第4話
えー、大変お久しぶりです。
半年も空けてしまって申し訳ありません。この半年の間に令和になったり、隣国が大変なことになってたり(ほとんど自爆だと思いますが)、いろいろありました。
どうにかモチベーションを上げて書き上げたので、投稿します。
ほとんど説明回ですけどね(笑)
8/23
ネルディス大陸の東西南北を逆転させました。詳細は第二章1話の前書きをご覧下さい。端的に言うなら、設定を考えていた段階で深く考えていなかったためにガバガバ設定になってしまっていた、という感じです(笑)
「まずは各国の紹介から始めたいと考えておりますが、よろしいでしょうか?」
領空侵犯の件が解決し、話を次の段階へ進める弓山。彼の提案にクオン皇帝も頷いた。
「うむ。国交を結ぶにあたって、お互いのことを知らぬままというのもおかしな話だ。この場で互いに理解し合うことは有意義なことだと思う」
クオン皇帝は口ではそう言いつつも、内心では別の意見を持っていた。
お互いのことを知る必要があるのは彼も全面的に同意だ。しかしながら、彼は日本があらゆることを馬鹿正直に教えてくれると考えるほど間抜けでもない。
この場で紹介されることは、あくまでも表面的な部分。日本が紹介したいことを紹介されるだけだ。日本の本質は見えてこないだろう。
「では、まずは我が国からご紹介いたします。少々お部屋の方を暗くしていただいてよろしいですか?」
クオン皇帝の内心を他所に、弓山は部屋を暗くすることを要求する。プロジェクターを使用するためだ。
しかし、そんなものなど存在しない世界の住人であるフソウ人にとって、それは意味不明な要求でもあった。
「暗くするだと……? 何のために……?」
怪訝そうにそう言うフソウ皇国の大臣の一人。彼の反応はまだマシな方で、「陛下を害するつもりか!」と日本に対して警戒感を露にする者もいた。
ここら辺りに文明のレベル差が顕著に現れる。
リーデボルグ共和国やエルスタイン王国といった、いわゆるオルメリア大陸諸国では、映画の映写機の発展版としてすぐに受け入れられた。それでも驚いていたが。
一方、そもそも映像を投影するという技術が存在しないネルディス大陸ではそうはいかない。警戒するな、というのも無理な話だった。
ネルディス大陸でのファーストコンタクトでは毎回のようにこの流れになるのかと思うと、弓山を含む外交官達はため息を吐きたくなった。まぁ、これも仕事である。それも日本という国を背負い、責任を持って遂行すべき仕事だ。
「我々に害意はありません。もしあれば、もっと効率的なやり方があるとは思いませんか?」
そう言って、表御殿の部屋から見える城下町の景色の先にある自衛隊艦隊を見やる弓山。
彼の言うとおり、こんな城など海から砲撃すれば容易に崩れ落ちるのだ。害するならば、もっとやりようがあるのである。
そんな弓山の態度に顔を真っ赤にしながら黙り込む大臣達が数名。弓山の言動はなかなかに挑発的であったが、それ故に日本の軍事力を再び誇示する形にもなった。
印象は良くないだろうが、日本という国家を舐めてもらっては困るのだ。建前上は対等であるが、実際の国力を鑑みるに建前通りになるはずもない。それを相手側に認識させた。甘い顔だけでも、厳しい顔だけでもダメなのだ。
「構わぬ。部屋を暗くせよ」
クオン皇帝は弓山の言葉から害意はないと判断し、そう命じた。クオン皇帝は弓山の言動に怒りなど抱かなかった。少なくともルナソール連合よりもずっと礼儀正しいし、傲慢でもないと感じたのだ。軍事力を見せびらかすのも外交の常套手段であり、彼は彼で自分の仕事を遂行しているだけなのだ。
クオン皇帝に命じられれば、それに従うしかないのが臣下の者達だ。弓山の要求に不満を抱いていた者達も、渋々といった様子で命じられた通りにする。
「我々の言葉を信用してくださったこと、感謝の言葉を述べさせていただきます、陛下」
「こちらこそ、疑いの目を向けてしまったことを謝罪しよう。だが、彼らの気持ちも汲んでもらいたい」
臣下の者達からすれば、クオン皇帝の命は自分の命よりも大事なものである。神経質になるのも無理はない。
