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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第一章
25/46

第25話

急いで書き上げたので、少し気に入らない部分も残っていますが、とりあえず更新してしまいます。もしかしたら、後で少し手直しするかもしれません。

皆さんが忘れかけている……かもしれない人物達が再登場します(笑)

 2034.5.29

 日本国 防衛省

 統合作戦司令室

 04:57 JST






「作戦開始予定時刻まで、あと3分」


 司令室要員の声が響いた。ここは陸海空自衛隊を統合的に指揮するために創設された統合作戦司令室だ。陸海空自衛隊を一元的に管理し、ここから指示を出す。正面の巨大なスクリーンが自衛隊の展開状況を示し、多数のオペレーターが様々な作業を忙しなく行っている。


「………………」


 大岸 防衛大臣は席に座って、静かに作戦開始時刻を待っていた。その側には同様にして待つ統合幕僚長と陸海空それぞれの幕僚長がいる。自衛隊の総司令官は内閣総理大臣であるが、作戦での実務上は彼らが最高幹部と考えてもよい。まさしく、ここは自衛隊の頭脳であった。


 陸海空自衛隊の作戦開始準備が整ったのが27日。そこから2日後の今日、自衛隊による在アーカイム皇国バルツェル共和国軍への総攻撃が始まろうとしていた。


 この作戦に参加する自衛隊部隊は先の戦闘よりも多い。海空ではほぼ同様の戦力であるが、陸に関しては大規模な増員が為されていた。先の戦闘において活躍した第1、第2外征団と第1特装団、第1空挺団に加え、陸上自衛隊第7師団、第8師団、第10師団、第11師団、第12旅団が参戦する。総勢6万人を超える陸上兵力だ。


 既に自衛隊は物資集積を終えている。あとは命令が出されるまで待機である。


「……勝たねばならん」


 大岸 防衛大臣の呟き。それに反応して4人の幕僚長達が彼の方を向く。


「我々はこの世界に来て、ようやく安定の道を歩み始めた。それを脅かす敵は何としても排除せねばならん。……それに、今後の世界秩序をリードするには、この戦争での勝利……それも圧倒的な勝利が必要不可欠だ」


 大岸 防衛大臣の言葉に幕僚長達は頷く。

 彼の言葉に日本政府の願望が詰まっていると言っても過言ではない。日本政府はこの戦争を利用して大陸での影響力を絶対的なものとし、この世界に日本にとって都合の良い世界秩序を形成しようと画策しているのだ。

 非公式だが、この事情を知る者の中にはこの構想のことを『日本主導の世界秩序(パクス・ジャポニカ)』と呼ぶ者もいる。この世界に来て、日本は貪欲に国益を追求しようとしている。

 そのためにも、自衛隊は万全とも言える態勢にまで準備を整えていた。


 その一方で敵であるバルツェル共和国軍は準備が整っているとは言いがたい状況に落ち込んでいる。

 19日からの自衛隊潜水艦部隊による攻撃で、バルツェル共和国軍の物資輸送に深刻な障害が発生しているのだ。既に70を超える輸送船(多くは民間徴用船)が撃沈されており、多くの物資と人員を失っている。その人的被害は2個師団丸々が海に消えたのにも等しい量だ。

 それでも10個師団あまりを前線に張りつかせることに成功したのは、バルツェル共和国軍の努力の成果であろう。もっとも、2個師団規模を失い、残りは本土に残されたままで事前の計画を全く遂行できていない、という目を背けたくなる事実があるのだが。

 さらに人員は送れても、装備や物資は深刻なレベルで不足している。前線に送られるはずだった装備や物資は海に沈み、さらに大陸から本土へ送られるはずだった資源も同様に沈んでいる。全ては自衛隊潜水艦部隊の作戦の結果である。


