第13話
いつもよりも早く書き上げられたので、投稿してしまいます。
2034.5.3
リーデボルグ共和国 西部 アイゼンド飛行場
滑走路
05:14 現地時間(日本時間06:14)
まだ夜の明けぬ時間帯。大陸最東部に位置するリーデボルグ共和国の西部にあるアイゼンド飛行場では、夜明け前とは思えぬ喧騒に包まれていた。
このアイゼンド飛行場には多数の自衛隊機が待機している。エルスタイン王国で猛威を奮うバルツェル共和国軍の息の根を止めるための部隊だ。
管制塔では管制官達が動き回り、航空機格納庫ではパイロット達が機体に乗り込み、整備士達が駆け回る。
そんな中、遂に自衛隊機が滑走路に進入した。
F-15J 戦闘機である。
2034年において、F-15J 戦闘機は非ステルス機で旧式ながらも十分に優秀な機体として見られている。レーダーシステムの改良や機体寿命の延長、ミサイル搭載能力の向上などの近代化改修を繰り返した結果、空中管制機や電子戦機の支援下では十分に第一線を張れる性能を得た。無論、それでも新鋭のステルス機の方が好ましいのは確かだが。
そんなF-15J 戦闘機だが、最新鋭機のF-3の配備によって徐々に姿を消している。今では3個飛行隊約60機超程度まで数を減らしており、予定では2035年までに全てのF-15J 戦闘機が消えるはずだった。しかしながら、2032年に起きた異世界転移で予定に少し狂いが発生しており、完全に姿を消すのは2040年以降になるのではないかと考えられている。
半世紀以上に渡って日本の空を守ってきたF-15J 戦闘機は今でもその筋の人間には人気があり、今の状況を歓迎している者達も少数ながら存在する。
『アイゼンド管制塔から『カグヤ』各機へ。順に離陸せよ』
「こちら『カグヤ1』了解。『カグヤ』各機は順に離陸を開始する」
第305飛行隊隊長の姉宮隆太 三佐は無線越しに指示を伝えてくる管制官にそう答えた。彼はパイロットスーツを着込み、HMD搭載型ヘルメットを被った状態でコクピットにいた。まぁ、当然である。今から作戦行動を開始するのだから。
余談ではあるが、転移の数年前に航空自衛隊においてコールサインの命名規定が変更され、日本由来の言葉をコールサインとすることが好ましいとされるようになった。それ故、今の航空自衛隊ではほとんどのコールサインが日本語由来の言葉となっている。
滑走路の横にある待機場では第305飛行隊のF-15J 戦闘機が待機しており、滑走路への進入を待っている。
姉宮 三佐はそれを横目で見つつ、管制官からの離陸許可を待つ。
『こちらアイゼンド管制塔。『カグヤ1』および『カグヤ2』へ。離陸を許可する。直ちに離陸せよ』
「『カグヤ1』了解。離陸する」
『『カグヤ2』了解』
姉宮 三佐と同時に離陸する部下が姉宮 三佐に続いて返答する。それを聞きながら姉宮 三佐は機体のスロットルを上げた。
F-15J 戦闘機のハイパワーエンジンからアフターバーナーが噴き出す。それによって莫大な推進力を得た機体が加速し始める。
姉宮 三佐の1番機と並ぶように離陸する2番機。
2機は未だ闇に包まれた空へと飛び立った。そして次に4機が滑走路に進入し始める。
今、滑走路に進入を始めたのは第2編隊だ。航空自衛隊では小隊と呼ばれる部隊は存在せず、もっぱら4機編隊や2機編隊と呼ばれている。
飛行隊長である姉宮 三佐の1番機とそれに続いた2番機は第1編隊である。航空自衛隊の飛行隊は一般的に飛行隊長の2機編隊 1つと4機編隊 4つで構成されているのだ。
閑話休題。
この光景はアイゼンド飛行場の別の滑走路でも見ることができた。航空自衛隊の戦闘機が次々と発進する。この光景が指し示すことはただひとつ。遂に自衛隊がバルツェル共和国軍に反撃を始めるということだ。
