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外伝2〈項弦と風雅〉

二人の関係を書きたかったけどなんの成果も得られず……(´Д⊂ヽ

細かく書いてたら外伝ってなんだっけ?と言う事になったんで大幅に書き直したらこの有り様です。もうただのグタグタ日常m(_ _)m

「そう言えば、項弦と風雅ってどういう関係だったの?」


 その宿は質素だった。寝台以外何もない。冬だというのに囲炉裏には薪一つくべられていなかった。


 そんななかで凛は近くにあった火打ち石で火を起そうと何度も叩き、いつもなら近くに居るはずの風雅は薪をもらいに部屋を後にしていた。


 ともかく寒いのだろう。俺には分からなかったが。出窓からは微かに雪景色が垣間見えた。


 空が次第に暗くなってきている。今夜はさらに冷え込むかもしれない。


『関係? ーー変な関係ではないぞ? 俺は男を妾にした覚えは無いし』


「うわぁ。楽しそう。その冗談」


 棒だ。棒。しかも返事は適当だし。最近流されることが多くなって困る。少し前までは反応があったのに。


 なんかある意味風雅に似てきた。


 俺は苦笑を浮かべて、ため息一つ付いた。


『ん、大した事じゃねえよーーあれがガキの頃拾ったっていう……?』


 何だか火をつけることも忘れてこちらを見つめている。興味津々。やっぱり、可愛い娘だ。奴のことは何でも知りたいのだろう。


『知りたい?』


「うんっ」


 即答に俺は小さく笑う。


 まあ、知っていても損はないだろう。俺は考えるようにして天井を見上げた。


『ーー当時の風雅は今より十ほど外見が若かった、見た目十五、六の子供だったよな。確か』


 森の中だった。目の前には深い雪。誰も分け入ることのできないその森でその子供はただ座っているだけだった。


 幾日も、幾日も。冬が終わろうが夏が来ようがそんなことは関係なくそこに座していた。まるで修行僧のように。


 なぜ知っているのかと問われれば当時俺はその辺りに領主として派遣されていた。ちょくちょく領内を調べるためにウロウロし、その子供に関する報告も受けていた。


 俺にはどうしてその子供が生きていけるのか分からなかった。のわず食わず。眠ることもなく、ただ息をしているだけだ。かと言ってやせ衰えるわけでもなくーー。


 当時俺は仙という存在自体知らなかったのだ。


 ーーどうして?と問かけると当時の風雅は笑う。絶望をその目に讃えて。ーー死ねないのだと笑った。


 この身体のせいで父母は死にーーよくよく考えると養父母だがーー仲良くしていた村人さえも離れて行ったのだという。と言うよりのちのち聞くと風雅を置いて亡くなったという方が正しいが人がもつ寿命の感覚がよく掴めなかったらしい。


 殺してくれ。と風雅は言った。どんな事をしても死ねないのだと。首を切ろうが何をしようが生きているのだと。


 本当によくある事だがその当時国は安定していなかった。各国から攻められ疲弊していく国。どれ程の犠牲を払ってその均衡を保っていたのか俺はよく知っていた。


 生きたかった命をたくさん知っている。泣きながら死んで逝った者も喚くことすら出来ずに逝った者も。


 要らないのならーー。


『ならーーその命俺が貰った。って言ったんだよなぁ。たしか』


 苦笑を浮かべた。


「なんか。らしい。と言うか」


『ま、奴もどうぞとかあっさり言いやがるし。お互い様だろ?』


 ーーいいよ。好きなように使えばいい。俺の心はは死んでいるから。そう抜かしたので意地でも奴に色々な事を叩き込んだ。武術から何から。生きる術全てを。


 天才だ。と騒ぎ立てたのは誰だったか。確かに。誰よりも器用にすべてをこなし気付けば最年少ーー見かけだけだがーーで官吏まで上り詰めてやがった。その武芸は将軍並み。それに据えると士気が落ちるのでそうしなかっただけの話だ。


 ただ戦に連れていけば一人で千騎倒す程の鬼神だったがーーまぁ敵味方問わず怯えられるのでそうとう劣勢で無い限り連れて行くことはなかったけれど。


『その頃にはちっとマシになってたなーー生きてる顔になってた。気が付くと俺とヤツは戦友みたいになってたなあ? いたずら仲間みたいな、さ』


 その時ぐらいだろうか?風雅が仙だと知ったのは。別に変わらなかったし言うつもりもなかったのだが何年も容姿が変わらない奴を不審に思わないはずはいない。


『生きている頃はまぁ、何とか出来たんだけどな。俺の権力で。何しろ一応王様だし。ま、死ぬとやっぱそんなもの使えなくてさ』


 誰かを救えたら。とそんな崇高なものなど俺は持ち合わせてはいない。すべて俺が好きなように生きてきた結果だ。


 けれど、たまに思う。俺が拘わらなければあいつの人生はもっと輝くものになっていたかもしれないと。二百年無駄にしなくて良かったかもしれないと。


「ーー有難う。項弦」


声に顔を上げた。俺を凛の大きな双眸が覗きこんでいる。


『ん?』


「風雅を見つけてくれて。項弦がいなかったら私はきっとここにいないから」


 一瞬。言葉を見失った。どうしてこの娘は欲しい言葉をくれるのだろうか。俺よりも数段年下であると言うのに。


 もしかしたら俺が成長していないだけなのかも知れない。


 俺は小さく笑って、かる苦伸びをした。伸ばすものなど何も無いが、気分だ。


『……俺も嬢ちゃん見たいな嫁が欲しかったな。なんせ厳ついのばかりでーーって。あら、風雅居たのか?』


 そこには見覚えのある男が立っていた。子供の頃から誰かを惹きつけてやまない派手さ加減は相変わらずだ。琥珀の双眸が俺を見据えている。


 どうやらサラリとそんなことを言う俺に怒っているみたいだ。ーーいや。そんな事さえ言えない自分にだろうか。とにかく、眉がかすかに痙攣している。


 それが些か面白かった。


「冗談だよ。風雅。薪は?」


「ああ。貰えた。沢山、ただで」


 今度はかすかに凛の口元が痙攣している。流石だ。風雅。相変わらずのタラシっぷりは健在らしい。ただ本人はやはり気づいて無いようだけれど。


 気づいたら最強かもしれない。となんとなく思う。


「そう。よかった。私も丁度火がついてね。あ、さっき迄風雅と出会った頃の項弦の話をしてたんだ」


「へえ? どんなのか聞かせてもらってもいいか?」


 風雅は俺を一瞥した。いらない事話したのではという疑わしげな目だ。聞かれたくないことと言えばーーと思い出して、ああ。と息をついた。いろいろあるが、きっと雪華のことだろう。


 だがべつにそんな事、話すつもりは最初からなかった。何しろ忘れていたぐらいなのだから。言っていいなら別だが。


『たいした話しじゃねぇよ。ざっと話しただけだしな。ま、そんな事で今日は退散するわ』


「ーーまた、明日な?」


 顔すら向かない言葉に俺は喉を鳴らした。


 はっきり言って俺達には『明日』なんて無い。生きていないのだから。明日。ここにいる保証なんてなかった。


 けれど。明日かあるのなら。


 俺はニコリと微笑んで言葉を紡ぐ。


『またな、明日』


 低い空を見上げるとゆっくりと舞うようにして雪が落ちてきているのが分かった。

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