第1話
日本側とフソウ皇国側で東西南北の認識が逆転していますが、仕様です。ご注意下さい。
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東西南北の認識が逆転している設定を訂正することにしました。
元々、ネルディス大陸は前世界では北半球に位置する大陸で、転移世界では南半球に東西南北が逆転した状態で転移してきた、という設定だったんです。ですが、そうなると彼らの主観的には太陽の動きが逆になることを失念していました。アホですね、僕(笑)
そうなると、大陸中で大混乱が起きていないとおかしいし、作品中の方角の扱いもややこしくなってしまうので、結局やめることにしました。思い付きでやることではありませんでしたね、反省です(苦笑)
2034.10.1
日本国 東京
首相官邸 会議室
10:30 JST
「こちらをご覧下さい」
防衛省から派遣された職員がプロジェクターで壁面に投影された画像を指した。
彼の前には日本の中枢たる内閣閣僚の面々が勢揃いしていた。顔では平静そのものな職員も、内心では緊張している。
そして、内閣閣僚達の間でも別の意味で緊張感があった。それは防衛省職員がプロジェクターで説明している内容のせいである。
「こちらは情報収集衛星で捉えた‘新大陸’です」
そこには四国やオーストラリアにもよく似た形状の大陸が映されていた。
「この新大陸の面積はオーストラリア大陸よりもやや小さめです。場所は我が国からおよそ6000km南方にあり、南半球側に位置します」
新しく転移してきた大陸の説明が行われる。新大陸は東西に比較的なだらかな地形が横たわっており、南北は山脈や森林が多い。また、周辺に大小数百の島々が存在していることも明らかとなっている。
「そして、ここからが問題なのですが……」
職員がそう言ってプロジェクターの映像を切り替える。
「こちらは新大陸の一地域を拡大した画像です」
そこに映されたのは文明らしき姿だ。
「これは……中世か近世ですかね?」
長谷川 総理はそう言って、何とも言えないような表情をする。
「電波の発信などは確認できませんでした。蒸気機関の発明が行われているかは不明です。ですが、大規模な工業区画などが見当たらないことから、産業革命以前であることは言えます。もっとも、衛星で撮影した範囲の中でのことですが……」
職員は長谷川 総理にそう告げた。
「……産業革命以前の軍事力は脅威足り得ますか?」
「……俺から言わせれば、どんな相手でも武装している以上は一定の脅威となる」
長谷川 総理が最初に懸念したのは安全保障上のリスクだ。バルツェル共和国との戦争から大して時を置いていないこの日、どうしても安全保障に関しては敏感になってしまう。
彼の問いに対し、大岸 防衛大臣は求められた答えではないとは思いつつもそんな答えを返した。防衛に携わる者として、油断は禁物であることを施政の長たる総理大臣に進言せねばならないのだ。
「いずれにせよ、衛星による情報収集だけでは情報が不足します。航空機による調査が必要ですね」
「総理、もしかして彼らの上に航空機を飛ばすのか?」
「いずれはコンタクトを取らないといけません。ですから、こちらの力を誇示することも念頭に置いて行動したいと考えています」
要は砲艦外交も辞さないという宣言である。
長谷川 総理の判断は新世界における過去の反省を大いに参考にしている。バルツェル共和国は日本の消極的な姿勢から弱小国と判断してしまった。下手に消極的な態度はむしろ事態を悪化させるのだ。無論、逆にやりすぎれば、それはそれで問題が発生するが。
「だが、彼らはこれを敵対行為と見なさないだろうか?」
「産業革命以前の文明に領空の概念がありますかね?」
「……何とも言えん」
少なくともいい気分はしないだろう。だが、それでも航空偵察を行う意義はある。純粋な情報収集と軍事力・技術力の誇示という意味で。
