第26話
明けましておめでとうございます(* ̄∇ ̄*)
突っ込みどころの多い今話ですが、どうぞ。
2034.5.29
旧アーカイム皇国領 アーカイメル空軍基地
空軍前線司令部
05:53 現地時間
「……み、味方戦闘機部隊……全滅です」
空軍前線司令部は沈黙に包まれていた。味方戦闘機部隊の全滅を伝える声は震えており、その兵士自体、この結果を到底信じられないような様子だった。
「……バカな、ふざけてる……!」
オルリス空軍大将はそんな言葉を漏らした。100機以上いた味方戦闘機が、遥かに少数の敵機に対して、何の戦果も挙げられずに文字通りの全滅の憂き目に遭った。何かの冗談にしか思えない言葉だが、実際に起きてしまったことだ。
「……もう、発進できる機はないのか?」
「整備が十分でない機体が20機ほど……。全て『クリーガー』タイプですが、MkⅠaとMkⅠbが混ざっています」
オルリス空軍大将の問いに副官がそう答える。100機以上の戦闘機で挑んで為す術なくやられた相手に対し、整備不良の20機の戦闘機をぶつけたところで訓練用の的を提供するようなものだ。
「くそ……。それだけでもいい、空に上げるんだ。敵機は?」
それでも、オルリス空軍大将は発進させることを命令した。戦闘機は空中にあるだけでも、敵からしたら無視できない脅威と成りうるはずだ。たとえ取るに足らない格下であったとしても、地上にいる戦闘機よりは厄介な存在に成りうる。オルリス空軍大将は、もはや勝つための作戦よりも敵に対するハラスメント効果を重視している状況に陥っていた。どう足掻いても勝てないというのが分かっている相手故、仕方のないことかもしれないが。
「……味方部隊を撃滅した敵航空部隊、退却していきます」
「……この敵航空部隊が退いていく……?」
オルリス空軍大将は、もしかして助かったのではないか、というあまりにも甘い考えに行き着きそうになって、すぐにそんな考えを捨てた。敵がこちらの空軍基地を見逃す理由はないはずだ。
オルリス空軍大将がそんなことを考えていると、悲鳴じみた声で報告が上がる。
「れ、レーダーに反応しない敵機が南方より侵入! 目視で確認したとの報告! 第2防空レーダー隊からです!」
「なに……? 第2防空レーダー隊と当基地との距離は30km……手遅れか」
オルリス空軍大将は諦めきった声音で呟いた。どうやら真打ちはこちらのようだ。
「基地防空隊、戦闘態勢に入ります!」
副官の報告。しかし、対空火器の発砲音が聞こえる前に爆発音が響いた。1つや2つでは済まない数だ。
「ぼ、防空隊の損害多数!」
敵に攻撃する前に機先を制され、何もできぬまま潰されていく防空隊。敵機は姿を見せる前に対空火器を攻撃し、無力化していく。その度に、防空隊所属の将兵達は自らの役目を果たすことなく死んでいった。
「くそ……! 総員、避難しろ! 地下防空壕に逃げ込め!」
オルリス空軍大将は抵抗を諦め、防空壕に入るように全部隊に命令した。……しかし、それは少し遅すぎた命令であった。防空隊はほとんど壊滅して死傷者多数の状態になり、残った整備不良の20機の発進準備をしていた整備員達やパイロット達は格納庫への攻撃で吹き飛ばされていた。
「……私は指揮官として失格だな」
自らの無力さを呪うオルリス空軍大将。彼なりにできることはやった。しかし、相手が予想を常に上回る化け物であった。少なくとも彼からしたら。
しかし、そんな言い訳が通用するはずもない。彼の指揮の下、多くのバルツェル人の若者が無為に死んでいったのは事実なのだ。
「……神よ、罪深き私をお許しください」
自らの防空壕に退避しようと走りながらそう呟くオルリス空軍大将。特別信心深い質ではないのだが、それでもこのような絶望的な状況下においては神にすがりたくもなる。
そして、神の審判は下された。
オルリス空軍大将のいた空軍前線司令部にLJDAMが着弾し、建物が大きく崩れる。
瓦礫はオルリス空軍大将ら、多くのバルツェル将兵達に降り注ぎ、その命を踏み潰した。オルリス空軍大将は自分の命令で死んだ部下達に懺悔の心を抱いて、その生涯を終えるのだった。
