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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第一章
29/46

第29話

とりあえず、今話で第一章は終わりです。

かなり急ぎ足で来ましたので、終わり方が呆気ない気もしますが、足りない分は間章の時にでも投稿しようかなと思います。

 2034.6.10

 エルスタイン王国 ウェルディス市

 庁舎 会議室

 13:30 現地時間






 エルスタイン王国のウェルディス市。今回の一連の戦争はここから始まったと言っても良いだろう。


 エルスタイン王国は東西で歴史的に確執があり、国内でも非常に仲の悪い関係であった。それでも国として纏まっていられたのは、外国の脅威があったからだろう。特に西部は不毛な土地が多く、戦争となれば食料が不足するのは目に見えている。だからこそ、東側と完全に決別することができなかったのだ。

 しかし、異世界転移がそれを変えてしまう。西側を支援すると密約したバルツェル共和国の出現により、エルスタイン王国は内戦状態に陥ってしまった。その時、西側の反乱軍の指導者はガリウス・フォン・ウェルディス。ウェルディス侯爵家当主であり、ウェルディス市の市長でもあった。

 結局、反乱軍はバルツェル共和国に使い捨てられ、当のバルツェル共和国に反乱軍の中枢都市であったウェルディス市は瓦礫の山に変えられた。ウェルディス侯爵はバルツェル共和国の攻撃で死亡し、彼の祖国のため、故郷のためと信じた反乱は凶悪な侵略国家の侵入口を提供するだけに終わってしまったのだ。

 その後、バルツェル共和国の前進拠点として利用されたウェルディス市。最後には自衛隊最精鋭部隊と名高い第1特装団が奇襲をかけ、激しい戦闘の末にバルツェル共和国陸軍司令部は陥落した。


 此度の戦争の主戦場であったと言っても過言ではないだろう。実際、戦災の痕は生々しく市内全域に残っている。ウェルディス市中央部や工業地帯は瓦礫の山となり、市内の一部区画には大破したバルツェル共和国陸軍の装甲車が放置されている。銃撃の痕や血痕も残されている。かつてのウェルディス市の美しさは完全に失われてしまい、人々の賑わいも消えた。治安は悪く、エルスタイン王国の兵士が巡回している。

 戦争前のウェルディス市民には想像すらもできないような、変わり果てたウェルディス市の姿がそこにあった。


 だが、ウェルディス市民の不幸はそれだけで終わるということはなかった。これはウェルディス市民に限ったことではなく、西部地域の全住民に言えることなのだが、反乱軍を支持したことが結果的にバルツェル共和国という真の敵を呼び寄せることになった、という事実から、東部の住民からの差別が本格的に酷くなりつつあった。

 反日・反政府の旗の下に動いた西部のエルスタイン王国民は、実際に反乱に参加したかどうかは関係なく全て裏切り者扱いである。自業自得の面もかなり大きいが、それでもエルスタイン王国にとってプラスの影響を与えるとは思いがたい世論が形成されつつあった。




 そんな、いろんな意味で傷痕の深いウェルディス市。始まったのがここであるのは先述のとおりだが、終わりもここになろうとしていた。

 この日、ウェルディス市では日本・エルスタイン王国・アーカイム解放戦線とバルツェル共和国の間で講和会議が開かれるのだ。エルスタイン王国内では、この不毛な戦争にようやく終止符が打たれると安堵の声が多数聞かれるが、政府や軍上層部、そして交渉に出席する外交官などはとても安堵できたものではなかった。なにせ、まだ戦争が終わると決まったわけではない。講和交渉は決裂の恐れも含んでいるのだ。




 講和会議は臨時に役所代わりとなっている屋敷の会議室で行われた。

 片側にはバルツェル共和国の外交官と軍人達が十数名。もう片側には日本・エルスタイン王国・アーカイム解放戦線の外交官や自衛官、軍人達が二十名超。日本・エルスタイン王国・アーカイム解放戦線の中では日本の参加者が最も多く、過半数を占めているのは日本の貢献と影響力を鑑みれば当然であろう。


「では、講和会議を始めましょう」


 日本の講和交渉団の全権大使を務める世古が代表してそう言った。彼はアーカイム解放戦線との交渉の時にも駆り出されており、それなりに経験の豊富な外交官である。

 相対するバルツェル共和国の人間は不愉快そうな表情をした者が多い。よっぽど戦争の結果が納得いかないようだ。表情を隠そうともしないあたり、あまり外交官のレベルは高くなさそうだと世古は分析する。無論、見せかけの可能性もあるので油断はできないが。