「いずれにせよ、接触は行う方向で調整していきたいと思います。それでいいですね?」
長谷川 総理の問いかけに力強く頷く閣僚達。
転移、そしてバルツェル共和国との戦争を通し、挙国一致内閣ならぬ挙党一致内閣になりつつあるこの政権は、非常事態であれど落ち着いた対応を見せていた。多少の派閥の駆け引きはあるとはいえ、与党内はある程度まとまっていると言えよう。そのせいか、支持率も概ね60%前後をキープするという安定具合だ。
面白くないのは一部の野党であり、何かと難癖をつけている。もっとも、その全てが不発に終わっていたが。多くの国民の興味は日本国の存亡と新世界での国際関係、そして暮らし向きの改善であると言える。その点で現政権は高評価であり、現状では野党は劣勢の状況に甘んじるしかない状態だ。
そんな事情もあり、コンタクトに向けての閣議決定はスムーズに行われた。
最初の航空偵察は空母を派遣し、空母の艦載機によって行われることになった。本土から航空自衛隊機を送るにはあまりにも遠すぎるという事情からだ。それに、搭載している航空機はF-35CJやF-3B、JRQ-1といった、高性能センサーを保有し情報収集能力に優れている機体ばかりだ。
このように閣議決定から偵察部隊の選定まで素早く行われたのだが、ここで1つ問題が発生した。
日本の同盟国であるリーデボルグ共和国、エルスタイン王国、リテア連邦、そしてアーカイム皇国が偵察への協力を申し出てきたのだ。形としては偵察への協力だが、要は「偵察に1枚噛ませてほしい」のが実情だろう。オルメリア大陸の4ヵ国には新大陸へ送り込める航空機がないため、偵察任務に同行することで情報のリークを求めているわけだ。
これに対して日本側も予測済みだったため、いくつか交換条件を提示して許可した。交換条件というのは、今後の新大陸との接触や交渉は日本が主導して行う代わりに日本は各国へ情報を提供するというものだ。各国も承知の上であったため、それを承諾した。
そうして、日本とその同盟国は空母1、ミサイル護衛艦1、汎用護衛艦2、軽巡洋艦2、駆逐艦2の連合艦隊を派遣することになったのだった。
ちなみに、アーカイム皇国は外洋を渡れる海軍戦力を全てバルツェル共和国との戦いで失っているため艦船を派遣できず、日本の空母に将校を派遣するだけに留まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
2034.10.15
新大陸 沖合200km
海上
08:17 JST
雲が疎らに見える程度に青空が広がる良好な天候の中、8隻による艦隊が威風堂々と航行していた。
海上自衛隊からこの艦隊に参加しているのはDDC-192『ずいほう』、DDG-180『はぐろ』、DD-130『きよしも』、DD-102『はるさめ』だ。『はるさめ』は古いものの、それ以外は海上自衛隊の中でも比較的新しい部類の艦艇である。まぁ、一番古くて能力の劣る『はるさめ』ですら各国の海軍からすれば垂涎の的とでも言うべき性能なのだが。
これらは空母『ずいほう』を中心に、彼女を守るように他が輪形陣を敷いていた。
そして、彼女達海上自衛隊の護衛艦による輪形陣の前方に2隻の軽巡洋艦と2隻の駆逐艦による複縦陣が形成されていた。
これらはオルメリア大陸諸国から派遣された艦艇である。内訳としては、リーデボルグ共和国海軍から軽巡洋艦『スーデン』、リテア連邦海軍から軽巡洋艦『リッティオ』と駆逐艦『バルメオ』、エルスタイン王国海軍から駆逐艦『ブルームホルン』が派遣されている。
それぞれの艦艇には各国の特徴が盛り込まれている。
例えばリーデボルグ共和国海軍の『スーデン』はゴツゴツとした無骨なデザインをしており、排水量の割には装備も詰め込まれて少しトップヘビー気味になっている。これはリーデボルグ共和国が陸軍国であり、沿岸海軍かつ艦艇の数が少ないが故に1隻に機能を詰め込んだ結果と言えよう。