その上空を勝ち誇るように海上自衛隊所属のF-35Cが飛び去っていく。この航空部隊は海上の空母『しょうほう』から発進した戦闘機部隊であったのだ。
バルツェル共和国軍は自衛隊の空母の存在にこの期に及んでも気づいておらず、敵機が飛んで来るのは東からだと思い込んでいた。そのため、東から飛んで来た自衛隊機の迎撃に全力を向けてしまい、南方からの侵入を簡単に許してしまったのだ。
……まぁ、仮に南方に対しても警戒を怠らなかったとしても、ステルス戦闘機であるF-35Cをどうこうできるほどの力はバルツェル共和国軍にはないのだが。
しかし、順風満帆な作戦遂行を遂げているように見える自衛隊側にも、予想外な事態が起きようとしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「敵偵察機、低空にて捕捉! 距離28!」
その報告をFIC(艦隊情報センター)で聞いた時、バルツェル共和国軍との戦争に派遣された第1護衛隊群の司令官、井上 海将補は思わず自らの耳を疑ってしまった。
「敵偵察機だと……? 我々の警戒網を突破してきたというのか!? 」
第1護衛隊群は当然だが、艦隊のレーダー以外にも無人偵察機による周辺警戒を行っていた。空母『しょうほう』には4機のJRQ-1無人偵察機と2機のE-2E早期警戒機が搭載されており、通常は2機のJRQ-1無人偵察機と1機のE-2E早期警戒機を対空・対水上警戒に、SH-60K哨戒ヘリを対潜哨戒のために2、3機飛ばし、さらにCAP(戦闘哨戒)の戦闘機が飛び回る。
しかし、今回は無人偵察機2機を大陸内陸部の偵察のために回しており、さらにE-2E早期警戒機1機がエンジントラブルで使用不能になっていた。そのため、残りの2機の無人偵察機と1機のE-2E早期警戒機、3機のSH-60Kで警戒網を形成していたのだ。そして、間の悪いことに現在はE-2Eが燃料補給のために『しょうほう』に帰還しており、さらにCAPに就いていた2機のF-3B戦闘機は別方向にて発見された敵偵察機の対応に追われていた。この敵偵察機はたまたまその間隙を突いてきてしまったようだった。
その機が自衛隊のレーダー探知を逃れるために低空飛行を続けていたことも大きな原因の1つであろう。よっぽど良いパイロットが乗っていたようだ。
恐らく、報告はされてしまっただろう。敵はこちらの艦隊の場所を知ったと考えるべきだ。
「……やってくれるな。すぐに撃ち落とせ」
「了解、最寄りの艦に攻撃を指示します」
井上 海将補の命令にFIC要員の1人がそう応え、パネルを操作する。
「『あきづき』、ESSM発射」
その報告と共にスクリーン上で『あきづき』のマーカーからミサイルを表すマーカーが生み出され、点滅しながら敵偵察機のマーカーに突進していく。30秒足らずの内に着弾し、ミサイルのマーカーと敵偵察機のマーカーは消失した。
「敵機撃墜」
「対空警戒を厳となせ、敵はこちらの位置を掴んだぞ」
井上 海将補はそう言って腕を組んだ。
「くそ……CAPを減らしたのがまずかったか」
CAPに就く戦闘機は敵機への対処と偵察を兼ねている。E-2E早期警戒機が警戒網から一時的にいなくなったタイミングの時くらい、追加でCAPを上げておくべきだったのだ。しかし、多くの艦載戦闘機が敵地上部隊への攻撃のための準備をしており、CAPに回せる機体はほとんどなかった。現在飛んでいるCAPの交代分しか余っていなかったのだ。
「今回は不運に不運が重なりました。司令だけの責任ではないかと」
井上 海将補の隣に立つ白瀬 一佐がそう言うが、井上 海将補は首を振る。
「司令官はこの私だ。ならば、私が全ての責任を負うべきだろう」
「……失礼しました。余計なことを申し上げました」
「いや、私のことを気遣ってくれたのだろう? 気持ちは嬉しいよ」
そう言って井上 海将補は笑った。
「さて、こちらの偵察機はまだ敵艦隊を見つけられないのか?」
敵に先手を取られた以上、可能な限り早くイニシアティブを取り返さねばならない。