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同日
日本国 首相官邸
会議室
05:54 JST
アイゼンド飛行場から自衛隊の戦闘機が発進する少し前。日本の東京、首相官邸では長谷川 総理を含めた数名の大臣達が会議室に集まっていた。
会議室に集まっているのだから何かしらの会議を行っているものだと考えるのが普通だが、意外にも何かを話し合っている様子はない。その代わりに会議室には重苦しい空気が流れていた。
「……総理、そろそろだな」
「……ええ」
大岸 防衛大臣の言葉に長谷川 総理は頷いた。大岸 防衛大臣の言う'そろそろ'とは、自衛隊の作戦開始時刻のことである。
「我々はしっかりと準備をしてきました。あとは現地の自衛隊員の健闘を祈るだけです……」
「我が自衛隊は精鋭揃いだ、総理。期待以上の戦果を挙げてくれるさ」
「そうですね。……まぁ、私としては、戦果を多く挙げることよりも被害をできるだけ小さくしてほしいところですが」
長谷川 総理はそう言って肩を竦める。為政者としては、戦果よりも被害に目が行きがちだ。
そこからしばらくの無言の時間。
「……日本の興亡はこの一戦にあり」
「何ですか、それ?」
大岸 防衛大臣がポツリと呟いた言葉。長谷川 総理が苦笑しながらそう訊ねる。
「いや、ふと思いついただけだ」
大岸 防衛大臣はそう言って、彼も苦笑する。しかしながら、『日本の興亡はこの一戦にあり』という言葉がしっくりと来る気がした長谷川 総理は、その言葉を胸に刻みつけた。
そう、その言葉は日本の状況を正確に指し示していた。この戦いでバルツェル共和国軍をエルスタイン王国から排除できなければ、日本を危機に陥れることになる。
エルスタイン王国の陥落は日本滅亡への道の第一歩となり得るのだ。
文字通り、日本の未来は派遣された自衛隊員達にかかっていた。
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同日
エルスタイン王国 中部 ノルマーク平野
上空
06:11 現地時間
東から朝陽が顔を出した頃、姉宮 三佐が駆るF-15J 戦闘機はエルスタイン王国中部のノルマーク平野上空を飛んでいた。側には彼の列機である2番機、そして第2編隊の3番機、4番機、5番機、6番機がおり、彼ら6機は澄み渡って美しい空を飛行していた。
『しかし、隊長。今回の作戦、自衛隊の戦闘機のほぼ全ての機種が実戦に参加することになりますな』
2番機のパイロットが無線越しに姉宮 三佐に話しかけてきた。
「確かにな。まぁ、F-35は海自のCだけだがな」
今回の作戦に参加する戦闘機部隊は、航空自衛隊からはF-15J 戦闘機を運用する第305、307飛行隊とF-2A 戦闘機を運用する第3、6飛行隊、F-3A 戦闘機とJFQ-2 無人戦闘機を運用する第1飛行隊。そして海上自衛隊からは航空母艦『しょうほう』の航空隊のF-35CとF-3B。まさに大盤振る舞いだ。日本のミリオタや戦闘機ファンは血涙を流して喜んでいるかもしれない。
『我々、日本人の『イーグルドライバー』の最後の実戦となるやもしれませんから、嫌でもやる気ってのが出るもんですよ』
3番機のパイロットからもそんな声が上がる。まぁ、日本人の『イーグルドライバー』の実戦など、これ以前には東シナ戦争ぐらいしかないのだが、そこをツッコむというのは野暮というものだろう。
『敵に我々自衛隊の恐ろしさを骨の髄にまで教え込んでやりましょう』
これは5番機のパイロットの言葉。少々怖いことを言っているような気もするが、平和を手にするためには合理的な考え方でもある。自衛隊が恐ろしい軍事組織であることを敵が理解すれば、必然的に日本に対してちょっかいをかけづらくなる。この敵とはバルツェル共和国だけに限らない。同盟国にも少数ながら存在する反日派の人間もその敵に含まれる。彼らが余計なことをしたくなくなるほどにまで戦果と実績を積み上げること。これは、ある意味で今次戦争における自衛隊の究極的な目的かもしれない。