「ええ、我々と彼らは同じです。我が国にも天皇陛下がいらっしゃいますので。フソウ皇国でいう、皇帝に相当するお方です」
「ほう。いつか是非、直接お会いしてみたいものだな」
「ええ、天皇陛下もそう仰られることでしょう。その実現のためにも、我々は友好的な関係を結ばねばなりません」
「であるな」
弓山の言葉にクオン皇帝は首肯した。心の中では弓山のことを信用しきれていないが、それは得体の知れない外国の外交官であるが故に当然のことである。
やがて、プロジェクターの準備が終わって日本の紹介動画が投影された。
最初のブルースクリーンが映った時点でもフソウ人達はどよめいた。たかだかブルースクリーンであっても、映像を投影するということ自体が彼らにとっては驚くに値することであった。
……もっとも、日本やオルメリア大陸諸国のことを知るにつれて、驚くところを通り越して真っ青な表情に変わっていくことになるのだが。
最初に映されたのは、日本全土の3Dモデルであった。これは衛星写真を元に作られている。
日本の国歌である『君が代』と共に日本の国家としての概要がナレーションにより説明されていく。
『日本は明確な証拠が残っている限りでも千数百年間も続く国家であり、神話や言い伝えなどを含めると2700年近く存続し続ける国家です。建国当初より天皇家を国家元首とし、日本の存続と共に天皇家の血筋も存続させてきました』
「なんと……!」
証拠が残っている範囲だけでも千数百年もの歴史のある国家と聞き、フソウ人達は自らの耳を疑った。それほどまでに驚愕することだったのだ。
ネルディス大陸では800年以上前に魔法が発明された。ネルディス大陸では主流の暦も、魔法が発明された年を元年としている。
そして、ネルディス大陸に現存する国家は魔法が発明されてから建国された国家ばかりである。魔法が発明された当初は、その画期的な技術を手に入れたことで戦乱が巻き起こり、多くの国が勃興しては消えていった。ようやく落ち着いた頃に今の国々が生まれてきたのだ。
つまり、ネルディス大陸の如何なる国家よりも日本は長生きの国家であるわけだ。これは積み上げてきた歴史を権威として見る風習のあるネルディス大陸においてはアドバンテージと言えた。
『我が国の人口は約1億2000万人であり、人口1300万人を誇る東京、人口800万人の大阪、その他にも名古屋、福岡などを中核とした巨大都市圏が複数存在します。国土面積は約40万平方キロメートルで、北は雪国、南は南国といった多様な気候・環境に恵まれています』
そして、さらに驚異的であったのがその人口。ネルディス大陸には人口1億人台の国家など歴史上存在しなかった。そもそも、ネルディス大陸の文明圏内の全人口を合わせても1億人に達するかは怪しいものだった。
フソウ皇国は中堅国家であるが、それでも人口は150万人だ。その人口の数倍もの人口規模の都市が存在することに、クオン皇帝は気が遠くなりそうだった。
もっとも、日本の人口は減少基調だ。それでも少子化対策の充実化や移民の受け入れなどで人口1億人の維持は達成されることは確実視されている。前者はともかく後者は批判も多い政策ではあるが。ちなみに、転移後も細々と高度人材に限って移民受け入れを行っていたりする。
説明と共に画面が切り替わり、日本の都市の風景が映し出されていく。
オノゴロの商業地区の賑わいなど田舎の市場と言わんばかりに凄まじいまでの密度で蠢く人々。
金属製で馬に引かれなくとも自走し、その走行能力も馬車よりも遥かに高い自動車。
高度に整備され、三次元的に交わる道路交通網に鉄道網。
フソウ皇国の大型貿易船など小舟にしか見えなくなるほど巨大なタンカーや輸送船がたくさん行き交う港湾。
あらゆる光景が日本とフソウ皇国の国力差をはっきりと見せつけていた。もはや次元が異なると言っても過言ではない。
それもそうだろう。かつて日本が経験した黒船来航。あの技術差の数十倍、数百倍の衝撃であることは言うまでもない。
さらに紹介動画は進行していき、産業の話へと切り替わっていく。