しかし、そう簡単に事は運ばなかった。
「方位264、距離320にレーダー反応! 高度2000、機数16! 反応の大きさからミサイルと推測されます」
「……そう簡単にはいかないか。敵のミサイルの射程は想定よりも長いな……上に報告が要るな」
井上 海将補はそう呟くと、次の瞬間には迎撃を命じるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第1護衛隊群が攻撃を受ける少し前。バルツェル共和国海軍連合艦隊の司令官、ルーグ・ライントルス大将は内心で焦りを感じていた。
彼は先の戦闘での報告から、敵の艦船には対艦ミサイルが装備されていることが確実と見ていた。
バルツェル共和国海軍は未だに対艦ミサイルを保有した敵艦隊との戦闘を経験したことがない。前世界では、対艦ミサイルとはバルツェル共和国が世界に先駆けて開発した兵器であり、他の列強国では後追いで開発を急いでいた状況だった。
そんな事情から、対艦ミサイルを保有する敵艦隊との戦闘は手探りなのがバルツェル共和国海軍の実態であった。一応、対艦ミサイルを保有する敵と戦うためのドクトリンは考案されてはいる。
そのドクトリンはバルツェル共和国海軍内ではロングランス戦法と呼ばれている。より長大な射程を持つ対艦ミサイルを装備し、先に敵艦隊を見つけて先に撃って先に倒す。バルツェル共和国海軍はこれに特化していると言っても過言ではない。
そのため、海軍では独自の偵察機を保有したり、空軍の偵察機との連携を行ったりしている。もっとも、後者は空軍との不仲もあってか、まともに機能しているとは言えないが。
ライントルス大将が焦っているのは、敵艦隊がなかなか見つからないからだ。ロングランス戦法では可能な限り早く敵を見つけることが重要となる。少なくとも敵より先に見つけねばならない。ロングランス戦法とは、先手を取ることが前提の戦術なのだ。逆に言えば、先手を取られると終わりである。
海軍では対艦ミサイルや航空機の撃墜のための艦対空ミサイルの研究を急いでいるものの、誘導システムの開発に時間がかかっているのが実情だ。
……空軍も航空機に搭載するための空対空ミサイルを独自に開発している。もし、空海軍が協力すれば対空ミサイルの開発完了までの時間が短縮できそうなものなのだが、やはり空海軍の不仲が原因で実現できていない。
「まだか……まだ見つからないのか……!」
連合艦隊の旗艦であるリーディアス級巡洋艦『オルメディアス』の司令官席に座りながら、ライントルス大将は焦りに満ちた声を漏らす。最初は表面には出さずに内心だけで焦っていたのだが、今では冷静な体を装うことすらできなくなっていた。
しかし、そんな彼に朗報が入る。
「み、味方偵察機より連絡! 敵艦隊発見とのこと! 位置ビーコンを受信しました! 方位85、距離330!」
「よし! 第2艦隊全艦、ミサイル発射準備!」
ライントルス大将は歓喜に満ちた表情を浮かべながら、攻撃を指示した。
バルツェル共和国海軍の基本戦術はロングランス戦法とバルツェル共和国内で呼ばれているもの。敵国が保有するであろう対艦ミサイルよりも長大な射程を誇る対艦ミサイルを持たねばならない。
そのため、バルツェル共和国海軍艦艇が保有する対艦ミサイル『ダーナⅡ』は射程350kmを誇る。この射程を実現するためにミサイル自体は大型化し、発射機も既存の対艦ミサイルの発射機とは互換性がなく、さらにミサイル自体も高コスト化している。だが、このおかげでロングランス戦法……要はアウトレンジ戦術なのだが、これを可能としている。
しかしながら、この『ダーナⅡ』対艦ミサイルを運用できるのはミサイル運用を前提とした新型艦のみである。この連合艦隊は第2艦隊と第4艦隊の合計32隻によって構成されているが、この内、『ダーナⅡ』を運用できるのは第2艦隊の16隻のみであった。