一方のリテア連邦の『リッティオ』『バルメオ』もリーデボルグ共和国海軍の艦艇と同様に無骨なデザインだが、他国の軽巡洋艦、駆逐艦に比べて船体が大きめに作られており、その分武装も充実している。特に特徴的なのが対潜装備の充実であり、リテア連邦が島国であることの象徴とも言えた。リテア連邦の艦艇も装備を詰め込んでいる方だが、これはリーデボルグ共和国海軍とは少しだけ事情が違い、リテア連邦の国力自体が小さいが故に多数の艦艇の整備が困難であることが原因である。
最後にエルスタイン王国海軍の『ブルームホルン』だが、こちらは先の2ヵ国の艦艇とは違い、優美な曲線を描いた船体と上部構造物を持っている。武装での特徴はあまりないが、一部は木材を使っており、被弾には弱いことが懸念されている。ここからエルスタイン王国があまり艦艇設計のノウハウを積んでいないことが窺える。
「壮観ですね……これほどまでに心強い艦隊は見たことがないです」
海上自衛隊の空母『ずいほう』の艦橋で艦隊を眺めていたアーカイム皇国海軍将校がそう漏らした。彼はアーカイム皇国海軍の派遣将校である。まだ30代も半ばの彼であるが、襟元の階級章には海軍少将を指し示すものが付けられていた。このことから、アーカイム皇国海軍の人材の払底具合がよく分かろうというものだ。
彼は言葉では艦隊を褒め称えてはいたが、どこか口惜しそうな様子でもあった。それは、この艦隊にはアーカイム皇国海軍の艦船が含まれていないことに起因することは容易に想像できた。
アーカイム皇国には外洋航行可能な戦闘艦艇などなかった。既にバルツェル共和国軍との戦いで沈むか、敗戦後にバルツェル共和国海軍に接収されてスクラップや標的艦になっている。
結局、アーカイム皇国海軍に残されたのは沿岸防衛ができる程度のコルベット艦が数隻、魚雷艇が十数隻という貧相なものであり、アーカイム皇国海軍は今のところ世界最弱の名を欲しいがままにしている海軍である。そして、その数少ない戦力ですら人員不足という悲しみを背負っているのだ。
「いずれ、アーカイム皇国海軍も堂々と肩を並べられるようになります。それも遠くない未来に。だから、そんなに気を落とさないでいただきたいものですな、ローレンス少将」
そんな彼の心の内を読んでいたのか、この艦隊の司令官である海上自衛隊の猪瀬 海将補がそう言った。
「はは、バレていましたか……」
少々決まりの悪そうにアーカイム皇国海軍将校……ギャラグ・ローレンス少将は苦笑いをした。
とはいえ、随行できる艦がないから人員だけでも、という理由で派遣された身の上としては、情けないやら申し訳ないやらで肩身が狭い思いをするものだ。ローレンス少将が特別メンタルが弱いわけではない。
「むしろ、アーカイム皇国海軍はこれから再建するのですから、大陸諸国のどこの国よりも先駆けて先進的な艦艇を配備するチャンスがあるとも考えられます。ものは考えようですよ。バルツェル共和国海軍を相手にすると考えると、従来艦など持っていたところで大した力にはならないでしょう」
猪瀬 海将補はそんなことを言った。慰めの意味も多く含んでいたが、それでも内容は事実の一端を掴んでいた。
「ありがとうございます。ですが、私のような若造が海軍少将になれてしまうのがアーカイム皇国海軍の実情です。装備はともかく、人員の育成が大変ですよ……」
「確かにそうですな。ですが、アーカイム皇国海軍は必ずや他国にも負けない力をつけられると思います。……正直なところ、我が国の上層部では、最前線であるアーカイム皇国軍には装備や教育も含めて、他の大陸諸国よりも大規模な支援を行うべきであるという結論に至っているようなので……」
「それは素晴らしい。足手まといからはすぐに脱却したいものです。本当にありがとうございます」
