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交錯世界の日章旗  作者: 名も無き突撃兵
第一章
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第1話

初めましての方は初めまして。そうでない方はお久し振りです。

今回は近未来日本を舞台とした日本転移小説です。しばらくはこちらをメインとするつもりです。

まだまだ拙い技量しか持ち合わせていない私ですが、趣味の範囲で頑張らせていただきます。

2034.2.14

日本国 某所

山間部

10:55 JST





 日本の都市部から離れた山奥の某所。付近は山ばかりで人が住んでいる集落などは見当たらない。緑豊か、と言えばそれはそれで間違いないだろうが、人の手が入っていないということは荒れ放題ということでもある。ハイキングやら登山やらをするには道が険しすぎる……それどころか、あるのは獣道と言っても過言ではない程度のものだ。いつできたものなのかも分からない。


 そんな、まさに人里離れた辺境。

 そこを複数の影が疾走していた。その影達は山の中の道と言うのも烏滸がましい獣道を凄まじい速度で走破していたのだ。

 何よりも信じられないのが、その影は人型であり、そして二足歩行の状態で足場の悪い道を高速移動していることである。通常、二足歩行は四足歩行に比べて重心が高いために安定性が低く、また走る際の速度面でも不利だ。それにも関わらずこの影達は成し遂げている。


 その影をもっとよく見てみると、さらに驚愕の事実が分かる。

 その影の正体は人間であるのだ。人が人外じみた速度で足場の悪い獣道を走り回っていた。



 もちろん、ただの人間にそれができるはずはない。何かカラクリがあるはずだ。

 そして、全くのその通りであった。彼らはその身体にとある装備を装着していた。


 それが日米が共同で開発した戦闘用パワードスーツ『STAS(ステイズ)』である。これは2025年に開発完了、2027年には陸上自衛隊内に専門部隊が発足し、2029年に実戦を経験、その際に高い評価を得るに至った。


 そう、ここは陸上自衛隊の演習場の中である。走り回っている影は陸上自衛隊陸上総隊隷下のSTASを専門的に扱う部隊の隊員達だ。正式には第1特装団と呼ぶ。


 STASはそれまでに開発されたTALOSなどの戦闘用パワードスーツと比較して、かなり癖の強い性質を持っている。


 それは脚部のパワーアシストが強烈であることだ。装着者の身体に悪影響を伴うようなものではないのだが、このパワーアシストのせいで普段の感覚で歩くことも走ることもできない。

 というのも、普通に歩くつもりで1歩……30センチ程度を進もうとすると、それだけで2、3メートルは飛び出してしまうのだ。これでマトモに歩けるはずがない。

 これは高い機動力を確保するために搭載された能力であるのだが、これのせいで扱いが難しくなっている。しかしながら使いこなすことができれば、戦場を縦横無尽に駆け回って機動的な戦術を取ることができる。もちろんSTASは脚部だけを強化するわけではないため、一般隊員を遥かに超える武装量を施すことも可能だ。つまり、強大な火力が機動力を伴って動き回るわけだ。


 もちろん、機能はパワーアシストだけではない。全身を包むのは対赤外線迷彩を兼ねた対弾アーマー、頭のヘルメットはHMDバイザーを搭載している。


 高度に情報化され、一定の防御力を持ち、高い機動力と火力で戦場を駆ける最強の歩兵ユニット。それがSTASを装備する自衛隊員達……特装科隊員である。



 今日も彼らは訓練に勤しんでいた。






「ふっ……ふっ……」


 短く息を吐く青年。

 顔立ちはどこか精悍さと若者らしい青さが混ざったもので、体格は中肉中背。端的に表現するならば好青年といったところだろうか。

 そんな彼はSTASを装着し、木々が生い茂り、足場も悪い道とも呼べぬ道を猛スピードで疾走している。驚異のバランス感覚とメンタルである。次々と迫ってくる障害物を涼しい顔で避け、全く速度を落とさない。