『『ヨザクラ』から『カグヤ1』及びその指揮下の機へ。作戦中の私語は例え無線封鎖中でなくとも慎め。我々のレーダーが飛行中の敵機を貴隊の西方200km地点に捉えている。数は24機。これらを撃墜せよ。交戦を許可する』
姉宮 三佐の率いる小隊のさらに後方を飛ぶ空中管制機から飛行中の敵機の攻撃命令が下される。それを聞いた姉宮 三佐はヘルメットと酸素マスクの下で唇を舌で湿らせた。
彼は既に戦闘機パイロットとしてはベテランの域に達してはいるが、いざ戦闘開始となると多少の緊張感や高揚を感じてしまうものだ。
どうやら敵機は2つの飛行隊らしい。16機の集団が先行し、その後方に8機の集団。おそらく先行しているのが戦闘機部隊、後ろにいるのは攻撃機か爆撃機だろう。
「『カグヤ1』了解。交戦する!」
『2、交戦する』
『3、交戦する』
『4、交戦する』
『5、交戦する』
『6、交戦する』
6機のF-15J 戦闘機が交戦状態に入る。この戦争において、第305飛行隊の第1編隊及び第2編隊が自衛隊最初の敵と交戦した部隊となった。そのうち、第305飛行隊の他の編隊や別の飛行隊も交戦に入るだろう。
姉宮 三佐達のF-15Jはほとんど空になった増槽を捨てて戦闘態勢に入る。彼らのF-15Jには、8発のAAM-4C 空対空ミサイルと4発のAAM-5B 空対空ミサイルが搭載されている。
AAM-4C 空対空ミサイルは、F-3A/B 戦闘機に搭載することができるように翼の形状を切り詰め、対欺瞞性能向上と射程延伸を前モデルに施したミサイルである。これによって以前から鬼のような命中精度と指向性爆発による大きな威力で恐れられていたAAM-4系列のミサイルがさらに強力となった。
AAM-5Bも対欺瞞性能向上と射程の延伸を前モデルに施したミサイルである。
ちなみに、在日米軍の縮小の際にアメリカ側がF-35A/B/C 戦闘機の日本独自の改良を認めてくれたおかげで、これらの戦闘機もAAM-4C 空対空ミサイルを運用することができる。まぁ、この処置のせいで以前に運用されていたAMRAAMミサイルの製造元のレイセオン社が割を食ったのだが……それはまた別の話だ。
「こちら『カグヤ1』、敵機射程内」
しばらくして先行する敵機16機はAAM-4C 空対空ミサイルの射程内に入った。AAM-4C 空対空ミサイルの最大射程はB型から大きく延長されて200km以上。しかしながら、確実に敵機を仕留めるのならば160km以下での発射が望ましいとされている。当然ながら、航空自衛隊では160km以下での発射が基本だ。
敵機は未だに姉宮 三佐達のF-15J 戦闘機の接近に気づいていない。当たり前と言えば当たり前だ。レーダーを搭載していない戦闘機が200km以上先の敵機を自力で見つけ出すことは不可能である。そのため、敵機の集団は姉宮 三佐達の前で悠長に飛んでいることしかできない。
やがて、互いの距離が160kmを切る。
「『カグヤ1』、ミサイル発射」
姉宮 三佐のF-15J 戦闘機から次々とミサイルが発射される。第1編隊である姉宮 三佐と2番機に割り当てられた敵機の数は4機だ。それと同数の4発のAAM-4C 空対空ミサイルが発射され、敵機を食い破らんと突き進んでいく。
2番機も4発のミサイルを発射。
それに続くように第2編隊の機もミサイルを同じく発射する。こちらは敵機の割り当てが2機ずつだったので、第2編隊は計8発。
第1編隊と第2編隊、あわせて16発のミサイルがノルマーク平野の空を駆けていった。