 悪影響は陸軍に留まったわけではない。空軍の作戦能力にも障害が発生している。

 輸送船が運ぶべき物資の中にはジェット燃料も含まれていたのだ。……つまり、空軍の航空機が飛ぶための燃料すらも不足しているのだ。


 しかし、何もかもが上手くいかなかったわけではない。幸い、偶然にもバルツェル共和国海軍の連合艦隊は自衛隊潜水艦部隊と鉢合わせすることはなかったのだ。これには、自衛隊潜水艦部隊が通商破壊作戦を任務としていたことも一因に挙げられるだろう。無論、遭遇すれば容赦なく攻撃されたであろうが、運良く連合艦隊は自衛隊の潜水艦と遭遇することはなかった。

 ……とはいえ、それが幸運だと思えるほどの余裕はバルツェル共和国にはない。


「……必ず勝つぞ」


 大岸 防衛大臣はそう呟き、作戦開始時刻を待った。


 アーカイム皇国を解放するこの作戦の名前は『リバティ・アロー』。アーカイム皇国をバルツェル共和国の過酷な統治から解放する‘自由の矢’である。

 ちなみに、エルスタイン王国に侵攻するバルツェル共和国軍を追い払うために行った以前の戦闘には作戦名などはつけられていない。あくまで自衛隊側が能動的に作戦を開始する時のみ作戦名がつけられる、という形だ。




「作戦開始時刻になりました」




 遂にその時がやって来た。大岸 防衛大臣は立ち上がって口を開く。


「『リバティ・アロー』作戦、開始! 日本の興亡はこの一戦にあり! 各員、一層奮励努力せよ!」


 日本時間、2034年5月29日午前5時00分。自衛隊のバルツェル共和国に対する反撃が始まった。


 作戦開始は即座に前線の部隊に伝えられる。

 まず行動を始めたのは航空自衛隊であった。リーデボルグ共和国領内にあるアイゼンド飛行場からF-15J、F-2A、F-3A、JFQ-2が次々と発進する。それらは対空装備または爆撃装備を抱えてバルツェル共和国軍が構える旧アーカイム皇国領の空域へと向かった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 同日

 旧アーカイム皇国領 東部

 監視所

 05:01 現地時間





 まだ朝陽も昇らない時刻。そんな中でも前線のバルツェル兵達は交代で敵の侵入に備えて監視を行っていた。


「ふわぁ……クソ眠い」


 欠伸をしながら悪態をつく兵士。彼は監視所に配置されており、今も木造の簡易的な監視塔から東の方角を監視している。しかしながら、彼は任務に対して忠実とは言えない態度でいた。

 彼とて最初からこうだったわけではない。ここに配置された当初はやる気に満ち溢れていた。しかし、彼の部隊は東部侵攻部隊から外れてしまい、延々と周辺は木々ばかりのこの監視所に放り込まれていたのだ。やる気も削がれる。

 それだけではない。よりにもよって、東部侵攻部隊は壊滅の憂き目に遭い、敵がこの地に攻め入るかもしれないというのだ。この任地の唯一の魅力である安全すら脅かされている。最悪だ。

 しかし、敵がこちらに攻め入るかもしれないと隊長に言われたのが、もう3週間前。侵攻部隊が壊滅してすぐのことだ。それから敵は何のアクションも起こしていない。同僚は「敵にはバルツェル共和国を攻撃する力は残ってないに違いない」と言っており、彼もそう考えていた。

 だが、たかだか一兵卒で学もない彼らには、軍事作戦の前にはその作戦規模に応じて準備期間が必要となることが頭から抜け落ちていた。実際、バルツェル共和国軍によるエルスタイン王国侵攻も事前に長期間の準備を要したのだ。だからこそ、上層部は警戒を緩めていない。その一方で末端の兵士の緊張感は緩みがちになっているのが現在のバルツェル共和国軍の実情だった。


(最近は飯も種類が減るわ量が少ないわで気分が悪いぜ……)