『我が国の産業は多岐に渡りますが、我が国を代表するのは‘ものづくり’です。我が国は精密加工が必要な製品、高度な技術を要求される製品を主力とした製造業が大きく発展しており、世界的にも高い評価を得ています』
同時に映されるのは精密加工されていく様々な金属部品やセラミック、プラスチック部品。大きなものもあれば、指先に乗る程度のものまであり、その加工技術の多様性や高度さを専門外な者にも分かりやすく見せつける。
さらに、多数の部品を組み合わせ、自動化された製造ラインで次々と製造されていく自動車。多くの作業員と大規模な自動化設備の併用で効率的に建造される船舶。広い工場で人とロボットの共同作業で形作られていく航空機。
このような完成品製造の光景も映し出され、それが映る度にフソウ人達はどよめいた。やはり完成品の方がインパクトが強いのだろう。
日本は様々な製造分野においてファクトリーオートメーション化を進めており、場合によっては従来の数分の一の人員で稼働する工場を、もしくは警備やメンテナンス要員以外は完全無人の工場を実現して生産性を高めていた。
このファクトリーオートメーションは労働人口減少の中においても生産能力を維持するために発展したものだ。これは生産性向上による所得拡大……つまりは内需の拡大に寄与したが、それ以上に生産能力を拡大させ、その製品を売るために結果として外需依存を大きくさせてしまう弊害も生じさせている。
そのせいもあってか、日本政府は以前よりも周辺の安全保障や国際関係に敏感になっており、結果として自衛隊の外征能力の強化、戦力の拡充を決断したのだ。
『我が国の主力産業は製造業だけに留まりません。金融、観光などのサービス業、高付加価値商品を主力とする農産物なども我が国の経済力に寄与しています。2034年現在、我が国の国内総生産は660兆円にも達し、周辺国と比較しても圧倒的な経済力を有しています』
もし転移していなければ今頃700兆円の大台に乗っていたのに、といった思いを弓山は内心で抱く。転移による経済的損失は計り知れない。
しかしながら、この程度で済んだのはむしろ行幸であったとも言えるだろう。今の日本はいくつもの幸運の上に成り立っていることを理解しなければならない。これは政府関係者や官僚だけでなく、一般市民すらも感じていることだろう。
日本は土壇場で天に見放されなかった、というわけだ。まぁ、不幸中の幸いでしかないと言えばその通りだが。
『また、我が国は多種多様の文化を受け入れ、独自の発展を遂げてきた歴史があります。古い伝統的な文化を守りつつも、新たな文化も生み出して世界中に発信しており、前世界でも今世界でも非常に高い評価を受けています』
次に映し出されるのは日本の様々な文化。古くから続く日本独自の文化もあれば、他国から輸入してきた文化もある。日本という国が信仰に対しておおらかな性格であることがフソウ皇国側にもそれとなく伝わった。
さらに現代風の文化もフソウ人達の目を引いた。アニメにゲーム、映画に動画投稿サイト、アイドルなど、様々な文化が日本にはある。
この文化の多様性もまた国としての力である。
この後も細々とした紹介が続き、やがて最後にある意味でのメインコンテンツがやって来る。
『我が国は世界でも有数の軍事力を誇る自衛隊を組織し、我が国の主権と国民の生命及び財産を守っています』
ずばり、軍事力である。これはフソウ皇国側にとって最も知りたいことであった。少なくともかなり強大な軍事力を誇っていることは分かっている。だからこそ、それがどの程度なのかを見極めたいと考えていたのだ。
そして、陸海空自衛隊の勇姿と共に紹介が始まる。
『自衛隊の総人員数は30万人以上。世界の水準から見ても高度な装備と練度を誇り、周辺の安全保障に貢献しています。自衛隊は日本と、その互恵関係にある友好国の防衛のためのみに行使される実力であり、侵略戦争は固く禁じられています』
陸海空自衛隊の姿はフソウ皇国側の面々を圧倒した。
猛烈な勢いで突進し、進路を変更しながらも正確な射撃を行う10式戦車。次々と目標に砲弾を命中させていく特科部隊。輸送ヘリから素早く展開して周囲を制圧していく普通科部隊。機首の機関砲から凄まじい速度で弾丸を吐き出しながら周囲を圧倒していく攻撃ヘリ。