ローレンス少将は笑みを浮かべてそう言った。残された貧相な艦隊ですら持て余しているアーカイム皇国海軍に、このまま強力な艦艇の配備を行ったところで扱えるはずがない。そういった事情から、人員教育の支援を行うことを日本側が検討していることはこれ以上ない朗報であった。
「いえ、我々も善意でやっているわけではないので」
猪瀬 海将補はそう返す。これも事実だ。アーカイム皇国海軍の強化は日本にとっても国益にかなうと政府、防衛省は判断している。というよりも、最前線の国家の軍隊が仮想敵国の足止めすらできない現状が由々しき問題であると言える。まぁ、アーカイム皇国は解放されたばかりなのだから、仕方のないことではあるが。
「……さて、そろそろ目標海域だな。艦載機の発艦準備はどうなっている?」
「『レコン』各機、および第5戦闘航空隊の発艦準備完了です」
「そうか。……では、これより航空偵察任務を開始する。『レコン1』『レコン2』及び『グラディウス』発艦」
猪瀬 海将補はJRQ-1無人偵察機2機とF-35CJを装備する第5戦闘航空隊の発艦を命じた。
今回の任務では大陸の北東の島、及び大陸東部を調査する。そこには人が住んでいる地域があることが衛星による情報収集で判明している。航空隊はその上空を飛ぶことになる。
現代でやれば領空侵犯で戦争行為そのものだが、今回に限っては相手文明が中世レベルである可能性が高い。領空という概念自体がないことが考えられる。だからこその航空偵察任務だ。
ローレンス少将は窓から飛行甲板を見下ろした。そこには発進態勢を整える甲板要員や航空機の姿があった。
「すごい……」
思わずローレンス少将は呟いた。バルツェル共和国軍と戦う前の全盛期のアーカイム皇国海軍を知っている彼からしても、海上自衛隊の装備は飛び抜けて先進的かつ強力に見えた。
祖国どころか、あの憎き強大なるバルツェル共和国軍の戦闘機の性能を大きく上回る戦闘機。そして、まとまった数のそれらを単艦で運用できる航空母艦と呼ばれる艦艇。さらに、その航空母艦を守る強力な先進的ミサイル戦闘艦艇。
そのどれもがアーカイム皇国、いや、日本以外の全ての国家の海軍が欲する力だ。世界最強の称号を欲しいがままにする艦隊の一端をまざまざと見せつけられ、ローレンス少将は暫しの間、心ここにあらずの状態になっていた。
やがて、リニア方式のカタパルトから海上自衛隊所属のJRQ-1無人偵察機が発進する。どこかのっぺりとした不気味な機体は、機械らしい正確な挙動で高度を上げていった。
それに続いて次々と発進する各機。ローレンス少将にとって、その姿は頼もしくあると共に恐ろしくもあった。味方である以上、これらは頼もしい存在だ。しかし、仮にこれらと敵対することになったら恐ろしいことこの上ない。
味方であるローレンス少将にすら恐怖を与えた航空機の集団は南方へと飛び立っていく。その姿は艦隊のいずれの艦からも見えており、自衛官以外の各国の海軍軍人は畏怖の念を抱くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
海上自衛隊の航空母艦『ずいほう』の航空隊所属の新見賢人三佐は徐々に姿を露にする島の姿に、パイロットヘルメットの中で目を細めた。彼は僚機のもう1機のF-35CJと共に、日本の遥か南を飛んでいた。
「こちら『グラディウス1』、陸地を確認した」
『了解、事前に策定された航路に従い、航空偵察を行え』
航空母艦『ずいほう』の管制官の声が少しのノイズ混じりに聞こえた。
新見 三佐の担当は北東部の島の偵察が任務だ。この島には文明があることが衛星偵察によって明らかとなっている。より詳細な情報を得るために戦闘機でありながら高度な情報収集能力を持つF-35CJを飛ばしているのだ。
『……! レーダー上での反応を確認!』
側を飛ぶ僚機『グラディウス2』のパイロットから驚き混じりの声が漏れるのを新見 三佐は聞いた。見れば、自機のレーダーにも捉えている。かなり先ではあるが、確かに反応があった。