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バルツェル共和国空軍第33爆撃中隊は第305飛行隊の近くを飛行していた。
第33爆撃中隊は『ドルテンMkⅣd』レシプロ爆撃機を運用する部隊だ。8機で構成されており、4機毎にまとまってボックス陣形を形成している。
第33爆撃中隊の近くを飛んでいるのは第305飛行隊。彼らはバルツェル共和国空軍の数的主力である『アンバーMkⅡc』ジェット戦闘機を運用する部隊だ。
バルツェル共和国空軍は幾度かエルスタイン王国東部にも空爆を行っており、今回もその一環である。
第33爆撃中隊は第305飛行隊と共に編隊を組んでいるわけではなく、たまたま飛行ルートが近かっただけである。爆撃目標も異なる。
第305飛行隊は第33爆撃中隊よりも先行して飛行しており、2隊の相対距離も大きくなっている。ジェット戦闘機とレシプロ爆撃機なのだから当然のことだが。
第33爆撃中隊の隊長は1番機の操縦桿を握りながら、機内の部下達と話をしていた。
「今回の敵……エルスタイン王国はよくいる蛮族の集まりだと思っていたが、なかなか骨のある連中のようだな」
「そうですね。最終的に我々が勝つのは確定していますが、その過程での犠牲が増えることは間違いないでしょう」
副機長が隊長にそう返す。
先日のノルマーク平野での戦闘でバルツェル共和国軍に大きな被害を負わせたエルスタイン王国軍。バルツェル共和国軍はノルマーク平野での戦闘で勝利こそしたが、劣等文明相手に4400名もの死傷者を出したことが問題視されていた。
軍の高級士官達(特に陸軍のゲベール大将)は大層お冠な様子で、責任の擦りつけ合いや部下達への叱責(という名の八つ当たり)をしているとの噂だ。空軍も14機もの航空機を失っており、その失態を取り戻そうとするかのように司令部はエルスタイン王国軍やエルスタイン王国東部の都市への空爆を命じている。
そして、軍全体で見れば『劣等文明の分際で高等文明たるバルツェル共和国の顔に泥を塗った』という事実に怒りを憤慨している空気が見受けられる。高等文明の担い手であるという自負とプライドのあるバルツェル人には耐え難い屈辱だ。
そのためか、バルツェル共和国軍兵士達の士気は上がっている状態にある。これで高級士官達が責任の擦りつけ合いなどしていないで有意義に動いていてくれれば、何も言うことはない状態だっただろうが、そこまで現実は甘くなかった。
……ついでに占領地での現地民の迫害や虐待が激しくなってきていることも明記しておく。これは完全に八つ当たりであろう。
「……エルスタイン王国軍が多少善戦したくらいで他の蛮族共が調子づくかもしれないと考えると、なかなかに腹立たしいところだが」
「そうですね。ですが、そういった連中には死をもって身の程を知らせてやる……それが我々の役目です」
副機長の言葉に苦笑して「違いない」と返す隊長。その時だった。
『おい、前方から何か近づいてくるぞ……?』
前方を飛ぶ第305飛行隊からの無線。ノイズ混じりの通信でもパイロットの困惑が伝わってくる。そして、その困惑は焦りに上書きされる。
『ちょっと待て! 突っ込んでくるぞ!』
『回避! 回避!』
『追いかけてくるぞ!?』
『速すぎる! 避けきれ』
言葉は最後まで紡がれなかった。そして、遥か前方で煌めく光。1つや2つではない。第33爆撃中隊と第305飛行隊は肉眼で視認するのが困難な距離であったため、何が起こったのかは不明だ。ただ光が明滅するのが見えただけである。
「こちら第33爆撃中隊。第305飛行隊、応答せよ。何が起こった?」
あまりにも不穏な通信に、思わず隊長は第305飛行隊に何が起こったのか問い質す。しかしながら、返ってきたのは不気味なまでの沈黙。