音を置き去りにし、雲よりも遥か上を飛び抜ける戦闘機。それらを統合的に運用するための巨大な早期警戒管制機。飛来してくる弾道ミサイルを水際で迎撃するPAC-3。
見事な単縦陣と艦隊運用で圧倒的な練度を見せつける護衛艦。空母から次々と発進していく艦載機部隊。水中から顔を出していく潜水艦。その潜水艦を狩り出すための対潜ヘリ。猛烈な勢いで水平線の彼方に消えていく艦対艦ミサイル。
これらの全てが日本国自衛隊とフソウ皇国軍の圧倒的なまでの違いを表していた。
フソウ皇国側の面々は実に様々な反応を見せていた。あまりにも現実離れした光景に呆然とする者もいれば、自国と日本が争った場合のことを考えて表情を真っ青にする者、どうにかしてこれらの兵器を輸入できないかと考える者もいた。
前世界では中国が内戦状態に突入し、ヨーロッパの没落がより顕著になっていく中、日本は米露に次ぐ第3位の軍事力を持つに至った。ちなみに4位はインド、5位に同率でイギリスとフランスといった状況だった。
それだけの軍事力は、ネルディス大陸においては圧倒的とも言えた。
やがて、日本の紹介映像が終わる。日本の力の一端を目の当たりにしたフソウ皇国の面々は、戦々恐々とした様子でいた。
その姿を見て、オルメリア大陸諸国の外交官達は内心で苦笑する。自分達も歩んだ道だったからだ。彼らも日本の力を理解した時はあのような様子になったものだ。……まぁ、オルメリア大陸諸国は近代文明であったため、中世文明レベルのフソウ皇国よりも衝撃はマシだったが。
「ううむ……」
唸るような声を漏らすクオン皇帝。あまりにも強い力を目にして、それを脅威と感じる一方で、日本の対外政策が表面的には穏当に見えることに安堵する心境だった。
まぁ、新世界において日本が対外に一定の融和姿勢を見せているのは、友好国という名の肉壁もとい戦略的縦深が欲しいというのが大きいのだが。また、経済的・文化的に相手国に浸透し、産業や文化などを日本の影響下に置くことで実質的に経済植民地化してしまうことも考えている。
経済発展に協力し、その一方で基礎材料や工作機械を始めとする『産業の弁』をこちらで握るのだ。日本の意に沿わない行動を起こせば、いつでも産業の弁を閉じて絞め殺してしまえるように。
「以上が我が国の紹介です。この後、リーデボルグ共和国、エルスタイン王国、リテア連邦、アーカイム皇国の順で紹介させていただきます」
弓山のそんな言葉と共にこの4ヶ国の紹介も始まる。
この4ヶ国のいずれも、ネルディス大陸の国々と比較しても圧倒的とも言える国力であった。
単純な人口だけでも、リーデボルグ共和国が5000万人、エルスタイン王国が4000万人、アーカイム皇国が3500万人。一番人口の少ないリテア連邦でも2000万人だ。
ネルディス大陸において、最大の人口を誇るガルガンティル帝国が2000万人程度であることを考えると、いずれも大国であると言える。
そして、各国の技術水準や産業も日本ほどではないが、ネルディス大陸諸国とは比べることすらバカらしいほどの力があった。
軍事力もそうだ。アーカイム皇国やエルスタイン王国はかなりボロボロになってしまったが、それでもネルディス大陸諸国に対しては優位に立っている。技術力もそうだが、組織力や戦略・戦術も圧倒的な差をつけている。
「……………………」
クオン皇帝は表面上は冷静なままであったが、内心では圧倒されていた。
無論、これは相手が見せたい部分だけを見せただけのものであり、それぞれの国にはそれぞれの問題があるのだろう。だが、そんなことすら霞むほどの力の差を感じた。
そして、確信する。世界の潮流が変わることを。これに乗れなかった国は亡国への道を突き進むことになるとすら考えられた。
「以上で紹介を終えます」
弓山が代表してそう言う。今となっては、弓山の落ち着いた態度が強者故の余裕にすらフソウ人達には感じられた。……もっとも、これは単に彼の性格でしかないが。
「……うむ、ご苦労であった。貴国らのことをよく知ることができて、余は満足だ」
