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これからのことを皆で話し合った。

「やっぱ、帰ろうかな……」

 俺はポツリと呟いた。男にも女にもセクハラされたんじゃ身が持たないよ。


「何を言ってるんだよ、今更。何のためにその制服を用意したと思ってんだ」

 この制服のせいで帰りたくなってんだよ。おかしいだろ、え?男が着たらおかしねえか、これ。


「大丈夫だ。お前は男じゃない」

 男だよ!生まれてからずっと、お前らに出会う前からな。


「さて、果たして何人の人間がお前を男と認めるかな?」

 なんだよ、その余裕ぶった上から目線の態度はよ。そりゃ男らしい男かと訊かれたら俺だって「うーん」ってなっちゃうよ。でも、男であることに変わりはない。


「もう往生際が悪いぞ。人間は諦めが肝心だ」

「諦めてはそこで試合終了とも言うぞ」

「屁理屈を言うな」

 何が屁理屈だ。


「もう俺は帰る。これ以上、羞恥プレイにつきあってられるか」

「馬鹿野郎!」

 パシッと音がした。あいつが俺の頬を平手でぶったのだ。ぶたれた頬をさすりながら俺は茫然とあいつの顔を見た。


「いま逃げたらもう終わりだぞ。一度逃げてしまった人間は立ち直るのに苦労するもんだ。下手すりゃそのまま逃げてばっかの人間になっちまうぞ。それでいいのか?お前の人生は。いま逃げたらお前は虫けらだ。昔のお前はどこへ行ったんだ?昔のお前はそんなんじゃなかったはずだ。どんな難問でもぶつかっていったじゃないか。壁にぶち当たっても挫けずに何度もぶつかって最後には壁をぶち破って前に進んだあの頃のお前はどこに行ってしまったんだ?思い出すんだ、あの時の情熱を。そして、二人でやり直そう。な?アンジェリーナ」

 誰がアンジェリーナだ。勝手に人の名を変えるな。こいつ、思いっきり引っ叩きやがって。


「悪い悪い、そう睨むなって。つい感情が昂ってしまってよ」

 謝りながらも悪びれた素振りは見せない。まだ引かない痛みに俺も感情が昂ってきた。すると、突然あいつが慌てだした。


「お、おい、何も泣かなくてもいいだろ」

 はっ?俺が泣く?何を馬鹿なと目元を手で拭ってみたら液体がついていた。


「えっ?」

 なんで?そりゃ痛かったよ。でも、泣くぐらい痛かったわけじゃない。これじゃまるで子供じゃないか。


「あーあ、泣かしちゃった」

 もう一人の女の方の幼馴染が慰めるように俺の頭を撫でてきた。よせよ、子供じゃないんだから。


「すまん、まさか泣くとは思わなかった。許してくれ」

 真摯な顔で頭を下げるので俺は許してやることにした。それよりも泣いてしまった自分に驚きだ。ふと、周りを見るとギャラリーが集まっていた。俺たちはそそくさと足早にその場を去った。


 結局、学校まで来てしまった。違うクラスの奴が俺の服装を見て「お前、そんな趣味があったのか?」と驚いた顔で聞いてきたのでどう返答したらよいか悩んでたら、女の方のあいつが俺の一番やわらかい弾力あるふくらみをモミッと。


「うわあああっ!?」

「どう?これでわかったでしょ」

 何がどうわかったんだ。見ろ、ポカーンってしているじゃないか。


「まだわかんない?だったら直に見せるしかないわね」

 やめい。俺は服を脱がそうとするあいつの手を払いのけた。


「どうしてよ?男だったらキ××マ蹴とばしてやったらいいけど女だからいいじゃない」

 …お前、よくこんなところでそんな言葉が言えるな。女だったら少しは言葉を選べ。


「なによ。ずっとあんたたちのモノを見てきたあたしにとったら大したことじゃないわよ」

 そうなのだ。俺たちは中学校に上がる前までは一緒にお風呂に入ってたりしてたのだ。俺もあいつもこいつのことを女として意識してなかったせいか、あいつも俺たちを男として見てなかったからか、一緒にお風呂に入るのに抵抗も疑問も無かった。もしかしたら、いまでもこいつは俺たちと風呂に入るのに抵抗が無いかもしれない。


「お前、服を脱がそうとしているのは確かに女であるお前だけど、それを見ているのは男だぞ?」

「いいじゃない。あんた、男に裸見られて恥ずかしいの?」

 そう来たか。男である俺が男に裸を見られて恥ずかしいわけがない。だが、いまのこの体を見せるのは抵抗がある。だからと言って、それを言うわけにもいかない。困っていると、あいつが助け舟を出した。


「それくらいにしとけ。調子に乗りすぎだ」

 と、あいつを注意してくれた。


「なによ、別にいいじゃない」

「ダメだ。貰い手がなくなったらどうする」

 おい待て。貰い手って俺は犬か猫か。


「まあ、その時は俺が貰ってやるけどな」

 誰がお前に貰われるか。里子なんかに出されてたまるもんか。だいたい、なんでお前に飼われなきゃならないんだよ。


「飼うって、何をわけわからん事言ってんだ?お前」

 わけわからんのはお前らの方だ。


「…お前、ひょっとして現実逃避しようとしてないか?」

「な、なにを馬鹿なことを…」

 現実逃避なんて、お前はそんなに軟な人間じゃない。


「図星ね」

 な、なぬ!?な、何のことかな?