 ため息を吐くバルツェル兵。まだ若い彼には量の少ない食事というのは相当な苦痛であった。

 バルツェル共和国軍の糧食が貧しいのは今に始まったことではない。兵力規模に対する兵站能力が貧弱……は言い過ぎにしても、それほど整っているわけではないバルツェル共和国軍では、あまり糧食では贅沢は言えない。

 だが、今はそれに輪をかけて酷くなっているのだ。原因は海自潜水艦部隊による通商破壊作戦だ。それによって短期間で多くの輸送船が撃沈され、輸送能力と共に物資や装備が海底に没した。その影響が前線に目に見える形で出始めていた。

 食事というのは戦場における最大の娯楽と言っても過言ではない。それが目に見えて劣化していくのだ。本人達にそのつもりはなくとも、士気は下がっていく。


「やってらんねぇぞ、くそ……」


 今できることと言えば悪態をつくことくらい。不満ばかり溜め込んで吐き出す機会がない。

 これはこの監視所に限った話ではなく、既に大陸にいるバルツェル共和国軍全体に蔓延している。日本が参戦してからはバルツェル共和国軍は踏んだり蹴ったりの状況だ。末端の兵士もそうであるが、士官クラスも相当なストレスを抱え込んでいた。

 それがバルツェル共和国軍全体の動きを鈍くさせる。日本の反撃が始まる前に、バルツェル共和国軍は既にガタガタの状態であったのだ。


「……ん?」


 東の空を見るバルツェル兵。まだ暗くてよく見えない。しかし、まだ昇らぬ太陽がほんのりと空を明るくしていた。その中で、チラリと何かが飛んでいるのが見えた気がしたのだ。


「気のせいか?」


 目が良いのが彼の取り柄であるが、さすがに暗い中で飛んでいるものを見ることができるほどではない。


 だが、しばらくすると轟音のようなものが遠く響いてきた。


「何だ、この音は……?」


 不審に思った彼は監視所の方に内線で連絡を取ろうとした。

 しかし、その数瞬後に彼は監視塔ごと吹き飛ばされ、その人生を終えた。

 監視塔とその隣にあった監視所はまとめて爆発して赤い炎に包まれる。その場にいた者は彼も含めて何が起きたのかも理解できぬ内に死亡した。


 その上空……それもかなりの低空をバルツェル共和国軍のものではない航空機が通過する。暗くてよく見えないが、それは航空自衛隊のF-2戦闘機であった。


 バルツェル共和国軍にとっては唐突に、自衛隊の反撃は始まったのだった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「ぜ、前線より緊急連絡! 敵航空部隊が我が勢力圏に侵入中! 数は多数! 正確な数は不明です!」


 アーカイメル空軍基地にあるバルツェル共和国空軍前線司令部にて、その報告が為されたのは航空自衛隊戦闘機部隊が侵入してすぐのことだった。


「全戦闘機出撃だ! 敵航空部隊の総攻撃だ! ここで全力を出し切れ!」


 バルツェル共和国空軍大陸派遣部隊指揮官のオルリス大将はその報告を受け、すぐに指示を出す。前任のレッグ大将は敗北の責任を問われて解任され、本国に呼び戻されている。


 大陸派遣部隊の指揮官に抜擢されたオルリス大将だったが、その心中は穏やかなものではなかった。普段ならば光栄に思っていただろうが、今回に限っては貧乏くじを引かされたとしか思えなかった。

 敵の戦力はこちらを圧倒せしめ、こちらは敵に対する有効な対抗手段すら見つけられていない。そんな前線の指揮官の役を押しつけられたのである。嬉しいはずがない。

 とはいえ、オルリス大将は真面目な性格であり、任ぜられた以上は全力で任務に就く人間であった。そのためか、敵の侵入に対するレスポンスは早かった。


 オルリス大将は以前の戦闘で攻撃を受けた生き残りの将兵から話を聞き、敵が何らかの技術や戦術を用いており、こちらのレーダーが当てにならないことを知った。そこから、敵に容易く侵入される前提の下、前線の各地の部隊や施設から目視で敵航空機を発見し、すぐに報告できるように陸軍と調整していたのだ。その成果がこの瞬間に現れていた。