突如として現れた大国の使者達を前に、クオン皇帝は気丈にもそう言った。彼は皇帝、つまり国そのものである。彼が怖じ気づいた態度を見せることは、フソウ皇国の誇りに泥を塗る行為だ。彼はフソウ皇国のためにも、尊大な態度を崩すわけにはいかなかった。少なくとも、この場で最も高い位にいるのはクオン皇帝なのだから。
「では、こちらからも紹介を行おう」
クオン皇帝がそう言うと、大臣の一人が立ち上がり、一礼の後に弓山達に相対した。
「儂はフソウ皇国宰相のシンゲン・ツルギだ。以後、見知りおき願う」
「ご丁寧にありがとうございます、……ツルギ殿、でよろしいですか?」
「うむ」
ツルギ宰相が頷く。弓山を含めた日本人の面々は、フソウ皇国での名前は日本に近いものがあるものの、氏名の順番は日本とは異なることに気づいた。フソウ皇国はどこか昔の日本に似てはいるものの、結局のところは似て非なるものであるのだ。
その後、ツルギ宰相からフソウ皇国の大まかな概要を説明される。
フソウ皇国の建国はおよそ500年前に行われた。それ以前はフソウ島の中でも複数の国があり、戦乱の時代を迎えていたようだ。
フソウ島に住むフソウ民族は1000年以上前に別大陸から移り住んできた民族だ。当時は今よりも進んだ航海術と船舶の建造技術を誇っていたようだが、今ではもう失伝している。
移り住んできた当初は民族を統一する統治者のいないまま、集落ごとに別れて住んでいたらしい。移住してきた理由については諸説あるが、最も有力なのは迫害から逃れてきた、という説だ。
集落が大きくなるにつれて、それは街になり、そして国になった。国はフソウ島の様々な場所にできた。いわゆる都市国家が多数生まれたのだ。
そして、そこから戦乱が始まる。200年にも渡る戦乱の末、フソウ島を統一したのが現フソウ皇国皇帝家の先祖である都市国家オノゴロの王、クサナギであった。
統一国家の名を民族及び島の名前でもあるフソウとし、自らを皇帝としたクサナギはそこから海外に目を向ける。
その当時はネルディス大陸では魔法技術の進展が目覚ましかった。フソウ皇国は島内の争いで魔法技術開発に出遅れ、他国との差は広がるばかりであった。これを憂慮したクサナギ皇帝はフソウ皇国独自の魔法技術の開発を推進し、水軍の拡大を推し進めた。
そこから、幾度か行われた戦争でも1度もフソウ島に敵兵を上陸させることなく、国を守り抜いているのだ。……もっとも、近年は再び大陸国家……特にルナソール連合諸国に魔法技術で差を空けられつつあり、国防の面でかなり厳しい状況におかれているのだが……。そういった不都合な点は省きつつ、ツルギ宰相はフソウ皇国の概要を伝えていく。
フソウ皇国の人口はおよそ150万人。ネルディス大陸圏では中堅を名乗れる規模だ。主な産業は農業や漁業といった一次産業と、軽工業の二次産業、さらには意外にも金融といった三次産業も少しばかり発展している。金融……要は金貸し業なのだが、これは貿易関係の深い商業都市国家連合の影響もあるらしい。
このところフソウ皇国と関係が良好な国は人口280万人の獣人の国、ベスタ連邦と、様々な人種が集まる商業都市国家の集まり、商業都市国家連合だ。商業都市国家連合は連合内の人口で100万人程度らしい。
こういった情報を聞かされていくにつれて、日本やオルメリア大陸の面々は驚愕を顕にしていく。
「失礼します……獣人とは一体どのような者達なのでしょうか?」
弓山が代表してそう尋ねると、今度はフソウ皇国側の面々が驚く。
「……もしや、獣人を知らぬと申すか?」
「はい。少なくとも我々の文明圏では、我々人間だけが唯一の人類として存在しています」
ツルギ宰相の問いに弓山はそう答える。フソウ皇国側はさらにざわめく。
「そうすると、エルフやドワーフも居ないのだな」
「そうですね。我々の中ではフィクションとしてならば存在しますが、実在はしません」
「なんと……やはり、大陸が異なるとそういうところも変わってくるのだな」
ツルギ宰相のそんな言葉に弓山は訂正を行う。
「大陸が異なるのは事実ですが、重要なのはそこではありません」
「……というと?」