『こちらでも確認した。……鳥にしては大きすぎるな。小型機並のサイズはある』
レーダーで捉えられた物体の情報をデータリンクで得た『ずいほう』の管制官が唸るように言った。そして、しばらくの間無言が続いた後、艦隊上層部で意思決定が為されたのか、管制官が指示を伝えてくる。
『少々危険だが、これが一体何なのか目視で確認せよ』
「『グラディウス1』、了解」
『『グラディウス2』、了解』
『なお、環境への配慮のため、超音速飛行は禁ずる』
F-35CJ戦闘機2機はレーダー反応がある場所へと向かう。そこは奇しくも都市と思われる人工物集合地域の近くであった。
超音速飛行が禁じられているとはいえ、自機のレーダーに捉えられる範囲にある場所への到達にそれほど時間はかからなかった。10分足らずの飛行で対象の目視圏内に2機は辿り着く。
「『グラディウス2』、気をつけろよ。相手は未知の飛行物体だ」
『了解。……しかし、たかだか中世レベルと思われる文明に航空戦力があるとは思えません。ただのデカイ鳥では?』
「それならそれで有益な情報だ。地球には小型機ほどのサイズの鳥はいなかったからな……」
そこまで言って、新見 三佐はふと気づく。
確かに今の地球上には小型機クラスの鳥はいなかった。しかし、地球の歴史上、小型機クラスとは言えないものの、現代よりも大きな飛行生物がいた。
そこまで思い至り、そしてちょうどそのタイミングで『グラディウス2』のパイロットが鋭い声で報告を上げた。
『対象を目視で捉えました! 1時方向、やや下方です!』
言われた方向を新見 三佐はジッと睨み付ける。すると、確かに豆粒ほどながら何かが4つほど飛んでいるのが見えた。
「『グラディウス2』、近づくぞ。衝突しないように気をつけろ!」
『了解です。そんなヘマはしませんよ!』
2機は少し高度を落としながら飛行物体へと近づいていく。
「なっ……! あれは……」
飛行物体の正体に新見 三佐は絶句した。
『『コマンドポスト』から『グラディウス1』、飛行物体の詳細を報告せよ』
航空母艦『ずいほう』の管制官からの催促が来る。驚きに声を僅かに震わせながらも、新見 三佐はそれに答えた。
「……翼竜だ。古代の翼竜のような生物が、背に人を乗せて飛行している……!」
これが日本と新大陸の文明とのファーストコンタクトであった。
これは新大陸の文明が航空戦力を有する可能性が極めて高いことを日本側を含めた科学文明に知らしめると共に、彼の文明が領空の概念を有していることも示唆することとなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
フソウ皇国の皇都オノゴロから北東に僅か20kmほど行った地点の上空にて、フソウ皇国翼竜武士団の翼竜小隊が飛んでいた。翼竜小隊は4騎で構成されており、今回の飛行は訓練と巡回を兼ねたものだった。
「チビるなよ、新入り!」
タツミ翼竜小隊の隊長、ゴウ・タツミは入隊したばかりの新入りの翼竜武士に発破をかけていた。
「り、了解です……っ!」
新入翼竜武士はおっかなびっくりといった様子ながらも新入りとしては十分合格圏内な技量で翼竜を操り、タツミ隊長や他の先輩の翼竜に追従していた。
「ふむ……なかなかやりますな。新入りにしては良い技量だ」
長年タツミ隊長の下で飛んできたベテランの翼竜武士が満足げにそう言う。
「確かにな。なかなか見所のあるやつだ。……今のような情勢じゃ、少しでも早く使い物になるようにしなきゃならん」
タツミ隊長は表情に苦いものを含ませながら、部下の意見に同意した。
現在のフソウ皇国は極めて不安定な外交情勢にある。そもそもこのネルディス大陸中が不安定であるとも言えるわけだが、フソウ皇国にとって一番の問題は、ネルディス大陸東部を席巻する聖ルナソール連合との関係である。