「敵の侵入位置は!?」


「報告が錯綜しております! 敵は複数の箇所から侵入している模様!」


「くそ!」


 オルリス大将は悪態をついた。彼は自分ができる限りの努力を行ったが、彼の対策には弱点があった。それは、敵が同時多発的に一挙に侵入してきた場合、報告が殺到してパンクしてしまうことだ。

 今回の場合、敵航空部隊……航空自衛隊の戦闘機部隊は同時に侵入し、散開して次々と目標に襲いかからんとしている。そして、その目標はかなりの広範囲に散らばっていた。その結果、同時に多数の部隊が敵機侵入の報告を上げ、その報告を受け取る前線司令部のキャパシティを大きく超えてしまった。しっかりと事前準備を行ってシステム化したものではなく、簡易的かつ一時的に有り合わせのもので作ったようなシステムであったが故に上手く働かなかったのだ。


「レーダーが当基地へ直進する敵航空部隊を探知!」


「この基地周辺で対応できる戦闘機を全て回せ! 発進中の機もだ!」


「り、了解です!」


 もしもこのアーカイメル空軍基地が失われれば、先の戦闘の二の舞だ。前線はエアカバーを失い、猛烈な空爆を受けることになる。前線の崩壊は必至だろう。それを防ぐためにも、アーカイメル空軍基地の防衛に航空兵力を集中するのだ。たとえ、他の地域での航空優勢を一時的に失ってでも。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 ようやく朝陽が地平線より姿を現した頃、アーカイメル空軍基地の滑走路から次々とバルツェル共和国軍戦闘機が発進していた。そのほとんどは実戦配備されているバルツェル共和国軍戦闘機では最新鋭の『クリーガーMkⅠb』戦闘機である。第3航空団のほとんどが装備していた、ジェットポッドを翼下に吊るした『アンバー』タイプの戦闘機ではない、遷音速戦闘機だ。

 地球に存在している戦闘機に例えるのなら、『アンバー』タイプはMe262、『クリーガー』タイプはMiG-15といったところだろうか。


 そして、彼らの発進頻度は通常時の比ではない。それこそ、無理矢理にでも間隔を縮めて発進させているようなものだった。戦闘機数機がまとまって離陸し、それらが離陸しきっていないタイミングで次の戦闘機数機の集団が滑走路に進入してそのまま発進する。

 アーカイメル空軍基地の管制塔は既にパンクしており、ほとんどまともに管理できていない。しかし、それでも空軍前線司令部はこの急ピッチの離陸を強行させている。それほどまでに先の戦闘での大敗はショッキングであり、自衛隊航空部隊はバルツェル共和国空軍にとって恐怖の存在だったのだ。





 次々と発進していく戦闘機部隊には、先の戦いで生き残ったパイロットを予備機に乗せて急造で構成した戦闘機部隊もあった。その予備機は『クリーガーMkⅠa』。エレクノル社製『エレクノルⅢ』エンジンを搭載しており、スペック表の上ではMkⅠbが搭載するトリオン社製『スターラスターⅠ』エンジンよりも高い性能を誇る。実際は稼働率の低さが問題視されて、順次MkⅠbに改修されており、今残っているのは改修が間に合わなくて予備機にされていた機体だけである。

 しかし、それすらも元第3航空団のパイロットを乗せて空に上げようとしていた。そして、そのパイロットの中には、元第303飛行隊所属のルーイン・ベネトン少佐やライラ・ステンダム曹長なども含まれていた。


『すごい数の味方だな……』


 同じ部隊に所属するパイロットの声が無線を通して聞こえてくる。ライラは彼のことはよく知らない。この部隊でよく知っているのは隊長に任ぜられた元第303飛行隊隊長のルーイン・ベネトン少佐とそれ以外の数名のパイロットだけであり、過半数は自己紹介で名前だけ知っているだけの仲である。