ちなみに、第4艦隊旗艦のリーディアス級巡洋艦『オボロニアス』は新型艦であるため『ダーナⅡ』の運用は可能であるが、第4艦隊の他の艦が旧式艦であるため『ダーナⅡ』を運用できず、『オボロニアス』にだけ『ダーナⅡ』を配備してもあまり意味はないとして第4艦隊には『ダーナⅡ』は配備されておらず、射程100km程度の『ダーナⅠ』を配備している。
「第2艦隊各艦より、ミサイル発射準備完了の報告!」
「うむ! ……我々、栄光あるバルツェル共和国海軍の顔に泥を塗ったニホンの野蛮人共め! 高等文明の力というものを見せてやる! 第2艦隊全艦、ミサイル発射!」
「第2艦隊全艦、ミサイル発射!」
ライントルス大将の命令を復唱する副官。その命令は即座に第2艦隊の16隻全艦に伝えられ、各艦が1発ずつの『ダーナⅡ』対艦ミサイルを発射する。
カーブを描くように高度を取りながら、敵艦隊のいる方向に飛んでいく16発の『ダーナⅡ』対艦ミサイル。『ダーナⅡ』対艦ミサイルは中間誘導は初歩的な慣性誘導、終端誘導は自身のレーダーを頼りに敵艦に突っ込むアクティブ・レーダー・ホーミングだ。どちらも自衛隊の用いるものよりも遥かに精度が粗いものであるが、それでもこの世界では高度な技術力に分類されるであろう。
ようやくバルツェル共和国軍は自衛隊に対して先制的に攻撃が行えた。ライントルス大将は、これが散々バルツェル共和国に辛酸を嘗めさせた生意気な蛮族に対する反撃の狼煙となると信じていた。
対艦ミサイルの迎撃は困難である。少なくとも、バルツェル共和国海軍では対艦ミサイルの迎撃は現実的ではないと考えられている。故に、先制攻撃を行えた時点でライントルス大将、ひいては連合艦隊の全バルツェル将兵は勝った気になってしまったのだ。
命中まで20分以上。ライントルス大将はゆったりとした気分でいた。
しかし、発射から僅か数分後に悲鳴じみた報告が上がる。
「て、敵艦隊の方向よりレーダー反応多数!」
「なんだと!? 対艦ミサイルか!?」
ライントルス大将は驚愕の声を上げた。敵の偵察機を見つけたという報告はなく、敵艦隊がこちらを捕捉できるはずがない。ライントルス大将はそう考えていた。
「いえ、そんな……速すぎます! 飛翔物の速度は音速を遥かに超えているとしか……」
「なんだそれは……。砲弾か何かか?」
「……不明です。飛翔物、我が方のミサイルと交差……」
その時、そのレーダー士官は信じられないものを見ることになる。
「なっ……! ミサイル消滅……?」
「なに? もう一度言え!?」
「み、ミサイルが飛翔物と交差した時に消滅……敵にミサイルが迎撃されています!」
「そんなバカな!?」
レーダー士官の報告に艦橋中がざわめく。
「間違いありません! 迎撃されています! 既に4発の『ダーナⅡ』が……さらに2発消滅!」
「……敵はおそらく、対艦ミサイルを迎撃できる対空ミサイルを実戦配備しているのでは……」
副官が自らの予想を告げる。
「ミサイルの迎撃が可能な対空ミサイルは、我が国でも実現できていないのだぞ!?」
「……誠に遺憾ですが、敵は我が方よりも技術的に優勢のようですな」
副官が苦い表情を隠さずにライントルス大将に告げた。ライントルス大将は未だに信じられない気持ちでいた。だが、現実に『ダーナⅡ』対艦ミサイルは撃墜されているのだ。
「……我が方のミサイル、全滅しました」
レーダー士官が力の抜けたような声でポツリと報告を上げる。
「……いったい、敵は何だというのだ……」
必殺の思いを込めて放ったバルツェル共和国海軍の誇る『ダーナⅡ』対艦ミサイルが為す術なく無力化されていったという現実を前に、ライントルス大将はポツリとそんなことを呟くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「SM-6、全弾命中しました」
FIC要員からの報告が上がる。『まや』と『こんごう』から放たれたSM-6艦対空ミサイルは全弾が命中した。敵が放った16発の長射程艦対艦ミサイルは為す術なく撃墜されている。
ちなみに、2030年代の海上自衛隊はSM-2系統の迎撃ミサイルをSM-6に換装済みであり、スタンダードミサイルはSM-3系統とSM-6系統を装備している。防空能力はさらに向上しており、前世界でも有力な防空能力を持つ艦隊であった。