「我々は貴国に以下の要求を行います。最初の要求は、アーカイム皇国の解放。そして、旧ベールニア連邦領とアーカイム皇国領の国境線において、双方が国境線から20km以内は非武装地帯とすることです」


「………………」


 この要求は予想通りなのか、不機嫌そうな表情のまま黙り込むバルツェル共和国側。


「次に、双方が外交チャンネルを設立することを要求します。対等な外交関係を築き、国交を開くことが目的となります」


 ここも想定内だろう。バルツェル共和国側の動きはない。


「次の要求は賠償金です。日本円にして100兆円の賠償金を要求します。……金の相場を基準に貴国の通貨に換算しますと、おおよそ20兆リオンになりますね」


「んな!? そんなふざけた金額を……!」


 バルツェル共和国側から動揺した声が上がる。20兆リオンとは、バルツェル共和国の国家予算の10年分に相当する。複数の国を巻き込んだ戦争の賠償金としては普通の部類であるが、そもそも大規模な戦争で負けたことのないバルツェル共和国からしたら法外にも思える額である。


「続いて、ベールニア連邦の段階的な解放も要求します。最初はベールニア連邦に自治権を与え、10年後を目処に独立させてください」


「………………」


 この要求もバルツェル共和国からすれば到底呑めたものではない。旧ベールニア連邦領はもはや生命線なのだ。アーカイム皇国領が失われた今、その重要性はさらに増していると言っても良い。


「戦争に負けたわけでもないのに、なんだこれは!?」


「参加しろと言うから来てみたら……! 我々を侮辱しているのか!?」


 バルツェル共和国側の人間から飛び出る発言。世古はこれらの発言から、バルツェル共和国側の外交官の人材のレベルが大したことがないと悟った。どうにも不利な条件下での交渉に慣れていない……それどころか、圧倒的な優勢の下での‘要求’しかしたことがないのではないかとも思えるレベルだ。

 ともあれ、‘見せ札’に過剰に反応してくれているのは良い傾向だ。やりやすいことこの上ない。


「静かにしたまえ。交渉の真っ只中だぞ」


 そう言って場を収めるのはバルツェル共和国の交渉団全権大使のクルス・エイダー。初老の年齢の外交官で、前世界では他の列強との交渉もよくこなしていたことから大使に選ばれていた。

 ……とはいえ、バルツェル共和国は元々前世界でも他列強との交流は薄い国であった。物理的に遠かったことや利害関係が深くなかったりと、他列強とぶつかる機会がほとんどなかった。それ故、対等以上の相手と交渉することができる人間があまりいないのだ。エイダー大使自身もあまり自分が有能だとは思っていない。しかし、人材がいないのだ。どうしようもない。


「セコ大使、これらの条件を全て呑むことはかなり難しい。特に賠償金とベールニア連邦独立の要求に関しては」


「そう申されましても、我々が貴国から受けた損害を鑑みるに、それくらいの賠償はいただきたいのですよ。特にエルスタイン王国は複数の都市が焼け野原ですからね……その再建費用を欲するのは当然では? 貴国が破壊したのですよ?」


「しかし、それだけの余裕は我々にはない。ニホン軍との戦闘によって多くの者が戦死した。その見舞い金や失った装備の補填などに多くの費用がかかるのでな」


「それはエルスタイン王国も同じことですね」


 軽くジャブを打ち合う両者。しばらく睨み合いが続く。


「……分かりました。では、我が国は賠償金請求権を放棄しましょう」


 世古はここで折れておいた。日本政府としては賠償金請求はさほど重要視していない。むしろ、‘見せ札’として要求したに過ぎない。アーカイム皇国から鉱山の採掘権という形で報酬はもらっているのだから、固執するほどの重要性はないのだ。


「ですが、エルスタイン王国やアーカイム皇国の賠償金請求権は残っています。両国合わせて10兆円弱……2兆リオンといったところでしょう。それを20年に分割して支払う……これはどうですか?」


「……ううむ」


 エイダー大使としては悩ましいところだった。日本には譲歩させたため、目的は達していると言える。エルスタイン王国やアーカイム皇国に支払う賠償金も両国合わせて国家予算1年分。それを20年分割払いだ。無理なく払えると言えば払える。