 しかし、ライラは彼の言葉には同意できた。辺り一面の空域には味方戦闘機……それもほとんどが『クリーガーMkⅠb』の編隊が飛び回っており、その総数はもしかすると100機にも迫ろうか、というほどであった。


 よくも短期間でこれだけの数を発進させたものだと彼女は思った。まぁ、無理して発進させた結果、彼女の前に発進した集団が離陸後すぐに僚機同士で接触事故を起こして墜落していたりしていたが。幸いにもパイロットは脱出し、機体は滑走路から離れたところに墜落したため、その後の離陸に支障はない。せいぜいパイロットが味方機と接触しないように神経をより尖らせるようになったくらいだろう。


 しかし、彼女としてはそこまでしてまとまった数の戦闘機を発進させようとした司令部の判断は間違っていないと考えていた。それほどまでに今回の敵は強いのだ。実際、彼女が所属していた第303飛行隊は発進する前に基地を奇襲されて壊滅した。そのことを考えれば、地上撃破される前に飛ばしてしまうのは悪くないと思えた。まぁ、不足しているジェット燃料のことを考えれば、この規模の出撃は今次戦争ではこれが最後になると思うが。


『……だが、いくら数がいても……』


 そう言葉を濁す別のパイロット。確かに、その通りだ。数がいたところで敵の航空部隊を止められるとは思えないのが実際に敵の攻撃を受けた者達の感想だ。

 この戦争の前では、予想される敵の航空兵力に対して、バルツェル空軍将兵は何と言っていたか。「敵は数だけだ。戦闘機での戦いは、技術の差が大きく出る。世代が違うのだから負けるはずがない」。そんなことを多くの者が言っていた。

 では、今はどうか。敵はこちらを技術・戦術で圧倒している。それに対して、バルツェル共和国空軍は数に頼るしかなくなっている。まるで以前とは逆の立場だ。


「それでも戦うしかない。死んでいった仲間達のためにも」


『……そう、だな』


 ライラが言った言葉に、先程まで喋っていたパイロット達は黙る。

 先の戦いで、空に上がって敵航空部隊と戦った者は誰一人として戻らなかった。この部隊にいるのは先の戦いで機体が地上撃破されて何もできなくなったパイロット達である。敵の空爆で戦友を多く失っている。だからこそ、ライラの言葉を重く受け止めた。


『お喋りはそこまでだ。あと少しで敵と接触するぞ』


 隊長のベネトン少佐がそう言うと、皆、気持ちを切り替える。恐ろしき敵が目前まで迫っているのだ。否応なく緊張は高まる。先程の会話も緊張を解すために無意識にいつもよりもパイロット達の口が軽くなっていたから起こっていたのだ。


 ライラは目の前の空を睨む。敵はまだ見えない。しかし、必ずその先にいるのだ。意識しない内に呼吸が荒くなる。


『こちら第4防空レーダー! 敵航空部隊より何かが放たれた! 凄まじい速度でそちらに向かっている!』


 迎撃に上がった全部隊に向けて、地上レーダー部隊の1つが警告を出した。


『全機散開! 高度を下げるぞ!』


 ベネトン少佐がそう命じる。ライラはその命に従い、5000mあった高度を急降下して下げていく。先ほどまで同高度にいた味方戦闘機が相対的に上の位置になり、地面が近づいてくる。高度1000mほどで水平に戻すと、彼女は上の味方部隊を見る。


 どうやら散開しているようだ。しかし、高度は捨てなかったらしい。


 実際、戦闘機は高度を捨てると不利になる。位置エネルギーで優位に立つのは戦闘機乗りとして重要なことだ。戦闘中に高度を上げようとすると速度が落ち、敵からしたら良い的になる。逆に高度を下げながら敵に攻撃すると、速度が乗って反撃を受けにくくなるし、逃げやすくなる。いわゆる一撃離脱がやりやすいのだ。


