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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第二章
34/46

第2話

明けましておめでとうございます。

お久しぶりです。ようやく更新です。


現実の方の自衛隊の装備調達の方針もはっきりしてきて、設定変更に手間取ってました。これまでの話のも一部改訂していくつもりです。

とりあえず、今年までは現実準拠、2020年以降をifの日本にしようかと思います。キリがないので(笑)

 2034.10.24

 フソウ皇国 皇都オノゴロ

 沖合 30km 海上

 08:18 現地時間





 先の鋼鉄製の怪鳥の領空侵犯があってからしばらくしたこの日。フソウ皇国では以前よりも厳しい警戒体制が敷かれていた。面子を潰された翼竜武士団だけでなく、海を守る水軍でも通常以上に哨戒を厳重にしている。

 水軍は主に3つの部隊に別れており、それぞれ麒麟船手衆、黄竜船手衆、警固衆と呼ばれている。麒麟船手衆と黄竜船手衆はいわゆる主力艦隊であり、警固衆は小型船を用いた偵察・哨戒部隊である。

 通常は警固衆が哨戒を行っているのだが、今は麒麟船手衆や黄竜船手衆からもいくつかの船を出している。それだけ水軍の、ひいては皇国首脳部の警戒度合いが分かろうというものだ。




 そんな厳重な警戒体制を敷くフソウ皇国皇都オノゴロ沖に堂々と近づく1つの船団がいた。その船団を構成する船は、おおよそネルディス大陸の常識では計り知れないものだ。

 ネルディス大陸の一般的な一等戦船を大きく上回る巨艦だけで構成されており、そしてそれらは全て金属製だった。その圧倒的な存在感を有する船が複数。


 これを最初に見たのは警固衆の三等戦船であった。

 戦船の等級はネルディス大陸では主力武装の弩砲バリスタの数で定められているが、国毎で定義もバラバラでフソウ皇国水軍の三等戦船の弩砲数は4門程度である。

 そんな三等戦船の全長は15m程度。対する謎の船団は小さいものでも明らかに100mを超えているのだ。ネルディス大陸最大の一等戦船でも60m程度なのだから、フソウ皇国水軍からしてみれば常識外の存在である。


「な、なんだあれは……!?」


「でかい……でかすぎるぞ!?」


「帆無しで動いてる!? まさか魔法兵器か何かなのか!?」


 甲板が混乱に包まれるのも仕方のないことだった。そんな状況でも船長は冷静した。


「慌てるな! 魔法師、水軍本部と近くの船に連絡を!」


「り、了解!」


 船長は甲板上にいる船員達を見回して言う。


「いいか! 俺達は警固衆だ! 正体不明の相手にも恐れずに立ち向かうのが俺達警固衆の務め! 今こそ本懐を果たすときだ!」


 その声に冷静さを幾ばくか取り戻した船員達は「おう!」と声を返しながら持ち場に戻る。


 しかしながら、船長はここで悩むことになる。相手は常識的な存在ではない。帆無しで航走し、信じられないほど巨大でありながらとてつもなく速いのである。

 警固衆である以上、この正体不明の船団に対して臨検を行わねばならないのだが、相手からすれば吹けば飛ぶようなこの船でどうやって臨検を行えばいいのか分からなかったのだ。少なくとも、この船では並走すらできないばかりか、万が一にも衝突すればこの船は容易く沈没してしまうだろう。無論、相手は無傷だ。


 つまり、意気込んだはいいものの、実際問題として臨検する手段がないのである。


「くそっ……なんと無様な……っ!」


 仕方のないことだとはいえ、祖国の危機かもしれないこの事態を そんな一言で済ませられるはずもない。悔しさを滲ませた声を漏らしつつも、何とか策を考えようとする船長。

 そこに息を切らした魔法師が戻ってくる。


「はぁ……はぁ……。な、何とか水軍本部と周辺海域に対しての支援要請を行いました」


 この魔法師が行ったのは伝令魔術である。彼はこの船の内部にある小型の魔法道具を使って伝令魔術を行使した。

 まず最初に水軍本部への報告。これは予め対応する魔法道具を水軍本部に置いており、それに対して伝令魔法でメッセージを送ったのだ。これは対応する魔法道具でしかメッセージを読み取れないため、秘匿性が高いとされている。また長距離の伝令も可能だ。

 次に行ったのは周辺への伝令。これは無差別的にメッセージを送りつけるもので、一定距離内の魔法道具であればメッセージを受け取ることができる。その特性上、情報の秘匿性は無いに等しく、敵にも駄々漏れのことが多い。また長距離の伝令もできない。