「射程は脅威だが、それ以外は大したことがなかったな」
井上 海将補はホッとしたようにそう呟いた。敵の対艦ミサイルは高い高度を鈍足で飛んでいた。これにより、より遠くで敵ミサイルをレーダーで捉えることができ、さらに対応時間もより長く取れていた。この程度のミサイルであれば、今回の数倍の数を撃たれても十分に対応できそうだった。……迎撃ミサイルの費用のことは考えたくないが。スタンダードミサイルは高価なのである。
「また攻撃される前にこちらからも攻撃だ。偵察機は敵を見つけたか?」
「はい。ステルス無人偵察機が敵艦隊を捕捉。32隻です」
敵ミサイルの捕捉点から敵艦隊位置を予測し、その海域に向けて既にJRQ-1無人偵察機が飛んでいた。そして、予測通りの場所に32隻で構成されるバルツェル共和国艦隊がいたのだ。バルツェル共和国艦隊は監視されていることなど気づかず、悠々と航行しているように見える。……中では、もしかしたら混乱の極みにあるのかもしれないが。
「よし、SSM-2Cを発射しろ!」
「了解、全艦SSM-2C発射」
その命令が発令されると、即座に各艦に通達される。『しょうほう』と『いずも』を除く10隻から2発ずつ、計20発のSSM-2C対艦ミサイルが発射される。
SSM-2C対艦ミサイルは、12式地対艦ミサイルを艦載用に再設計した17式艦対艦ミサイル(SSM-2)に射程延伸などの各種性能の向上を2度施したものだ。その射程は400km近くにも及び、さらに高度なステルス性能、対欺瞞性能、シースキマー性能の他、C型からは追加で超音速突入性能を備えている。
海上自衛隊では2020年代後半に既存の艦艇にSSM-2運用能力の付与を全艦艇に行った。それ故、本来はSSM-1を運用する むらさめ型や あきづき型などの従来艦もSSM-2系統を運用しているのだ。ちなみに、これは使用するミサイルが増えたために兵站の負担が増し、種類を少しでも削減して負担を軽減しようとした結果である。
SSM-2Cは無人偵察機からの情報によって、それぞれが目標の敵艦を定めた。これによって、目標が被って無駄弾が出るのを防ぐことができる
20発の電子の矢は、バルツェル共和国軍の『ダーナⅡ』とは対照的に低空を超音速で飛行していく。狙われているバルツェル共和国艦隊は未だにこのミサイル群を捉えられていない。当然だ。水平線の下にあるステルス形状の飛翔物を船のレーダーで捉えるのは自衛隊ですら不可能だ。
SSM-2Cは巡航時には亜音速だが、突入前に加速してマッハ3を超える速度で飛ぶ。水平線から顔を出したときには、バルツェル共和国艦隊が取れる対応時間は30秒も残っていないだろう。
この時点でバルツェル共和国艦隊の命運は決まったようなものであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「くそっ! どうすればいい……?」
ライントルス大将は呻く。あまりにも鮮やかに『ダーナⅡ』対艦ミサイルの全弾が撃墜されてまってから、『オルメディアス』艦橋内では作戦方針が割れていた。
ひとつは再度攻撃を行う案。あれほどの性能の迎撃ミサイルを多数用意するのは難しいはずだという判断から、何度にも渡って攻撃して敵の迎撃ミサイルを弾切れにしてやるという考えだ。そうなれば敵艦隊にも打撃を与えられる。
もうひとつは戦力温存のために撤退するという案。敵の戦闘能力は極めて高く、勝算もないことから無駄に戦力を失うことを避けようという考えだ。この場合、事実上の敗北であるが、戦力喪失は避けられる。
司令部参謀達や『オルメディアス』艦長、ライントルス大将の副官が入り交じって、どちらの案を採用するか議論していた。
「再度攻撃すべきだ! まだ一度防がれただけだ! この程度で怖じ気づいてどうする!?」
「敵艦隊のこの異常な戦闘能力は想定外だ! このままでは一方的にこちらがやられるぞ!? ここは無為に艦隊を失うわけにはいかない!」