「だって、明らかに動揺してるじゃない」

「なっ!?」

 この俺がこれしきの事で動揺しているだとっ!?


「おいおい、ちょっと待てよ。一体何がどうなってんだ?」

 さっきまで蚊帳の外に置かれていた違うクラスの男子が話に割り込んできた。


「なんだよ、その“お前、まだ居たの?”って顔は」

 言われて俺たちは顔を見合わせた。3人とも同じことを考えていたようだ。


「まあ、そのなんだ。見ての通りだ。信じられんかもしれんが本物だ。服装だけ真似ているんじゃないぞ。中身も本物だ。さっき、こいつが触って見せただろ」

「あ、ああ」

「あれも本物だ。服を引っ剥がして見せたら納得するだろうが、そんな事したらこいつの貰い手がなくなるかもしれんからな」

 だから、何の貰い手だよ。いや、言わなくていい。聞きたくもない。


「しかし、どうも信じられんな。なんでこうなったんだ?」

 それは俺が一番知りたい。違うクラスの男子は俺をジロジロと見ている。


「こんな服装で来てるんだから当然下も…」

 そのセリフを聞いた途端、俺はとっさに自分の大腿部に手をおいた。違うクラスの男子は手を出そうとして固まっていた。


「なんで、わかった?」

 俺は何も答えなかった。すると、あいつが違うクラスの男子の肩を叩いて振り向いた奴の顔を見て頭を横に振った。


「やめておけ。お前が期待しているものはない」

「なんでだよ」

「すまん、俺のミスだ」

 いつまで引っ張るんだよ、それ。


 教室に入ったら入ったでクラスの奴らが男女問わず群がってくる。男は皆、チラッチラッと俺の下半身に視線を向けている。何を考えているのは家を出てから教室に入るまでにあった出来事でだいたいわかるから、両手で足の前と後ろを押さえる。すると、どこかから「チッ」と露骨に舌打ちする音が聞こえてきた。


「おいおい、誰だ?舌打ちなんかしたのは」

 あいつが前に出てクラスの面々を見まわした。


「穏やかじゃねーな。まあまあ落ち着け。お前らの気持ちはわかる。確かめたいんだろ?俺が昨日送ったメールが本当かどうか。見ての通りだ。嘘も偽りも無い」

 ざわつく場を手で抑えながらあいつは続けた。


「待てって。外見で判断するのは早計って言いたいんだろ?でも、少しはこいつの気持ちも考えてやれ」

 お前がそれを言うか。


「こいつの体は俺たちで調べた。それで確認したことが二つある。一つはこいつにはもう俺たちが俺たちであることを示すシンボルがきれいさっぱりなくなっている。それはこいつが直に触って確認している」

「ええ、あたしが確認したわ。跡形も無かったわよ。それに触られてちょっとは感じていたようだし」

 ば、ばかっ、こんなところで言うなよ。


「それに、その膨らみも触ってみたけど間違いなく純正よ。まがい物じゃないわ」

「と、いうことだ。もう一つの確認した事だが、皆はこいつがこういう格好しているから下もそうだろうって思ってるだろ?」

 クラスの奴ら(ほとんど男子)がうんうんと頷く。


「ところがそうじゃないんだ。こいつは下はいままでと一緒だ」

 その瞬間、教室中にブーイングが響いた。俺は相変わらずまったく意味がわからない。


「なにやってんだっ」

「てめぇがついていながらなんてザマだっ」

「もうすっかり幻滅だっ、どうしてくれんだコラァッ」

「マジありえねぇっ」

 自身にぶちまけられる罵声を真摯に受け止めながらあいつは場が鎮まるのを待った。やがて、ブーイングが収まるとあいつは深々と頭を下げた。


「すまん、俺のミスだ」

 もういいって、それ。


 そうこうしているうちにチャイムが鳴って俺たちは席に着いた。しばらくしてガラガラとドアを開けて担任が入ってきた。起立して礼して着席する。


「出席を取るぞ」

 担任が順に名を読み上げていき呼ばれた奴が返事していく。やがて俺の名が呼ばれたので返事する。


「おっ、昨日メールで送られてきたのは本当だったんだな。あまり変わってないようにも見えるが少しかわいくなったか?」

 無神経な担任のセリフにムッとなる。


「なんかの冗談かと思ったが、本当ならこれからどうするか考えないとな。もう元に戻れないのか?」

「さあ」

 それを一番知りたいのは俺だ。


「ずっとそのままだとしたら……」

 担任は黒板に向かうとチョークで俺たちが学校生活を送るうえで欠かせない施設を黒板に書いていった。そして、俺を呼びつけて黒板の前に立たせた。


「皆もきっと驚いたと思うがこうなった以上、こいつがこれからどっちを使うか決めないとダメだろう。こういうのは初めてだからどっちにすべきか先生にもわからん。皆の意見を聞かせてくれ」