困惑した様子で副機長が隊長の方を向く。
「何が起こったんでしょうか……? '突っ込んでくる'とか'追いかけてくる'とか言ってましたけど……」
「……分からん。だが、問題が発生したのは確かだ」
隊長は前方を睨むようにして見ながら、副機長にそう応えた。
「各機、前方警戒!」
隊長は配下の機にもそう伝え、自身は前方を睨む。
そして微かに煌めく何かが見えた。
「見えたぞ! 何かは分からないが、何かがある!」
隊長の言葉。1番機の中で緊張が走る。いや、第33爆撃中隊の全機の機内でこの緊張が走っているのかもしれない。
やがて、その何かが見えてくるようになった。
だが、やはり隊長にはそれが何か分からなかった。あまりにも速い速度でこちらに突っ込んできているのでシルエットがはっきり見えないのだ。
「銃座! 迎撃!」
隊長は短くそう命じる。機体上部の銃座は機体前方にも機銃を撃つことができる。接近する謎の物体に対して十分に射角が取れていた。
しかし、その対応は遅すぎた。いや、むしろ無駄だったと言えよう。ジェット戦闘機の迎撃も厳しいものがあると言われている『ドルテンMkⅣd』爆撃機の対空銃座がそれ以上の速度で迫る物体を迎撃できるはずがない。そもそも反応が鈍すぎて、まともに迎撃を行う前にその物体が至近距離まで接近してきていた。
「これはいったい……?」
隊長のその疑問に答えが与えられぬまま、その物体……AAM-4C 空対空ミサイルは自爆した。その爆発はただの爆発ではなく指向性爆発だ。破片や衝撃が全てターゲットの方向へ集中する。
その結果、そのターゲットとされた第33爆撃中隊の8機の『ドルテンMkⅣd』爆撃機は悲惨な目にあった。
隊長が搭乗していた1番機は右翼から胴体を大きく抉られ、搭載していた燃料と航空爆弾が誘爆。隊長を含めた搭乗員達は何がどうなっているかも分からないままに、この世から消し飛ぶことになった。1番機は派手に爆発して空中四散したのだ。
他の機体も似たり寄ったりの状況だった。ほとんどの機体が爆散して空に散っていった。
しかしながら、1機だけが幸いにも爆散していなかった。まぁ、それでも機体の後ろ半分が消し飛んでいて、自由落下に近い状態で墜落しているのだが。
だが、この機体の搭乗員は空軍司令部宛に連絡を送ることに成功した。『攻撃を受けた。我が隊は全滅』と。
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同日
旧アーカイム皇国 アーカイメル市 アーカイメル空軍基地
空軍前線司令部
06:20 現地時間
旧アーカイム皇国の皇都であるアーカイメル市にはアーカイメル空軍基地が存在する。かつては皇都アーカイメルを守護するアーカイム皇国空軍の精鋭がいる空軍基地であったが、今ではアーカイム皇国空軍は壊滅し、バルツェル共和国空軍が運用している。
また、ここにはバルツェル共和国空軍の大陸侵攻部隊の司令部も存在しており、バルツェル共和国空軍の一大拠点となっている。
そんなアーカイメル空軍基地の中の空軍前線司令部。その中で少しずつ異常が発見されていくことになる。
「あれ……?」
最初に気づいたのはまだ若輩の士官だった。指令室の中に彼はいたのだが、彼は複数の味方機のビーコン反応が消失したのを見た。バルツェル共和国空軍の航空機には生存確認のためにビーコンを搭載している。このビーコンが消えたということは、何らかの理由で墜落したという可能性が高いということだ。
ただ、解せないのはそのビーコンの消失がほとんど一斉だったことだ。それも飛行隊単位で。ビーコンの故障が飛行隊全機で同時に起こるなど考えにくい。だが、だからといって、いきなり飛行隊丸ごとが消滅する理由など思いつかない。
彼が困惑している間に他の士官達も異常に気づいた。