「まぁ、貴国の通貨でもらっても仕方ありませんし、相当額分の資源払いになりそうですが」


「……仕方あるまい。それは呑もう」


「では、その他の要求に関してはどうなのです?」


「ベールニア連邦独立の要求もそのままでは難しい。我が国の資源供給地なのだ」


「ふむ……。では、ベールニア連邦の自治権付与と残虐行為の禁止はどうでしょうか?」


 バルツェル共和国から資源で賠償金を払ってもらう関係上、資源供給地を奪うことは難しい。それ故、世古は要求の段階を引き下げることにした。


「残虐行為の禁止とは……?」


「住民の虐待、不当な強制労働、強制移住などが相当します。細かいところは後々詰めるとして、どうでしょうか?」


 世古の申し出はまだ納得できるものだった。少なくとも、独立されるよりはマシだろう。自治権付与から独立機運の高まりも予想されるが、それは軍によって弾圧すればいい。残虐行為の要項の中に反乱鎮圧を含めないようにすれば、どうとでもなる。


「反乱鎮圧までもが残虐行為に含まれないのであれば、十分に妥協できる内容だ」


 世古はエイダー大使の返答に満足げに頷いた。ベールニア連邦で独立機運が高まり、バルツェル共和国がそれを防ぐために反乱鎮圧を行う。それが、ある意味での日本の目的だ。反乱鎮圧で少しでも国力を浪費してもらい、アーカイム皇国の再軍備のための時間を稼ぐのだ。


「そのように取り計らいましょう。第1、第2の要求は呑んでいただけるので?」


「……仕方あるまい」


 日本の賠償金請求とベールニア連邦の独立という要求は退けられたのだ。本国にも十分に申し開きのできる内容だろう。……とはいえ、日本にとってはどちらも見せ札であり、必ず通さねばならないのは第1と第2の要求だったのだが。


 その後にも様々な要件を詰めていく。捕虜の返還の際には返還金を要求することに成功し、およそ2000億円相当の資源払いということになった。


 そして、4日後の6月14日に講和条約であるウェルディス条約が結ばれた。こうしてこの世界初の大規模な国家間戦争が終わりを告げたのだった。

 ……もっとも、終わったのは直接的な戦争であり、日本陣営とバルツェル陣営の冷戦が幕を開けようとしている。それでも、戦災に遭った人々からすれば待ちに待った終戦である。世界は表面上の平和を取り戻すのだった。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 バルツェル共和国の大統領府の執務室。そこには臨時大統領となったパンジャン臨時大統領が執務机を前に座っていた。机の上には機密書類が並べられている。


「……とんでもない被害だな」


 バルツェル共和国軍が負った損害に関してのレポートを眺め、ポツリとそんな感想を溢した。


 陸軍は約20個師団分の戦力が失われた。これは陸軍の総戦力の4割を占める数だ。それらの装備も一挙に失われ、この再建には少なく見積もっても10年以上の期間が必要になるだろう。死者も多く、人口動態にすら悪影響を及ぼしかねない。人口5000万人の国で10万人の死者……それも比較的若い世代が死んだとなれば、今後のバルツェル共和国に暗い影を落とすのは当然予想されることだ。考えたくもないが。


 無論、被害を受けたのは陸軍だけではない。空軍や海軍も大きな被害を受けている。むしろ、こちらの方が致命的とも言える被害だ。


 空軍は総戦力の半分以上を一挙に失った。さらに主力級の『クリーガー』タイプの戦闘機が敵戦闘機に対して性能面で圧倒的に劣勢であることが露見し、空軍は今後の装備調達の計画もままならない状況だ。少なくとも空対空ミサイルを搭載し、運用できるようにせねばならない。さらにレーダーの搭載も行わねばならないだろう。現状だとバルツェル共和国にとって技術的課題が大きい。

 さらに失ったパイロットの数も尋常ではなく、その育成に多大な金と時間がかかることが予想されている。控え目に言っても、組織として破綻している。


 海軍も主力艦隊は1個しか残っておらず、またこちらも最新鋭艦艇の性能面での劣勢が明らかになっていた。このままだと本土近辺の海上優勢の確保すらも難しいため、何かしらの対策を練らねばならないが、それも覚束ない。とはいえ、バルツェル共和国海軍も学んだことがないわけではない。やはり現行のミサイル戦重視は間違っていないことが判明したため、ミサイルの性能面を強化することを目標としていた。