 教室がざわつきだした。俺はいままでどおりに施設を使わせてもらいたい。皆もだいたい同じ意見のようだ。できれば、制服も前の物にもどしたい。


「ふむ、現状維持が多数か。じゃ、いままでどおりという事でいいか?」

「「「異議なーし」」」

 これでこの話は終了かと思ったら、あいつが徐に立ち上がった。


「俺は反対だ。こいつはもう一昨日までのこいつじゃない。お前らが知っているこいつはもう死んだんだ」

 勝手に殺すな。


「でもよ、今日から変えると言ったら女子が嫌がるだろ?」

「そうよね」

「さすがにちょっと……」

 女子はほぼ全員が現状維持派だ。幼馴染のあいつを除いて。クラスの大半が現状維持派なんだ。今更あいつがどう言おうが覆りはしない。


「お前はどうなんだ?」

 俺に振ってきた。


「俺?俺はいままでどおりがいいな。使い慣れてるからな」

「お前、なんで男どもが現状維持を希望するかわかるか?」

 さあ。


「お前の大事な秘密の花園を見たいがために決まっているだろ」

 秘密のって、俺そんな花園なんて持っていないよ。いや、意味はわかる。いくらお子ちゃま扱いの俺でもそれくらいの知識はある。ってか、こいつ教室でよくそんなセリフを堂々と吐けるな。見ろ、皆引いてるぞ。


「ええと、そんなことは無いんじゃ……」

 だって、俺男だよ。男のそんなの見たくないだろ。


「お前はそんなんだから女子からかわいいとしか思われないんだ。このお子ちゃまが」

 うるせぇ。


「いいか、お前がドアを開けてカギを閉めて下して座って出すとするだろ。その時、上を見てみろ。いくつもの野郎どもの目がお前のある一点に集中しているぞ。お前が出しているのが、小であっても大であっても食い入るように見ているだろうな」

 ちょっと想像してしまった。衆人環視の中、排出するって恥ずかしいというより怖い。でも、いくらなんでもそれは……。


「お前はわかっちゃいない。俺たちの年代は雑誌やDVDで見たことはあっても生で見た奴はそうはいない。特にこのクラスはよそよりもサクランボ率が高いからな」

 なんだよ、サクランボ率って。


「それに雑誌とかだと大抵、処理がされているからな。だいたいは想像できるとしても、いや想像するからこそ生で見てみたいという探求心が生まれてくるんだ。その探求心を満たしてくれるとしたら誰だって飛びつくさ。その時、お前は怯えるか恥ずかしがるかしているだろう。そんなお前を見て、こいつらが冷静を保てると思うか?探求心が暴走してお前に襲い掛かるぞ。幾多の狼の襲撃から逃げ切れるか、お前。サクランボ少年を甘く見るなよ」

 そう言われると怖い。でも、それはお前の一方的な見方だろ。皆が俺のを見たいと思っているってなんでお前にわかるんだよ。


「それは俺が見たいと思っているからだ。是非、見せてくれ」

 馬鹿野郎、だったらてめぇが一番危ないじゃねーか。


「まったく、お前は何を考えてんだ。皆をお前と一緒にするな。なあ?」

 あいつ以外の男子に同意を求める。あれ、皆なんで目を逸らすの?あの、ここで黙っているとあいつが言っていることを認めたことになるよ。おい、出席番号11番なんとか言えよ。だから目を逸らすなって。


「なるほどな。確かに言っていることは一理あるな」

 ずっとあいつの話を聞いていた担任が口を開いた。


「お前、今日から女子のを使わせてもらえ。外の先生方には俺が言っておく」

「えっ?でも女子が嫌がるんじゃ…」

 女子の9割が反対していた。てっきりいまもそうだと思ってたら、


「うーん、しょうがないわね」

「ちょっと複雑だけど、男子の餌食にされるのを放っておくわけにもね」

「他の男子なら嫌だけど彼だったらいいかも」

「もう“彼”じゃないでしょ」

 いえ、“彼”です。なんとしたことか、さっきまで反対だった女子が賛成に回ったではないか。


「よし、決まりだな。お前、席に戻っていいぞ」

「…はい」

 複雑な気持ちを抱きつつ俺は自分の席にもどった。


「ああ、そうだ。お前、そんな格好して通学してきたってことは下もか?」

 あんたもですか。皆同じこと訊くけど、俺には何のことかわからないからどう答えていいか窮してしまう。すると、呼ばれもしないのにあいつがまた立ち上がった。


「すみません、俺のミスです」

 もういいつってんだろ!

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