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朝起きたら体が変化していた。

 この日、俺は初めて学校を休んだ。保育所から始まって小中高と一度たりとて休んだりはしなかった。多少の怪我やダルさは俺にとって休む理由にはならない。しかし、この日すなわち今日だけは休まざるを得なかった。別にどこか痛いとか体が怠いとかそういう症状は無い。体調的にはいまのところ問題は無さそうだ。しかし、いま俺の体には明らかな異変が起きている。異変に気づいたのは今朝だ。目が覚めてすぐわかった。驚いたどころの騒ぎじゃない。状況認識に俺の決して利口とは言えない頭がついていけなかった。まったくわけがわからない。なぜこうなったかの理由が不明なのだ。もう考える事すら放棄して項垂れるしかなかった。学校に行く時間になっても動くことはできなかった。学校に行く意思はある。自慢できるものが皆無な俺にとって保育所からの皆勤記録は数少ない自慢の種だ。だが、行けなかった。いまの俺はとても他人様に見せられる状態になかったからだ。悩んだ末に俺は泣く泣く決断を下した。それから俺はただボーっとしていた。病院に行こうかとも思ったが、果たして信じてもらえるだろうか。体の一部が変形したという類だろうが、こういった症状は聞いた事が無い。これは病気か?病気とはまた別の身体異常だと思う。

 部屋でボーっとしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。出るのも億劫なので居留守を決め込んだら何度も呼び鈴を押してきた。しまいにはドアをきつく叩く音も聞こえてきた。まるで借金の取り立てだな。うるさいししつこいので渋々玄関まで行ってドアを開ける。


「はい、どちらさん…って、なんだお前か」

「なんだとはなんだ。人が心配して来てやったのに」

 訪問者は保育所からずっと一緒だった幼なじみだ。こいつともう一人の幼馴染は小学校からずっとクラスが一緒でいわば腐れ縁の仲だ。


「どうしたんだよ、お前が学校を休むなんて……お前、誰?」

 誰とはなんだ。余の顔を見忘れたか。


「いや、だって…あいつの親戚?」

「違うよ、俺だよ、俺。保育所からずっと一緒だったのに顔を忘れたのか」

「顔はたしかにあいつに似てるけど、体は全然違うじゃねーか」

「これにはいろいろと事情があんだよ。とにかく上がれ。経緯を説明してやるから」

 俺は奴を家に上げると今朝起きた事を話した。


「なるほど、朝起きたら体に異変が起きてたと」

 うんうん頷いているが多分信じていないと思う。立場が逆だったら俺だって信じはしない。と思ったら…


「よしわかった。信じる」

「早っ」

 信じるの早すぎるだろ。少しは疑え。


「だって顔や背丈はほとんど変わってないし、その大きくふくらんだ部分を除けば前のお前とほとんど見分けがつかないぜ」

 俺の胸を指差しながら指摘する奴は口元が少し緩んでいた。まあ、信じてくれるなら話が早い。


「朝起きた時にはすでにそうなっていたと。という事は寝ている間に異変が起きたんだな。寝る前に何か変わった事は?」

 無い、何もない。


「病院には行ったのか?」

 やはり行くべきか。


「精密検査を受けてみろ。何もないのに体はこうも変わるなんて有りえないだろ」

「でもさ、もしとんでもない病気だったらどうしよう」

「その時は神に祈るんだな」

 貴重なアドバイスどうもありがとう。


 翌日も俺は学校を休んだ。昨日で皆勤記録も途絶えたから学校を休むのにも抵抗がなくなった。これからは不登校記録を更新し続けることになるやもしれん。さて、病院に来たのはいいが、どう言えばいいか。


「俺、見た目はこんなんですけど男なんです。昨日、こんなになっちゃって診てもらえますか?」←俺

「はっ?」←受付

 多分、精神科に連れて行かれるだろう。どうしたものか。考えた末、精密検査と健康診断を受ける事にした。結果、俺は外見だけでなく体の中身まで変えられている事が判明した。


「君、嘘はいかんよ。しかも、すぐバレる嘘を。医者はね、患者さんの身長とか体重とか年齢とか性別とかを知る事から診察を始めて、その人に合った治療をしていくんだ。それなのに、嘘を書き込まれたら正確な診察なんてできないよ」