 しかし、陸海空全てに言えることだが、バルツェル共和国軍は圧倒的に優れた技術の産物を前に、技術向上に関してむしろ悪影響を受けていた。日本の兵器に勝るものを作らねばならないという考えに固執して、一足飛びに優秀な兵器を作ろうという動きになっている。

 それは決して簡単なことではなく、確固たる技術力の蓄積が必要な所業だ。そして、それ無しに作ろうとしても大抵の場合は駄作機になる。

 これに関しては、某半島国家の最新鋭戦車でも明らかだ。パワーパックの開発技術が無いにも関わらず国産に拘った結果、国産パワーパックを使用した車両は所定の水準に満たない性能に落ち込んでしまった。ヨーロッパ製パワーパックを使用した方はさほど問題のない性能なのだが。無論、国産に拘るのが悪いわけではないが、それで駄作機を作ってしまっては元も子もない。


 バルツェル共和国はその某半島国家よりもさらに状況が悪い。なにせより優れた技術のある外国製の兵器を運用するという手段が取れないのだから。これに関しては現状日本も同じだが、置かれた状況に大きな差がある。技術的優勢に立った側と技術的劣勢に立った側。それが日本とバルツェル共和国の立場の違いだ。


「やはり通常兵力で対抗するのは難しいか……」


 パンジャン臨時大統領は日本のことは嫌いだ。彼は日本との講和を推進こそしたが、日本の下にバルツェル共和国があることを良しとする人間ではない。親日か反日かで問われれば、後者に属する人間だ。もっとも、バルツェル人のほとんどはそうだろうが。


 そんな彼は、日本に対抗する手段を模索していた。このままでは日本の影響力に呑まれ、骨抜きにされてしまう。大陸の国々のように。彼もバルツェル共和国がこの世界の主導権を握るべきだと考えているので、日本が主導権を握る現状を何とかして変えたいと考えていた。


 そして、それを為し得るモノは、皮肉にもロッテンダム元大統領が遺していた。


「ロッテンダム大統領……いや、元大統領。彼はこんなものも用意していたのか……」


 機密書類に書かれているのは、人類史上最大の火力である核兵器の開発計画であった。計画名は『マーター(殉教者)』。どうにも不気味な名前だ。偶然なのか、その名前はロッテンダム元大統領を思わせる。

 バルツェル共和国の覇権という理想を追い求めて失敗して自殺した(世間ではそうなっている)彼の残した計画。それは破棄するにはあまりにも惜しい計画であった。もしかしたら、今回バルツェル共和国に屈辱を与えたあの日本にも打撃を与えられるかもしれない強力な兵器の開発計画だ。日本にやり込められた現状をパンジャン臨時大統領も良しとはしていない。


「彼の置き土産……私が引き継ぐとしよう。そのためにも、大統領選で勝たなくてはな」


 この日、パンジャン臨時大統領はマーター計画にゴーサインを出した。膨大な国費を投じねばならないため、通常兵力の再建や経済政策を行わねばならない現状だと計画の遂行はスローペースにならざるを得ない。それでも、やるだけの価値はある計画だと彼は思ったのだ。

 全てはバルツェル共和国の栄華のために。その決意を秘めた表情はロッテンダム元大統領が大陸侵攻を決意した時の表情とよく似ていたのだった。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 今後のために動き出したのは、なにもバルツェル共和国だけではない。日本や大陸諸国も動き出していた。


「……これは、本気ですか?」


 首相官邸にて、長谷川 総理は目の前に出された資料を見て、差し出してきた大岸 防衛大臣にそう問うた。


「そうだ。これが新中期防衛力整備計画に盛り込まれる」


 自衛隊は異世界転移してから、従来の防衛力整備計画を放り出して装備の維持に努めていた。様々な武器・兵器の国産化に金を取られ、転移時には建造中だった艦艇などはともかく、新しく調達するということが難しくなっていたのだ。そして、ようやく落ち着いてきた今年には、バルツェル共和国との戦争が起きた。

 そういったことから新たな計画が必要となったのだ。前の計画通りにはいかなくなったのだから。

 そして、今後の情勢も含めて自衛隊の装備を調達していくという観点の下、今回の計画案が防衛省から提出された。それは長谷川 総理からしても大胆と言わざるを得ないものになっていたのだ。