 それでもベネトン少佐は降下を命じ、部下達はそれに従った。高度を下げるとレーダーからは見つかりにくい。そして、速度を上げられるのでその分離脱しやすいのだ。

 まぁ、もっとも自衛隊のレーダーに関しては、戦闘機やAWACS、ミサイルのレーダーからは彼らは全く逃れられていなかった。ただ、幸いにも彼らは攻撃目標から外れていた。少なくとも今は。



 ライラの視線の先で次々と光が明滅した。恐ろしい速度で味方戦闘機が撃墜されているのだ。無線機から味方パイロットの悲鳴が聞こえてくる。


『くそ! 目の前の小隊が消し飛んだ! いったいどこの部隊だ!?』


『被害多数! 被害多数! 回避しきれ……』


 途中でノイズに呑まれる無線もある。光の明滅の回数だけ味方がやられていく。絶望的な光景だった。


「そんな……」


 敵はまだ姿すら見せていない。それなのにも関わらず、一方的にこちらがやられている。これでは戦う以前の問題だ。ただただ圧倒的な力に捩じ伏せられているような無力感をライラは感じた。


『敵機、すぐ近くにまで接近!』


 レーダー部隊の報告。しかし、その報告を受け取る戦闘機は元の3割未満にまで減っていた。70機以上が一挙に撃墜されてしまったのだ。編隊を組めているのはライラ達の部隊だけであり、上空では寒々しく感じるほどに少なくなった味方戦闘機が右往左往した状態で飛んでいる。


『……あれが敵の戦闘機か』


 ベネトン少佐の声が聞こえ、ライラは敵のいる方向を見る。まだ遠いものの、敵の航空機の集団が見えた。


「あれだけ……? たったあれだけの敵に、ここまでやられたというの……!?」


 ライラは愕然とした。こちらに向かって飛んでいるのは20機にも満たない数だ。たったそれだけの敵機相手にこれほどまでの損害を受けている。その事実に彼女は背筋が凍る思いがした。


『敵機が何かを発射!』


 味方パイロットの叫び声。敵戦闘機が何かを放ったのはライラにも見えた。その何かは凄まじい速度で尾を曳きながら上空の味方機に迫り、そして爆発する。味方機は粉々に粉砕され、パイロット達の悲鳴がノイズに掻き消される。


『最初の攻撃と同じものか!』


 ベネトン少佐はそう判断する。事実、確かにどちらも空対空ミサイルではある。まぁ、細かく言えば最初の攻撃はAAM-4中射程ミサイルで、今のはAAM-5短射程ミサイルという違いはあるが、彼には分かるはずもない。


 上空の味方機を全て落とした敵機は次に低空にいるこちらを狙ってくる。


『くそ! 無理だ、勝てっこない!』


 誰かの叫び声。ライラもその意見に同意だった。


「ごめんね」


 自分が乗っているこの戦闘機にそう謝るライラ。次の瞬間には敵機が再び攻撃を放つ。狙いはこちらだ。逃れられない。

 ライラは素早く風防を開くと、空へと体を投げ出した。その数瞬の後にライラが乗っていた戦闘機にミサイルが命中し、爆散する。

 ライラは空中で自由落下する恐怖に耐えながら、パラシュートを開いた。周りを見ると、ライラと同じ判断をして生き延びパイロット達が数名いるようだ。

 そして、飛んでいるバルツェル空軍機は見える範囲にはいなかった。


 敵機は既にライラの目でもその姿形がはっきり見える距離にまで近づいており、ライラ達バルツェル空軍パイロットのパラシュートなど気にも留めない様子で飛び去っていく。


 灰色のその戦闘機はバルツェル空軍機の戦闘機のいずれよりも大きく、力強い。ライラは不覚にも、飛び去っていくその敵機……F-15J戦闘機の力強さと雄姿に魅了されてしまうのだった。






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