの父が亡くなり、リーリアが本家の当主となってからも良好な関係を築いてきた妹達だ。リーリアは彼女達の安全を祈っていた。


 ところが、日本の参戦によって戦況が大きく変わると、安全地帯とされていた後方も瞬く間に戦場に変わった。安全地帯にいたはずの学生達も戦闘に巻き込まれ、死傷者が出た。ナターシャとアイリも戦闘に巻き込まれたそうだ。

 すぐに現地からの情報は途絶し、派遣された学生達の生存も絶望的とされていた。たとえ戦闘で死亡しなくとも、蛮族に捕まってしまえば生きて帰ってこれないという意見が大半だったのだ。


 だが、戦後になると学生達のほとんどが無事に生きていることが分かる。日本側の捕虜となっていたのだ。しかも、虐待が行われた形跡もない。

 再開した後にナターシャとアイリから話を聞くと、彼女達は戦闘から逃れて現地の街の中を逃げているとき、バルツェル人への憎しみを募らせた現地民に囲まれて暴行されそうになったそうだ。そこにニホン軍部隊がやってきて、暴行される前に保護してくれたらしい。

 それを知ったとき、正直、リーリアからすればバルツェル共和国軍の方が蛮族に見えてしまった。なにせ、バルツェル共和国軍では捕虜虐待は日常茶飯事であったからだ。無論、捕虜虐待が起こらないように努力をしている者達もいるが、焼け石に水であった。

 ベールニア連邦・アーカイム皇国を制圧したときは酷かったと聞く。そして、エルスタイン王国西部へ侵攻したときも。

 それと比較すれば、日本側の対応はバルツェル共和国よりも先進的と言えた。それがまた軍上層部や一部の政治家には気に食わなかったようだが。


 ともあれ、そういった事情もあってナターシャとアイリは無傷で本国へ帰還することが叶った。その時はリーリアも人目も憚らず涙を流して喜んだ。ナターシャとアイリも無事に再会できたことに大喜びしていた。


 無論、ナターシャとアイリの返還は無償というわけにもいかなかった。日本は政治家や、その他の影響力のある人物の親族を返還する際に条件を突きつけてきたのだ。


 ナターシャとアイリの返還の際にも条件が突きつけられた。


 それが、日本とバルツェル共和国の間で交流を行うための架け橋となることだった。またこのような悲劇を繰り返さないためにも、お互いを知り、交流し、やがてはお互いを尊重し合えるように、と。


 それはリーリアにとっても渡りに船であった。リーリア本人の意思としても、これ以上の日本との対立の激化は避けたかった。彼女が元々戦争を忌避する性格であることももちろんのこと、何よりも政治家としての判断として、日本との対立はバルツェル共和国の国力にはあまりにも荷が重く、未来を潰す政策だと考えていたからだ。


 そのため、リーリアはその条件を受諾して今に至る。


 この国家戦略研究所も、大元は日本のことを知る必要があるから提唱したものだ。政府や軍による介入によって、日本の脅威度を評価する仕事も加えられているが、元々は交流の前段階として日本の情報を集める必要性があるから設立した。


 リーリアはこの研究所の所長を務める一方で、日本との交流を推進する一般財団も設立している。一応、彼女が国家戦略研究所の所長を務めているからか、その一般財団の設立に関して、抗日的な考えの政府からもお目こぼしをもらっている。



 何はともあれ、リーリアにとってもこの部隊の名は感じ入るものがある。それ故、さらに気を引き締めて報告を聞こうと彼女は軍事部門室長に報告を続けるよう促すのだった。





今後の流れとしては、バルツェル共和国視点の話(日本の軍事力の評価、ネルディス大陸戦略)をしてから、日本の視点に戻します。日本の視点に戻ってからは多分、ネルディス大陸国家との交流回になると思います。

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