「新たに60000t程度の原子力空母2隻の建造と艦載機の調達、イージスシステム搭載護衛艦2隻の建造、汎用護衛艦10隻の建造、ながと型のレールガン搭載、F-3戦闘機3個飛行隊分約60機に加え、JFQ-2無人戦闘機を6個飛行隊分120機……さらに陸上自衛隊の定数拡大、それに応じた装備調達、そして核兵器の配備、ですか」


 長谷川 総理が述べたものは概要でしかないが、それでもインパクトのある防衛力整備計画だろう。


 新たに原子力空母を2隻建造することで、通常動力の しょうほう型とあわせて4隻の空母を運用することになる。つまり、全護衛隊群に固定翼機を運用できる空母が配備されることになるのだ。


 そして、イージスシステム搭載護衛艦2隻の建造。これは こんごう型の代替……というわけではない。中国との戦争の後に1個護衛隊群を3個護衛隊規模に拡大した海上自衛隊だったが、この新型イージス艦2隻とイージスシステムを搭載した多任務護衛艦である ながと型2隻を用いて護衛隊群所属の全護衛隊にイージス艦を配備しようというのだ。こんごう型はさらなる延命改修が施されることになる。


 汎用護衛艦10隻の建造については、護衛隊群所属の むらさめ型9隻と たかなみ型1隻の代替のための建造だ。現在の4個の護衛隊群では汎用護衛艦の定数は32隻となっているが、先の通り、空母2隻とミサイル護衛艦2隻が追加配備となるため、その分が削られて汎用護衛艦の定数は28となる。そのため、たかなみ型の内の4隻は代替のないまま退役となる。これら14隻の退役艦についてだが、場合によっては延命処置や情報保護を行った上で大陸諸国に払い下げる可能性もある。


 そして、ながと型には対地攻撃の手段としてレールガンが搭載される。アメリカは転移前の時点で開発済みであり、一部艦艇に搭載していた。その対地攻撃力は有効だと判断され、自衛隊も国産レールガンの配備に踏み切ったのだ。


 F-3戦闘機やJFQ-2無人戦闘機の配備は予定通りといったところだろう。F-15JやF-2の代替として次々と配備を進めている。遅くとも2040年代には代替しきってしまいたいのが航空自衛隊の考えだろう。


 陸上自衛隊の定数拡大は今後、国外に駐留する部隊が増えることが懸念される中、本土の防衛に穴が空かないように補完するためのものだ。実際にはそれほど大規模な駐留はないと考えられているが、それでも不確定要素もある。備えることは重要だ。


 そして、一番大きなインパクトを持っているのがこの核兵器の配備だろう。唯一の被爆国として、前世界では有名だった日本。そんな国が皮肉にも異世界で核兵器保有を目指すというのだ。

 しかも、既に少しずつ外堀を埋めている。原子力の軍事利用を やまと型原子力潜水艦の建造で前例を作り、MD研究の一環として弾道ミサイルの研究を行い、原子力潜水艦の原子炉を隠れ蓑に核弾頭開発技術を高めていた。

 既に要素技術の多くを手にしているのだ。あとはゴーサインを出せばそれほど時間をかけずに開発・配備ができる。問題はゴーサインを出すのに国民の承認が必要になることだろう。

 核兵器を手にするというのは、政府だけの決定でできるようなことではない。国家方針の大幅な転換とも言えるのだ。それを国民投票で是非を問うことになるだろう。


「これらは今後の日本にとって必要なものだ。海外への軍事プレゼンスや影響力を考えると、な」


 大陸諸国は安全保障に関して日本を当てにしている。それ故、経済やその他の面で日本に大きく譲歩しているわけだ。そのため、日本は各国との間に有利な通商条約を結び、有利な貿易することができている。つまり、日本がこの世界で優位な国際関係を築くには、強力な軍事力が必要不可欠なのだ。


「それは分かりますが……財務省がどう言うやら……」


「何としてでも呑ませるさ。今は勝てても、次は勝てるとは限らん。あのような危険な国家に負けることは絶対に許されない以上、やれる備えをしておくべきだ」


 そう言って大岸 防衛大臣は笑った。獰猛とすら思える笑顔だ。政権内屈指の武闘派である彼が極めて乗り気なのだ。なんとなく、この計画が通ってしまいそうな気がする。


「やはり、我々としては戦後こそが大変になりそうですね」


「その通りだ。むしろ、厄介なのはこれからだろうな」


 長谷川 総理の言葉に頷く大岸 防衛大臣。

 日本とバルツェル共和国の直接銃火を交えない戦いが始まろうとしていた。










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