 彼が行ったのはこの2回の伝令魔法の行使だが、そのたった2回の行使で彼は疲労困憊状態になってしまった。魔法というのは専用の装備を必要とする他、使用者の体力も奪ってしまうのだ。それでも有用なものは多いため、軍事はもちろんのこと、資本に余裕のある民間の商会などでも用いることがある。


「ご苦労。お前はもう休んでいろ。その状態で動けはしないだろう」


「す、すみません……」


 まだ若い魔法師の男は自分の無様な姿に不甲斐なさを感じつつも、船室へと入っていくのだった。


 ちなみにだが、哨戒部隊にまで魔法師を乗せられる余裕のある国は少ない。フソウ皇国は小国ではあるが、その規模の割には有力な軍を保有しているわけだ。

 普通の国であれば、メッセージの受信専用の魔法道具だけ置いてあったり、そもそも魔法道具自体が置いてないこともある。むしろ、哨戒部隊に魔法道具を置いている国の方が少ないだろう。


「しかし……本当に速いな。もう目の前だぞ……」


 船長は呟くように言う。不明船団は巨体にして高速。速いが故に距離はすぐに縮まり、巨大故に実際よりも近く感じる。その結果、まるで呑み込まれそうな感覚に陥ってしまったのだ。

 だが、その恐怖を祖国への忠誠と職務への義務感で上塗りする。彼は模範的な軍人であった。そして、冷静さも失わない。彼は不明船団の船を見て、あることに気づく。


「……速度を落としている?」


 不明船団が何らかの方法を用いて風や波の力を利用せずに自走していることは分かっている。だからこそ、速度を落としているということは、速度を落とそうという意思を持って行ったわけだ。

 ここで大事なのは減速の意図だ。不明船団の目的は不明であり、フソウ皇国に敵対的か友好的かも分からない。それ故、臨検を行って意図を確かめねばならない。


「まさか……自ら臨検を受けるためか……?」


 船長はそんなことを考える。そうであれば、相手は相当殊勝な相手である。相手は1隻1隻が常識外の巨体であり、それこそこちらは池に浮く葉っぱのような存在だろう。そんなちっぽけな存在に対し、船団全てが自発的に速度を落としているのだ。いや、もう速度はだいぶ落ち、停止に近い。


 しばらくして、巨船のひとつから小さな船が発進する。こちらは三等戦船よりも幾ばくか小さい黒色の船だ。船上には数名の乗組員がおり、そしてこの船も猛烈な勢いで自走してこちらに向かってきていた。


「はは……なるほど、これでは臨検されてるのは我々の方か……」


 自嘲気味に船長はそう漏らす。そうしている間にも黒色の船は距離を詰めてきて、あっという間にすぐ側まで近づいてきた。


「全員、俺が代表として話をする。余計なことをするなよ」


 緊張感に包まれる水兵達にそう言い、船長は黒色の船を観察する。

 驚いたことに、船に乗っていたのはフソウ皇国の人間と同じような顔立ちの者達であった。身につけているものは大きく違うものの、人種的には近いのかもしれない。


 やがて、黒色の船の乗組員の一人が手に何かを持って顔の前にかざす。


「こちらは日本国海上自衛隊、外交使節艦隊です。我々に敵意はありません」


「ディス イズ ジャパンネイビー……」


 途端に響く大きな声。そして、驚いたことに最初に飛び出してきたのはフソウ語であった。固有名詞の意味は分からなかったものの、外交使節であることや敵意がないことは理解できた。その後、彼らは別の複数の言語で話しかけてきた。彼らはこちらが何語を用いるのか分かっていないことが窺えた。


「こちらはフソウ皇国水軍警固衆! 貴船団は我々の警戒領域に侵入している! 我々の臨検を受け、目的を明らかにせよ!」


 船長は意を決して口を開いた。何らかの魔法道具で声を増幅したのであろう彼らの声には到底及ばないが、それでもかなり大きな声で船長は言った。


 その言葉を聞いた黒色の船の乗組員達はとても驚いた表情を見せた。どうやら言葉が通じたことに相当驚いているらしい。だが、そこは彼らもプロなのだろう。すぐに気を取り直して言葉を返してくる。