「我々はそもそも異なる世界からの来訪者なのです」
そんな弓山の言葉に、先ほどまでざわめいていたフソウ皇国側の面々は静まり返った。そんな中、ツルギ宰相が咳払いをしてから弓山に対して口を開く。
「いやはや……なかなかに面白い冗談を仰るな」
「いえ、冗談ではありません。我々は間違いなく異なる世界……異世界からこの世界にやってきました。そして、あなた方も」
そう言って、弓山はこの世界のことを話し始める。この世界は様々な世界から国や大陸、地方や島を転移させてくる箱庭のような世界であること。そして、日本とオルメリア大陸も別々の世界の出身であり、そしてその箱庭のような世界……日本の研究者は最近では“交錯世界”と呼んでいるこの世界にネルディス大陸も転移してきたこと。
「そんなこと信じられるか!?」
「我らを馬鹿にしているのか!?」
そんな言葉が次々と投げ掛けられる。これも当然であると弓山は受け止めた。2年前の日本人達とて、この交錯世界のことは信じられなかったのだ。しかしながら、現実としてここに存在している。
「根拠ならあります。あなた方フソウ民族がやって来たという大陸は、この世界にはありません。我々は世界中をとある手法にて調査していますが、大陸と呼べるのはオルメリア大陸とネルディス大陸だけなのです」
「……………………」
淡々とした態度で話す弓山に、フソウ皇国の面々も徐々に落ち着いてくる。さらに弓山は続ける。
「他にも根拠はあります。我々の文明圏では、魔法は空想の産物とされており、実在しません。その代わりに科学と呼ばれる自然の法則を体系化して解き明かし、それを利用する手法によって大きく発展しています」
弓山の述べた内容は魔法文明圏のフソウ皇国の人間にとって大変ショッキングなものであった。
「あれほどの力が魔法を使わずに実現できるというのか……!」
大臣の一人がそう漏らす。彼が言っているのは日本の兵器のことであろう。フソウ皇国の人間にとっては強大な魔法兵器にしか見えていなかったそれらが、実は魔法とは何の関わりもなかったのだ。ネルディス大陸の常識からすれば、有り得ないことであった。
そして、その逆も然り。日本やオルメリア大陸諸国の人間にとっても魔法の存在は驚愕に値した。
船上でのファーストコンタクトの際に伝令魔法の存在を知った派遣艦隊は、それを瞬く間に艦隊内の全員に周知させた。さらに、本国にも通達済みだ。今頃、対策チームを急遽結成しようと躍起になっていることだろう。未知というのは、それだけで恐ろしいのだ。
フソウ皇国側の者が驚愕で言葉も出ない中、クオン皇帝が口を開く。
「余は少し前、占星術師達が星の並びが変わったと騒いでいる、という話を聞いた。そして、民の間でも騒ぎになっていると聞く。……普通に考えて、星の並びが変わることなど考えられぬ。もし変わることがあるとすれば、我が国が異なる世界に飛ばされた時など、まさにそうなるだろうと余は思う」
「陛下……!」
なんとクオン皇帝は弓山の言う交錯世界への異世界転移に対して理解を示したのだ。思わず、といった様子でツルギ宰相が言葉を漏らす。だが、それにも関わらずクオン皇帝は言葉を続ける。
「ならば、他に星の並びが変わる理由が考えられるか? それに、我々が異世界に来たというのならば納得できることが他にある」
いまや、クオン皇帝の言葉に皆が耳を傾けていた。
「ニホンやその友邦国。彼らが今まで我々と同じ世界にいたというのなら、もっと昔に接触していなければおかしいのだ。彼らの技術力は見た限りでも、大洋を渡ることも容易にしている。これならいっそ、最近になって別世界からやって来たという方が理解できようものだ。……いや、我々が異世界に来たのであったな」
そんなクオン皇帝の言葉に弓山はクスリと笑った。
「我々も異世界にやって来たのです。我が国とフソウ皇国は同じ立場にあると言えましょう」
「お互いに有無を言わさず世界を渡らされた流浪の国家、ということか」
「まぁ、我が国の場合、元の世界の国は一切この世界には来ておらず、本当に我が国だけが交錯世界に連れてこられたのですが」