「……見えた」


 青年はポツリと呟いた。前方、少し離れた位置に第1関門が存在している。

 その第1関門とは'段差'だ……3メートル程度の。普通なら壁とでも呼ぶべき高さであるが、STASの跳躍力ならば突破は難しいことではない。


 チラリと一瞬だけ後ろを横目で見る。少し後ろには若輩者であるという自覚のある自分よりもさらに若い部下が1人、残りはもっと後ろのようだ。今回は個人技能の充実を図るのが目的なので、別に隊でまとまって行動する必要はない。


「……っ」


 青年は迫り来る壁をジッと見て距離を推し測る。


 そして、跳躍。


 跳躍のタイミング、力の入れ方、跳躍の瞬間の体勢……その全てにおいて完璧な跳躍であった。

 STASはそのスペックを十全に発揮し、その壁を楽々と乗り越えた。


「うわっ!?」


 その時だった。青年がその声を聞いたのは。


 青年は振り向きざまに手を伸ばす。青年の後ろには、跳ぶタイミングが早すぎたのか着地の際に足を踏み外して下に落ちそうになっている部下がいた。

 青年はその部下の腕を掴み、そこで踏ん張って一気に引き上げる。


「おっとと……! はぁ……助かりました、永瀬 三尉」


「ああ。気をつけろよ? 訓練だからといって気を抜くな」


 青年……永瀬和人ながせ かずと三等陸尉は部下にそう忠告した。


「も、申し訳ありません……! 以後、気をつけます」


「……ならいいさ。さぁ、行くぞ」


 反省の色を見せた部下に対してそれ以上小言を言うことなく、和人はそう言った。反省している人間に対して必要以上にとやかく言うのは逆効果だ。


「了解です」


 部下はそう返事し、2人は再び走り出した。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「三尉、先ほどは助かりました」


 機動訓練と呼ばれる、主にSTASを用いた運動の一連の訓練を終わって演習場内にある兵舎で休憩に入った時。和人の元にあの部下が来て改めて礼を述べていた。

 ここは兵舎内にあるミーティングルームだ。普段は休憩所代わりに使われている。

 

「小谷か……。まぁ、ミスは誰にだってあるさ」


 和人は微笑を浮かべた。


 永瀬和人。彼は陸上自衛隊に所属する幹部自衛官であり、階級は三等陸尉だ。年齢は23と若く、落ち着いた態度とは裏腹に実は新米幹部である。

 防衛大学校を卒業後、陸自の幹部候補生学校へ入校。そこで9ヶ月の幹部教育とそれに平行するようにSTASの訓練を彼は受けている。特殊訓練プログラムだ。

 防衛大学校でもそうだが、幹部候補生学校でも和人の評価は高かった。落ち着いた判断力と前線指揮能力、そしてSTASの運用能力……それらが教官達や上官達には高く評価され、彼はいわゆる期待のルーキーといったところである。

 彼は現在、陸上自衛隊陸上総隊隷下の第1特装団第1特装科大隊第1中隊第2小隊長を務めている。


 一方、部下の方は小谷純也こたに じゅんや。和人の部下であり、階級は一等陸士。年齢は20だ。

 良くも悪くも平凡といった表現が最適であると考えられる見た目であり、まさしく外見は没個性的だ。一方で意外と社交的だったりするので部隊の協調性に関しては大きな貢献をしてくれている、と和人は勝手に考えている。


「……三尉はスゴいです。STASを扱っている期間は自分と変わらないのに、あんなに使いこなして……。自分がなんかみっともなく感じてしまいます……」


「……別にお前も下手なんかじゃないさ。俺はたまたま早熟だっただけ……。大器晩成って言葉があるんだ。自信を持て」


 和人にはそれしか言えなかった。

 自分が他人よりも上手くSTASを扱っている自覚はあった。上官や同僚からも度々褒められたこともあるし、今も部下である純也がそう言っている。

 だからこそ、自分が上手く扱っていることについては否定しなかった。否定するのは逆に嫌みに聞こえるだろう。

 その上で自分が言えることを探して、告げた言葉。我ながらフワッとした実体のないような言葉だと和人は思った。しかし、自分にはそれしか言えないし、別に嘘を言ったわけではない。本当に純也はSTASの扱いが下手というわけではない。特別上手くないだけだ。