「了解。貴艦の臨検を受けます。我々に敵意はありません。我々の目的は貴国との公式な接触と国交の樹立です」


 彼らは素直に臨検を受け入れた。そして、念を押すように敵意がないことを主張してくる。

 とんでもない船を持ち込んでくる非常識な連中かと思えば、話してみれば常識的。どこかホッとした気持ちを抱きつつも、気を引き締める。まだ本当に敵対的な存在ではないと決まったわけではないのだから。




 こうして、日本とフソウ皇国は公式に接触することになる。そして、これがネルディス大陸全域を巻き込む波乱の先駆けでもあったのだ。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 この日、クオン皇帝は執務室で執務に入る前に水軍の全てを統率する立場である水軍大将軍、そして翼竜武士団の団長と面会することになった。両者とも慌てた様子であり、よっぽどの緊急事態であることが窺えた。


 そして、その報告内容にも概ね察しはついた。この二人には警戒体制を敷くように以前命令したばかりなのだ。それ故、それ関連の報告なのだろう。


「とりあえず報告を聞こう」


「「はっ」」


 片膝を立てて二人の初老の男達が頭を下げたまま、執務室の奥で座るクオン皇帝に返事をする。ちなみに、執務室の床は畳であり、クオン皇帝のいる上座は一段高くなっている。クオン皇帝は彼らを見下ろす形となっており、それがそのまま主従の関係を表している。


 最初に口を開いたのは水軍大将軍だった。


「先ほど、警固衆の三等戦船から伝令魔法での報告がございました。内容は、不明船団を発見したため臨検を試みる、といったものでした。その後、どうやら不明船団との接触に成功し、不明船団側も臨検を快く受け入れた模様です。また、彼らはニホン国カイジョウジエイタイと名乗っていたそうです」


「ほう……どうやら殊勝な者達のようだな、そのカイジョウジエイタイとやらは」


「仰るとおりかと存じますが、その後の報告によると不明船団を構成する船は、その全てがとてつもない巨船であるとのこと。また、帆もなく船体も金属で作られており、それでいて我が方の戦船を遥かに上回る快速で動き回る、という報告もございます」


「それは……にわかには信じられんな」


 クオン皇帝がそう言うのも無理はなかった。報告の内容に入っているいくつもの部分がネルディス大陸の常識からすれば荒唐無稽もいいところだったからだ。

 そこで翼竜武士団長が口を開く。


「お言葉ですが、陛下。我々翼竜武士団からも翼竜を派遣して確認いたしました。その翼竜武士も帰還後に同じ報告を行っておりました。これはおそらく間違いないかと」


「なるほど、分かった。して、彼らの目的は分かったか?」


 その質問に水軍大将軍が答える。


「彼らの目的は公式な接触と国交の樹立と称しています。そのために外交使節を引き連れているとも。さらに、艦隊を派遣したニホン国だけでなく、ニホン国の友好国の使節も同乗しているようです」


「そうか……だが、この大陸の外にそんな国があったことが今まで知られていなかったとは……」


「少なくとも我々では別大陸に行くことはできません。航海術でいえば、彼らの方が上であることは間違いないかと」


 水軍大将軍は悔しさを顔に滲ませながらそう言う。海に携わる人間である以上、その海に関することで遅れを取っていることに悔しさを感じているのだ。


「とりあえず、彼らに会ってみなければ分からんことも多い。外交使節とやらを余の元に連れてくるのだ。正式に会談を行おうと思う」


「御意。手筈を整えます」


「うむ……。あと、急いで宴の準備もするのだ。歓待すらできないと思われると、国の品格すら疑われかねない」


「御意」





 こうしてフソウ皇国側では急ピッチで外交使節の受け入れの準備が行われることになった。外交使節を乗せた自衛隊艦隊は皇都オノゴロの沖合に錨を降ろすことになり、そのために水軍の船が自衛隊艦隊を皇都オノゴロの港の近くまで引き連れていった。


 そして、皇都オノゴロの港から見える位置に錨を降ろす自衛隊艦隊に、オノゴロ市民達は大混乱を引き起こしてしまう。


「な、なんだあれは!?」


「あんな大きな船、見たことがない!」


「見ろ! 一等戦船ですら小舟にしか見えないぞ!」


 港で働く者達だけでなく、町中の者が自衛隊艦隊を見て騒いでいた。まるで黒船来航のときの日本人みたいな状態だが、実態はそれ以上だろう。

 ネルディス大陸では航海術や造船技術のレベルは高くない。少なくとも別大陸に行くということができない程には。それ故、黒船来航のときの日本と欧米諸国の差よりも、今の日本とフソウ皇国の差の方が何倍も大きかったのだ。