「我々の場合は大陸とその周辺の島々を丸ごと、か。これでは世界を渡った実感も沸かなんだ」
そう言ってクオン皇帝は苦笑する。
こうしてフソウ皇国トップの理解が得られたことで、フソウ皇国の他の面々も状況を呑み込んでいく。
その後、日本側がプロジェクターで世界地図を投影すると、少しずつだが理解を示す者も出てくる。日本の言うことを鵜呑みにはできないが、戯れ言として捨て置くこともできない、といったところか。
「我々は貴国との友好的な関係を求めます。そして、この大陸の国々にも」
弓山のそんな言葉。しかし、クオン皇帝は難しい顔を浮かべる。
「うむ……我が国としても貴国との友好関係は望ましい。だが、大陸の国々と友好的な関係を結べるかは正直難しいところであると余は考えている。特に貴国の性質上、な」
「というと?」
「僭越ながら、儂から説明しよう」
クオン皇帝に代わってツルギ宰相が口を開く。
「今、大陸は二大勢力によって二分されつつある。ルナソール教を国教とする国家の宗教的・軍事的・政治的連合体であるルナソール連合。そして、軍事大国ガルガンティル帝国とその属国群。この二大勢力の間の緊張は日々高まっておる。……正直、彼らはもはや冷静ではない。小競り合いも起きておるし、かなり気が立っておると言えよう」
「なるほど。して、我が国の性質上、問題があるとのことでしたが?」
「うむ。ルナソール連合は他国にも改宗を薦めておる。いや、無理強いしていると言っても良かろう。言っても聞かぬ国には武力で改宗を強いておる」
日本やオルメリア大陸諸国の面々から「うわぁ……」という声が漏れた。典型的な暴走宗教国家である。
「さらにはその教義にも問題がある。ルナソール教は白人至上主義とも言えるもので、ヒト種の白人以外は全て神の加護を受けられなかった劣った存在だと考えておる。獣人やエルフ、ドワーフはもちろんのこと、我々非白人種に対してもかなり非友好的だ」
「それは……なるほど、確かに相容れませんね」
弓山もそう言わざるを得なかった。ツルギ宰相の言うことを全て鵜呑みにはしない。しかし、仮にこれが事実であれば、非白人種であり宗教に寛容な日本とは決定的に相容れない。オルメリア大陸諸国は白人種なので差別対象にはならないが、ルナソール教を受け入れることはできない。
「一方のガルガンティル帝国だが……あそこは大陸統一を目指す武の国家だ。ルナソール連合よりは話は通じるはずだが……自分が強者であるという自信から、かなり傲慢だ。自国が世界の中心とすら考えておる」
弓山はそれを聞いて、まるで中華思想だと感じた。つまり、ネルディス大陸は例えるならば、十字軍を派遣していた頃のヨーロッパと最盛期中国がいがみ合っている状態であるわけだ。最悪である。
「この二大勢力以外にも、エルフが南方大森林に建国した神聖エルフェン皇国、ドワーフが北方の中央山脈に建国したドワーゲン氏族同盟、獣人の国ベスタ連邦、商人の都市国家連合の商業都市国家連合などがある。あとは、中央山脈よりもさらに北方の荒地にダークエルフが住んでおり、大陸北方の小島には人魚が住んでおるな」
「なるほど……。ツルギ宰相、あなたが考える中で話ができる国家はどれでしょうか?」
「ふむ……まぁ、商業都市国家連合ならば間違いないであろう。貴国は珍しい品々を作る力があり、カネもある。彼らならば飛び跳ねて歓迎してくれるに違いない。ものづくりが得意という点でドワーゲン氏族同盟も相手にしてくれるだろう。彼らは偏屈だが、技術力を持つ相手には相応の敬意を払う。貴国の技術力であれば彼らも邪険にはせぬだろうな。ベスタ連邦は様々な獣人種の集まり故、全てが全て歓迎してくれるとは思えん。しかし、ルナソール連合という強大な敵を目の前にしている故、敵対しなければ追い返されるようなこともあるまい」
「ご協力感謝します。この恩は何らかの形で必ずやお返ししましょう。ついでまでに、外された国々は何故外されたのでしょう?」
「うむ……神聖エルフェン皇国はガルガンティル帝国以上に傲慢だ。エルフ以外は下等と見なし、まともに相手せぬ。ルナソール連合のように積極的に外征せずに大森林に引き込もっておるのが救いじゃな。連中の魔法技術は我々ヒト種と体系が異なっており、そして強力じゃ。それがまた自意識の肥大化に繋がっておる。まったくけしからん連中だ」