「……ありがとうございます」


 和人の内の密かな葛藤に気づいたのかそうでないのか、純也は苦笑いして礼を述べた。

 そこに第三者の声が乱入する。


「おっと……。なんだなんだ、和人~……部下イビりか?」


 休憩所となっているミーティングルームに入ってきた1人の男。

 自衛官であるため短髪であるし染めてもいないが、どこかチャラそうな空気を纏う男。顔立ちは端正と評するに十分なものを持っているが、この軽そうな雰囲気には好みが別れるだろう。

 彼の名は結城鉄平ゆうき てっぺい。彼も三等陸尉だ。和人の同期であり同僚、そして親友(悪友?)でもある。

 和人は第1中隊第2小隊長で、鉄平は第1中隊第3小隊長。会うことも多い。


「イビってない。ちょっとばかし話をしていただけだ。……お前は何しに来たんだ?」


 和人は半目で乱入者を見ながらそう言う。


「んー? 暇だったからな。ここなら誰かいると思って」


「……で、お前の思った通り誰かいたと」


 和人はそう言って肩を竦めた。


「そういうこった……。で、小谷は何を訊いてたんだ?」


「いえ……STASの扱いについて少し……。永瀬 三尉はSTASの扱いに長けておられますから」


「なるほどねぇ。まぁ、こいつはちょっと異常だから比較対象としては不適切極まりないぜ?」


「褒めてるのか? それとも貶してるのか?」


 鉄平の言い草に和人が半目になる。


「どっちもだよ……。米軍特殊部隊も導入時は大苦戦したらしいからな。STASも一時期失敗作だって酷評されてたし……。それくらい扱いが難しいんだ。一応、小谷は十分に戦闘が可能な域に達してるんだし、だからここにいるんだろ? 胸を張れよ」


 鉄平の言葉は和人の言葉よりも純也の心に響くのは、ある意味で当然であった。鉄平とて和人ほど上手いわけではないし、だからと言って下手でもない。純也と似たようなものである。故にその言葉は純也の中にすんなりと入った。


「ありがとうございます。少し気が楽になったかもしれません」


「おうよ」


 鉄平は特に気取るでもなく軽い調子のままだ。

 こういうところが和人には羨ましかった。自分が社交的な方ではないことを自覚しているため、鉄平のこうした相手の懐に容易く入り込めるところは素直に評価しているのだ。




「……なぁ、いきなり話は変わるけどさ」


 しばらく会話を続けて話題が一段落した時、鉄平は唐突にそう言う。


「もう2年になるんだな」


 ああ、と和人も返事なのか漏れ出した声なのか分からない声を出した。

 純也もどこかしんみりとした顔をしている。和人も本人自身は気づいていないが似たような顔をしていた。


 そう。あの未曾有の大事件から既に2年が経っている。

 日本全体を混乱に陥れた自然災害……『異世界転移』が発生してから……。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 2020年。日本は東京オリンピックをどうにか成功させ、一段落の着いたある日。その後の世界を混迷させる一連の出来事……その序章が始まった。


 それは2020年の末のことだ。前々より指摘されてきた中国経済の減速。何だかんだでここまでズルズルと生き残ってきたのだったが、遂に破綻が始まった。


 消費の低迷と株価の暴落、そして日本を遥かに超えるデフレ。それが一気に押し寄せた。

 翌年の春までに多数の中国企業が倒産に次ぐ倒産。もちろん、それは世界中に大きな影響を及ぼしていくことになる。


 中国共産党は国家延命のためにドーピング剤を打たざるを得なかった。共産党は保身主義が蔓延っており、国家のためというよりもむしろ共産党という利益供給組織の保護が目的であったと言えよう。