近年、聖ルナソール連合はフソウ皇国やその他の国への態度を強硬化させており、遂に戦争寸前の状態へと足を踏み入れてしまっている。いつ戦争が始まり、この神聖なるフソウ島に聖ルナソール連合の軍隊が土足で踏み込んで来るか分かったものではないのだ。
そんな事態に備え、フソウ皇国武士団は戦力の拡充や練度向上に余念がない。特に翼竜武士団や水軍は侵略してくる敵と真っ先に戦うことが予想されるため、訓練を重ねていた。
タツミ達翼竜武士団の仮想敵は聖ルナソール連合の飛竜騎士団である。翼竜武士団が翼竜とも呼ばれるプテラルという生物に騎乗しているのに対し、飛竜騎士団は飛竜とも呼ばれるワイバーンという生物に騎乗している。
プテラルはフソウ島原産の生物であり、一般の鳥と同様に羽ばたいて飛行する。全長は8mほどで、翼を全開にすれば翼幅は15mにも達する。一方で体は華奢で体重も200kgを少し超える程度が一般的だ。それ故、騎乗する時も装備重量や騎乗する人間の体重にも注意せねばならない。
一方のワイバーン。こちらはプテラルとは違い、純粋に翼の揚力だけで飛んでいるわけではない。プテラルに比べて体格ががっしりしており、体重もかなり重いため、翼の揚力だけでは飛行ができないのだ。
では、どのようにして飛んでいるのかと言えば、魔法の一種のようなもので飛んでいる、という結論になる。ワイバーンの翼の皮膜は空気だけではなく、大気中にある魔素を受けることができる。ワイバーンは常時魔法のような力を使い、周囲の魔素を上昇気流のように操作して翼膜で受け、擬似的に揚力を生み出しているのだ。
また、ワイバーンは全長15m以上というプテラルを上回る体格を誇り、魔素を利用した火炎ブレスを吐き出すことができる。さらに、体表には多くの箇所に鱗がついており、雑兵が1回2回と剣で切りつけた程度ではダメージを負わせることもできないという強靭さをも持っているのだ。
プテラルとワイバーンの飛行能力と戦闘能力を比較すると、プテラルの方は運動性能や低速での安定性、上昇力に優れている。その一方、ワイバーンは最高速度や火力、防御力、最大荷重に優れていると言えよう。
この比較の結果、タツミとしては納得のいかないことなのだが、フソウ皇国軍上層部は純粋な戦闘能力は飛竜騎士団が上であると判断している。
決め手としては、やはりワイバーンの強靭な肉体やブレス、最高速度の優秀さなのだろう。タツミに言わせてみれば、ブレスは弾速が遅いので見て避けることが可能だし、最高速度にしても、プテラルの優れた上昇力による高度有利によっていくらでも挽回できるものだ。
とはいえ、タツミがいくらそう考えていようと、上層部の考えは変わらない。さらに言えば、上層部の判断の方がより堅実な考えに基づいているとも言えた。
ブレスは弾速は遅いとはいえ、当たれば致命的である。それが分かっている以上、回避は確実に行わねばならず、結局、牽制として十分な力になっている。
そして、高度有利にしても、プテラル自体に十分な攻撃力がなく、騎乗している武士がいるとはいえ打撃力不足であることに変わりはない。多少高度で有利を取っても、倒すのが難しいのだ。これでどうして対抗できていると言えよう。
「まぁ、何事もないことが一番なんだが……」
いろいろ考えた末にタツミがそう言った時のことだった。
「隊長! 北の空を見てください! 何かが近づいてきます!」
部下の一人が切羽詰まった声でそう言う。タツミは部下のそんな様子に尋常ではない事態であると瞬時に判断し、注意深く北の空を睨んだ。
すると、かなり距離があるのか、小さな豆粒ほどの何かが飛んでいるのが見えた。
「あれは何だ……?」
タツミは思わずそう呟く。その詳細な姿はすぐに見ることができた。
とてつもない速度……決して翼竜が真似できないような凄まじい速度で接近し、轟音を響かせる。その音に驚き、翼竜が暴れだす。
「くそ! 落ち着け!」
自分の愛竜をどうにか落ち着かせるタツミ。そこの手際の良さは流石のものである。長年連れ添った部下二人もベテランらしく素早く立て直した。