嫌な思い出でもあるのか、エルフのことをそう吐き捨てるツルギ宰相。そこにクオン皇帝が苦笑しながら口を出す。
「ツルギ宰相は昔は外交官をしておってな。それでとある理由で神聖エルフェン皇国へ外交使節として派遣されたのだが、そこで邪険にされたのだ」
「……あの連中、顔を合わせれば我々のことを劣った魔法しか使えぬ能無しだの、毛の無い猿だの言ってくるのです。愚痴の1つや2つ、溢したくもなります」
ツルギ宰相はクオン皇帝にそう言った。仮にも外交使節に対してそのような物言いをするエルフ達に、日本やオルメリア大陸諸国の面々はドン引きした。それだけでなく、フソウ皇国の面々もツルギ宰相がそんな憂き目に遭っていたことを初めて知った者が多く、ツルギ宰相を労るような目を向けていた。
「オホン、話を戻そう。ダークエルフ達は正確には国を形成していない。荒地でひっそりと暮らしておるのだ。……彼らは、ルナソール教圏からも迫害され、エルフ達からも迫害され、ガルガンティル帝国からは奴隷狩りを受けていた歴史がある。エルフ達よりも話はできるが、彼らは基本的に他種族を信用しようとしない。これまでの扱いを考えれば当然であるがな……」
ツルギ宰相の言葉には頷く他なかった。他者から迫害を受けていれば、不信に陥るのも無理はない。まるでユダヤ人のようだ。
「彼らはどうして迫害を受けているのですか?」
「ルナソール連合は説明するまでもないだろう。エルフからは、闇に落ちたエルフとして忌み嫌われている。闇に落ちた、という意味もあってダークエルフと呼んでいるのだ。それが世の中に定着した。そして、ガルガンティル帝国だが……ダークエルフは魔法戦士として優れており、仮にもエルフだけあって美しい見目を誇る。奴隷としての価値は高い」
「……なるほど」
予想以上にダークエルフ達の状況は良くなかった。こんな彼らにぽっと出の日本人が接触したところで信用されないのも十分に予測できることだ。
「では人魚の方はどうなのでしょう?」
「うむ……彼らは根本的に我々と住んでいる世界が違う。彼らは海の民であり、陸の者とは関わろうとはせぬ。彼らは彼らの領域に近づいてきた船の船員に対して幻惑系の魔法をかけて方向感覚を狂わせ、追い返すのだ」
「つまり、そもそも先方に話し合う気はない、と」
「そういうことだ」
弓山はこれまでの話から、どうにもネルディス大陸は一筋縄では行かないようだと気づかされた。なまじ、オルメリア大陸は日本と同じ科学文明であり、文明レベルの違いはあれど、元の世界と大きく違うことはなかった。
だが、ネルディス大陸はどうだ。魔法という未知の技術が存在し、さらには未知の種族が存在している。これから日本はこれらの未知と立ち向かわねばならないのだ。
そして、弓山は確信する。この大陸でやっていくには協力者が必要だ。手探りでやっていくことも不可能ではないが、時間とコストがかかりすぎる。場合によっては、尊い犠牲も。
だからこそ、フソウ皇国の友好関係の樹立は急務だ。
「よく分かりました。……何度も申し上げましたが、改めて申し上げます。我々は貴国との友好的な関係を築きたいと考えています。そのためにも、国交交渉と国交樹立に付随する様々な条約に関する交渉を行っていただきたいと考えています」
「うむ。余としても、貴国らとの友好的な関係は願ってやまないことだ。交渉に参加することをこの場で宣言しよう」
クオン皇帝は弓山の求めに応えた。フソウ皇国にとっても日本を始めとする科学文明国家との友好関係は魅力的だったのだ。
こうして、これが科学文明と魔法文明の初めての公式な接触となった。他国に先駆けて接触することのできたフソウ皇国は幸運だったと言えよう。これによって、結果として大きな恩恵を受けることができたのだから。
次はもっと早く更新したいと思います。今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m