「敵からの反撃はまだ来ていない! 敵はこちらの位置を把握していないに違いない!」
「反撃が来てからでは手遅れなんだ! 先程のミサイル攻撃でこちらの位置は割れたはずだ! もう反撃が来てるかもしれない!」
「ならせめて、残った『ダーナⅡ』だけでも……敵に少しでも打撃を与えねば、我々は高等文明国の人間として……」
「そんなことを言っている場合か!? もう認めるべきだ! 敵は格上で、我々よりも強い! だいいち、残った『ダーナⅡ』を撃ち尽くすまでどれだけ時間がかかると思ってる!? その間に距離を詰められて逃げられなくなる!」
ライントルス大将は部下達の議論を聞いて考える。
正直なところ、理性は撤退すべきだと訴えかけている。敵は今までバルツェル共和国軍が経験したことのない強大な存在であり、有効な戦術が確立していない今、勝算もなしに戦うべきではない。
しかし、撤退は撤退でまずい。被害も受けずに逃げたのでは、自分も含めて艦隊上層部は処罰されるだろう。それも敵前逃亡罪で。バルツェル共和国軍において、敵前逃亡は極刑だ。そして、何より世界はバルツェル共和国軍を腰抜けだと評するだろう。
ライントルス大将はふたつの案の中で決断できないでいた。そして、その決断できないでいる状態こそが、そのふたつの案のどちらよりも最悪の選択であったのだ。結局、何もしていないに等しいのだから。
まぁ、ふたつの案のどちらかを選択したところで結果は変わらないのだが。
「れ、レーダーに反応! 方位85、距離15! とんでもない速度で複数の飛翔体が接近中!」
「何だ!? 何が飛んできている!? 何故その距離になるまで気づかなかった!?」
ライントルス大将は唾を飛ばしながら怒鳴りつけた。レーダーの位置の高さも考えて、30kmまで近づかれればいくら低空を飛んでいても捉えられるはずだったのだが、既に15kmまで近づかれていた。
「敵機は極めて低空を……それに、レーダー反応も不安定です! こいつら、音速を超えている!? 距離10!」
「対空射撃用意! 見張り員、何が見える!?」
『今探してます! くそ、どこだ……!』
見張り員の焦りを含んだ声。そのすぐあとに「距離7!」という報告。
『み、見えました! は、速い……ミサイルです!』
「ミサイルだと!? もう敵艦隊に見つかっていたのか!? くそ、対空射撃、早くしろ!」
ライントルス大将は悲鳴じみた声で命ずる。しかし……
「し、照準、間に合いません! 艦砲迎撃圏は既に突破されました! 距離、3……! も、もうダメだ……!」
副官の絶望の声。
「総員、衝撃に備えろ!!」
ライントルス大将がそう叫んだ数瞬後、『オルメディアス』の艦橋は光に包まれた。
この日、バルツェル共和国海軍第2艦隊、第4艦隊による連合艦隊は海上自衛隊第1護衛隊群によるミサイル攻撃によって大きな損害を受けた。
バルツェル共和国海軍連合艦隊は巡洋艦8隻、駆逐艦24隻によって構成されているが、その内の巡洋艦4隻沈没、2隻大破航行不能、駆逐艦14隻沈没、という大損害はバルツェル共和国海軍連合艦隊の作戦能力を喪失させるのに十分な損害であった。
旗艦『オルメディアス』に座乗していたライントルス大将以下、連合艦隊司令部は全滅して生き残りは一人たりとも存在せず、艦隊司令部を失った連合艦隊は隊列を崩しながら各々の艦の判断で戦闘海域より撤退した。
2隻の航行不能になった巡洋艦は自衛隊によって拿捕されることになる。
これが今次戦争における最後の機動艦隊による海戦であった。自衛隊の圧勝である。
現実の自衛隊なら、もっと上手くやると思いますが、ミサイル迎撃やら艦対艦ミサイルが活躍するシーンを入れようとすると、どうしても相手側に先手を取らせないとダメなので、少々無理な流れになってしまいましたね。
リアルに考えると、自衛隊艦隊が先に見つけて先に攻撃して、先に倒していると思います(笑)
前話でもステルス戦闘機や巡航ミサイルでレーダーサイトや航空基地を潰してからF-15Jを投入すべきでしたが、それだと空戦すら起きないので、あのようにしました(苦笑)