「これはいったいどういうことだ?」
「消失した部隊は?」
「第305飛行隊のようです」
ざわめきが指令室内に広がっていく。
「ええい! 静かにせんか!」
そう怒鳴ったのはレッグ 空軍大将。今回のバルツェル共和国空軍侵攻部隊の総指揮官だ。評価としては可もなく不可もない人物で、最も無難な指揮官と呼ばれている。特別有能ではないが、特別無能でもないのだ。
「状況を正確に報告しろ!」
レッグ 空軍大将の言葉に一人の士官が答えた。
「はっ! 現在、第305飛行隊のビーコンがほぼ同時に全て消失したのを確認しました。原因は不明です」
「ほぼ同時に全て、だと?」
「その通りであります」
レッグ 空軍大将は怪訝そうな表情をする。考えていることは最初の士官と同じことだ。飛行隊単位でほぼ同時に全てのビーコンが故障するなど有り得ない。同じく機体トラブルで墜落することも。ならば攻撃を受けた、ということになるが、飛行隊が一気に撃滅されるような兵器に心当たりはない。
ましてや相手は劣等文明。こちらの兵器を超える兵器などあるはずもないし、仮にあったとしてももっと前に使っているはずだ。
「どういうことだ……?」
結局、レッグ 空軍大将に言えたのはそれだけであった。分からないものは分からないのだ。
だが、さらに事態は動く。悪い方向へと。
「っ!? 第33爆撃中隊のビーコン消失! こちらも一斉に消えました!」
さらなる報告。それは第33爆撃中隊の行方不明を知らせるものであった。そして、それだけでは終わらない。別の士官がレッグ 空軍大将に報告を上げる。
「第33爆撃中隊の内の1機から連絡! どうやら何者かの攻撃を受けて中隊ごと壊滅したようです!」
「何者かの攻撃だと……!?」
何者かの攻撃。それは明らかにバルツェル共和国に悪意のある者達の仕業だ。だが、バルツェル共和国空軍機をまとめて吹き飛ばせる兵器など聞いたことがない。
「くそっ……!」
レッグ 空軍大将は悪態をつくしかなかった。だが、その間にも事態は悪化する。
「第302飛行隊のビーコン消失! ……こ、これは……!?」
「どうした!?」
怒鳴りつけるように声を荒げたレッグ 空軍大将にその士官は真っ青な顔色のまま、報告する。
「……エルスタイン王国中部を飛行中の、偵察機も含めた我が軍所属の航空機が次々と撃墜されています……!」
「………………なに?」
一瞬、レッグ 空軍大将は何を言われているのか全く分からなかった。
精強無比のバルツェル共和国空軍が相手が何なのかすら分からないまま、一方的にやられ続けている。そして、短時間の内にエルスタイン王国への攻撃に向かった航空機はほとんどがやられてしまった。
こんなこと、到底信じられるはずもなかった。
「そ、それは何かの間違いだ! 我が国の誇る精鋭の空軍がこんな簡単に……」
「で、ですが……いくつかの機からは敵の攻撃を受けて全滅しつつあるという報告が相次いでおります。そして、報告を上げた機も、いまや既に……」
レッグ 空軍大将は足元の地面が崩れ落ちていくような感覚に襲われた。精強無比で世界最強の空軍と信じて疑わなかったバルツェル共和国空軍が為す術もなく一方的に攻撃され、甚大なる被害を出している。
レッグ 空軍大将はしばらくの間、呆然とした表情を湛え続けるのだった。
2月上旬までテストやレポートがラッシュ状態なので、更新は遅れるかもしれません。
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航空自衛隊の戦闘機部隊の編成をしっかりと調べた結果、飛行隊は飛行隊長が率いる2機編隊が1つ、あとは4機編隊が4つの計18機と予備機数機で構成されていることが分かり、本作にも反映いたしました。こんなことも知らなかったとは、お恥ずかしい限りです( ;´・ω・`)