表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

リア充いなくなればいいのに

もう少しで勇者パーティーに加わります。本当、あと少しです。

 やあ、どうも。おはようからおやすみまで、あなたの様子を見守るなっちゃんです。


 ――そう、いつもあなたの後ろから。


 ちょっとホラーな感じにしてみました。どうです? ビビりましたか? 大丈夫です。俺も最初はビビりましたから。でも、もう慣れました。通りを歩く度に毎回、背後から感じる遠慮の無い視線も、今では実に頼もしいボディーガードなので、逆に安心です。


 彼らには俺が天使やら聖人やらに見えているんでしょうね。もしくは、聖女でしょうか。それだと、複雑な気分です。でも、自分が崇められていると思うと、最近、悪い気がしなくなってきました。


 皆様いつもお勤めご苦労様です。

 後で差し入れ持っていってあげようかな。


 心お優しい紳士の方々の話は後の機会にしますね。楽しみに待っていて下さい。


 さて、今日は我が親友カイン君と街の広場にて会う約束を昨日しておりました。


 久々の親友との会話を楽しんで参りたいと思います。





 相手を待たせてはいけない、と俺は待ち合わせ時間の一時間前に行く事にしました。


 いやあ、早すぎたかなあ。カイン君が来るまで何して時間潰そう。


 そう、考えながら街の広場に着くと、カイン君がこちらに手を振っていました。


 カイン君、早!

 俺、待ち合わせ時間の一時間前に来たのに、もう来てるよ。

 くそっ、二時間前に来てれば我が物顔で俺が手を振れたものを。


「よう、待たせたな」


「別に待ってないよ」


 気軽に挨拶を交わした後、俺は敗北感から少し悔しかったので強がってみる事にしました。。


「いやあ、実はさあ。俺、二時間前に来たんだけど、早すぎたから、ちょっとそこらへんで時間潰してたんだよね」


「あはは、僕もだよ」


 何ですと!? 


 マジか、カイン君どんだけだよ。昨日の皿パリーンも防がれるし、俺は此奴の足元にも及ばないのか。くそっ。


「……しかし、よく俺の事が分かったな。俺なんて、お前の事全然認識出来なかったのに」


「当然、分かるよ。僕が君の事間違えるわけないじゃないか」


 あ、ちょっと涙が。俺いい親友持って良かった。


 意識を変えようと、俺はカイン君の服装を観察します。


 カイン君の服装は最近、若者の間で流行ってる今時の装いで、ばっちりと着こなしていて、とても絵になっていました。


 カイン君、服、沢山持ってるんだろうな。

 服なんて三着あればいいやと思ってる俺とは大違いです。


 俺は四年ぶりに彼の姿を間近で見ました。


 彼の少し長めの金色の髪はさらさらで、碧眼はぱっちり二重でまばたきを繰り返しています。彼の中性的な整った顔立ちは異性同性問わず、見る人全てを魅了するでしょう。

 そして、リア充です。


 俺は思いました。


 やべえな。


 変わりすぎだろ、こいつ、と。


 村では泣き虫だったいじめられっ子とはとても思えません。いじめられっ子からリア充にジョブチェンジですか。随分と思い切りましたね。


 今思い出せば、懐かしい思い出です。

 俺はいつもカイン君にちょっかいをかけてくるガキ大将を毎度の事撃退していました。相手は図体がデカイのですが、いかんせん。アホでした。見る度に笑えてくる程アホでした。相手の一撃一撃は脅威なのですが、アホなので、俺はひらりひらりと華麗に避けてローキックを食らわせていました。ずっとローキックです。ローキックを使わなかったのはそいつがアホだと知らなかった初戦だけですね。それ以外はずっとローです。

 あ、後、落とし穴とか熱湯風呂とか巧妙な罠を仕掛けた事もありますよ。あの時はとても楽しかったです。いやあ、あいつのリアクション面白かったなあ。芸人になれたんじゃねえのあいつ。俺、毎回思い出し笑いしてたもん。いや、ほんと、ふふは。

 元気にしてるかなあいつ。まあ、元気だろうな。馬鹿は風邪ひかないって言うけど、あれ、実際は風邪ひいてるけど、本人気付いて無いだけだしな。馬鹿だから。


 懐古の思想に耽っていると、俺はある事に気付きます。


 カイン君の直ぐ後ろに三人の女性がこちらを見つめていたのです。


 おい、あれって。


「ああ、ごめんね。彼女達がついていきたいって言うから連れてきたんだ」


 カイン君が俺の視線に気付いて、爽やかな笑みで謝ってきました。


 女連れですか。しかも複数ですか。大丈夫ですよ。別に怒ってませんから、俺。いや、ほんと、


 ――リア充爆発しろ。


「初めまして、メイファです。カイン様とは懇意にさせて頂いています。よろしくお願いしますね」


 俺の心内を知ってか知らずか、どっかのお嬢様のような美少女が挨拶をしてきました。


 あ、意外と上品な感じ。てか、様って……。どんな関係ですか。


「お初にお目にかかる、リルナと言う。カイン様とは、親しい間柄の仲だ。よろしく頼む」


 俺の心内を知ってか知らずか、続いて、凛とした雰囲気の美少女が俺に挨拶をしてきました。


 あ、意外と礼儀正しい。てか、こいつも様って……。何なん? カイン君マジ何なん?