 医者の注意に俺は嘘でないことを訴えたが、何度も説明しても聞き入れようとはしなかった。


「朝起きたら体が変化してたなんてそんな症例聞いたことないよ」

 聞いたことが無かろうか見たことが無かろうか俺はありのままを話している。しかし、これ以上訴えても無駄なようだ。


「もし仮に君の言っている事が事実としよう。だとしたら私の手には負えない。専門外だからな。まあ、代わりと言っちゃなんだがこれを持って帰りたまえ」

 と、医者は机の引き出しから何かを取り出して俺に渡した。


「これは?」

「君の言っている事が事実だろうと虚偽だろうと、間違いなく君の体はできちゃう体だ。まだそれは困るだろ?エチケットとしても持っておいた方がいい」

「……」

 俺は黙って受け取った。正直、できちゃうような事は毛頭ないのでありがた迷惑なのだが、くれるもんはもらう性格なもので。病院から出ると俺は途方にくれながら家路についた。このままだと本当に不登校記録を更新し続けることになる。何日も休むとさすがに学校側も様子を見に来るだろう。その時、どう説明すればいいんだ?あいつのようにすんなり信じてくれる保証は無い。あと、信じてくれそうなのはあいつだけか。あいつとあいつとは小さいころからの幼馴染だ。


「せめて、この二つの大きなふくらみが無かったらなぁ」

 顔や背丈はほとんど変わってないんだから服を着てればバレない。この大きなふくらみが二つもある以外は。肩を落としながら歩いていると誰かに呼び止められた。


「ねえ、ちょっとあなた……」

 振り向くとご近所さんだった。咄嗟に両腕で胸を隠して前屈みになる。


「こんな時間にどうしたの?学校は?」

「えと…」

 どう返答すればいいかな。


「駄目じゃない、学校をサボったりしちゃ」

「いや、別にサボったわけじゃ…」

「嘘仰い。だったらなんでこんな時間にこんなところにいるの。それに何を隠しているの?見せなさい」

「いえ、別に何も」

「いいから見せなさい」

「何でもないですよ。本当に…じゃ!」

「あ、待ちなさい!」

 話しても埒が埒が明かなそうだったのでトンズラした。あんまし外を彷徨くのは避けた方がいいな。さっさと家に帰ろう。


 夕方、あいつが来た。制服を着ているから学校帰りに寄ったのだろう。


「どうした?元気ねーな。病院には行ったんだろ?どうだった?まあ、その様子だとだいたい想像はつくな」

 なにしに来たんだよ。


「なにしにはご挨拶だな。心配して来てやったのに」

 心配しているようには見えんが。面白がっているようにしか見えない。


「とにかく上がれよ」

 真意はどうあれ心配して来たという友達を門前払いにはできないので家に上げてやることにした。


「それで、これからどうすんだ?」

 どうもこうもこっちが聞きたい。なんでこうなったか、どうやったらもとにもどるのか、さっぱりわからない。


「本当に思い当たるふしが無いのか?自然に人間の体が中身まで変わるなんて聞いたことないぞ」

 そんなこと言っても俺には心当たりがない。一昨日の寝る前は何ともなかったので体が変化したのは寝ている間という事になる。


「寝ている間に宇宙人にさらわれたか?」

 人間の体を調べるとかならまだ説得力あるけど、こんな風に人間の体を作り変える意味がわからないだろ。


「まあ、なんでそうなったかも重要だが、これからどうするかの方がもっと重要だ。つまり最重要事項だな。元に戻れる見通しが無い以上、お前はその姿で生きていくことになる。とりあえず明日、学校に行こう」

「はっ?お前何言ってんだ?行けるわけないだろ」

「大丈夫。実は今日、クラスの皆と担任にはお前の事を伝えてある」

「伝えてあるって?なんで?」

「いつまでもこのままじゃダメだろ」

 そりゃそうだけど…。


「まあ、皆信じてなかったけどな」

 だろうな。


「だから、証拠を撮ってくるって約束したんだ」

 そう言うと奴は携帯電話のカメラのレンズを俺に向けた。


「ちょっと待て、止めろよ、おい」

「動くなよ、ちゃんと撮れないから」

 だから止めろって。こんな姿の自分を皆に晒せと言うのか?


「お前だってことをわかってもらわなきゃいつまでも学校に行けないだろ」

 そりゃ、そうだけど。あいつは携帯のカメラで俺をパシャパシャと撮影していった。


「よし、これでお前は皆から認知される。明日から大手振って学校に行けるぞ」

 だといいが……。


「画像も撮ったし俺、帰るわ」

「もう帰るのか?」

「ああ、いろいろ準備しておくものもあるからな。明日、楽しみにしておけよ」

「あ、ああ…」

 なんだろう、不安が先に立ってきた。本当に大丈夫かな……。

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