 そもそもネルディス大陸では、技術の発展が神暦が始まって以来の800年以上もの間、かなり停滞していた。神暦が始まったのは魔法が普及し始めた時代であり、その魔法のために他の技術の停滞を招いたとも言われている。

 最近になって魔法以外の技術も注目されるようになったが、それでもガルガンティル帝国の一部のみの話だ。ルナソール連合では魔法は絶対視されているため、まだまだ技術発展は進みそうにない。

 閑話休題。


 そんな非常識な艦隊の姿を、クオン皇帝は天守閣から眺めていた。


「本当に大きいな……。まるで島のようじゃないか」


 クオン皇帝はその大きさと存在感から、そんな感想を漏らした。


「お父様……大丈夫でしょうか?」


 不安げにそう言うのは第一皇女のヒトハ皇女。美しいその顔には、不安そうな表情を張りつけている。


「大丈夫だ。少なくとも彼らは我々と国交を結ぶために来たと言っているらしい。態度も丁寧かつ紳士的だとも聞く」


「そうだといいのですが……」


 ヒトハ皇女の脳裏には、未来視の光景が浮かんでいた。空を飛び回る鋼鉄の怪鳥、地を駆け回る火を噴く鋼鉄の獣、海に浮かぶ鋼鉄の城……。それらが目の前の存在とピタリと重なりあっていた。

 未来視では鋼鉄の怪物達は敵か味方か分からなかった。だからこそ心配なのだ。未来視の中におけるそれらは極めて破壊的で、暴力の象徴でもあった。そんなものが目の前にあるのだ。不安になるのも無理はない。


「あのお船で来た人達は、お友達になり来たの?」


 そんなことを言いながら、ヒトハ皇女の陰からヒョッコリと顔を出す童女。ヒトハ皇女と似通った顔立ちながら、年相応の幼げな顔立ちをした彼女はフタバ皇女だ。


「そうだよフタバ。彼らはお友達になるのさ」


 クオン皇帝もフタバ皇女に対しては言葉を崩す。まだ幼いフタバには、難しい単語は分からないのだ。それに幼子に対してまで威圧的な言葉遣いはしたくないというクオン皇帝個人の思いもあった。


「……でもお父様、どうして姉様もお父様も嬉しそうじゃないの?」


 クオン皇帝はフタバ皇女の言葉に少し戸惑った。そして思い直す。どうやら自分は愛する愛娘を幼子だと思って見くびっていたのかもしれない、と。

 幼子ながらに彼女はよく状況を見ている。適当なことを言って誤魔化すのも限度があるのだ。


「……フタバは凄いな。何でもお見通しか」


 クオン皇帝は苦笑しながらそう言う。


「本当のことを言うと、彼らのお友達になりたいという言葉を信じていいのか分からないんだよ」


「……信じちゃいけないの?」


「そういうわけじゃないさ。ただ、もしかしたら悪い人達かもしれないから、気をつけようってことだよ」


「むー、そんなこと言ってたら、誰とも友達になれないよ!」


 フタバ皇女がそう言うのを聞いて苦笑するクオン皇帝。確かに疑ってばかりでは仲良くなれるはずがない。しかしながら、そう簡単に相手を信じることもできないのだ。特に国と国の関係では。


「きっといい人達だよ!」


 フタバ皇女がニパッと笑いながら言う。天真爛漫な彼女が言うと、根拠がなくとも彼女の言うとおりなのではないかという気になってくるのが不思議だ。クオン皇帝はそんなことを思いながら頷く。


「そうだね。フタバの言うとおりだ」


 そう言ってクオン皇帝はフタバ皇女の頭を撫でた。フタバ皇女は「きゃー!」と言いつつも、それを受け入れる。権力者には家族愛が薄い者達もいるが、少なくとも彼らの間にはしっかりとした家族の絆があった。


 クオン皇帝はひとしきりフタバ皇女を撫でた後、気を引き締めた。

 ただでさえ、この国を取り巻く環境は悪い。聖ルナソール連合による圧力やネルディス大陸での軍事的緊張。その内、ロクでもないことになるのは必定とも言える状況。

 そんな中にとんでもないものが現れた。それがこの国にとって良いものか、それとも悪いものなのかは分からない。だからこそ、相手を見極め、この国を守るために知恵を絞らねばならないのだ。

 クオン皇帝はそんな風に決意を新たにするのだった。



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