 そのドーピング剤が反日であり反米であった。そして、共産党の思惑通りに中国の人々は経済的困窮や生活水準の悪化、政治的不信の怒りをそちらの方に向けてしまう。


 それが原因で始まってしまったのが東シナ戦争であった。米中間の核抑止によって核戦争にはならず、日米対中国の通常兵器による紛争となった戦争。

 その結果は日米の勝利。日米側にも被害はあったものの、中国の空母機動艦隊は壊滅し、中国の国内外に対する国威は地に落ちた。


 事態はそこまでで終わるほど甘くない。次に起こったのはインドの参戦とロシアの介入である。

 インドは日米との連携を強めてきていた上、中国とは犬猿の仲と言っても過言ではない。参戦する理由には事欠かなかった。

 ロシアは前々よりハイエナのようなところがある。勝ちそうなところに少し味方して利益を得ることくらいは当たり前のように行う。ロシアの介入はまさにそれであった。


 さらに、それらに加えて各地で中央政府への不満が噴出。やがては大規模なデモや反政府運動になっていった。


 共産党には、もう日米をどうこうする力はなかった。四面楚歌どころか内側にも敵がいる状況になったのだ。どうしようもない。

 ただ、日米もこれ以上の戦いを望んではいなかった。そのため、中国は日米と和睦することにした。

 結果、日米に対して多額の賠償金を払わされることとなったが、どうにか日米は敵ではなくなったのである。


 だが、そのすぐ後に共産党内でも仲間割れが発生した。今回の事態に関しての責任問題や派閥ごとの利権問題などが続々と浮き上がり、手に負えなくなっていた。


 ここまで来ると中国という国が崩壊するのは早かった。各地で独立や離反が起こり、紛争が起きた。中国共産党にそれを抑えきる力は既になく、中国は内戦が多発することになったのである。



 一方の日本。こちらもこちらで大変だった。

 戦後の混乱もあるが、これを機に時の内閣が日本に大きな改革をもたらした。

 その中には、憲法改正とそれに伴う自衛隊法の改正、防衛費の大幅向上も含まれており、日本の国防政策が大きく転換した時でもあった。


 この時、アメリカは在日米軍の規模の縮小を検討していた。理由としては強大な敵がいなくなったことが主として挙げられるだろう。


 そこで日米は今までの両国の国防政策を一変させた。これからは日本主体で物事に対応するようなものへと。

 アメリカは在日米軍を縮小する代わりに自衛隊の強化にも積極的に協力した。

 主なものとしては、アメリカの技術支援の下に通常動力型航空母艦2隻の導入とそれに伴う海上自衛隊の拡張、日米共同技術開発によるF-3戦闘機開発の加速化、パワードスーツや無人兵器の開発などである。


 こうして在日米軍は少なくなり、その分自衛隊が強くなった。



 いろいろあったのは日本やアメリカ、中国だけではない。ヨーロッパでも大変なことが起きていた。


 中国経済の急激な失速はヨーロッパ経済に大きな影響を及ぼした。中国という巨大市場にどっぷりと浸かっていたヨーロッパにとって、中国経済の失速は大打撃である。言うまでもなくヨーロッパ経済も道連れになった。

 それだけではない。ヨーロッパには移民や難民が多かった。故に、宗教やイデオロギーで対立が頻発し、それを原因として差別問題も発生。テロや暴徒となるデモ集団など、社会的不安も続出する。

 それがナショナリズムを台頭させた。ヨーロッパは各々の国家が自主自立の方向へと進み出した。これまであったヨーロッパ協調の動きは失われ、大戦前のヨーロッパのような関係性に戻っていったのだ。



 このように混迷していく世界情勢。日本国民も不安には感じていた。

 とはいえ、良いニュースがなかったかと言えばそうでもない。


 日本は少子化問題を受け、労働人口が減っていくのを見越して産業形態の転換を図った。

 各大企業は産業のオートメーション化をさらに進展・進化させることによって生産性を向上させ、海外工場を次々と国内に戻した。産業の国内回帰が急加速したのだ。海外で作るメリットが一部を除いて失われてしまったからである。

