猫おばさんの最期
ある朝の事。手の平より少しはみ出る位の大きさの首輪も着けていない子猫が、倉庫前の路上に横たわり冷たくなっていました。
様子からして車に跳ねられたらしい。
これから仕事もあるし、かと言って放っても置けないし…思案していると自転車に乗ったお巡りさんがやって来たので「この子、このまま野ざらしは可哀想なのでお願いします」と頼んで仕事へと出掛けました。
夕方には無事に仕事も終わり、倉庫に戻るともう子猫の姿はありません。
きっとお巡りさんが手配してくれたんだろう。
私は少しだけ気が楽になりそのまま帰宅しました。
しかし実はその後、まだ父の居る事務所に近所の猫おばさんが怒鳴り込んで来たんだそうです。
曰く「ウチの猫かも知れないのに確認もせず勝手な事をしやがって!お葬式をしなきゃならないのに。」
何処からか私がお巡りさんに子猫を頼んだ事を聞き付けたらしい。そして、ひとしきり怒鳴って帰って行ったそうです。
結局その子猫が猫おばさんの家の子だったのかは判りません。しかしほんの小さな子猫だったのでさすがに放置子とも思えませんでしたし…。
その時どうすれば一番良かったのかは、今でも分かりません。
我が家でも外猫が居た事があるので余り大きな声では言えないのですが、この猫おばさん、近隣住宅の庭先など所構わず猫のご飯を置いたりトラブルの原因にもなったりしていたので、周囲からも距離を置かれている人物。
しかも宅配便の人が玄関先でたまに違う名字で呼ぶ時があり、どうやら名前を二つ使い分けているらしい。こんな怪しさ満点さなので私達家族も余り関わらない様にしていました。
しかしこの猫おばさんに連れて来られ半放置されている猫達は、行き場や食べ物を求めて辺りを彷徨い歩いています。
事務所に寝泊まりしていた頃からずっと我が家に粘着していたあのミー(あんず)ちゃんも、その内の一匹でした。
ゆきに二度も撃退されているにも関わらず寄って来るのは、いつもお腹を空かせているのと他に行き場所が無いからなのでしょうか?そう考えれば可哀想でもあります。
毎日の様に事務所に来てはご飯をねだるミー(あんず)ちゃんでしたが、ある日を境に姿を表さなくなりました。
来なければ来ないで心配になるもの。
ミー(あんず)ちゃんは人懐っこい性格で大人しく可愛い女の子だったのでお腹を空かせてないか気にしていると、なんと通り一つ離れた知人の庭で遊んでいる所を発見しました。
そこで挨拶がてら話をしてみると、この子の境遇はだいたい知っていたので保護して家族として迎え入れたのだそう。
良かったねぇミー(あんず)ちゃん。ちゃんとしたお家が出来たんだね。
そうすると今度は猫おばさんの反応が気になります。
これまでの事を考えれば最悪「ウチの猫を盗った!」とでも言いかねません。
ところがそんな矢先、猫おばさんの家から人というか生き物の気配が感じられなくなったかと思うとすぐ解体業者が入って、家を取り壊し更地にしてしまったのです。
「これは一体何があったんだろう…?」
この猫おばさんの家は借家です。そして何年もの間ずっと家賃を滞納していて、業を煮やした大家さんが立ち退きを求めていました。
つまりやっと出て行ったという事なのでしょう。
では猫おばさんは何処へ?
これは後で聞いた話ですが、あの猫おばさんは糖尿病が悪化して目がほとんど見えなくなってしまい施設に入れられてしまったのだそうです。
そしてあれだけ沢山居た猫達も、新しい家のあるミー(あんず)ちゃんだけを残して他の子の姿は全く見なくなってしまいました。