……しかし、この場にはベテランだけがいるわけではない。
「う、うわぁぁぁ!? た、助けてくださいぃぃぃ!?」
多少センスがあるとはいえ、所詮は新入り。このような状況に柔軟に対応できるはずもなかった。愛竜を落ち着かせるどころか、自分が振り落とされそうになっていた。
「くそ!」
タツミは新入りの翼竜の近くまで愛竜を寄せた。すると、新入りの翼竜は次第に落ち着きを取り戻した。
プテラルという翼竜は本来、集団で生きる社会的な生物だ。そのためか、冷静な仲間が側にいると、次第に落ち着く習性がある。周りが落ち着いていれば、釣られて自分も落ち着き始めるのだ。
その習性を利用した翼竜の落ち着かせ方である。これは新入りを指導する翼竜武士ならば必ず身に付けている。下手な者がやれば、相手の翼竜とぶつかって共に墜落する恐れがあるため、指導員は翼竜の騎乗技術が卓越していなくてはならない。そのせいか、ベテランでも指導員を任されることは少なく、タツミの優秀さが窺える。
「あ、ありがとう、ご、ございます……」
新入りは息も絶え絶え、九死に一生を得たような様子だった。
「とりあえず下に降りるぞ。どうにか落ち着かせたとはいえ、危険だ」
タツミはそう言って新入りと共に高度を下げる。
「お前達は至急基地に帰還し、報告しろ!」
「「了解!」」
ベテラン二人にはそう命じる。あんなものが皇都近郊に現れたのだ。可及的速やかに報告せねばならない。本来ならば隊長であるタツミが行くべきなのだろうが、この場で指導員を任せられているのはタツミだけである。新入りをこの場に捨て置くわけにはいかない。
先ほど通り過ぎた物体は旋回してこちらに戻ってくる。タツミはその姿を凝視した。
「あれは……何だ……? 生き物ではないのか……?」
タツミにとって、それは空を飛ぶにはあまりにも異形であった。
それはまるで金属のような無機質な質感を持ち、翼竜や飛竜のように羽ばたかず、それなのに凄まじい速度で飛んでいる。それらが翼竜の鳴き声や飛竜の咆哮など掻き消すレベルの轟音を響かせ、こちらを窺うかのように上空を旋回していた。
やがて、飽きたかのようにその身を翻し、元来た方角へと飛び去っていく。タツミはその姿をただ眺めることしかできなかった。
後日、正体不明の飛行物が侵入したことを受け、翼竜武士団は警戒態勢をしばらく維持することが決定された。
この国の空を守る任務を負う翼竜武士団が、正体不明の飛行物に領空を好き放題飛ばれた挙げ句、悠々と逃げられてしまった。これによって翼竜武士団の面子は丸潰れだった。
とはいえ、タツミ達に対するおとがめはなかった。タツミ達以外にも国内の複数の場所で正体不明の飛行物と遭遇し、いずれも取り逃がしているからだ。そのことから翼竜では対抗できない相手であるということを上層部は認識しており、それ故のことだった。
……もっとも、翼竜では対抗できないという事実は軍上層部、ひいてはクオン皇帝を悩ませることになるのだが。
しかし、これはこれからネルディス大陸で始まる混乱の序章にしか過ぎなかった。クオン皇帝は後にそう語ることになる。
最近、本作に登場する護衛艦をどこまで現実側に寄せるか悩んでいます。
その内、DDG-179の名前は現実通りの『まや』に変更するかもしれません。そのときは、DDG-180も発表され次第、現実に則した名前に変更すると思います。
本作ではDDになっているFFMはどうしようかな……悩ましい(´・ω・)
●追記
全体的なプロットや設定の練り直しを行おうと思いますので、もしかしたら次の更新が少し遅くなるかもしれません。
我ながら日本以外の国家の設定が甘いことに気づきました(´・ω・)
特にリーデボルグ共和国軍やリテア連邦軍。新登場の国家の設定もまだまだ詰めていきたいです。
できるだけ早く更新できるように努力します。