 また、農業の企業参入も加速する。農業にもオートメーションを導入して農業プラントを次々と設立し、農業の生産性も向上していった。


 日本経済は長期低迷から脱して順調な成長を始めた。所得も改善し、少子化対策も充実化させたことによって出生率が大幅に回復した。

 このまま行けば、人口1億人を維持することが可能だという予測も立ち、日本国民もある程度は未来に楽観的な気持ちを持つことができるようになった。




 そんな矢先の出来事であったのだ。

 2032年元日、年が変わると共に日本全国で震度2~3程度の地震が発生し、同時に別の世界に飛ばされしまったのは。








 転移後の日本は混乱に陥った。全国を襲った地震に加えて日本中で通信障害が発生したのだから無理もない。

 元日の夕刻辺りまでにはほとんどの通信障害が収まったものの、海外との通信は全くもって不可能であった。


 日本政府は衛星との通信が回復したことで、ようやく自らが置かれた状況を認識することができた。もっとも、その状況があまりにも突飛なものであったため、結局、混乱が収まるわけではなかったのだが。


 世界は大きく変わっていた。ユーラシア大陸も南北アメリカ大陸もアフリカ大陸もなかった。代わりにあったのは、元の世界と比べて圧倒的に広い海と日本の西にある中規模の大陸、その周囲にある島々だけであった。


 日本政府の面々は愕然とする。当然であろう。現実的に考えてこのようなことが起こり得るとは思えない。

 しかし、起こってしまったのは事実である。ファンタジックな事態に遭遇しても、現実は襲いかかってくる。


 日本政府は急いで資源の備蓄を確認した。その結果、日本は長くても10ヶ月程度しか生き残れないことが判明する。

 この事態を受け、日本政府は資源を求めてこの新世界に進出することを決定する。このまま座して死を待つわけにはいかない。日本は行動を開始する。


 さらなる衛星調査の結果、日本の近くにある島……元の世界では樺太があった海域と台湾があった海域にあった大きな島は無人島であることが判明する。日本政府はそこに調査隊を送って資源調査を行った。

 その結果を聞き、日本政府は驚愕した。


 南西の島には鉱産資源が大量に埋蔵されていたのだ。島自体が鉱脈であるというそら恐ろしい調査結果だ。

 地質的には安定陸塊に相当し、大量の鉄資源が埋まっていた。その他にもレアメタル鉱床も見つかっている。

 そして、北の島とその近海には大規模な油田が発見された。後で分かった推定量は300億バレル。脱石油化、省エネ化が進んでいるとはいえ未だに石油は重要資源である日本を20年以上に渡って賄える量である。

 さらに銅やボーキサイト、その他の鉱山まで見つかっており、こちらも日本にとって大変有用な島であった。


 日本政府はすぐさまそこを領土に編入した。それぞれの島は元の世界に準えて、『新台湾』、『新樺太』と名づけられた。


 それと平行して行われていたのが西の大陸への進出。こちらもさらなる衛星調査が行われていた。

 そして分かったことが、その大陸には近代的な文明が存在することであった。日本政府は近代的な文明が維持されていることを考えれば、この大陸には近代文明に必要な各種資源が揃っているかもしれないと判断し、積極的に行動を開始した。


 そして、日本が最初に接触に成功したのがリーデボルグ共和国である。西の大陸……オルメリア大陸の最東端の国家であり、技術レベルは1930年代前半と見られていた。

 多少の紆余曲折もありながら、最終的に両国は国交を樹立し、平和的な関係を築き上げることに成功した。

 そして、リーデボルグ共和国の仲介の下、同じくオルメリア大陸東部の国であるエルスタイン王国とリテア連邦とも国交を樹立する。


 リーデボルグ共和国は豊富な鉱産資源があり、エルスタイン王国も同じく鉱産資源が豊富にあることに加えて農業生産が盛んであることから、日本は彼らから不足している物資を輸入し、逆に日本からは工業製品などを輸出する関係が成り立った。