「初め。ネネね。カイン様とはラブ。よろ」


 俺の心内を知ってか知らずか、最後に、ジト目で気怠げな雰囲気の美少女が俺に挨拶してきました。


 こいつに限っては、適当すぎんだろ。何なんこいつ。なめてんの?


「ごめんね、人見知りなんだ。後、彼女の名前はレナだから」


 本名ですら無かったんだけど。偽名、名乗られたとか。何なん。もう、マジ嫌になるわあ。


 とりあえず、彼女達の自己紹介を聞いてみて分かった事があります。


 こいつら全員、カイン君にホの字のようです。


 まあ、そりゃ、まるわかりですよね。懇意だの、親しい間柄だの、ラブは直球過ぎて引きました。


 いやあ、久しぶりに再開した親友と一日で絶交しそうな気分です。


 でも、俺は子供ではありません。大人の対応をします。よって、寛大な心で受け止めます。


「それじゃ、どっか行きたいとこある? ここに来てあんま経ってないんだろ。案内するけど」


 実は俺、結構この街に詳しいのです。なぜなら、仕事が休みの日は大体、街をうろついているからです。なんか、不審者みたいな言い方になったしまいましたが、事実そうなので、否定しません。家にいると、暇なんですよね。前世だったら、ずっと引きこもってましたが、異世界では無理です。一度やってみるといいですよ。パソコンもテレビも無い状態で、何せずに一日中部屋に閉じ籠っていると違う意味で死にたくなります。本も高価なのでありませんしね。


 なので、休日は街を探索しています。多分、行った事の無い店は夜のお仕事関連だけだと思います。


 俺が一度も面倒事に巻き込まれなかったのは、皆紳士様方のお陰です。

 やっぱ、差し入れって甘い物とかの方がいいのかな?


 そんな事を考えていると、カイン君は首を横に振って答えました。


「いや、いいよ。それより、僕は君に聞きたい事があるんだ」


 カイン君は俺の目を見て、真剣な表情で聞いてきました。


「何で、君は村から出ていったの? 僕が目を覚ました後、君はもういなかった」


 懇願するように彼は俺に語りかけてきます。


「怪我をしたのは僕の責任だ。その事を気にしてるなら筋違いだよ。それとも、あの村にいる理由が無くなったから? 嫌かもしれないけど、正直に答えて欲しい。僕は君が突然いなくなった理由を知りたいんだ」


 カイン君の真摯な様子に俺は黙ったままで、口を開く事が出来ませんでした。

 確かに、両親が死んで、天涯孤独となった俺にとって、あの村にいる理由なんてありませんでした。

 子供は十二歳から出稼ぎに出れるので、村を離れるにはちょうど良い年頃でしたけど。やはり――。


 村人達から向けられた目が俺の頭の中でフラッシュバックします。あの目をカイン君がしたらと思うと……。


 背筋が凍る感覚が突き抜け、汗が止まりません。身震いが激しく起こり、指一本動きません。歯の根が噛み合わなくなり、かちかちと口の中で音が鳴って止まりません。


 俺が今感じているもの。これが『恐怖』という感情なのだと、初めて理解しました。


「なっちゃん……?」


 カイン君が心配そうな目で俺を見つめています。


 駄目だ。本当の事は言えない。誤魔化そう。でも、それで、カイン君は納得するのか? するはずが無いだろう。ならどうすればいい?


 俺の中で一つの考えが浮かびました。


 ――突き放してしまえばいい。


 彼と縁を切ってしまえばいい。

 酷い事を言って、彼を幻滅させればいい。

 そうすれば、彼に見離されずに済む。

 悲しいけど、きっと大丈夫だ。無二の親友を失ったとしても。

 これまでやって来れたんだ。そうだ、きっと大丈夫だ。


 俺は決意を固めて、口を開こうとした時、


「皆大変だ!! 非常事態だ!!」


 街の広場に一人の男性が駆け込んできました。

 男性は息を切らして、顔面蒼白でしたが、周りの喧騒に負けない程の大声で叫びました。

 直ぐ後に、皆静まり帰って男性に視線を注ぎます。


「魔物だ!! 魔物の大群がこの街に押し寄せてきているぞ!!」


 男性の悲痛な叫びは広場にいた全員に無情で残酷な現実を突き付けたのです。


「魔族が攻めてきた!!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