表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

覚醒の世界②

「なんだあいつは!?」


 足利義政は布団から跳ね起きた。


「……はぁはぁ、夢か。

 断片的にしか覚えていないが、南蛮人に馬鹿にされたような気がする」


 義政は枕もとに置いた桶の水で顔を洗う。


「……いやに静かだな」


 寝所から出ると、善阿弥(ぜんあみ)が控えていた。


「義政様、おはようございます」

「うん、おはよう。

 昨夜の宴会はとても楽しめたぞ。さすが、お前の弟子たちだ。皆、優れた感性の持ち主よ」

「もったいないお言葉」

 そして善阿弥は深々と頭を下げる。


「ところで、今朝はいやに静かだな」

「はい。奥方様以下使用人たちは皆逃げてしまいました。

 今、屋敷に残っておりますのは僅かな警護の兵だけでございます」

「……そうか。まあ良い。富子がいると銭臭くてたまらんからな。

 ところで朝食は?」

「料理をする者たちも奥方様が連れて行ってしまいました。

 私が作った食事でよろしければ、お召し上がりください」

「構わないよ。いただこう」



 二人は食卓についた。

白米と焼き魚、そして根菜の煮物。

 質素な食卓だが、この時代に十分な食事をとれる者は恵まれている。そして白米は贅沢品である。

 

 二人は箸を進める。

「義政様、一つ言っておかなくてはならないことがあります」

「言ってみよ」

「ご存知の通り、戦火は拡大を続けております。

 そのため、武家公家問わず京を逃げ出す者も大勢おります。

 それで今晩の予定の宴会の出席者ですが――」

「皆、逃げてしまったか」

「はい、残念ながら。私の弟子たちも今朝方にほとんど京を脱出しました。

 これでは予定した宴会は中止するほかありません」


 義政は深くため息をついた。

「そうか、残念だ。

 ……皆、死ぬのが恐いのだなぁ」

「義政様は死を恐れませんか」

「死ぬこともよりも、好きなことができなくなってしまうことが恐い。

 余は死ぬそのときまで面白楽しく生きていたい」


 善阿弥は、白米を噛み砕く義政をじっと見つめた。


「善阿弥よ、お前は余を軽蔑するか?

 この戦乱は余の不徳がなすところ。

 都は焼け、民草は貧困と飢餓にあえいでいるという。

 だがな、そんなことはどうでもいいのだ。知ったことじゃない。

 余が楽しいか楽しくないか、それだけが全てだ」

「私はあなたに救っていただいた身ですから、軽蔑はしません」

 が、手前勝手だとは思います。

 しかし、この老いぼれ、この惨状を見て何とも思わない無感動な男は思わないでいただきたい」


 義政はぬるい茶を飲みほした。

「ありがとう。余は果報者だな。

 こんな余でも、そなたのような者が仕えてくれる」

「この私に仕事を与えてくださる限りは、喜んでお仕えいたします」

「よい……、正直でよい」



 二人は談笑し、食事を終えた。






「ところで善阿弥よ。

 余は、ここ最近、不思議な夢をよく見る」

「夢……、で、ございますか」

「うん、記憶はあやふやで断片的なのだがな。

 月の都で戯れる夢よ。若い頃のお前もよく出てくる」

「ほぉ」

「だが、あれだけ美しい月でも(まつりごと)の問題があるようでな。派閥にわかれて争っていた。

 月でも現世と同じ権力争いがあるのだ。なんという皮肉」

「月の都でも争いとは、平穏な世界は無いのかもしれませんな」

「うん。勝元と宗全の争いの続きを見させられているような気分。

 だがな、さすが天上の国というか進んでるというか、(いくさ)の世ではない」

「で、ございますか」

「合議制で物事を決めておった。

 そして(まつりごと)に携わる者は武士でも貴族でもない。芸術家なのだ」

「ほぉ! 義政様が治めるに相応しい国でございますな」


 義政はジロリと善阿弥を睨んだ。

「月に行ってまでも、また嫌な思いをさせる気か」

「も、申し訳ありません」

「……まぁよい。

 細かいことは覚えていないのだが、その月の代表者に新しく任命された者がいてな。

 それがなんと猿だったのだ。それもただの猿ではない。

 あの(いにしえ)の桃太郎。その家来だった猿だというのだ」

「はぁ、月の都を治めているのは猿ですか。なんともはや……。

 あぁ、そういえば街で妙な噂を耳にしました」

「妙な噂?」

「はい、嘘か真かわかりませんが、どこぞの川に巨大な桃が流れ着いたとか」

「……それって桃太郎じゃないの?」

「はい、その桃の中から現れた青年が地元の野党ども蹴散らしたとか。

 ご存知ありませんでしたか?」

「……初めて聞いた」

「まぁ、所詮は噂ですから。誰も義政様に話さなかったのでしょう。

 それにしても夢に桃太郎の家来が現われ、現実にも桃太郎が現われる。

 偶然ではないのかもしれませんな」

「ふぅーむ」


 芸術にしか関心ごとの無い義政ではあったが、桃太郎に対して少し興味がわいた。

「どんな男なんだろうか。鬼はいないが、この戦乱の世を見てどう思うだろうか?」

 そして、征夷大将軍でありながら(まつりごと)をおろそかにする余に対しては?」


「さぁ、それは……」

 善阿弥も想定外の発言に返答しかねている。



“桃太郎に会ってみよう”


 

 義政は思うのであった。

















 オマケ



エンデ「え、『はてしない物語』が映画化?

    やったね。今から楽しみ、わくわく」


エンデ「ほげぇ! 幼心の君(おさなごころのきみ)役が日本人じゃない!

    誰だこの小娘!?」


エンデ「ファルコンってなんだよ。勝手にフッフールの名前変えんなよ。

    しかもなんか濡れた野良犬みたいだし」


エンデ「監督が黒澤明じゃないとか論外だろ」


エンデ「オチが酷すぎる。

    もはや訴訟も辞さない」


エンデ「負けた。

    いまだにわからない。納得していない」


エンデ「映画化したおかげで原作売れたよ。

    勘弁してやらぁ、チクショウ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