 リテア連邦はオルメリア大陸南東部の群島国家であり、人口や工業力も少なく、農業生産も大した余力もない状況であった。しかしながら後の調査で近海に油田が発見され、日本が技術支援や投資に参加する形で開発が始まることになる。


 このように転移してからそれほど時が経たない内に3ヶ国と関係を深めることに成功し、資源供給も完全ではないがまともに国が動く程度には達成できた。

 'とある理由'で大陸西部への進出は見送られていたが、日本はどうにかやっていけるだけの体勢を整えていったのである。



 そうして、転移から既に2年が経過していたのである。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「確かにいろいろあったな……」


 和人は思い出すように言った。


「転移した直後はどうなるかと思ったが、案外何とかなるもんなんだな」


 鉄平が暢気に言う。しかし、それには和人も同意だった。

 あの状況を国家を崩壊させずに切り抜けられたのは、政府に優秀な人材が揃っていた、という理由だけでは説明がつかない。


「あー、あれじゃないですかね? '資源島'ってヤツ。あれのおかげじゃないでしょうか?」


 純也の言葉は的を射ていた。その資源島というのは、新台湾や新樺太を始めとする大量の資源が眠っている島だ。時折、新たな資源島が転移してきてはニュースになっている。

 あの資源島のおかげで日本の資源問題はかなり好転していると言える。日本は資源島を確保してはそこを採掘して資源を得ているのだ。


「……まぁ、問題もないわけじゃないけどな」


 和人は肩を竦めた。鉄平と純也もその意見には首を縦に振らざるを得ない。

 資源島というのは富であり利権であるのだ。ならば、そこの所有権を複数の勢力が争うのも頷ける話であり、実際にそれは現実のものとなっている。

 例えば日本海上に転移してきた日本名『第4資源島』はリーデボルグ共和国との領有権問題に発展した。ちょうど日本とリーデボルグ共和国から等距離の場所に転移してきたのだ。

 最終的には共同開発を行うことになったものの、両国内にはそれを不満に思う者も少なくない。


「あれは資源危機を救ってくれる'天の贈り物'でもあるが、争いを呼ぶ'悪魔の果実'でもある。……領有するにしても注意しないとな。特に日本は既に6つも確保してる。周辺国からは、取りすぎではないかって批判もあるからな……」


 和人は少しだけ表情に苦さを含めてそう言った。資源島は国際関係を大きく狂わせる要因にすらなり得る。数多の資源という近代国家からすればあまりにも魅力的な餌をぶら下げている分、かなりたちの悪い存在である。

 だからといって、なければ困るのだ。本当にたちが悪い。


「ウチは海洋国家だからなぁ……。海の支配力ってのを考えると、大陸国家よりもウチの方が有利なのは仕方なくねぇか?」


 鉄平の言うことももっともだ。大陸諸国……つまりはリーデボルグ共和国とエルスタイン王国、リテア連邦なのだが、彼らは総じて海軍力が低い。従って海の支配力が低いのだ。そんな国があちこちに散らばる資源島を確保し続けることができるのか、という問題がある。

 日本とて、あまりにも離れた場所には手を出していないのが現状なのだ。


「確かにな。だけど、理屈だけで納得できる人間ばかりじゃないだろう? 仕方ない問題だ。この世界じゃ資源島の領有権問題がかなり面倒くさい。それでも付き合っていくしかないだろうさ」


 和人はふと腕時計を見た。


「もうこんな時間か……」


 既に時刻は6時だった。


「そろそろ飯だな」


「では、お二人共、自分がご一緒させてもらってもよろしいですか?」


 純也の問いに頷く2人。


「行くか」


「おう」


「はい」


 そうして、3人は仲良くミーティングルームから出ていくのだった。





更新は亀です。次の更新は2週間後を予定しています。ご了承下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初っぱなに(現代視点で)夢の未来兵器パワードスーツの活動描写を持ってきたところにセンスを感じる。バトルもののSFを書きたいというのがグッと伝わってきました。 今後も頑張ってください! [気…
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