表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

皿よ、永久に

修正しました。

 はい、こんにちは。俺です。そうです。なっちゃんです。


 いやあ、最近、暑くなってきましたねえ。今日は一段と暑いです。

 水分補給は小まめに摂っていますか? 駄目ですよ。ちゃんと摂らなくちゃ。俺なんて違う意味でヤバかったんですから。生水飲んじゃって腹痛と下痢が酷くて。トイレに住所変更しようかなって思いましたもん。意外と居心地良くて落ち着きますよね、トイレって。

 あっ、食事中でしたらすみませんね。でも、パソコンなり、スマホなりを弄ってご飯を食べるのは止めましょう。お行儀悪いですからね。


 えっ? それ以前にそこまで暑くはない? 

 そうですか。じゃあ、俺だけでしたか。まあ、そうですよね。


 だって、俺。今親友に抱き付かれてる状態ですから。





「なっちゃん!」


 親友こと、カイン君が感極まった様子でいきなり、俺に抱き付いてきました。


 うおっ! 重っ!


 俺は仰け反って後ろに倒れそうになったのですが、とっさに片足を後ろに引いて必死に耐えます。さすが、俺の反射神経。やるじゃねえか。


 そして、その拍子にカイン君が手に持っていた皿が、スポーンと、


 あ、





 パリーン。


 皿あああああああああ!!


 なんという事でしょう。皿は地面に激突し、木っ端微塵に砕け散ってしまいました。私は彼の勇姿を十分程なら忘れません。やったね、二倍だ。

 俺は皿に哀悼の意を送ります。

 嗚呼、さらば、皿よ。今度こそお別れだ。安らかに眠れ。

 あっ、ダジャレじゃないよ? 狙ってないから。


 心の中で皿に敬礼した後、俺はカイン君へと意識を向けます。


 おい、久々に会ったからっていきなり抱き付いて来るんじゃねえよ。俺にそっちの趣味は無えんだよ。犠牲になった皿の落とし前、どうつけてくれるんだ。ああんっ!?


 そう凄もうとしましたが、俺は口をつぐむ事になりました。


「よかったあ。やっと会えたんだ……」


 金色の髪に隠れていて顔が見えませんでしたが、頭を上げたカイン君の青色の両目には大粒の涙がたまっていて、顔はぐしゃぐしゃに歪んで、見る影もありません。


「あの後、起きたら、君は村からいなくなっちゃってるし、他の人は誰も君の事知らないって言うし、僕も村を出て君を探したけど、全然、見つけられなくて……。もう、死んじゃったんだと諦めかけてたんだ」


 カイン君は涙声で俺を見上げて、微笑みました。


「生きてたんだね。本当によかった」


 彼の笑顔は俺の無事を心から願っていた優しく温かな笑みでした。


「馬鹿だな。俺がそう簡単に死ぬわけないだろ。当たり前な事言わせるな」


 彼を安心させるために俺はわざと、余裕綽々な態度で答えます。


 そうか、まさかそこまで心配してくれたのか……。


 黙って出ていかないで、書き置きぐらい残しとけばよかったな、と罪悪感と後悔の念が同時に押し寄せてきました。


 俺は彼の背中に手を回そうとしましたが、盆を持っている事に気が付きました。


 あ、すみません。


 他の店員の方が、盆を受け取ってくれました。


 俺は彼の背中に手を回して、背中をポンポンと軽く叩きながら、彼が落ち着くまでその状態のままでいました。






 彼が落ち着いてきたので俺は一旦、体を離します。


「お前、涙まみれだぞ。一回、顔拭け」


 そう言って、俺は仕事の制服のポケットからハンカチを取りだそうとすると、


 あ、店の奥に置いてきた。


 どうしよう。雑巾ならあるのですが、さすがにそれは無いと思うので、戸惑っていると、


 あ、すみません。毎度ありがとうございます。


 他の店員の方が、ハンカチを貸してくれたのでカイン君に渡します。


「あ、ありがとう」


 カイン君は腕で涙を拭うと、ハンカチを鼻に当てて盛大にかみます。


 おい、ハンカチ……。


 貸してくれた店員の方も微妙なひきつった顔になっていました。

 すみません、後で洗って返しますから。


「お前とは、話したい事が沢山あるけど、俺今仕事中だから。終わったらな」


「うん、分かったよ。仕事頑張ってね」


 俺はカイン君と明日会う約束をした後、仕事に戻ります。


 カイン君も今まで俺との行方を見守っていた他の女性の方々三人と静かに食事をした後、店を後にしました。


 常連客の方々も、いいものを見せて貰った。やはりこの喫茶店は最高だ。また来させて貰う。と満足気な様子で帰っていきました。




 お客さん全員が帰った後、俺は二階級特進した皿の遺骸を箒と塵取りでさっさと片付けます。

 それにしても、この皿割ったの俺じゃなくて、カイン君だけど、責任は誰が取るんだろ?


 そう考えていると、ポンポンと肩を叩かれたので振り返ると、マスターが親指を立てながら、ニカッと白い歯を見せて満面の笑みを浮かべていました。


 あ、やっぱ俺ですか。いや、別にいいんだけどさ。


 ……それにしてもマスターの歯白いな。


 黒光りするダイヤモンドの筋肉と光輝く真珠の歯のコントラストはとてもマッチしていて眩しく、俺に畏敬の念を抱かせる程でした。


皿の階級はどれがいいですか?

1 大佐

2 少佐

3 大尉


自分は4の軍曹にします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